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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 7章 『次なる王』 ー大魔界の異常ー
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 186 レイヒ


 地獄・キリエグ屋敷(キリエグ領)


 「ん…どこだここ?」


 目を覚ましたエクサーのいる場所は和室に敷かれた布団の上だった。

 エクサーは体を起こすと布団から出て、部屋にある障子を開くと、縁側の先に手入れの行き届いた美しい日本庭園が目の前に広がっていた。


 エクサーは庭園に生えた木が夜風で揺れる音を目を瞑りながら堪能した。

 リラックスが直に感じられた。


 すると、部屋の襖が開き、エクサーのいる和室に誰かが入って来た。


 「どうやら、体の調子は大丈夫そうですね。」


 エクサーが振り向いた先にいたのは、茶色の着物に灰色の肌、糸目に、ツノの生えた女の大魔族だった。この大魔族からは警戒心も敵意も感じなかった。


 「ど…どうも…こんにちは。」

 「こんにちは。」

 

 女の大魔族は襖を閉めると、正座をして座った。

 エクサーも自分だけ立っているのもおかしいようなので、畳の上に座った。


 「私の名前は『土鬼(どき)』を申します。よろしく。」

 「エクサーです。」

 

 特に何も質問し合わない時間が数秒流れた。


 「あの…僕はどうしてここに?」

 「レイヒお嬢様が助けてくださったのです。」

 「レイヒ…お嬢様…?」


 エクサーにはレイヒと言う言葉を知らなかった。お嬢様と付く以上は、悪魔を指しているのだろうが全く持って心当たりがなかった。


 「レイヒお嬢様は、我が鬼族の頂点・キリエグ様の一人娘になります。」

 「キリエグ…」


 すっかり忘れていたが、エクサーは『鬼王・キリエグ』と戦ったのだ。

 あれが戦ったと言う言葉の範囲内に収まるかは謎だったが、対面したのは確かなことだった。


 「そのレイヒ…お嬢様って言うのはどこに?」

 「自室にいらっしゃいますよ。」

 「よし!」

 

 エクサーは立ち上がった。


 「どちらに?」

 「いや、挨拶を。助けてもらって感謝をしないのは流石に…」

 「お優しいのですね。しかし、お嬢様は今、お風呂です。乙女の麗しき肌を見たいのであれば構いませんが、今会いに行くことはお勧めできません。雷鬼(らいき)に消されますよ。」

 

 (ヒュッ!)


 エクサーの背中に冷たい汗が流れた。


 「危なかった〜。」

 「それまでは待っていた方がよろしいかと。」

 「そうさせてもらいます。」


 エクサーはまたその場に座り込んだ。


 「その…聞いてもいいですか?」

 「どうぞ?」

 「土鬼って本名なんですか?」

 「本名…そうですね。本名です。なぜですか?」

 「いや、まぁ変わった名前だなぁって。それに雷鬼や風鬼もいましたし。」

 「風鬼(ふうき)雷鬼(らいき)水鬼(すいき)、そして私、土鬼(どき)はキリエグ様の幹部となる上で本名を捨てこの名前になっているのです。私は(つち)関連の操作が上手いので、『(つち)』の『(おに)』で土鬼と言うわけです。」

 「へぇ…じゃあ、本名はあるんだ。」

 「厳密に言えば、表立っては捨てたと言うことになっていますけど。」

 

 土鬼は白湯を差し出した。

 

 「どうぞ。寝起きには一番ですよ。」

 「ありがとうございます。」


 エクサーは白湯を一口、口に含んだ。

 白湯は食道を通り、胃に到達する。白湯の温度はどこを通ったかがわかる程度の温度だった。


 「ところで、キリエグ領(こんな場所)まで何か用事でも?見るからに悪魔のようですし、子供ですし。」

 「実は…」


 エクサーは事の顛末を話した。


 「なるほど。では今は事故でここにいるようなものなのですね。」

 「まぁ…そんなところですかね。」

 「お仲間の方々は一体どちらにいらっしゃるのでしょうか。」

 「それが全然わからないんです。」

 「大魔界はただでさえ、五大貴族の方々の大きな魔力で魔力探知が効きにく、地獄に比べて平均的な悪魔の魔力も多いですから、そこからお仲間を探すのは海に沈んだ針を探すようなものでしょうから。」


 それから少しの間、エクサーと土鬼は話をすると、レイヒの様子を見に行くと言って土鬼は部屋の外に出て行った。

 部屋にポツンと1人残されたエクサーはコロンと寝転がった。


 「強かったなぁ…」


 エクサーはそんなことを呟くと、目を瞑った。


 〜〜〜〜〜


 「どうしたんだい、僕?」

 「やぁ、久しぶりだね、僕。」


 エクサーは真っ白な自身の精神世界で、もう1人の自分(ドッペルゲンガー)と対面していた。


 「何ようかな?」

 「いやぁ、キリエグ…強かったなぁって。」

 「…」

 

