167 リベリアン・ブルー
地獄・アポロポリス号
「あれ?お兄ちゃ…兄さん、どこに行く?」
「誰かと思えばハナじゃないか。」
酔いが回復し、最後の兄弟リベリアンに会いに行く途中でエクサーとコリコントはハナドトルとばったり出会した。
「エクサーがリベリアンにだけ会ってないってことで、会いに行こうかと。」
「ちょうど私もリベ※を起こしに行こうとしていたところだ。流石に寝過ぎているから。」(※リベリアンの呼ばれ方の一種。)
「じゃあ一緒に行こうか。」
「あぁ。」
ということで3人でリベリアンに会いに行くこととなり、歩き出した。
「そう言えばお兄ちゃ…兄さん。必要物資のまとめは終わった?」
「終わったけど、リスト化をしていなかったな。」
「早くしないと父さんに怒られるぞ。」
「そうなんだよねぇ。早いうちにやっておくかぁ。」
「その方がいい。お兄ちゃ…兄さんは仕事が早いから。」
「さっきから思ってたけど、兄さん呼び、辛いなら無理しなくてもいいよ?」
「なっ…!無理ではない!!」
「いやだって言いかけてるじゃん。エクサーがいるからって無理はしなくていいんじゃない?」
「だ、大丈夫だ。問題ない。」
ハナは強気な感じを醸し出してはいるが、隠しきれないぐらいにはお兄ちゃん呼びがこんにちはしてきている。エクサー的にも別にそう呼んでくれて何かあるわけでもないのでいいんだが、客人の前ということもあり、ハナ的にも許せないところがあるのだろう。
ーーーーー
そんなこんなで3人は扉の前に足を止めた。
その扉がまぁ豪華で他の部屋よりも一際金の装飾が派手なのだ。
コリコントはコンコンと扉をノックすると扉を開け、中に入った。
と言っても何かが視界に飛び込んでくるわけではなかった。部屋の中は真っ暗。さっき扉を開けた時に一瞬部屋の中が見えたが、扉を閉めて仕舞えば黒の完全密閉空間。分かることと言えば、一瞬見えた大きなベットと足で踏んでいる柔らかい感触ぐらいだった。
するとハナがゴソゴソと壁をつたい、何かを見つけるとカチッと言う音と共に部屋の電気がついた。
「ほぇぇ〜〜。」
エクサーは部屋の豪華さに驚いた。
天井には超巨大で豪華なシャンデリア。柔いピンクの壁紙で統一された部屋は異常にメルヘンな印象を与える。それと床中にぎっしりと置かれた枕。これがエクサーの足の裏に感じた柔らかさの正体だった。
そして、部屋に置かれた部屋の半分ぐらいを裕に占拠するほどの大きさの天蓋付きのベット。その中には抱き枕に抱きつきながら寝る女の悪魔がいた。
「うぅ〜〜ん…」
電気がついたことが嫌だったのか。悪魔はモゾモゾと動きながら抱き枕に顔を埋めた。
「リベ、起きて。寝過ぎ。」
ハナがベットの側まで行き、軽くリベを揺らして起こした。
「うぅ〜〜ん。」
一応返事はするが飽きる気は毛頭無いように見える。
「ちょっと時間がかかるかもしれない。ごめんねエクサー。」
「いいですよ。仕方ないことですし。そんなことより、すごい枕の数ですね。」
「これはね、リベが床でそのまま寝ないように兄弟全員で試行錯誤した結果さ。リベはどんなに悪い環境でも寝ると決めたら寝てしまう。でも床で寝ると寝心地も悪いし安眠はできないと言うことで枕を置いたと言うわけさ。部屋に入った瞬間に寝れるように。」
「なんでそこまで?」
「可愛い末っ子だからさ。」
そんな説明を聞いているとハナはリベを起こすことに成功したらしい。
「ほら、起きて。」
「分かってる〜。」
眠い目を擦り鼻の手を取りながらリベはベットから降りた。
