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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 7章 『次なる王』 ー大魔界の異常ー
180/209

 174 入れ知恵、そして絶望へ…


 大魔界


 虹色の光を周囲に撒き散らせ、誰もがノグエルの勝利を確信したところだった。


 天使達の力を集めた『光の楔』でプレズデントの動きを止め、ノグエルの決定打を打ち込んだその様子に天使達は勝利の声をあげた。


 「ふぅ…」


 ノグエルも勝利を確信していた。

 すると、一気に疲労感が襲ってくるのだった。背中に自分がもう一人分乗っているような感覚が一気にノグエルを襲うと、その場でフラつき、倒れそうになった。


 「大丈夫ですか?ノグエル様。」


 そんな様子をいち早く察知した1人の女天使が、倒れそうになるノグエルの腕を掴んで自身の体をノグエルの脇の間に入り、体を支えた。


 「ありがとう。天器は振るえても、疲労感に耐えられないなら、私もまだまだね…」


 ノグエルは、疲れた顔で笑って、女天使にそう言った。


 「それでも、あの悪魔を倒せたことは功績です。ノグエル様、あとはできることだけ頑張りましょう。」

 「そうね…ちょっと疲れたわ。」

 「えぇ…」


 女天使に支えられながら、プレズデントへの攻撃地点を背に、ゆっくりと歩き出した2人だった…

 

 すると、数十歩(ある)いた時、いきなり、ノグエルを支える女天使の歩くスピードがゆっくりになっていることにノグエルは気づいた。

 ノグエルは疲労で地面を見ながら歩いているためか、女天使が自分のためを思ってゆっくり歩いてくれていると思って、優しさを胸で感じていた。

 しかし、女天使のスピードが明らかに不自然に遅くなっていたのだ。さらには体の体重をこちらに任せてくる様になった。ノグエルも頑張って支え返すが、疲れでそれどころでは無い。


 「ごめんね…ちょっと、私もこの重さはキツイかな…」


 ノグエルは相手を傷つけない様にと、やんわりと女天使にそう伝え、顔を上げると、その瞬間、戦慄した。


 女天使の首があらぬ方へと曲がっていたのだ。顔は白目をむき、口からは泡を吐くその様子に、ノグエルは何事かと思い、女天使から離れようとしたが、疲労感のせいで体勢を崩し、尻餅をついた。

 ノグエルの支えを無くした女天使はその場にバタリと倒れた。


 この様子を見たノグエルは一発で、女天使が死んでいることを理解し、焦りながら周囲を見渡した。


 (何!なんで、死んだの?なんで…なんで?攻撃をされた感覚も無かった。どこから?なんで?)


 キョロキョロとあたりを見渡すが異常はないように見える。しかし、いきなり、目の前に1人でに地面を這う影が現れると、これが原因なのだと一発で分かった。


 「いやいや、勝ちの確信は早いんじゃないかい?」


 先ほどまで聞いていた声、もはや聞き馴染んだこの声を聞いたノグエルは、驚きを隠せなかった。

 影の中から、人型の影が立ち上がると、影を晴らし、中からプレズデントが笑いながら出てきたのだ。


 「!」


 プレズデントの背からは、鳥のような羽毛のついたものではない。コウモリのような皮質の翼が生えており、さらには同等の質を誇る尾が生えていた。


 「メガネを無くしていたか…どうりで目元に違和感があるわけだ。」


 プレズデントはワープホールに手を突っ込むと中から新しいメガネを取り出し、身につけた。どうやら、メガネをノグエルの攻撃によって粉砕していた様だった。


 「お気に入りをつけさせてもらうよ。」


 プレズデントはお気に入りのメガネをつけて心底ご機嫌な様子だった。


 「な…何をしたの?なんで生きているの!?」

 「なんで?ふぅ〜ん…実際のところ完全に賭けだった。ナールガ君に()()を教えてもらわなかったら真っ先に死んでいただろうね。」

 「なんでかって聞いているの!!」

 「…そうやって声を荒げなさるな。聞く方の身にもなってくださらないか?まぁいい。なぜ私が生きているか…それは、ナールガ君が教えてくれた『限定解除』と言う技をあの瞬間に会得し、使用したからだ。」


