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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 7章 『次なる王』 ー大魔界の異常ー
195/208

 189 墓参り


 地獄・キリエグ屋敷(キリエグ屋敷)


 「ハァ…ハァ…ハックシュン!!うぅ…寒くないか?」


 時刻は就寝時間。

 エクサーはトイレに行ってから睡眠に入ろうと思い、トイレに向かっていたがその途中の廊下がいつにも増してやけに寒かった。

 多分、廊下が凍っているのを見る感じ、少し前にレイヒがここを通ったのだろう。


 「にしてもレイヒの魔法ってすごいなぁ…制御できなくてこれだもんなぁ…」


 魔力が制御できないことは珍しいことではなく多々ある。

 まだ生まれて経験の浅い子供や無理に魔力を流すと、魔力が尽きるまで魔力の放出が止まらないことはよくあるのだ。


 しかし、魔力を元に魔法や魔術の際限が長期的に効かないことはあまり多くない事例である。

 これが起こる者は膨大な魔力を先天的に持ち、それを消費した分の魔力回復が即座にできる者が、感情や身体の成長に能力が追いつかなかった時に起こる。


 かつて、エクサーの戦いを交えたセルベロはその例だ。

 セルベロの魔術である『毒』は効果と攻撃範囲と即死性が高い殺傷能力などを持つ。

 しかし、セルベロはこれほどの力を得るためにデメリットを抱えている。セルベロは常時、自身の毒に蝕まれ、自由に動けなかったり、毒により体の成長が止まっているのだ。

 

 レイヒにもそれに近いことが起こっている。

 レイヒは目の前で自分の母が殺された記憶が、日常の行動に作用し、魔力の運用が上手にできないという欠点を抱えていた。そして、その魔力はレイヒの得意として体に刻まれた氷魔法により発散されることとなっている。

 その結果、自身のいる場所を凍らせるという、もはや魔術に近い威力と効果範囲を自身から発しているのだ。

 土鬼(どき)曰く、レイヒはその影響でセルベロ同様、細胞の成長が妨げられ、体の年齢がほとんど歳を取らず、数え年だけが積み重なっていくのだった。


 「力って…大変だよなぁ…」


 エクサーはしみじみとそう思うのだ。


 魔法は便利である反面、代償を払う時が必ずと言ってある。

 多分、「無い」と言う者は、まだその時が来ていないか、隠しているかだ。 


 エクサーも仕事でピンチになることは多々あり、そのたびに力があればと思うが、なんとか切り抜けるぐらいの力で十分なのだとも思ってしまう。


 そう考えると、生まれた瞬間から運命が連鎖するように生じた事象に抗えず、自分の身の丈を超すような力を拒否権なく手にする者は、不憫で可哀想にも思えてくるのだ。


 トイレを終えたエクサーはもやもやしていた。

 レイヒと喋った時、レイヒの言った「醜く母親の背中を追いかけている」と言う言葉が大きく引っかかっていた。


 あそこで、「そんなことない」と一言言えなかったことを悔やんでいたのだ。

 この言えないはこの間、人間界に帰った時、キュナーに本当のことを言わずに帰ってきてしまったことの二の舞。

 エクサーはそう考えた。


 「よし!」


 エクサーは明日、この引っかかっている部分をレイヒに伝えに行くことを決めた。

 ただそれをいきなり言いに行くのは少しおかしな気もするが、エクサーは伝えに行くと言う確固たる決意はそれを考える隙を与えなかった。


 そして、エクサーは布団に入って爆睡をかました。


 ーーーーー


 次の日…


 「ねぇ土鬼さん?レイヒってどこにいる?」

 「お嬢様ですか?…自室にいらっしゃと思いますが?」

 「会ってもいい?伝えたいことがあるんだ。」

 「構いませんよ。一緒に行きますか?」

 「うん。」


 エクサーのいる部屋に現れた土鬼にエクサーはこんなことを言うと、土鬼は心良くそれを承諾。

 レイヒの自室に向かった。


 レイヒの自室に向かう道中。エクサーは妙な違和感を覚えた。

 だが、それがなんなのかは全くわからない。ただ、なんとなく何かが起ころうと言う胸騒ぎに近いものを感じていたのだ。


 「お嬢様、失礼します。」


 エクサーは初めてレイヒの自室の目の前に立ったが、その寒さ、冷たさは今までの冷たさとは一線を画していた。

 気を抜くと死にそうなのだ。

 しかも、こうならないように魔力を回してこれなのだ。

 エクサーのまつ毛やクセのかかった髪の毛はパキパキと凍りつき、喉なんか息をするだけでSOS信号を発してきている。


 土鬼はエクサーと正反対で慣れているのか、顔を崩さず、「何かありましたか?」と言わんばかりの顔で凍りついたレイヒの部屋の扉を横にスライドさせた。


 そして、自室には…誰もいなかった。


 「お嬢様?」


 エクサーの目にもどう見てもレイヒの姿はないのだ。

 エクサーはなんとなく胸騒ぎがとても大きくなっているのを感じた。


 ーーーーー


 大魔界・キリエグ領・キリエグ屋敷(天守閣)


