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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 7章 『次なる王』 ー大魔界の異常ー
189/210

 183 凶星 襲来


 大魔界・???(アポロポリス号)


 「アリスト、何か分かったか?」

 「残念だけれども特にこれと言って…」


 足早に船内を歩き回り、廊下で鉢合わせた船長のシー・ブルーと長女アリスト。

 アリストは残念と顔面にそのまま書かれているような顔をして、父親にそう告げた。


 大魔界の海上に着地をしたアポロポリスの乗員達。

 あんなことがあったのだ。シー・ブルーは責任者として船の中の安全性と異常を調べ回った。

 船員の失踪数はゼロ。外傷を受けたものは数人いる様子だったが、全員が軽度。船員の被害にそれほど眉を顰める必要はなかった。


 だが、これでお話が終わるならシー・ブルー一家が船内を足早に歩き回る必要もなのだ。それでも、一家は確かに船内を歩き回る。

 それは、エクサー達『level 666』の姿が船内から誰1人として消失したことが理由だった。


 大魔界の海上に着地した段階でコリコントとキョルトノルが急いでエクサー達の安全を確認しに行き、部屋に入るともぬけの殻。

 それは明らかな失踪を意味していた。


 「痕跡無し…行方知らず…それもこの大魔界で…どうしたものか…」

 「どうしようもないそれが現状。」

 「俺はお前達と違ってある程度魔法が使える。それでも探知に引っかからないのは、よほど遠くにいるか、魔法が使えない状態にあるかだ。こんなに広い大魔界で、それも魔法が使えないなら見つけようがない。」

 

 2人の顔は至って真剣そのもの。

 そんな殺伐としたこの船内で良かった事と言えば、船の破損の修理が簡易なりにも終わり、今すぐ出航できる状態。つまり、エクサー達を当てもなく探しに行けるという事だった。

 それをしたところで見つかる確率と言うのも限りなく0に近い値であることもわかっていた。だが、ここで止まっているだけで、事が動くなどとシー・ブルーは一度も思わなかった。


 「ん?なんだ!!」


 シー・ブルーは何かを感じ取った。

 そんな父の様子を見たアリストは、汗を滲ませ始めた父親の顔に何やら不吉な感覚も感じた。魔法のほとんど使えないアリストには父が何を感じ取ったかなどわからなかった。だが、確実に何かが起ころうとしていた。これは、生物的、野生的な話、感覚だった。


 ドーンッ!!