 ノグエルは聞いたことのない『限定解除』という単語に疑問符を浮かべた。


 「と言っても聞いた事がないだろうから教えてあげよう。簡単に言えば、魔術対象の拡張だ。私の影は本来自分の影を媒介にするしかないのだよ。しかし、この限定解除を使用すれば、他者の影をも操れるようになると言うわけだ。便利なものだろう?まぁ君にとってはいい話なわけないがね。」

 「それで、どうやってあの子を殺したの?」


 プレズデントはニヤッと笑った。


 「簡単な話で、彼女の影を引き寄せて、影の首をペキッとね。一息にやらせてもらっただけだ。私も他人の影を操ったのは初めてだったからね。できるかわからなかったが、引き寄せてみたらあら不思議!影は本人そっくりで、実態もある。それに無抵抗で、本人はそれに気づかない。どうやら、影に与えたダメージは本人にそっくり帰っていくらしくてね。それがタネさ。」


 今のプレズデントは凶悪極まりない事が一発でわかる。

 無抵抗に無自覚に影を盗まれ、影を殺すと、本人も死ぬ。こんなクソゲーじみた攻撃を避けるなど、簡単なものではない。プレズデントがそれをするために使用した魔力よりも多い魔力で防ぐしかないのだが、不意打ちの効くこの攻撃にいつまでも魔力と気を投じるわけにはいかないのだ。

 故に、この攻撃はクソを極めたようなものだった。


 「信じてくれないならやってみようか?」


 そう言ってプレズデントは空で何かを手繰り寄せるようなジェスチャーをした。すると、プレズデントの隣に人型の影が現れ、影が晴れると天使が出てきた。


 「適当な者を選んだ。ほら、見てみてくれ。本人そっくり、顔色を肌質もきている甲冑も羽も。全て本物そっくりだろ?」


 プレズデントの言うように本当にそっくりだった。しかし、明らかに生命は宿っていないのが分かった。目に光が無いのだ。本人そっくりに作った人形の様だった。


 「では、この無抵抗な右腕を反対に捻ってみようか?」


 そう言ってプレズデントは天使の右腕を掴み、あらぬ方へ、へし曲げた。


 「あ”ぁ!!」


 すると、遠くで誰かの痛みに喚く声が聞こえた。

 こんなものを偶然と片付けられない。間違いない。プレズデントの言った事が間違いなく起こっていたのだ。


 「これは、これは手間がかかるが、虐殺向きだね。自分で言うのもなんだが。まぁ、そんなことに興味はないからしないよ。私は結果的に虐殺のように捉えられてしまっているだけだからね。」

 

 プレズデントはノグエルの方にゆっくりと歩き出した。

 

 「それでは立ってもらおうか。大きな先手を頂いたのだから、そのお返しをするのは紳士としての嗜みとして当然のこと。申し訳ないが女だからと言う手加減はやめるとするよ。男女平等に子供だろうが大人だろうが、平等にいかせてもらうよ。」


 ノグエルは回復魔法を全身に急速に回しながら、立ち上がる。1人の悪魔にここまでの連戦と長期戦になるとは誰も思ってもいなかった。それにノグエルの魔力量は天器を使った影響でもう全体の半分を切って、4分の1に差し掛かろうとしていた。

 

 「いたぞぉ!!!」


 そこに天使達が軍勢となってプレズデントに突っ込んでいくのだった。


 「だ、だめ!!」


 ノグエルの言葉も虚しく特攻する天使達。プレズデントは天使達の攻撃を、適当に選んだ天使達の影を盾にして、防御した。なんの説明もない天使達にはこれが目に見えない攻撃としか認識できず、どこかにタネがあると思い込み、攻撃をするだけだった。

