185 鬼王の力
大魔界・キリエグ屋敷(キリエグ領)
五大貴族の一角『鬼王・キリエグ』を前にしたエクサーは、強度の圧迫感に体を支配されていた。
鬼気を纏ったキリエグの闘志には一切の隙が見えてこない。
明らかな強さを体現した存在だった。
「ガキが…よくもまぁ、オレの領に入ってこれたものだ。」
キリエグの言葉1つ1つに凄まじい重みが込められていた。
内臓にズッシリと響く声だ。
「どんな理由があるかわからんが、敵対と見るぞ。」
キリエグは体を重視を少し前に傾けると、エクサーを思いっきり、後ろの塀に殴り飛ばした。
「あ”ぁ”…!!」
塀に叩きつけられたエクサーは吐血。
猛烈な痛みと共に脳が激しく揺れ、視界を覚束無くさせた。
「なんだ…今の?魔力を感じない…!?」
エクサーはそんな中でボソッとこんなことを言った。
エクサーは足を震えさせながら立ち上がる。そして、口元の血を袖で拭き取った。これが今のエクサーにできる限界の所作だった。
だが、運のいいことに、少しずつ魔法が使えるようになっていた。
「ん?自動の回復か…ただのガキではないな。」
キリエグはエクサーの魔力の動きから、エクサーがフルオートの回復魔法が使えるようになっていることを見抜いた。しかし、まだその出力が微弱なものでなることも見抜かれた。
「あぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
エクサーは口の中の自分の血を唾液と一緒に飲み込む。
鼻から抜ける匂いは全てが血の匂いになってしまった。
「ガキよ。今の一発でわかっただろう?今のお前への一撃は、オレは一切の魔力を使っていない。つまり、今の拳はオレの純粋な力だ。そんなオレにお前がどう足掻こうとも勝てないのは明白…素体が違うのだ。オレとお前とでは…」
(やっぱりか…今の一撃に魔力を感じなかったのは…そういうことだったのか…)
エクサーは構えを取った。
ずっとこの状態では死ぬとわかったからだ。
そして、無理やり体を力ませると魔力を強制的に身体中に回し始めた。
「ふぅ…」
無理やり身体中に魔力を流したせいで、疲労感がエクサーを襲うがまだまだ許容範囲。エクサーは『アレクトーン』を取り出すと、剣先をキリエグに向けた。
「ほぅ…良い代物だ。それを作った者はいい腕をしているのだな。面白い…」
『アレクトーン』という、ガルガの最高傑作はどこに行っても褒められる代物。それはこの大魔界も例外ではなく、大魔界最強とも名高きキリエグの目を通しても言えることだった。
キリエグは来ていた上半身の和装を覇気と気迫だけで引き裂いた。その背中には見事な鬼の和彫が姿を見せた。
「はぁっ!!」
エクサーは強く踏み込むとキリエグに斬りかかった。
「甘いな。」
キリエグは余裕の表情で攻撃を避けるが、エクサーは剣先が地面に触れると同時に魔力を爆発させた。
「目眩しめ…」
巻き上がった爆煙で視界は不良。エクサーは魔力を再度、『アレクトーン』に流すと、思いっきり振りかぶってキリエグに斬りかかった。
「『大噛』ィィィ!!!!!!」
しかし、キリエグはアレクトーンの剣部分を掴んで、攻撃を止めた。
「何!?」
エクサーが驚いていると、キリエグはその場で大きく足を踏み込んで鬼気を増幅させた。
この状態のキリエグを見たエクサーは、今の自分がとんでもない危険を目の当たりにしていることを理解した。その危険は限りなく死に近いものだった。
「小僧。お前のその魔力操作ではこれが限界だ。」
キリエグから湧き出す、覇気、鬼気、闘志の3つは周囲を囲む、キリエグの部下達にも鳥肌を立たせた。それを正面から自分に向けられるエクサーは、恐怖故か意識が遠のき始めていた。
キリエグは右手で『アレクトーン』を話さないように強く握り、左手に拳を作った。
「『鬼術・空鬼砲』!!」
そして、拳をエクサーめがけて振るうと、エクサーは『アレクトーン』から手を離し、塀に向かって吹き飛ばされた。
この拳はエクサーに触れてはいなかった。拳で空気を押し出して、エクサーを吹き飛ばしたのだ。
塀に勢いよく吹き飛ばされたエクサーは完全に気絶してしまった。
そこにキリエグがドスドスと重量感のある足音を鳴らして、近づいてきた。
そして、エクサーに向かって手刀を降り下ろし、トドメを刺そうとした。
その瞬間だった。ここにいる全員が凄まじい冷気を感じ取ると、一瞬にして、全員、建物、地面が凍りついた。
「お嬢様!!何をしなさりますか!!おやめください!!」
屋敷の縁側に白い肌に、白い髪の毛に、まつ毛、白に雪の結晶の柄の入った着物を着た少女の悪魔と、茶色の着物に灰色の肌の糸目の女の大悪魔が姿を現した。
茶色の着物を着た大魔族は真っ白な少女の悪魔を必死に止めていた。
「お嬢様!今すぐ氷を解除してください!!」
真っ白な少女の悪魔は縁側から降りて、皆のいる場所に足をつけると、エクサーに向かって歩き行った。少女の通った道には軽く霜ができ始めていた。全員を凍らせたのはこの少女の悪魔によるものだった。
そして、少女は凍ったエクサーの頬部分の氷に触れた。
ピキッ!
すると、キリエグに纏う氷にヒビが入ると、氷が爆散して、キリエグに自由を与えた。
「どうした、レイヒ?」
この少女の名はレイヒ。キリエグの1人娘だった。
「…」
レイヒはキリエグと目を合わせずに、茶色の着物を着た大魔族に目線を向けると、その大魔族はこちらに向かってきた。
「お嬢様!!」
「…この子の手当てを。かわいそう…だから…」
「しかし、この子は侵入者、いくらお嬢様の一存でも…」
「じゃあ、みんなこのままにする。」
「うっ、そうですか。では、手当てをすれば良いのですね。キリエグ様、よろしいですか?」
「…構わん…」
キリエグは目を合わせないレイヒを見つめていた。
ーー終ーー