 「キリエグ様。」

 「ん?」


 キリエグ屋敷の中央に天高く聳える大きな日本風の城。

 屋敷は全て平屋で建築されているためか、中央に建つ城は、より大きく威厳を示すかの如く大魔界の大地に建っていた。


 そんな城の天守閣。

 城の一番上の部屋に座るキリエグの元に1人の部下が現れると、跪いた。


 「報告致します。よろしいでしょうか?」

 「…構わん。」

 「領土の西部付近に怪しげな魔力反応を探知いたしました。」

 「…」


 キリエグは何も言わずに(さかずき)に酒を入れると、一息にそれを飲んだ。


 「どうなさいますか?」

 「…水鬼を送れ。それでなんとかなる。」

 「念の為、雷鬼様、風鬼様も派遣するのはいかがでしょうか。魔力量こそ多くはないものの数は相当です。」

 「…そうか…」


 キリエグは杯を床に置くと立ち上がってその部下に向かって歩いた。


 「それほどの敵なんだな?」

 「念には念を。」


 部下は目の前に立つキリエグに気取られた。

 圧迫感と威圧感が凄まじいのだ。


 「ところでだ…」


 すると、キリエグはいきなり部下の首を掴み上げる。


 「う…な…何を…」


 部下は気管を圧迫させられると、呼吸が思うようにできず泡を吹く寸前まで来ていた。


 「お前は誰だ?」


 キリエグは掴み上げた部下を凄まじい目で睨んだ。

 

 「俺に直接会える部下にお前のような顔はいない。どうやって入ってきた?この侵入者が。」


 そう言うと、キリエグは部下を思いっきり横に投げると、部下は天守閣から勢いよく投げ出された。そのまま、天守閣から投げ出された部下は、下にある屋敷に向かって落下した。


 「おい!風鬼!手合わせしろよ!!」

 「勘弁してくれ。今はそんな気分じゃないんだ。」

 「あ?んなこと言うなよ!!オレはやる気なんだから…」

 

 ドンッ!!


 キリエグのいる城の足元の屋敷の縁側に座る風鬼に、庭園に立ち、やる気満々の雷鬼は手合わせを申し出ていた。

 すると、そんな雷鬼の背後に勢いよく何かが落下してきたのだ。


 「あ?」


 2人がその方を見ると、そこには瀕死のキリエグに投げられた部下がいた。


 「なんだ?なんだ?どうして上から落ちてくる?」

 

 雷鬼が近づこうとした時、その部下の上にキリエグが落ちてくるとそのまま、部下を踏み殺した。


 「殿!どうなさりました!!」


 風鬼と雷鬼は急いで上から降ってきたキリエグに近づいた。


 「殿、びっくりさせないでください。いきなりは焦りますぜ。それにしてもどうしましたんで?その覇気。」


 雷鬼がキリエグにそう聞いた。


 「準備をしろ。敵だ。」

 「敵ですか…」


 すると、目の前に100は裕に超える数の大魔族がいきなり現れた。


 「これですか殿?」

 「お前達はどこの誰だ?名乗れ!」


 風鬼の問いに集まった大魔族達はくすくすと笑うと、その中の1人が答えた。


 「鉄鬼の軍…以上。」

 「だってよ殿。」


 雷鬼がキリエグを見た。

 そのキリエグの顔は額に血管を浮ばせ、血走った顔をしていた。


 「…殺せ。」


 キリエグがそう呟くと、雷鬼と風鬼は集まった大魔族達を目にも止まらぬ速さで抹殺し始めた。


 ーーーーー


 大魔界・キリエグ領・黄泉霊山


 キリエグ領の中央に多くの土地を使用して作られたキリエグ屋敷。

 そこから少し離れた東部には『黄泉霊山』と呼ばれるいわゆる、墓場があった。

 ここは戦いで命を落とした鬼族達を祀る場所であり、キリエグの指示で作られた。


 ここら一帯は誰も住んでいない。

 住んではいけないと言うことでなはない。ただ、誰も住むことを選択肢にあげなかったのだ。

 そのせいで周辺はやけに静か。人間の感覚だと心霊スポットに来たような感覚を覚える。


 山の斜面には多くの墓が作られ、その道筋は石畳で綺麗に舗装されている。

 その頂上、石の階段を上がった先には、1つの大きな、そして豪華な墓が立っており、その墓石には『ヒョウ』と彫られ、両脇には水色と白の混じったような色の花が備えられていた。


 その墓の前に1人の少女が現れる。

 レイヒだった。


 レイヒはその墓の前に立つと、手を合わせて目を瞑った。

 そして一言。


 「お母さん…来ました。」


 そう呟いた。

 