 すると、船の前方が勢いよく傾く。


 「うぉ!」

 「くっ!」

 「何が来やがった!?」


 シー・ブルーとアリストは急いで、船の前方部に進んだ。

 この感じ、きっと船の前方部に勢いよく何か落ちた、もしくは…いや、何かが凄まじき威力の元、着地した感覚。と言うかそうと言って全く差し支えないものだった。


 2人が船前方部の甲板に到着すると、そこには男の悪魔が跪いていた。

 灰色の肌に、水色の目、坊主に、うすら笑み。一見すると、外人顔にイケメン。少しワイルドな感じもするが、何というか飄々としている様も感じ取れた。

 しかし、そんなものは、彼を目の前にしていない想像(イマジナリー)から来る思い込みに過ぎない。


 その男を見たシー・ブルーとカタリスは、恐怖をそのまま目の前で見ている感覚に陥った。

 この男は恐怖を危険を体現したような、化け物のような存在に見えたのだった。


 「ス…スティスか…」


 シー・ブルーはボソッとそんなことを呟いた。

 男はゆっくりと立ち上がる。

 その様子は寝ている猛獣の(そば)を通ろうとした時に、運悪く物音を立てて、猛獣を起こした時のような絶望感があった。


 「最近の大魔界(ここ)は…飽きなくていい…」


 男の声は低くて甘い。

 だが、それがこの男の出す絶望的なオーラとそぐわない。違和感の塊なのだ。


 「父さん…あれって…」

 「あぁ…お出ましだ。五大貴族が一角。『黙悦の凶星・スティス』の登場だ。」


 甲板に姿を現した男こそ、五大貴族の『黙悦の凶星・スティス』だった。

 これなら、スティスのオーラが異質的で恐怖心を煽るものであるのも納得。大魔界の一角を支配する者としての妥当とすら思えてしまう。


 「くっ…アリスト下がっていろ。」

 「でも…父さん1人じゃ!」

 「魔法の使えんお前らを庇って戦えるような相手じゃないことはわかるだろ?早く下がれ。」

 「うっ…」


 何も言い返せなかった。

 父の吐いたセリフには全く言い返す余地など作られてはいないのだ。


 アリストは何もできない不甲斐なさを胸に船の中に入っていった。


 「何しに来た?五大貴族様直々に。」

 「こっちのセリフでもある。悪魔がいきなりなんのようだ?」

 「遭難だ。大海の大穴(ディープ)の調査でな。」

 「…そうか…」

 「何とかこの場を納める術はあるか?お前のそのむき出しの闘志を納める術は。」

 「元来、生物は欲求に貪欲だ。それを包み隠す必要の無いオレに…戦うの欲求を止めることなどできない。する必要がない。」

 「そうか。」

 「そもそも論、オレは数日前に来た天使たちを相手にしたせいで昂りが消えていない。諦めろ…」

 「そうかよ…」


 (天使?なんで天使がここに来たんだ?まぁ、いい。今は関係ない。)

 

 スティスは笑みを絶やさなかった。

 しかも、ただの笑みではなくうすら笑み。さらには軽蔑も混じっているように見える。

 しかし、そんな顔を見てもイライラはしなかった。それ以上に絶望的な感覚の方が大きかったから。


 シー・ブルーは回避の仕様のない闘争の始まりに備え使える分の魔力で全神経を研ぎ澄ませた。

 海の潮を纏った風が2人を煽る。


 その時、シー・ブルーは神経を研ぎ澄ませた甲斐があったのか、スティスの微弱な気の揺らぎを見る破る事ができた。そして、シー・ブルーが受けの姿勢をとる。


 だが、その途中でシー・ブルーの身体中に猛烈な痛みが襲うと、シー・ブルーは船のガラスを割って船内に吹き飛ばされた。


 「かはっ!」


 凄まじい痛み。それ相応の吐血。

 おまけにガラスを突き破ったせいか背中に刺さるガラスの破片。


 シー・ブルーは身体中の痛みを無理やり抑え込みながら、立ち上がった。

 そして、シー・・ブルーが顔を上げた時、その時すでに顔の前にスティスの拳があった。

 今認識したものをすぐに対処できるわけもなく、シー・ブルーは顔面に拳を受け、3つ隣の部屋まで壁を破って殴り飛ばされた。


 スティスは手首をスナップさせると、シー・ブルーの開けた穴からシー・ブルーを追いかけた。


 ーーーーー


 「兄さん、何この揺れ?」

 「…わからん。何かが戦っているのか?」


 船内の異常を確認して回るコリコントとカタリスはシー・ブルーが部屋を突き破る衝撃音と破壊音に、大きな疑問を浮かべていた。


 「ん?何か…近づいてきてはいないか?」

 「ほんとだ!」


 しかも、この音が近づいてきている。

 どんどんこちらに向かって大きな音を立てているのだ。


 すると、コリコント達のいる廊下の目の前に大きな穴が開くと、シー・ブルーが凄まじい威力で壁に叩きつけられた。


 「父さん!」


 2人は急いで血だらけ、傷だらけ、アザだらけの父親の元に駆け寄った。


 「来るな!!」

 

 シー・ブルーはそれを止めた。

 自分が開けた穴の中から、スティスが着々と近づいてきていたからだ。


 「そこで止まってろ。」


 シー・ブルーは大量の出血をしながら、よろめき立ち上がる。

 そして、床に口の中に溜まった自分の血を吐き出すと、目をまさに狩人の目に変えた。


 そして、勢いよく踏ん張ると、シー・ブルーの体から蒸気が放出され、周囲が蒸気に包まれた。

 視界が定かでなくなったカタリスとコリコントは周囲を見渡す。すると、何かが壁を突き破って、外に出ていった。そして、それを追いかけるように誰かが後を追って出ていったのも何となくだがわかった。