 だが、ロジックのわかっているプレズントとノグエルからすると、味方同士の仲間割れと同じ様なものだった。


 ノグエルは急いでプレズデントに飛んでいき、急接近すると『大斬斧』で自分ごと、遠くに押し飛ばした。これ以上、天使達同士の自滅は避けたかったからだ。

 天使達からある程度の距離が確保できたノグエルは再度、戦闘を開始した。


 「はぁ…はぁ…」


 上がった息で疲労感が大いに伝わる。天器による『天誅』を2回も放ったせいだった。


 「息が上がってますねぇ。大丈ですか?」

 「うるさい!…問題ない!」

 「そうですか、優しさのつもりでしたが、そんなに強い言葉だと悲しくなりますねぇ。」


 プレズデントは特に攻撃をかわすだけで何もしてくることはなかった。だが、いきなり、プレズデントの影がノグエルの足元まで伸びてくると、その下から大きく口を開けた影が、ノグエルを飲み込んだ。


 「『影の一口(シャドウ・バイツ)』!!!」


 ノグエルを飲み込んだ影だったが、ノグエルは大斬斧を振って、脱出した。そして、プレズデントに向かって行った。


 ーーーーー


 一方のナールガ…


 「なんでアイツがまだ生きてんだぁ?」

 「入れ知恵しただけだ。アイツは()()()には及ばないが、他より才がある。可能性を与えだけだ。」


 攻撃をしながら会話する2人。今の戦闘体制は、ゴーエルがナールガを押し切り、アムエルが『百天の弓』で援護、カセエルが動きの制限と回復に専念していた。。


 (このバケモンも厄介だが、ノグエルの方も相応に面倒なことになってやがるなぁ。ちと、人員変えるか。)


 ゴーエルは『風の距離』でなナールガを吹き飛ばし、瞬時にカセエルの側に移動した。


 「爺さん。こっちはできるだけなんとかする。ノグエルの方に行ってやってくれぇ。」

 「できるのか?」

 「2人でってことかぁ?まかせろぉ。それよりも、ノグエルの方に行ってやれ。大切なんだろうぅ?」

 「すまんな。わしはノグエルを失うわけにはいけんのじゃ。ちと席を空けるぞ。」


 カセエルは急いでノグエルの元に飛んだ。


 「いいかげん。その天器にも飽きてきたな。ダメージなく飛ばされるのは癇に障る。」

 「すまねぇなぁ、これでも防衛なもんで。」

 「お前達2人はオレを倒しに来たんだろ?なのにどうだ。魔力は8割も減ってない。それに吸収したサタンの力も発揮できぬまま…ガッカリだ。魔力だけで事足りるとはな。」

 「説教かぁ?」

 「無理矢理、力でも確かめるとするか。そうでもしなければ意味もなさそうだ。」


 すると、ナールガは目を瞑って爆発的な魔力を放出し始めた。


 「マジかよぉ〜…」


 ゴーエルは流石に引き攣ってみせた。ナールガの存在そのものが別の何かに変わっていくような感覚と死を目の前にしている緊張感。

 力の解放をしているナールガ。今のナールガは自身に宿ったサタンの力を解放し、サタンの異物5つのうち、2つを吸収した。40%サタンと言ったところだった。

 

 目を開けたナールガの右目は白目と黒目が逆転し、異質な存在であるもことを際立たせた。


 「終わりだ。」


 この言葉をボソッとその場に吐き捨てたナールガは、言葉を置き去りにして、ゴーエルの顔面を掴むと、ゴーエルを丸呑みるす、魔力砲でゴーエルを吹き飛ばした。


 ーーーーー


 ノグエルは一発一発を全力で(ほふ)るための攻撃を繰り返していた。


 (クソッ!全然攻撃が届かない!!)


