182 リフォーム
大魔界・???
「まったく、何もないわねぇ。もう少しなんかあってもいいんじゃないかしら?」
「仕方ねぇな。無いものは仕方ない。」
砂漠を歩むF,DとS,Bの夫婦。
どこまで歩いても続く砂の大地にいいかげん、S,Bは嫌気がさしている様子だった。
「しかし、変なところに出ちゃったわねぇ…目が覚めたら砂漠でしたなんて悪い夢かと疑うわ。」
「それに魔法が使えない。早いところこの状況を切り抜けないと大変なことになりそうだ。」
砂を巻き上げた風が2人を煽る。
「あ〜もう!髪の毛が痛むわぁ!早く魔法が使えるようにならないとこっちが大変よ!!」
「大きな声出すな。体力を使うぞ。」
「は〜い。」
F,Dはハンカチで汗を拭った。
「ふぅ…それにしても情けないな。」
「何が?」
「魔法がなくなった瞬間これだ。生身がいかに貧弱で自分たちがいかに魔法にもたれかかっていたかが浮き彫りになる。」
「まぁ、便利だもの魔法って。」
「こりゃあ、エクサーが魔法を使えるようになった時の浮かれ具合を理解だな。」
2人の脳裏によぎる、魔法が使えるようになったばかりの浮かれたエクサーの様子。
「懐かしいな。」
「こう思い出すと、エクサーも大きくなったものね。」
2人は子供を見る親のような感覚に陥った。
「みんなどこにいるのかしら〜。」
「さぁな、探知はできないからわからん。」
「6つの大きな魔力はわかるんだけど…」
「どうせ五大貴族だ。後1つの得体の知れないのは知らんが…関わらない方がいい。」
「そうねぇ〜。」
「お!S,B、街があったぞ。」
「ほんとだ!」
「とりあえず、行くか。これを逃したら次どこにあるかわからん。」
2人は2kmぐらい先にある街目掛けて歩いて行った。
街に入ると中は大魔族しかいなかった。
当たり前だ。大魔界に来たのだから当然だろう。
街の様子はと言うと綺麗なインドのような場所。砂漠にあるからだろう、服装も風通しの良い、肌を日差しから守る長めの服を着ていた。
街にはスパイスの香りが漂う。
この街の様相でスパイスの香りなんて言えば、名物料理は一択。
もちろんカレー。
長く歩いた2人はお腹が空いていたこともあり、適当なカレー屋に入った。
「いらっしゃ…なんだアンタら。悪魔じゃねぇか。」
店主は元気な挨拶を途中で止めて、2人の肌の色が灰色でないと見ると態度を変えた。誰がどう見ても差別に近い目をしていた。
それも店主だけではない、中にいた客も同じ目をしていた。
「何だ?問題か?」
「問題?…あるね。何しに来てんだ?下等な悪魔の分際で、大魔族の地に足を入れて、のうのうと飯にありつける?そんな話があるか?」
「そうか。だが、俺たちは飯を食うぞ。その気だからな。」
「へっ、やっぱり悪魔は頭が弱いな。だから簡単には食い下がらねぇ。言ってわからねぇなら、殴るしかねぇな。」
店主はいきなり袖を捲ると、戦闘体制を取り始めた。
「こうなるか…覚悟はしていたが。」
F,DはS,Bに後ろに下がっていろとジャスチャーをした。
それを受けたS,Bは後ろに下がる。
(使えるのは強化魔法と防御魔法のみ…それもいつもよりも恩恵はない…技量でカバーするしかないな…)
F,Dは冷静に今の状態を見極めた。
そして、向かってくる店主の拳を避けた時だった。
「何をしているんだい?」
少年の声が背後から聞こえてきた。
F,Dがその方にゆっくりと振り返るとそこにいたのは灰色の肌に、紫のターバンを巻いた少年だった。
少年の目は宝石のような麗しき紫をしており、目頭に赤い点が描かれている。
服は純白のトーブに金の刺繍が入っており、金のアクセサリーを身に纏っていた。
少年がゆっくりとF,Dの方に歩いていくと、客達は次々と床に膝をつけて、前で手を結び、何かを祈るような姿勢を少年に向けた。
それは店主も例外ではなく、拳を颯爽と収めると祈る姿勢をとった。
F,Dは初対面のこの少年に圧倒的な何かがあると感じていた。
店のF,D、S,B以外が祈りの姿勢をとっていると言うのも1つのその要因だろう。
少年はF,Dの前で止まると軽く頭を下げた。
「あなたが、私の領においでくださった方ですね。歓迎いたしますよ。」
少年はニコッと笑うとF,Dに握手を申し出た。
「…よろしく。オレはF,Dだ。アンタは?」
「そう言う話は私の家に来てからにしましょう。その方がリラックスできて楽しめそうですから。どうぞ、こちらに。」
F,Dにはこの少年を信用していいのか分かりかねた。
だが悪意がないのは確かだった。
だからついて行くことに危険性は感じなかった。
「S,B、来い。」
S,BはトタトタとF,Dに寄り添った。
「大丈夫ですよ。取って食べたりなどしませんので。」
少年は警戒されていると知ると、ニコッと笑った。
少年とF,DとS,Bが外に出ると、目の前には大きな宙に浮かぶ絨毯があった。
「これで私の家まで行きましょう。どうぞそのまま乗ってください。」
2人は言われるがままに絨毯に乗った。
周りを見渡すF,D。
周囲の街の皆皆が見事に少年に祈りの姿勢をとっていた。
F,Dにはそれが異様な光景であり、少年が何者かを知りたくてしかたなかった。
「あっ、少し待っていてください。」
そう言うと少年は先ほどまでいたカレー屋に入って行った。
「あなたが店主さんですね?」
「は、はい〜。」
店主は頭はまじまじと少年を見ることができない様子だった。
「いいお店ですね。中も綺麗。他の店に比べても店の中に砂が少ない印象。いい手入れをしていますね。」
「あっ…ありがとうございます!!」
「でも店の所々に痛みが見えます。どうですか?この機会に私がリフォームのお手伝いを致しますよ?」
「ほ、本当ですか!!なんとなんと光栄な!!ありがとうございます。」
「では後ほど。手伝わせていただきますね。では。」
そう言うと少年は外に出て行って、絨毯に乗った。
「お待たせして申し訳ない。では私の家に行きましょう。」
絨毯は3人を乗せ、空に飛び立った。
ーーーーー
「聞いたか!王様直々にリフォームを手伝ってくれるとよ!」
カレー屋の店主は少年の言葉に大変喜んでいた。
「うぉ!何だ!」
すると、店主の体が浮かび上がった。
店主が慌てた様子で、周りを見ると客も全員浮いている。それどころか、店の外にいる街の全員も浮かび上がっていた。
さらに、家の中の家具も浮かび上がる。街の固定されていない物全てが無重力状態のように浮かんだ。
ゴゴゴゴッ!
