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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 7章 『次なる王』 ー大魔界の異常ー
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 169 天使軍 大魔界へ


 ーーーフルシアンテ達が掃除を始めるよりも少し前の話…


 天界・ミカエル宮(応接間)


 部屋の窓から外の庭園を見下ろすミカエル。だがいつものような余裕を感じさせることは無く、焦っているような怒っているような感覚を見る者に感じさせた。


 その部屋にコンコンッと言う扉をノックする音が響く。

 ミカエルはゆっくりと振り返ると「どうぞ。」と一言、優しく扉の向こうに投げかけた。


 「失礼します。ミカエル様。」


 部屋には4人の天使がゆったりと羽を羽ばたかせて入室してきた。そして、ミカエルの近くで膝をついて頭を下げた。


 「ノグエル、カセエル、ゴーエル、アムエル。急ぎの招集なのにこのスピード感で来ていただいて感謝いたします。」


 ここに招集された天使は4人。

 『ウリエル親衛隊・次席』ゴーエル

 『ウリエル親衛隊・三席』アムエル

 『ラファエル親衛隊・次席』カセエル

 『ラファエル親衛隊・三席』ノグエル  以上の4人だった。


 「早速ですが、あなた達4人には大魔界に行ってもらいます。」

 「大魔界にですか?」


 カセエルが老いた声でミカエルにそう聞いた。

 カセエルは、糸目で背の小さなおじいちゃんのような天使でねじれた木の杖をつく天使だった。


 「そうです。何者かが大魔界で封印部位を取り込みました。さらには暴走せずに適合して見せたものと思われます。そのため至急、芽を積んできていただきたく思います。」

 「して、その標的は…?」


 ミカエルは一呼吸おいた。


 「ターゲットはナールガだと思われます。」

 「「「!!!」」」


 カセエル以外の3人は驚きを隠せなかった。


 「ナールガァ〜〜。五芒星(ペンタグラム)のアイツかぁ〜。」

 「そうです。確定ではありません。ただ、今、運良くミカエル宮(ここ)にはそのお仲間さんがいます。その者が言ったところ、そんなことができるのはナールガだけと名前が浮かびましたので。」

 「行けば分かることですね。ミカエル様。」


 カセエルは全てを受け入れる姿勢でミカエルの話を聞いた。


 「そうです。私は残る封印部位の確認をします。事態に合わせて現場に向かうかどうかを判断いたしますので、どうか理解の程を。」

 「「「「かしこまりしました。」」」」


 4人は一段と頭を下げて、ミカエルの指示を受けた。


 「ほんじゃあぁ、天国の扉(ヘブンズドア)まで行くかぁ〜。」

 「その必要はありませんよ。」

 

 ゴーエルが首をボキボキと鳴らしながら天国の扉(ヘブンズドア)に行く意思を口にした時、ミカエルがそれを止めた。


 「どう言うことですか〜?」


 この言葉が引っかかったのはミカエル以外の全員だった。そして、それをいち早く言葉にしたのは『ラファエル親衛隊・三席』ノグエルだった。


 ノグエルの容姿を一言で表すならば『ギャル』。褐色の肌、くるくるの金のまつ毛に巻かれた金髪の毛、誰かを刺せるぐらいには長いネイルの施された爪、ヘソ出しの服にミニスカートと言ったまさにギャルと言った様相だった。

 だが、容姿とは裏腹にノグエルは学が非常に立ち、医療を専攻とするラファエル親衛隊の中では最年少で最も才能があると言われ、丁寧さと治療の手厚さは大評判。才能を見つけるのが早ければ、『イノセント』に入っていたとも言われる実力者だった。


 「今回は重大案件です。天国への扉(ヘブンズドア)を経由してなどすれば時間がかかります。なので、進行する天使達が集まり次第、ここと地獄を直結します。」

 「ホッホッホッ。いいのですかなそんなことをして。悪魔達に気づかれては問題が起きかねないのでは?」

 「仕方がないと割り切ることも時に必要です。それに地獄にとっても、吸収者がもし暴動を起こそうものなら痛手でしょう。」

 「ホッホッホッ。それもそうですな。」

 「話はこれぐらいにして、部隊の準備をお願いします。」


 カセエルはこの言葉にニヤリと笑みを浮かべた。


 「安心してくださいなミカエル様。部隊の準備は…すでにできておりますぞ。」


 その言葉通り、カセエルはすでに部隊の配置、招集を完了させていた。その証拠にミカエル宮の前には1万を裕に越す数の天使達がすでに臨戦の心を宿して待っていたのだ。

 カセエルの予知にも思えるこの行動は、年老いたことによる直感の練磨によるものだった。何しろ、若かりし頃から才能という才能と努力という努力を駆使してきたカセエルはこのような事態を感覚的に予知に近い形で予測ことができたのだ。


 「仕事が早いですね…流石としか言えませんよ。」

 「では、行きましょうか…悪い芽は早く摘むに限りますから。」


 そう言うとカセエルは杖に重心を預けて立ち上がり、その後に続いてゴーエル、アムエル、ノグエルも立ち上がった。


 ーーーーー


 天界・ミカエル宮(入り口)