 だが、もうノグエルの攻撃がプレズデントに当たる様子は一切感じられなかった。疲労も限界に達していたのだ。魔力もどんどん減っていく。それなのにプレズデントはそれと対照的にヘラヘラしている怒りばかりが増大して行った。


 すると、ノグエルは天使達が自分の元に近づきてきていることに気づく。

 天使達はノグエルの助けになればとこちらに来ていたのだ。


 (お願い!来ないで!!)


 ノグエルはこの言葉を思うだけだった。今、天使達が来ることは助けでもなんでもなく、無駄な犠牲が増えるだけだったからだ。


 ノグエルは意を決し、自分とプレズデントを広い結界内に閉じ込めた。


 「結界術!しかもいい強度をしていそうだ。でも、この魔力消費は痛いのではないかい?」

 「覚悟の上…みんなを守れるならこれでいい。」


 『バリア』よりも高い強度を誇る結界術は、天使達には破ることのできないほどの強度を誇っていた。だが、それに払う魔力も並のものではなかった。


 「まぁ、とりあえず…」


 プレズデントは空中でバク転をすると、影を駆使した多様な攻撃でノグエルを攻撃し始めた。


 (ナールガ君の気配、なんとも圧倒的だ。あれがサタンというものなのか…追い込まれている様には見えなかったから、痺れを切らしたってところかな?まぁ、どの決着は近そうだ。…おや?何か大きな魔力あ向かってきているか。)


 プレズデントはナールガいる方角から感じ取れることを、自分なりの解釈でまとめ上げた。


 「先ほど、君は未熟な私を許せと言っていたね。悪魔も天使も両者に落ち度を見出す力がないからと。しかし、それで止まれなかったのが君だ。いい大人はその時点で止まるものだよ?」

 「はぁ…はぁ…!」


 攻撃をされ続けるノグエルを見ながらプレズデントは説教まがいなことを言い出した。


 「それでも流石は親衛隊クラス。なかなか限界まで来ても折れない様だねぇ。不屈の精神は見習わなくてはね。じゃあ、それが折れるのを見てみようか。」


 プレズデントがいきなり多くの魔力を何かに投じたのをノグエルは直感的に感じ取った。

 そして、プレズデントの足元に影の渦が出来上がると、中から出てきた者にノグエルは戦慄した。


 師として、親として接してくれたカセエルの影が現れたのだ。


 「カセエル!!」

 「くぅ〜…はぁ…親衛隊の影を持ってくるのは遊び半分ではやってはいけないね。いきなり魔力が3割程度まで減った…一見、老いた様子だが、うちには並々ならぬ力が寝ているわけだ。勉強になった。」


 プレズデントは生の無いカセエルをペタペタと触りながら、観察を始めた。


 「カセエルに触れるな!!!」


 ノグエルは無礼にもカセエルを触るプレズデントに怒ると、急いでプレズデントに特攻をした。

 プレズデントはそれを視認すると、カセエルの右翼に手を力一杯で掴んだ。そして…


 「ショーターーーーーイム!!!!!」


 プレズデントはカセエルの右翼を一気に引き抜いたのだった。


 「!!」


 ノグエルは、プレズデントがこんな行動をするとは思ってもいなかった。


 「もういっちょ!!!!!」


 さらにプレズデントは左翼も一気に引き抜いたのだった。

 この様子を見たノグエルは放心状態となった。


 「天使の羽かぁ…流石に高値で売れそうだが…研究に使わせてもらうとしよう。」


 プレズデントはニヤリと笑った。


 「なんか思っていた反応ではなかったけど、見ればわかる絶望が滲み出ている。折れたと言っても差し支えないか…」


 プレズデントはトドメと言わんばかりにカセエルの腹にギリギリちぎれないような大きさの風穴を開けた。

 ここまでしても放心状態のノグエルにプレズデントは退屈さを覚えた。


 「とりあえず、動いて心配でもしたらどうだい!!」


 プレズデントはそう言うとノグエルをカセエルのいるであろう方角に蹴り飛ばした。この一撃は今までのプレズデントのした攻撃の中でも最も強力な攻撃で、放心状態のノグエルを我に返すには十分すぎる威力だった。その痛みは、蹴られた腹部が針と付いた鉄球で殴られたようなものだった。


