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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 7章 『次なる王』 ー大魔界の異常ー
199/208

 193 一撃


 大魔界・黄泉霊山(キリエグ領)


 優位を取ったかに見えたエクサーとレイヒを猛攻で再起不能にしたヤヨイ。

 ヤヨイは魔石を使用し魔力を全回復させると、エクサーとレイヒの削った魔力を振り出しに戻す。

 絶体絶命にも思えたエクサーとレイヒだったが、目の前に怒りに満ち満ちたキリエグが現れる。


 「待っていた…待っていた…この時を!!」


 ヤヨイはキリエグを前にして、冷や汗を流していたがそれを上書きするかのような笑みを浮かべていた。


 「キリエグ…父の仇だ。父を殺したお前をここで僕が殺す最高のシナリオ。老いぼれたお前を殺して僕が鬼族の(かしら)になる。鉄鬼が主導を握る!これこそが父親の悲願!それを僕が成す!!」


 ヤヨイの体は確かなキリエグに対する恐れを感じていた。

 しかし、それを感じながらもヤヨイの勝手なキリエグに勝てると言う自負がヤヨイを突き動かしたのだ。

 復讐が今晴らせる。復讐から解放される。キリエグを殺した先にある確かな満足感と開放感を想像すると、ヤヨイからは恐れを超える喜びが溢れ出しているのだった。


 ヤヨイはキリエグに向かってゆっくりと()を進めた。

 一歩一歩と地を踏むたびに、ヤヨイは放出する魔力を増やした。

 そして、右手を凄まじい力で握る。その力は自身の骨にヒビが入るほどに。


 エクサーはボロボロの体でありながら、体を無理矢理動かして地面を這い、近くで倒れるレイヒに近づいた。


 「終わりだ…終わり…」


 ヤヨイは自身の魔力の全てを握った右手に送った。

 

 「これで…終わりィィィィィ!!!!!!」


 ヤヨイはその拳を笑顔でキリエグに向かって放つ。

 そして拳がキリエグの腹部を捉えると凄まじい衝撃波が四方に飛び散り、地面を抉った。


 なんとかレイヒの元にエクサーがたどり着いた時、2人を吹き飛ばすような衝撃波が襲う。それが奇跡的にエクサーがレイヒを包むような体勢を作り出し、ボロボロのエクサーが壁になるようにレイヒを守った。


 「あ”ぁっ…!!」


 守ったと言えど、エクサーの体は瀕死一歩手前。そんな体に地面を抉るほどの衝撃波は良く体に染みる。結果、エクサーの体は瀕死一歩手前から瀕死にまで進んだ。

 衝撃波が止むと、レイヒは急いで体を無理矢理起こして、エクサーに話しかけた。


 「大丈夫!?大丈夫!?」

 「う……うん……なんと…か…」


 レイヒは泥や砂、血で汚れた着物の綺麗な袖の部分でエクサーの顔の泥を拭き取った。

 しかし、レイヒの体も限界。レイヒは途中でエクサーに覆い被さるように倒れた。


 そんなレイヒとエクサーがキリエグの方に目を向けると、そこには拳を打ち終わったヤヨイとそれを全くの無傷で腹部で受け止めるキリエグがいた。


 「…は?」


 ヤヨイは思わず声を漏らした。


 「終わったか…?」


 キリエグは重く内臓に響く声でヤヨイにそう言った。

 ヤヨイは恐る恐る顔をキリエグに向けると上から顔色1つ変えず、見下ろされていたのだ。

 ヤヨイはすぐさまキリエグと距離を取る。


 (バカな…僕の魔力の全ての一撃だったんだぞ!それを正面から無傷で…ありえない…ありえない!!)


 ヤヨイはキリエグのこの様子に全身の体温が急速に低下したような気がした。


 「な…なんなんだ!お前はァァァ!!!なんで生きてる!!なんで無傷なんだ!!なんでェェ!!」

 「五月蠅(うるさ)い…」

 「うるさいだぁ?」


 ヤヨイは服の袖からもう1つ魔石を取り出し、口の中で割ると魔力を全回復させる。


 「うるさいのはお前だ!!お前の存在がうるさい!!お前の存在がノイズだ!!僕の人生に思想に生き方に!!いつもお前がいるのがうるさいんだ!!ノイズなんだァァ!!!」


 ヤヨイはもう一度あの一撃をキリエグに入れるために、走って向かう。

 キリエグはそんなヤヨイを見て、その場で一度、大きく足で地面を叩くと、その瞬間、ヤヨイはその場で動けなくなる。


 (なんだこれ…なんで動けない!?激鬼衝(げきしょう)か…!?違う…これは僕が生物として…キリエグ(コイツ)に恐れているのか…!?)