地面が揺れ始めた。大きな地震だった。
そして、メキメキと言う大きな音と共に、この街全体が空に浮かび上がり始めた。
「なんだ!なんだ!!」
街の全員が何が起こっているかを知りたがっていた。
空へと上がる街と共に住人も建物もどんどんと空に上がっていく。
その様子に住人たちは大層な恐怖を受け始めていた。止まろうと思っても止まれないこの状況。ゴールのない上昇。皆が固唾を飲み始めていた。
すると、いきなり住人達の浮遊が途切れると、思いっきり住人も物も街も全てが急降下し始めた。そして、街は地面に大きな音と共にぶつかり粉砕。その衝撃で住人は誰1人として助からなかった。
ーーーーー
「ねぇ?今すごい音したけど?」
「あぁ大丈夫ですよ。リフォームのお手伝いです。街の老朽化が進んでいましたので。」
少年はS,Bに優しく微笑んだ。
絨毯に乗った3人は砂漠を突き進んで行った。
ーーーーー
大魔界・???
3人が絨毯に乗って来た場所。それはタージマハルのような形をした宮殿だった。
「どうぞどうぞ。中に入りましょう。」
宮殿の入り口の前で3人は絨毯から降りた。
すると、絨毯は1人でに飛んで行ってしまった。
宮殿の大きな扉が開くと中はまさに豪邸。白を基調とし金の装飾が施された着飾らない綺麗さが強調された場所だった。
「食事場に行きましょう。準備はできています。」
少年を先頭に宮殿の中を進む3人。
その道中、少年の部下であろう悪魔達が頭を下げる。
F,Dは本当に少年が何者かを考えた。
「座ってください。」
3人は食事場に着いた。
入り口から奥に置かれた鍾乳石でできた長机。椅子はなく床に座るスタイルのようだ。
F,DとS,Bは隣同士で座り、少年は一番奥に座った。
「料理は時期運ばれてきます。それまで談笑をしましょう。まず、自己紹介をしていただいたので私の方からも私の名はライガーです。」
「「!!」」
「一応、大魔界では『アリババ』と呼ばれることが多いですかね。」
そう。2人の目の前にいる少年こそが五大貴族の一角。『ライガー 通称・アリババ』だったのだ。
「なるほど、だから街であのおもてなしだったわけだ。」
「僕はやれなんて言ってないんだけど…皆がやってくれるから止めはしないだけだよ。」
話をする3人の前にカレーとナンが運ばれてきた。
「美味しいですよ。この領の名物ですから。」
「ほんとだ!美味しい!」
S,Bはがっついて食べ始めた。
「領?」
「えぇ、ここは私、ライガーの領土。名前をそのままにライガー領でしてね。」
「いつの間にそんなことになったんだ?」
「最近の話ですよ。この大魔界も少しは和平に進もうというところでして…まぁ僕だけのようですけど。ところで、あなた方、大魔界に何のようですか?」
「実は…」
F,Dは事の全てをライガーに話した。
「なるほど…では今の目的はお仲間との合流というわけですね。」
「あぁ。」
「しかし、魔法が使えないとなると厄介ですね。もしよろしければ、魔法が使えるようになるまで、ここにいてはどうですか?」
「いや…そういうわけには…」
「魔法が使えないと不便ですよ?」
「…そうだな。そうさせていただくよ。」
「おかわり〜〜〜!!!」
S,Bは状況を話すF,Dとライガーそっちのけでカレーを食べ、おかわりをねだった。
「今持ってきますでしょう。」
「すまんな。」
「いえいえ、元気な奥さんで楽しそうです。」
「ハハハ…」
エクサーやピアノと打って変わって、F,DとS,Bの巡り合いは順調で良好なものだった。
ーー終ーー
F,D達のいる砂漠ですが、フォルテ達の見ていた砂漠と同じ砂漠です。
しかし、距離的には数千キロ離れているので同じとは言えない感じです。