 ミカエル宮の前に集まる1万を超える天使部隊。この光景はまさに圧巻。純白を纏う天使達がずらりと待つ姿は、美そのもの。


 「どうですかな?1万を超える天使たちの準備です。皆、忠誠を誓った者達です。」

 「嬉しいです。これほど集まってくれて。」

 「事情は説明済みです。さぁ地獄への道をどうかお作りください。」

 「わかりました。」


 ミカエルは人差し指を立て、それで空間をスーッとなぞる。すると、その空間にカッターで紙を切ったような線が入り、ミカエルはその線の隙間に両手を入れてこじ開けるとそこに地獄へと続く、空間の裂け目が出来上がった。

 小さかった裂け目も1秒を刻むほどに大きくなっていき、次第に4階建てのビルを飲み込んでしまうほどの大きさになっていった。


 本来、地獄天国間を行き来するには天国の扉(ヘブンズドア)もしくは地獄の扉(ヘルズドア)を経由する必要があった。

 だが、ミカエルはそれを無視して魔力を運用し地獄と天界の空間を繋げることができたのだ。これができるのは、観測できる中ではミカエルただ1人だった。


 「この先は地獄です。大魔界へは直接の道は開けませんので大海の大穴(ディープ)を経由することになります。そのため、大海の大穴(ディープ)の真上に繋げてあります。頼みましたよ、4人共。」

 「「「「はい。」」」」


 4人は目を瞑り、敬意を示すように頭を下げた。


 「爺さん、俺行って様子見てくるわぁ。」


 頭を上げたゴーエルは早速、カセエルに提案を投げた。


 「先頭は任せるぞ。わしとノグは後ろについて行くとしよう。」

 「わかったよ〜じいじ!!」

 「よっしゃぁ〜、アムエル行くぞぉ〜。」

 「…はい。」


 そう言うとゴーエル、アムエルの2人が様子見で先に地獄に入って行った。


 ーーーこれがフルシアンテ達の感じた天使達の気配だった。


 ーーーーー


 地獄・大海の大穴(ディープ)


 「これが大海の大穴(ディープ)かぁ。」


 先に地獄に入ったゴーエルとアムエルは、羽を羽ばたかせながら大海の大穴(ディープ)を見下ろしていた。

 凄まじい勢いで海水を飲み込む大海の大穴(ディープ)。そこから(にじ)み出すのはなかなか経験できない粘度の魔力。


 2人共、大魔界に行くのはもちろん大海の大穴(ディープ)を見るのも初めてだった。天界でも大魔界というものは危険度の高い場所であり、仲間意識の高い、ミカエルが大魔界で問題が起きてもなかなかGOサインを出さなかったのだ。だから2人共初めてだったのだ。


 「大丈夫かぁ〜アムエル?」

 「大丈夫…」


 ゴーエルはアムエルの気持ちが沈んでいることに早々に気づいて話しかけた。いや、早々に気づいてはいたが聞かれたくないかもしれない可能性があったため、その辺を配慮して2人になった今、聞いたのだった。


 「そうには見えないなぁ〜。」

 「五芒星(ペンタグラム)には…あまり良い思い出が無いから…」

 「まぁ、俺たちゃ〜A2(あのお調子者)にやられたからなぁ〜。仕方ねぇか。」

 「…でも平和のために頑張らなくちゃ。」

 「そうだな。腹ぁ括ってやるとするかぁ。」


 ゴーエルとアムエルは大海の大穴(ディープ)の周辺を確認。そして、天界へと続く裂け目にグット手話(しゅわ)を送った。


 「じいじ、GO出たよ。」

 「わかった。皆よ!先にゴーエルとアムエルが進んでおる!進軍じゃーーー!!!」


 カセエルが老いた容姿からは想像できないほど響く、激唱的な声で集まった天使達に言葉を投げると、天使達はそれに奮い立たされて、雪崩のように地獄に進軍して行った。


 「アムエル、来たぜぇ〜。行くぞぉぉ〜〜!!!」

 「…うん!」


 ゴーエルとアムエルは天使達が追いついてきたことを確認すると大海の大穴(ディープ)に勢いよく入って行った。


 「では、行ってまいりますよ。」

 「気をつけてくださいね。」


 天使達が全員地獄に入ったことを確認するとカセエルとノグエルは1つ、ミカエルに挨拶をして地獄に入って行った。それを見届けたミカエルは裂け目を閉ざしたのだった。


 ーーーーー


 ゴーエル、アムエルを先頭に大海の大穴(ディープ)に侵入した天使軍。大海の大穴(ディープ)の中はまさに先の見えないトンネルと言ったところ。

 光は一切なく方向感覚も歪む。気温が高いというわけではなかったが、湿度が高いのか肌に水分を感じる程だった。


 この瞬間、天使軍を何かが襲った。

 襲ったと言うのは誰かがと言うわけではなく何かがと言う意味で、物理的な暴力ではなく確実に人為的なものではなかった。

 それが現れたのは天使軍が大海の大穴(ディープ)に入ってしばらく経ってからだった。天使達がいきなりなんの前触れもなく気絶して行ったのだった。


 「あ”ぁぁっ…」

 「ぐっ…はぁ……」


 この理由はすぐにわかった。この中が魔力濃度が尋常じゃない程に高かったからだった。先の見えない真っ暗な中を進む天使達だったが、それがバッタバッタと白目を剥いて気絶して落ちていく。