 今、ヤヨイが動けなくなっていたのは『鬼術(きじゅつ)』でもなんの技でもなかった。

 今、ヤヨイが動けないのはキリエグが大地を踏んだことにり、発生した威圧感でヤヨイの体が恐れ、慄き、体が動けないただ、それだけの話だった。


 「お前…オレのことをノイズと言ったな…?オレから言わせて貰えば、お前もノイズだ。」


 キリエグはゆっくりと拳を握る。


 「お前の親父はオレに負けた…その血を受け継ぐお前がオレに勝てるか?負けの遺伝子を継ぐノイズなど…オレの目の前に立つだけでも恥と思え?」


 そして、型の美しい正拳突きを放つと一撃でヤヨイを跡形もなく消し飛ばした。

 しかも、この拳はヤヨイに触れる手前で止められ、拳を突き出す衝撃波だけでヤヨイを殺したのだった。


 「見誤るなよ…?オレはまだ老いぼれではない。全盛期手前だ…」


 キリエグは自負があったヤヨイに告げるように、ヤヨイのいた、今な何もいない場所に言葉を捨てた。

 すると、風鬼(ふうき)雷鬼(らいき)水鬼(すいき)土鬼(どき)が遅れて登場する。


 「殿!!」


 風鬼、雷鬼、水鬼はキリエグに、土鬼はレイヒに駆け寄った。


 「大丈夫ですか?」

 「ん?あぁ…特には。」

 「鉄鬼は…?」

 「()った。」

 「そうですか。遅れて申し訳ない。」

 「構わん。なんの危険性もない奴だったからな。それより…レイヒと小僧のところだ。」

 

 そう言うとキリエグは足音を鳴らし、レイヒとエクサーの元に歩み寄る。

 3人はその背後を付いて歩いた。


 「お嬢様!エクサー!大丈夫ですか?今、治します。」


 土鬼は急いでエクサーとレイヒに回復魔法をかけようとしたが、エクサーは今なお、ヤヨイの魔力に蝕まれているために、回復魔法をかけることができなかった。

 そのため、レイヒにのみ回復魔法をかけ、レイヒは少しよろめきながら立てるようになった。


 「土鬼、エクサーに魔法を。」

 「できません。エクサーは今、魔力が混在していて危険なのです。」

 「そんな…」

 「そうだレイヒ…今は堪えろ。」


 なんとかエクサーの早期の回復を求めたレイヒをキリエグが止めた。


 「こんのガキィ…無茶しやがってよぉ…!」


 雷鬼はエクサーにキレているようだった。

 

 「雷鬼、その言い方はやめろ。この小僧はそれでもオレの娘を被害を抜きにして守ったのだ。これは小僧の身の丈以上の成果だ。賞賛だ。」

 「まぁ…そうですね。」

 「帰るぞ。小僧の手当てもそれからだ。風鬼、小僧を持ってけ。」

 「かしこまりました。」


 風鬼はエクサーをおんぶすると、雷鬼、水鬼と共に屋敷に先に帰って行った。


 「ねぇ、お父さん…」

 「なんだ?」


 レイヒはキリエグにどこか申し訳なさそうな態度でモジモジと何かを伝えようとしていた。


 「あの…私…」

 「謝罪か?オレはそんなもの欲してないぞ?力が制御できるようになったのなら結果で示せ。ヒョウもそれを望んでいるはずだ。」

 「うん…それと…」

 「ん?」


 レイヒはなぜか赤面していた。


 「なんだ、そんなに恥ずかしがって?オレの血を引くなら堂々と言いたいことを言え。」

 「わかった。」


 レイヒはここで腹を括った。

 

 「私、エクサーと結婚するから!!」

 「は?」


 風がキリエグと土鬼を仰いだ。


 「こ…こ…こ…このクソガキがぁぁぁ!!!!!!」


 キリエグはヤヨイに向けた以上の覇気を放ち、エクサーを追いかけて飛んで行った。


 「お嬢様?いきなりどうしたのです?」

 「恋をしただけ…私を守ってくれたから。」

 

 土鬼は恋の感情の芽生えたレイヒに涙を流した。


 「大きく…なられまして…」


 ーーーーー


 「それにしても…この子供、結構やる…」

 「そうだね、僕も想定外だったよ。」

 「へっ、どんだけ強ぇか気になるわ。起きたらボコボコに手合わせしてやる。」 

 「やめろ雷鬼。大人気(おとなげ)ない。」


 先に屋敷に帰っていた3人とエクサー。

 すると、3人はとんでもない何かが自分達の背後から向かってきていることを察知する。


 「なんだなんだ!」

 「なんだろう。」


 3人が後ろを振り返ると、そこには殺意むき出し、覇気むき出しのキリエグが向かってきていた。


 「クソガキ!!ピンチに乗じて、オレがいないのに乗じて、レイヒをたぶらかしやがったな!!許さん!!許せるかぁ!!」


 レイヒがいきなりエクサーに好意を向け始めたことにキリエグお父さんはブチギレていた。


 「なんだなんだ!なんで殿がキレてんだ!?」

 「これはマズいかも。いや100%マズいなんでかわからないけど…」

 「殿のご乱心…」

 「水鬼!ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!!」

 