 もう1人の自分(ドッペルゲンガー)はキョトンとして、呆気に取られていた。


 「ッハハハ!なんだ、何を言い出したかと思えば、そんなことを言いに来たのか!」


 もう1人の自分(ドッペルゲンガー)は高らかに、涙を流しながら笑った。


 「はぁ〜ぁ、可笑しい。」

 「そんな変なことを言った?」

 「いやいや、こんなことを言うためだけに来たのが意外だっただけ。」

 「でも、実際強かったでしょ?」

 「うぅ〜ん。僕はなんとも言えないかな。そもそも、キリエグと戦った時は魔力がうまく使えなくて、僕の意識も朧だったし、少し魔力が使えるようになったら、君は無理やり魔力を回したから、僕としては寝ているところを引っ叩かれて起こされた感覚だよ。僕は君の悪魔の人格の方だからね。」

 「ごめんね。」

 「別に怒ってないからいいよ。実際、朧げな意識の中でもキリエグの強さは刻み込まれている。君の記憶僕の記憶を補填した可能性もありそうだが、それでもだ。」

 「あの時に、悪魔進行化(あれ)しておけば勝てた?」

 「バカ言うな。そんなことを無理やりすれば魔力回路がぶっ壊れて大変なことになる。」

 「だよねぇ。」

 

 もう1人の自分(ドッペルゲンガー)は、何やらニヤニヤしていた。


 「何?顔に何か付いている?」

 「いやいや、違う違う。何か君、いいことありそうだね、これから。」

 「は?」


 もう1人の自分(ドッペルゲンガー)はいきなりエクサーを後ろに突き飛ばした。


 「じゃあね!また。」


 〜〜〜〜〜


 「エクサー。」


 エクサーはいきなり、飛び起きた。


 「は、はい。」


 目の前には土鬼が座っていた。


 「レイヒお嬢様の準備ができたようです。それとこちらを。」


 土鬼は簡単な和装をエクサーに差し出してきた。


 「こちらを着てください。」

 「いいんですか?」

 「えぇ、この方が場に合っていますので。」


 そう言うと、エクサーは簡単な和装に身を包んだ。

 感想としては結構重く、厚手と言う印象だった。


 「こちらは洗濯しておきますね。」


 エクサーのいつもの黒の服は土鬼によって洗濯させるようだった。


 「では、行きましょう。」


 2人は、和室を後にして廊下を歩き出した。


 ーーーーー


 「はぁ…はぁ…はぁ…ハックシュン!!うぅ〜、なんか寒くないですか?この廊下。」


 廊下を進んでしばらくしてからだろうか。廊下が途端に寒くなって来たのだ。涼しいとかではない。しっかりと寒いのだ。

 それに廊下の所々に霜がついていた。


 「レイヒお嬢様が通った場所ですので当然です。」

 「氷を使うんですね。」

 「使う…とはちょっと違うかもしれません。レイヒ様は確かに氷魔法の操作に優れていますが、見ての通り、暴走状態の手前と言った感じです。」

 「えっ!じゃあ、僕対面したら凍るの?」

 

 土鬼は笑ってエクサーの方を振り向いた。

 

 「もしかしたら。」


 まぁ、これは土鬼のからかいのようなものだった。


 さらに奥に進むと廊下は霜が付いているぐらいだったものがついには凍りだしていた。


 「着きました。」


 2人は大きな白い襖の前で足を止めた。


 「レイヒお嬢様、失礼致します。」


 凍って少し硬くなった襖を土鬼が開けると、その先には冷気を宿し、雪の結晶の降る、和の大広間が。そして、その中央に背筋を伸ばして正座で座る少女がいた。


 白い肌。長く、少しほんの少しだけ白に水色を含んだような色の髪をかんざしでお団子にまとめた髪型。バサバサで頭髪と同じ色のまつ毛。雪の結晶の描かれた白い着物を身につけたその少女だった。


 エクサーはその様相を言葉で言い表すことができなかった。

 雪降るこの空間も相まって、神秘的に映るこの少女を見たエクサーには、この少女を言語化するだけの言葉がなかったのだ。

 綺麗?美しい?美人?そんな言葉じゃ収まりきらないそれを遥かに超した美の終着点のような少女だった。


 「レイヒ様、お連れしました。」

 「…ありがとう。」


 この少女こそがレイヒなのだ。

 高く、透き通り、空虚で、冷たいその声はレイヒを神秘さを押し上げる。


 エクサーは土鬼に先導せれ、レイヒの前の座布団に正座した。


 エクサーは緊張で目を合わせられなかった。

 そして、レイヒもレイヒで澄んだ冷たい顔で、エクサーと目を合わせず、何も会話をしない時間だけが流れた。


 ーー終ーー


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