 シー・ブルーの観測で『今』大海の大穴(ディープ)に行けない理由というのがこれだった。今の魔力濃度は(なみ)以上の悪魔でも天使でも耐えられない。

 これを知らない天使達はバタバタと気絶していく。

 ゴーエル達もなんとなくはわかっていたが、自分たちが耐えられていたので魔力濃度の高さに関しては、比較的に流して捉えてしまっていたのだ。これが大変に大きな誤算だった。


 結果、ゴーエル達が大魔界に着いた頃にはすでに意識のあるものの数は6千弱まで減少していた。


 ーーーーー


 大魔界・上空


 「ゴホッ…なんだぁここはぁ…空気が汚すぎるぅ。」

 「酷い…一体…何…?」


 ゴーエルとアムエルは大魔界に着いた途端、息苦しさを覚えた。

 環境は地獄と大差ない。寒くも暑くもない適温。強風が吹いているわけでも雨が降っているわけでもない。違いがあるとすれば空に浮かぶ月が赤く無いことと月のサイズが何十倍もデカく、目視で月面が見えるほどだった。

 

 だが、そんなことに意識を向けている場合ではない。

 空気が悪い。空気中に濃度の高い魔力が充満しているためだろう。この濃度の魔力であれば対処が遅れた瞬間に毒となる。だから、大海の大穴(ディープ)の中を通った天使達が軒並み気絶したのだ。


 そんなゴーエルとアムエルの元にカセエルとノグエルが到着する。


 「うげぇぇ〜。」


 ゴーエルとアムエル同様、ノグエルも空気の悪さに気持ち悪さを感じている様子だった。だが、カセエルは打って変わって平常心を保っていた。


 「爺さん、すげぇなぁ。よく何も感じずにいられるぜ。」

 「昔、来た時の慣れがまだ使えるだけのことよ。」

 「にしても気持ち悪ぃところだ。」

 「慣れることが一番だ。毒も薬になる。もしかすると良いように働くやもしれぬ。」

 「じゃあ、そうなることを願って行くとするか。よし、行くぞぉぉ!!!」


 天使軍達は一斉に羽を羽ばたかせると不穏の気配のする方に飛んで行った。


 「ノグエル。」

 「なぁに、じいじ?」

 「下で気絶している天使達の治療を1人でしなさい。」


 ノグエルが下を見ると、先ほど力無く気絶した天使達が森の中で重なり合って気絶していた。カセエルはこの天使達全員を医療を担う『ラファエル親衛隊』として全員回復させることを命令した。


 「は〜い。」

 「時間は10分。魔力消費は…全体の0.5%ほどに収めること。」

 「わかった。」

 「では、わしは先に行くよ。」


 そう言ってカセエルはゴーエル達に着いて行った。それを見送ったノグエルは森に足をつけると気絶した天使達の治療を始めた。


 ーーーーー


 地獄・バステカン城


 背もたれが後ろに傾く椅子に座りながら寝ていたナールガは、何かを察知したように目を覚ますとゆっくりと体を起こした。


 まだキキガノと戦った時の城の崩壊は修復仕切っておらず、隙間風がよく部屋に流れてくる。そんな部屋の中でナールガは立ち上がる。


 「おい、起きろ。」


 ナールガは部屋のベットで寝ていたプレズデントを一発のビンタで叩き起こした。


 「痛ったーーーーーーーー!!!」


 城の周囲に響く叫び声。近くの木に止まっていた鳥達も思わず飛び立つほどの大きさだった。


 「な、何するんだ!!」

 

 まるで生まれたての子鹿が狼に見つかった時のような驚きでベットの片隅に身を寄せ、ビンタされた場所を手でさするプレズデント。そりゃ寝起きでこんなことをこの威力でされればこうなることは理解できた。


 「天使が来る…」

 「は?天使?」

 

 寝起きの回っていない頭でこんなことを言われて、プレズデントはどうも理解ができない様子。プレズデントはわかっていないようだったが、ナールガは確かに感じていた。

 そして、気配の方角を向いてニヤリと笑った。


 「来いよ、天使。ちょうど力がどのくらいか知りたかったんだ。」

 

 フラグセントを殺害した張本人であるナールガ。だが、その時にサタンの部位を吸収した恩恵は感じなかった。それが無数に向かってきている天使相手であればわかるかもしれない。そう思うとナールガは胸の高鳴りを抑えられずに、笑みを空に飛ばすのだった。


 ーー終ーー


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