 蒸気が晴れ、2人が見たものは誰もいない廊下だった。

 つまり、一番最初に出ていったのはシー・ブルーだったのだ。そして、もう1人出ていったものは…スティスなのだ。


 ーーーーー


 シー・ブルーを追って船の甲板に出たスティス。

 見失ったシー・ブルー(獲物)を探し、周囲を探していると、横からいきなり顔面を誰かに殴られ、そのまま海に落ちていった。

 だが、すぐに帰ってきた。


 海水に濡れた状態で甲板に立つスティスが向かい合ったのは、体についた脂肪の一切がなくなったシー・ブルーだった。

 シー・ブルーは痩せていた。しかもただ痩せていたのではなく、シェイプアップして、いかにもな戦闘体型へと変貌を遂げていた。


 「まだ、この姿になれるとはなぁ…自分でも驚いてるぜ。」


 スティスはそれを前にしても一切の笑みを絶やさなかった。


 「面白い。体質かな?」

 「こういう時のための脂肪(蓄え)だ。マッソーフォームとでも言っておこうか?」


 シー・ブルーは中国拳法のような構えを取った。

 それ対してスティスは構えを取らない。圧倒的な強さを持ち、戦いのルーツ、影響元が自分にしかないスティスに構えなど不要だったのだ。


 そして、2人は激しく衝突する。


 ーーーーー


 大魔界・上空


 大魔界のどこかの空。

 夜空に宝石のように散りばめられた星々。そんな星を着飾る夜空を流れ星が1つ通った。

 そんな流れ星を追いかけるようにもう1つの流れ星が空を流れた。


 だが、この流れ星、とてつもない違和感を提げていた。

 それはと言うと明らかな低空飛行だったのだ。


 低いなんてもんじゃない。いや、地面を基準にすれば十分に高い位置を通っていることは確か。しかし、この基準を流れ星として見ると、低空を飛行していることは明らかだった。

 普通の流れ星と地面の距離を100として例えると、その流れ星の距離は多く見積もっても地面からは30程度。大変に地面から近い距離を飛行していた。


 よく見ると、この流れ星の色は『青』だった。

 他の流れ星は白色なのにも関わらず、低空を飛行するこの流れ星は青色。これも違和感だった。


 「やっと会えそうだね…お兄ちゃん…」


 青い流れ星はそう呟いた。

 そうこの流れ星は、声帯機能と知能を持った生命体なのだ。生命体…いや、悪魔…いや、大魔族なのだ。


 この流星の如き大魔族が向かう先には、アポロポリス号が海に鎮座している。この流星はそれに向かっているのだ。


 ーーーーー


 大魔界・???(アポロポリス号)


 「チッ…!」


 シー・ブルーは、上空から勢いよく甲板に蹴り落とされた。

 その影響で船が一時、大きく海の中に沈み込んだ。


 「クソ…久しぶりすぎて、この状態で何も考えずに戦えたのはものの10分程度か…今はこの状態のの維持に意識を割かなくちゃいけねぇとは…世知辛(せちが)れぇな。」


 シー・ブルーは重い腰を上げる。

 多少の出血、傷口程度ならまだまだ回復できるほどの魔力は残している。しかし、確実にその回復能力というのは体力の減少と比例するように低下しているのも事実だった。


 シー・ブルーが腰を上げると、目の前にスティスが勢いよく着地してきた。

 その衝撃はまたも船を海の中に沈み込ませた。


 「おいおい、もっと丁寧に着地してくれよ。船長以外が船を粗末にするのは失礼じゃないか?」

 

 スティスは笑っていた。

 

 「気に食わんなお前のその笑み。まるで馬鹿にされてるような気になる。いや…お前は馬鹿にしているのだろうが。まぁ、お前と戦ってわかった。お前の強さがあれば、笑うのも当然だろうな。」

 「理解か…してくれだなんて言ってないが。」

 「年寄りの語りだ。そのまま流せ。」

 

 すると、シー・ブルーの背後にある船内から甲板に続く扉が勢いよく開いた。


 「父さん!私たちも()る!!」


 そこにはリベリアン以外の兄弟が勢揃いしていた。


 「私たちでスティス(アイツ)の狙いを分散させる!絶対に隙があるから!!」

 

