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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 7章 『次なる王』 ー大魔界の異常ー
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 173 器用じゃない私…


 大魔界


 「できたぞ、アムエル。」


 この言葉で目を覚ましたアムエルは、自身の体が完全に元通りになっていることに気づいた。空中で横になった体勢から起き上がると、目の前にはカセエルがいた。


 「ありがとうカセエル。」

 「大変だったわい。奴の魔力ここ数百年の中でも一番中和しづらかったからの〜。」

 「ゴーエルは?」

 「まだ『バリア』の中じゃ。天器で致命傷にはなっていない様子じゃが、時間の問題じゃの。あの悪魔の仲間と(おぼ)しき悪魔にはノグエルを向かわせておる。」

 「じゃあ、急いでゴーエルのところに戻る。」

 「そうしなさい。わしは得意のサポートをするからn…」


 バリンッ!!!


 カセエルの話を遮って、大きな破壊音が響いた。

 アムエル、カセエル含めた天使達がその破壊音の方向を見ると、カセエルの貼った『バリア』が見るも無惨に粉砕された瞬間がそこにはあった。


 魔力を具現化させた『バリア』の破片が月明かりを反射し、美しくガラスのように空気中に舞い散る。しかし、この場にいる天使達にそんな流暢な思考は無い。『バリア』内で閉じ込めていた、ナールガ(化け物)が解き放たれたのだから当然のことだった。


 「どうした?タフさが(かせ)になっているぞ?それでは死ねるものでも死ねんなぁ!!」


 ナールガはゴーエルに、珍しく声を荒げていた。

 ゴーエルに攻撃を加えても加えても、執念で戻ってくるこの感覚。意思を持つサンドバックをぶん殴っている感覚に近かった。さらにはゴーエルの成長速度。親衛隊を冠するが故のこの素のポテンシャルの高さと適応力。

 ナールガはゴーエルという存在がどこまで自分について来れるかを知りたくてたまらなかった。この胸の高鳴りが影響してナールガは声を荒げていたのだ。


 ナールガは空を蹴り、ゴーエルの腹にキックを加える。


 「ゴハッ…!!」


 そのまま血を吐き、蹴り飛ばされるゴーエルの様子を見たアムエルは急いでゴーエルの元に飛んだ。この様子にいてもたってもいられなくなった天使達も捨て身の覚悟で向かおうとしたが、それをカセエルが止めた。


 「待てい!!お主らが言っても、アムエルの攻撃に巻き込まれるだけじゃ!それでは命も浮かばれん!お主ら、今からまだお主らでも勝算のあるノグエル方に加勢しに()け!あの化け物は、わしとゴーエル、アムエルの3人でなんとかする。」


 天使達はこの言葉に敬礼で返す。それ即ち、御意を意味した。天使達は羽を羽ばたかせ、残る軍勢でノグエルの方に向かった。


 ーーーしかし…この時、誰もカセエルのこの天使達を動かすという行為自体が間違っていたことに。


 ーーーーー


 「はぁぁぁぁ!!!!」

 「おっとっと。」


 ノグエルの斧軽い身のこなしで避けるプレズデント。プレズデント自体も今のノグエルの斧の攻撃を魔術で交わせないことはわかっていた。


 『天器・大斬斧(だいざんふ)

 ノグエル所有の天器であり、その形は巨大な斧。『大斬斧』を振るった際の判定は言った場所よりも少し大きく切れるのが特徴であり、避けたと思っても当たり判定が大きいため、個人戦にも多数戦にも強く出れるのが特徴だった。


 だが、それもプレズデントには難なく適応されていた。天候は曇りが差し、月が隠れ、それにより周囲はかなり暗い。そこにできた影を有効に使い、プレズデントは影と影を移動したりして、避けを実現させていた。


 「隙が大きいですねぇ〜!」


 プレズデントは大斬斧を振り終わったノグエルの顔面に容赦の無い一発を与えた。大斬斧は当たれば、その大きな当たり判定と攻撃範囲が故に、形勢逆転しかねない一撃となる。しかし、当たらないことばかりを繰り返せば、体力は減り、疲労感が募る。

 回復魔法で体力が回復できようとも疲労感までは回復範囲ではない。パフォーマンスは時間ごとに下がっていくばかりだった。


 加えて、大斬斧は振るった後にその大きさと、重さが故に大きな隙を見せることとなった。プレズデントはそこを容易く縫って、攻撃してきた。


 「()の強度はそれほどかな?よくも悪くも女性の骨格の域を出ていないね。このまま、押し切ってもいいか…」


 プレズデントはノグエルの顔面を空中で横蹴りし、蹴り飛ばす。そして、そのまま空中で体を捻って、地面に着地。地に右足を一度、四股を踏むように大きく踏み込むと自身の影の中から、影の生命体を何体も生み出した。