 この墓はレイヒの母親、キリエグの嫁であるヒョウと言う大魔族の墓だった。

 レイヒはこの日、誰にも何も言わずに母親の墓参りに来ていたのだ。


 レイヒの母はレイヒがそのまま大人になったような見た目をしていた。

 今、レイヒの付けている簪も母が付けていた物だった。


 レイヒは母の墓石にかかった枯葉を手でパッパと払う。

 そうなると、墓の周りの枯葉も気になり、掃除を始めようと思った矢先だった。


 レイヒの背後でパキッと言う音が聞こえた。

 この音はレイヒがここに来るまでに歩いて来る際に凍った地面を誰かが踏んだ音だった。。


 レイヒが急いで振り返ると、そこにはスラッと背の高く、灰色の肌の大魔族がいた。

 その大魔族は付けていたレンズの茶色のサングラスを身につけ、羽織っている薄く、金の龍の刺繍が入った赤い和装の両袖に手を入れていた。


 「大きくなったじゃないか…いや、想定よりも遥かに子供だけど。」


 その大魔族は色気を少し感じる男と言った感じ。

 それでいてどこか空っぽを感じさせる空気を漂わせていた。


 「あなた…だれ?」

 「おっと。まだ、僕のターンだ。だから黙ってて。」


 レイヒはこの悪魔に何か狂気的な感情を裏面に宿していることがうっすらとわかった気がした。


 「僕が君を見た時はもっと小さかった。小さかったと言うか赤子に近いのだから小さくて当然か。それでも君は可愛かった。赤子でもわかる美麗さを持っていたのだから。僕と君の間に怨がなければ、間違いなく急行していただろうね。」

 「どう言う意味?」

 「回りくどいことはやめようレイヒ。」

 

 すると、男は羽織っていた着物から両手を出すと、両手の甲をレイヒに見せた。

 その手には、右手に『鉄』、左手に『鬼』と書かれていた。


 レイヒはそれを見て、この男の存在が何かを理解した。


 「鉄鬼…!!」

 「御名答。」


 男は両手でゆっくりと拍手をして、レイヒの予想を正解と称えた。


 「僕の名前はヤヨイ。君たちの言う鉄鬼の…何番目かは忘れたがその子供だ。」

 「何よう?」

 「決まっている。互いに敵同士が面と向き合っているんだ。今から起きることは1つだろう?」


 ヤヨイの体の重心が少し前に傾く。

 そして、レイヒに向かって殺意をむき出しに走り始めた。

 しかし、ヤヨイはレイヒの目の前で、レイヒの生み出した氷に閉じ込められた。


 「『氷結晶(ひょうけっしょう)』…」


 『氷結晶』

 エクサーがキリエグに殺されそうになった時に使ったわざと同じ技。

 相手を分厚い氷に閉じ込め、動きを生じる。これごと破壊すればその場で体を粉々にして殺すこともできる。

 魔力の融通の効かないレイヒの中で数少ない、ある程度の制御ができる技の1つ。


 ピシッ…!


 ヤヨイを封じ込めることに成功したと思ったのも矢先、ヤヨイを覆う氷に亀裂が入る。

 そして、氷を中から爆発させたように、ヤヨイが姿を現した。

 レイヒは飛び散る氷塊を冷静に交わす。


 「君のお父さんにこの技が効いたかい?効かないだろう?じゃあ僕にも効かない。僕の才は…君のお父さんに匹敵するらしいからね…」


 ヤヨイは話をしながら、右手で拳を作り、手を引いた。


 「『鬼術(きじゅつ)空鬼砲(くうきほう)』!!」


 ヤヨイが引いた右の拳を勢いよく前に押し出すと、凄まじい衝撃波がレイヒに向かって飛んでいった。


 「氷壁(ひょうへき)!!」


 『氷壁』

 レイヒのある程度扱える技の1つ。

 下から氷の壁を生み出す技。


 しかし、レイヒが氷壁作り、攻撃を防げたと思ったのも束の間、ヤヨイの放った衝撃波は最も容易く、氷壁を貫き、レイヒの腹部に当たった。

 レイヒは、母の墓の前の石に叩きつけられた。


 「はぁ…はぁ…」

 

 レイヒは痛みに呼吸を浅くしながら、背後の石に体重を委ね、座り込む。

 そんなレイヒをヤヨイはニコニコしながら見つめた。


 「なんで鬼術を使える?と言った感じだね。当然だろ。僕だって鬼族の血を引いているんだ。父に教えてもらっているに決まっている。」

 

 ヤヨイはゆっくりと足をレイヒの方に進ませる。

 ここから徐々に風が強く吹くようになった。


 「やっぱり君は…美しいなぁ…本当に。嫉妬もする余地を与えないほどに…。敵であることを後悔するほどに…でもね、僕の中では君達を憎む思いの方が大きい。どう頑張っても生きている限り、この思いを覆そうにないんだ。」


 ヤヨイはレイヒの目の前で止まると、もう一度右手で拳を作った。


 「じゃあね…美しき麗しき乙女。」


 なんの抵抗も出来ないレイヒに向かってヤヨイが徐に拳を振り翳した。


 「!!」


 しかし、一瞬にしてレイヒの姿が消えた。


 ヤヨイがすぐさま後ろを振り向くと、そこにはレイヒをお姫様抱っこするエクサーの姿があった。


 「遅くなった。」

 

 ーー終ーー

 

 

 レイヒが技をある程度制御できるようになるまでには相当な努力をしていて、そのたびに土鬼が凍らされています。


 


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