 ハナは震える手を無理やり押し殺してそう叫んだ。いや、ハナだけではない。他の兄弟達も一緒だった。

 そんな姿にシー・ブルーはヘッと笑った。


 「お前達の出る幕はないぞ。第一、そんな震えた手で何ができるってんだ?」

 

 兄弟達は言い返せなかった。


 「安心しろ。俺の航海はいつでも結果オーライだ。だから、スティス(コイツ)との勝負も何とかなる。俺は、こう言うところの運がいいんだ。」

 「でも、父さん!今のままじゃ…」

 「じゃあよ、そこで見ているんだな。父さんが証明してみせっから。」


 シー・ブルーは右の拳を強く握る。

 そして、徐にスティスに近付いて行った。


 (子供達の前で…逃げ出す親がいるかよ。子供達の前で…弱音を吐く親がいるかよ。子供達の前で…負けを考える親がいるかよ。親ってのはな…父親ってのはな…子供にいいとこ見せたくなるんだよ。子供に大きく成長して欲しいから、背中でっかくして見せるんだよ。「父さんの背中はこんなに大きいぞって」「だからお前達も大きくなれよって」。こんな、ただ強いだけのスティス(コイツ)を前にやらねぇわけにはいかねぇ。歯ぁ食いしばれよ凶星!!)


 シー・ブルーの右手には今のシー・ブルーの使える魔力の全てが集まり始めていた。

 スティスも流石にこの身の全てを費やそうとするシー・ブルーを目の前にただならぬ闘志を見ていた。


 そして、勢いよく拳を振り上げる。

 スティスはこの隙に見えない連打をシー・ブルーのガラ空きのボディに叩き込む。


 「こんな連打…一撃にして返してやるよ。」


 シー・ブルーは一気に右手に溜めた全ての魔力を解放した。


 「見とけ!これが…子供を守る…『お父さんパンチ』だァァァァァ!!!!!!!!」


 シー・ブルーの脳に思い起こされる、子供達の笑顔。

 その記憶を胸にシー・ブルーは『お父さんパンチ(全力の拳)』をスティスに叩き込んだ。


 スティスの顔面は見事に崩れ、血を吹き出しながら、そのまま海まで吹っ飛ばされて行った。


 「はぁ…はぁ…はぁ…」


 シー・ブルーは浅い呼吸で自分の拳を見つめる。


 「父さん!!」


 すると、背後から兄弟達がシー・ブルーの元に駆け寄ってきた。


 「大丈夫?」

 「あぁ…なんとかな…でも、魔力切れだ…」

 「わかってる。キョル今すぐ、あなたの部屋に。」

 「…わかっている。父さん、行こう。」


 コリコントとカタリスに支えられ、シー・ブルー達が甲板を後にしようとした時、海から勢いよく水飛沫が上がると、スティスが甲板に姿を見せた。


 「面白い。効いたよ今のは…」


 スティスの顔はほとんど破壊されていたのにもうすでにほとんどが回復済み。

 攻撃の影響など、一切が無いも同然とかしていた。


 「化け物目…」


 アリストは凄まじい絶望感に狩られていた。


 「姉さん、どうする。」

 「どうする…戦うしかない。私たちだけで。」


 アリストはこんなことを言ってみるが勝てる見込みなど、一切ない。なぜなら、まだ兄弟達は魔法が使えるほどまで回復していなかったから。


 それでもスティスはどんどんとこちらに近づいて来る。一歩、また一歩と…

 

 と、次の瞬間、スティスの背後の勢いよく、青く輝く流星が落下してきた。

 船はまたもや沈み込む。


 「やっと会えたね…お兄ちゃん!」


 青く輝く流星の正体は、灰色の肌を持つ、女の大悪魔だった。

 この大悪魔の言ったお兄ちゃんと言う言葉。これはシー・ブルー達ではなく、スティスに向けられていた。


 スティスはこの大魔族を見るや否や、笑みを消し、女の大悪魔を睨んだ。


 「何しに来た?出来損ないの妹…」

 「酷いなぁ…私にはしっかりとした名前があるんだよ。アルドリンって言うね。」


 スティスにあった笑みはまるで女の大魔族に吸われてしまったような状況だった。


 ーー終ーー


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