 蹴り飛ばされたノグエルが地面に数回バウンドしながら、たどり着いた場所はまさに綺麗にカセエルの隣だった。

 カセエルの背には羽がなく抜き取られたような、肉丸出しの傷口と、腹部の大きな風穴が開いていた。


 「カセエル!!カセエル!!大丈夫!!!!」


 ノグエルは自分の腹部の痛みを感じながらも、カセエルの体を揺らした。


 「止血!止血しないと…」


 ノグエルは急いで魔力を回して治療を試みたが、ここでついに、疲労感の器が完全に飽和し、体に力が入らなくなった。


 (はぁ…はぁ…動かない。体が…動かない…なんで…!なんで、私はこんなにも非力なの!!つくづく私が嫌になる!!!実力を過信して過ごしたわけじゃない。修練も積んだ。でも…なんで!なんで私はいつまで経っても大切な誰かを守れないの!!)


 ノグエルの頭の中には非力な自分を、大事な時に助けられない自分に対する怒りが充満していた。しかし、そうは言っても、もう体は動くことを諦めていたのだ。


 「限界ですね…」


 倒れ込むカセエルとノグエルの前にプレズデントがワープしてきた。


 「大丈夫ですよ。真っ二つならともかく心臓部は攻撃してないので生きてはいると思います。人間だったら死んでますが…今すぐ手当すれば、1年程度で治るでしょう。」


 だが、プレズデントはノグエルが直ちに回復できないことをわかっていた。それを知っていてこの言葉。皮肉そのものだった。


 「でも、天使殺し…悪くない響きですよねぇ。あっても損はない肩書きです。ビジネスに使うには十分過ぎますかね…どちらかを仕留めておくのもありかもですねぇ。」


 プレズデントは右手で顎を撫でながら考え込んだ。


 「じゃあ、あなたにでもしますか。」


 そう言ってノグエルを指差した。


 「おじいの方はほっといても死にますし、たくさん楽しませてもらったあなたに感謝の意を込めて、(プレゼント)を送りましょう。」


 プレズデントは指先に超高密度の渦を巻く影の球体を作り出した。


 「楽しかったですよ。天使さん。また会えたらいいですね。」


 プレズデントはそれをノグエルの方に飛ばそうとしたが、その手を誰かが握って止めた。


 「おやおや?ナールガ君、どうしました?」


 その手を掴んでいたのはナールガその人だった。


 「帰るぞ。もう飽きた。コイツらを相手にしていてもなんの意味もないことがわかった。」

 「そうですか…」


 すると、プレズデントは『限定解除』を解いた。


 「ふぅ〜。私の方は流石に疲れましたよ。」


 ナールガは倒れ込むノグエルを鋭い目で睨んだ。


 「女…これを返しておくぞ。」


 ナールガがそう言うと、上から血だらけでズタボロのゴーエルとアムエルが落ちてきた。


 「今のオレ相手に10秒と持たなかったぞコイツら。教育を見直せと上の奴らに言っとけ。」


 ナールガがそう言い残すと後ろに巨大なワープホールを作り出した。


 「帰るぞ。」

 「はいはい。」


 プレズデントがノグエルに背を向けてワープホールに入ろうとした時、プレズデントは何かを思い出したかのように、倒れ込むノグエルの前にしゃがんだ。


 「ちょっと、酷いことをし過ぎたかもしれない。許してくれ。少しテンションが上がっていたかもしれない。これはその償いだ。」


 プレズデントはそう言って、ノグエルの魔力を半分回復させ、疲労感を大方取っ払って見せた。


 「では、失礼。」


 そう言ってワープホールに入った2人はこの場から姿を消したのだった。


 「クソッ!!クソッ!!」


 元気を取り戻したノグエルの目には涙があった。

 大事な時に守れない自分の不甲斐なさ。さらには情けをかけられたように思うプレズデントの行動。その他、戦いで感じた感情が一気に腹の底から湧き上がってくると、ノグエルは、総じた自分の不甲斐なさに吐き気すら覚えていた。