 「さぁ…シャドウ達。楽しもうぞ!」


 シャドウ達はバッタの様に跳ねながら、ノグエルを襲った。


 「小賢しい!!」


 ノグエルはシャドウをバッタバッタと切り捨てていく。だが、シャドウ達はいわば使い捨て。切り捨てたところでプレズデントを叩かなくては、その生産は止まらないのだ。


 プレズデントは足元の影から大量のシャドウを召喚。使い捨てということもあり、魔力消費がかなり少ない。そのため、この大量生産が実現できていた。

 そんなプレズデントはキョロキョロと周りを見る。すると偶然にもこちらに向かってくる体力の軍勢が見えた。


 「ホッホッ!いいものが来ているじゃないか。ちと、仕掛けてみるか。」


 プレズデントはニヤリと笑う。


 「キリがない!」


 ノグエルは力も何も持たない、倒すのに造作もないシャドウ達にめんどくささを覚えていた。このシャドウ達を倒してもプレズデントに一切の影響も無い。しかし、こちらは、それを倒すために体力を消費する。これは実質的なノグエルへの攻撃に相当した。


 「ノグエル様ーーーー!!!」


 すると、ノグエルの耳に声が届く。その方向を見ると、一緒についてきた、残った天使達が全員こちらに向かってきていたのだ。


 「ノグエル様は本体を!この雑魚は我々で対処します!」


 天使達はノグエルの近辺に降り立つと、シャドウ達を数で押し切り始めた。


 「ありがとうみんな!!」


 ノグエルはシャドウ達の気が、天使達に向いた瞬間を縫って、プレズデントの方に爆速で飛んだ。


 「決める!!ここで!!」


 プレズデントは爆速で向かってくるノグエルを前に体を捻ったりして、攻撃を交わした。そして、そこから追いかけっこのような戦闘が数分続く。先ほどの倍以上のスピードで迫ってくるノグエルの様子に流石にプレズデントも交しきれない可能性が出てきて冷や汗を流す。


 (流石は親衛隊…まだ腹の底ではないとは…)


 プレズデントがノグエルに意識を完全に注ぐと、シャドウの生産が停止。天使達も生産された残りのシャドウを倒し切る。


 「ハァァ!!」


 この掛け声とともにノグエルは親衛隊の底力を発揮。プレズデントの予想を超えた一撃でプレズデントの胸に斜めの傷を与えた。


 「ぐぅぅ…!」


 一応、プレズデントも魔術で自身を陰にすることで回避を試みたが相手は天器。それでは力及ばず、魔術を貫通してダメージを受けることとなった。

 さらにここで追い討ちをかけるようにして、プレズデントの体に3本の『光の楔』が刺さり、プレズデントの体は一時的な硬直を受けることになる。

 

 プレズデントは痛みに悶えながら、目を横にそらすと、そこにはシャドウ達を倒し終わった天使達が力を合わせて、集まっていた。

 

 「な…なぜだ…?なぜ…ただの天使達の攻撃で…私が怯む…?」


 プレデントの痛みを孕んだセリフにノグエルはこちらに向かいながら返答を投げる。


 「それは、みんなの力の結晶だ!みんなの魔力が集まってお前の力に勝ったんだ!」

 「な…なんだとぉぉ…?」

 「あんたに言われたように。悪魔にも私の様な立場がいることは認める。でも、今の私には、その両方を考え、対処するだけの力が無い!今の私にできることは天使達を思って、少しでもその無念を晴らすことだぁぁ!!!」


 ノグエルの大斬斧は眩い光を放ち、その光は虹色へと昇華する。


 「力が無く、不器用な私をどうか許したまえ…そして受け取ってくれ悪魔よ!私たち天使達の思いをぉ!!!!」


 ノグエルは有り余る力で、大斬斧を縦に振り、大きくプレズデント目掛けて振り下ろした。


 「『天誅ーーーーーーーーーーー!!!!!!!』」


 攻撃は見事に硬直したプレズデントに直撃。空中で振り下ろした大斬斧の放った、光を纏った衝撃波は、プレズデントを切ってもなお、余力を残し、地面に落下。別の攻撃にも見える『天誅』の余力が大地を抉った。


 ここから生まれた轟音と衝撃波を遠くにいる、アムエル、ゴーエル、カセエル、そして、ナールガはその場にいるかのよう受けた。

 そして、アムエル、ゴーエル、カセエルはここでノグエルが勝利したことを確信した。


 「…」


 この様子を1人冷静に見つめるナールガ。


 「フッ…」


 そのナールガがいきなり笑みを浮かべた。


 「見せてみろ、楽しませてみろ…」


 その言葉は目線の先、爆煙の先、光の先にいる。死んだと思われた悪魔の元に向かって発された。その言葉は届くはずもないと思われたが、それに反応したかの様に自体は大きく動く…


 ーー終ーー


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