 そんな内情を一切知らず、向かってくるキリエグに捕まったらヤバいと感じた3人は猛スピードで逃げるのだった。


 ーーーーー


 天界・ミカエル宮


 この日のミカエル宮は特にこれ良いって異常事態に見舞われていることもなく、穏やかで和やかな雰囲気のいつものミカエル宮であった。

 そんなミカエル宮の正門に1人の天使が降り立つ。


 その天使は長い金髪を上に高く鎌の刃のような髪型にして、白のマントとその下の白の正装。そのマントの隙間からは正装に付けられた金の勲章のようなものが見えた。

 さらによく見ると、この天使には何かがないのだ。

 

 ーー右腕が無いのだ。

 だが、右腕を失ったことをこの天使が悔やむことも恨むことも一度もしたことはなかった。

 この右腕は『友』を守るための尊き犠牲で失ったからだった。

 詰まるところ、『隻腕』なのだ。


 この天使が正門に立つと、ミカエル宮の正門の両脇に立つ2人の門番は門を開ける。


 「「お疲れ様です!」」


 2人は頭を深々と下げて、その隻腕の天使に挨拶をした。

 この2人の挨拶の丁寧さを見るにこの天使は相当に尊敬の念を持たれているようだった。


 「ありがとう…2人共。」


 隻腕の天使は門番2人に微笑むとスタスタと奥に建てられたミカエル宮に向かって歩いて行った。


 ーーーーー


 天界・ミカエル宮(中央庭園)


 庭園に咲く純白の薔薇は風になびくと甘く心地良い香りを鼻に届けてくれる。

 そんな中央庭園のど真ん中に置かれた1つの机と2つの椅子。

 その片方にミカエルは座って本を読んでいた。


 相変わらず美しいミカエル。

 自分の体の2倍はありそうな大きな翼。純白、汚れの一切存在しない西洋風のドレス。目元が見えるか見えないかギリギリの白いレースマスク。

 それが純白の薔薇の中にいると言うことはある種の美の終着点と言える。


 そこに隻腕の天使が到着し、ミカエルの前で軽く跪く。


 「到着いたしました。ミカエル様。」

 

 ミカエルは読んでいた本を優しく閉じて、机の上に本を置くと、顔を隻腕の天使の方に向けた。


 「お疲れまです。そして、お久しぶりですね、カイエル。」


 そうこの天使は五芒星(ペンタグラム)の天界襲撃の際にナールガの攻撃から、『ミカエル親衛隊 主席』のエクリエルを守るために右腕を犠牲にしたカイエルだった。


 しかし、今のカイエルの肩書きは『ミカエル親衛隊 四席』ではない。

 仲間のために尊い犠牲を払ったことへの敬意と、犠牲により手にした力から、『四席』の地位をミカエルが剥奪。。今の肩書きは、『天使長直轄・地天総務天使長代理隊』であった。

 これはカイエルから始まった、カイエル専用の肩書きであり、その内容は天使長達の全員の代理を務めるものであった。


 「お久しぶりです。」

 「お元気でしたか?」

 「はい。おかげさまで。」

 「それは何よりです。」

 「ところで、お話と言うのは?」

 「今、地獄…いえ、大地獄(※大魔界のこと)ですかね。そこでサタンの封印部位を強引に取り込んだものがいます。」

 「それはこちらも確認しております。それを討伐しろとの(めい)ですか?」

 「違います。さすがのあなたでも少し荷が重いこともありますし、特にこれと言って何かしているわけでもなさそうです。もし問題があれば、私か、ウリエルかが行きますので安心を。」

 「では、何を?」

 「大地獄の調査に向かわせた『ウリエル親衛隊』、『ラファエル親衛隊』の面々が未だ帰還していません。これは有意と言っていいでしょう。なのでその救出を。」

 「かしこまりました。」

 「それと…A2が人間界に行った理由をなかなか吐露しませんので参考人を連れて来てください。」

 「かしこまりました。しかし、その者はどこに?」

 「運のいいことにその者も今、大地獄にいるようです。」

 「そうですか。して、部隊の編成は?」

 「あなたが単身で行くことをお願いします。少し大変かもしれませんが、大地獄に部隊をぞろぞろと連れては交戦と勘違いされては困ります。今回は交戦が目的ではありませんので。それに大地獄の大魔族達は刺激をすると何を起こすかわかりません。」

 「かしこまりました。善処致します。」


 そう言うとカイエルは立ち上がり、まずは地獄へと向かうのだった。


 ーー終ーー



 <キャラ紹介>

 オグチ

 ・初代鉄鬼

 ・ヒョウを殺した張本人。

 ・ヤヨイの父

 ・筋肉質なキリエグと比較して、かなり華奢な体格をしているが皮下に存在した筋肉量は常人の数倍のハリと強度を持ち、キリエグと互角。加えて、鉄のような強固な体の硬さを持つ。

 ・キリエグとの実力は10戦した場合、6:4でオグリが優位。

 ・大宴会を好み、妻と子供を数多く拵えたが、気に食わなければ子供と妻を殺す。ヤヨイはその中で唯一残った稀有な例。

 ・一人酒を好み、宴会を好まず、妻と子供を大切にするキリエグとは対照的。

 ・先代にキリエグの実直さが認められ、それを気に食わなく思ったオグチはキリエグと対立した。


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