 「あ”ぁぁぁぁぁ!!!!!」


 ノグエルは行き場のない感情を叫びと、地面を叩いたりと言う行為で発散した。そのおかげで自慢のネイルも爪もボロボロになった。


 「ノグエル様ーーー!!!」


 すると、この場に天使達が集まってきた。そして、血だらけのカセエル、ゴーエル、アムエルと、ボロボロのノグエルを見るや否や、介抱を始めた。天使達はこの状態を見るや否や、一瞬、引き攣った様だったが、冷静さを取り戻し介抱を始めた。


 「ノグエル様、大丈夫ですか?」


 この様子を見たノグエルは涙が止まると、次は天使達の優しさに対する涙を流した。


 「ごめんね、私が…弱くって…」


 こう口にするノグエルに男の天使は笑って返した。


 「大丈夫です。お三方も今なら間に合いそうですよ。死者は出てしまいましたが、それでも、親衛隊の皆様のおかげで最小限ではあったと思います。ひとまず帰りましょう。ミカエル様達もその方が安心するかと思います。」


 この男の天使の言葉は傷ついたノグエルの心の傷口にじんわりと優しく染み渡った。


 「最低限の治療は完了しました。あとは帰ってからにしましょう。」


 応急処置を急いて済ませた天使達は、気を失ったゴーエル、アムエル、カセエルを担いで天界に帰る準備をした。


 「帰りましょう。」


 ノグエルが責任を持って先頭で飛び立とうと羽を羽ばたかせた時だった…


 全員の耳にヒューーと言う音がかすかに聞こえると、次の瞬間、目の前に何かが赤い光を放って落下してきたのだ。


 巻き上がる砂ボコリと全員の耳に耳鳴りを与える衝撃と轟音。この場にいる天使全員が今、目の前に落ちてきた正体に疑問を浮かべた。

 そして、砂ボコリが晴れるのと同じように、天使達の耳鳴りが収まった。全員が安否を確認し合うと、1人の天使が晴れた砂ボコリの中から立ち上がった人型を見て、驚きながら指を刺した。

 全員がそちらを見た。


 そこにいたのは、ブルーの透き通った目。灰色の肌。長身でありながら、スマートに筋肉質な坊主の男の悪魔だった。


 悪魔は天使達の方を見るなり、歯を見せずに、品を感じさせるようにうっすらと笑った。


 「サタンの気配がしたから来た…どこにいるか教えてくれるかな?」


 男の喋り方は語尾に吐息が混じるような、甘く品のあるものだった。


 天使達がこの悪魔に対し、誰なのかと言った疑問を話す中、ノグエルだけは、真剣に青ざめていた。この悪魔が一体、誰なのかを知っていたからだ。


 「も、黙悦の凶星…スティス…」


 ノグエルは絶望していた。この悪魔が大魔族であり、『五大貴族』の一角。『黙悦の凶星・スティス』だったからだ。


 「まぁせっかく来たんだから、()って帰ろうか…」


 スティスは優しく微笑むと、ゆっくり手と天使達に歩き始めた。

 

 ノグエルはこの悪魔に勝てないことがわかったいた。今の自分たちでは足掻くにも至らないことは分かりきっていたのだ。


 「もう…無理…」


 ノグエルは絶望してその場に膝から崩れ落ちたのだった。


 ーー終ーー


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