身長はハナよりも少し小さいがそれでも女性の平均からすると平均以上は軽々とある。花柄の上下の薄いパジャマを着て胸元がはだけている。
「ひゃ〜〜。」
エロ耐性の無いエクサーは情けない声を出し目を瞑った上で、さらに手で両目を隠した。
「ちょっと、しっかりしてよ。」
「えぇ〜別にいいじゃ〜ん。おっぱい無くなりはしないんだし。」
「そう言う問題じゃない!」
ハナは一生懸命にリベのパジャマのボタンを止めた。
「エクサー、もう目を開けていいよ。」
エクサーはコリコントにそう言われるとゆっくりと目を開けた。
「紹介するよ。リベリアンだ。」
「よろしくね〜。」
スローに落ち着いてしゃべるリベはエクサーに微笑んで軽く手を振った。
『末女 リベリアン・ブルー』
よく寝ている。生態や力に関しては未知数であり兄弟でも全貌を計り知れていない部分が多数ある。
「ほら、リベ。着替えるのどうするの?」
「このまま行くよ〜。だってお父さんのところでしょ?」
「そうだけど。」
「減るもんじゃないし恥ずかしくないし、私はこのまま行くよ〜お姉ちゃん。」
なんというかリベは非常にふわふわしている。だが、悪い方ではない。世間知らずというわけでも無いのだろう。リベからは過信ではない余裕を感じるのだ。
「じゃあ、行こ〜〜〜。」
リベはパジャマのままで4人でシー・ブルーの元に向かうのだった。
ーーーーー
地獄・アポロポリス号(船長室)
「お父さんおはよ〜〜〜。」
「おぉぉぉ!!リベ起きたか!!」
「うん〜〜!!」
部屋に入るとリベは一直線にシー・ブルーの膝の上に座った。
「お?軽くなったか?いかんな。」
「寝返りしか動いてないかったのにねぇ〜。」
「後でいっぱいご飯を食べなさい。」
「は〜い。」
この2人の様子を見たエクサーは本当に親子かを疑いたくなる。他の兄弟は割とシー・ブルーと目の鋭さやハキハキとしているところなど、どこかしらで共通点が浮かんでくる。
だが、リベとシー・ブルーを比較してもあまりに共通点が見当たらない。リベはシー・ブルーのようにハキハキしているわけでもない。目が鋭いわけでもない。今まで観測したどの部分を照らし合わせても似ている部分が一つも無い。
「似てないだろ?」
そんなエクサーの心の中を読み取ったようにコリコントがエクサーに話しかけた。
「えぇ、まぁいや…はい…」
流石に思ったことに嘘はつけないエクサーはこれを肯定する他なかった。
「リベは母さんにそっくりなんだ。目も体型もテンションも喋り方も。ほとんどが母さんの要素を遺伝している。だから兄弟で揃うと似てないんだ。それが理由で周りから『貰い子』『拾い子』なんて周囲から言われて、人一倍繊細で頭の良かったリベは一時期引きこもってしまったんだ。」
「えぇ…」
「今となっては元気でいてくれているし、これからもそう願っている。リベの心の底にあるかもしれない偏見の事実が芽を出さないように僕たち家族は精一杯の介抱をしなきゃならない。偏見とそれが織り成す同調は妹の心を傷つけた。それが許せないよ僕は…」
そう言うコリコントの顔にはリベに偏見を与えた者たちへの怒りとリベを守ると言う決意の顔が現れていた。
「そうだ!お前達、アリストには言ったが備蓄が心配だから街に寄るぞ。ちょうど、第三燃料の替えの時期だしな。」
「分かったよ、父さん。」
「このまま行ってもどうせ大海の大穴には近づけないし、時間潰しと言う点ではいいんじゃない、父さん?」
コリコントとハナはそれを承諾。
船は旋回をすると一番近くの街まで猛スピードで船を進めた。
ーー終ーー