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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 7章 『次なる王』 ー大魔界の異常ー
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 162 吸収と残る遺物


 大魔界・デルフォース城


 この日の大魔界は雨のない嵐に見舞われていた。

 灰色の世界に草木やゴミが舞い散り、綺麗とは程遠い世界。ただでさえ、魔力の影響で澱んでいる世界がさらに澱んでいた。


 そんな中、デルフォース城の屋上で風に吹かれながら立つナールガとプレズデント。2人は目の前にある石の祭壇の上に置かれた2つの布を見つめていた。


 「ナールガ君、中和は終わったんだね?」

 「あぁ…」

 「では、見せてもらおうか。」


 ナールガは優しく何かをくるんだ2つの布を取り外した。布は風乗ってすぐにどこかに飛んでいってしまった。


 石の祭壇の上に置かれた、黒く乾燥した『サタンの頭部』と同じ状態のほとんど骨の状態の『サタンの右腕』。

 どうやら、ナールガは自分が吸収できる範疇まで魔力を中和することに成功したようだった。


 「ホホホッ、素晴らしい!ほとんど、中和し切っているではないか!!」

 「ここ数日缶詰だったんだ。こうなってもらわなくちゃ困る。」


 プレズデントは薄ら笑みを浮かべてナールガを見た。


 「それで、覚悟はできたかな?君がこの2つの吸収に成功すれば、君は確実なる力を手にする。君にはその覚悟があるかな?」

 「あるに決まっている。だから、ここまで来たんだ。」

 「ホホホッ!そうだね。暴走しないことを祈っておこうか。暴走されても私には止める力なんて、神からいただいていないがね。」

 

 ナールガは右手に『頭部』を左手に『右腕』を持ち上げた。

 すると、吹き荒れる風の流れが一気に変化した。上昇したり下降したり、四方から風が吹き荒れる。まるで不吉を体現したように自然がそれを拒むように。しまいには雷も鳴り始めた。


 「あまり、世は祝福していない様子だが?」


 プレズデントは風にかき消されないように大きな声でナールガに話しかけた。


 「関係ない…いずれ嫌でもするようになる。」

 「もう少し大きな声で喋ってくれないか!?風に消されて聞こえないのだが!!」


 ナールガはプレズデントの言葉をガン無視。

 吹き荒れる空に向かって、目を瞑って顔を上げると深く深呼吸をした。ナールガは風や音を何も拒むことなく体感した。まるで、今の自分の最後の瞬間を堪能するように…

 そして、勢いよく『頭部』と『右腕』を自分の胸元に押し当てた。


 「う”っ…ぐっ…!!」


 ナールガは鮮やかとは言えない光を放ちながら2つを吸収し始めた。

 痛みはない。ただ、自分の中に別の誰かが無理やり入ってきたような圧迫感が身体中に現れてきた。空気の満タンの風船にさらに空気を入れ、なぜかそれに耐えきれているような感覚。

 苦しさに襲われるナールガだったが、それでも悲願をこの程度で崩すわけにはいかない。ナールガは無理やり吸収を進めた。


 そして遂に…紫の光を放ち、ナールガは吸収を終えた。

 暴走の様子も無い。吸収は安全に終わりを迎えた。ナールガは両手を開閉して自分を確かめた。


 特に体が変化しているわけではない。化け物のような姿には特になってはおらず、普通のナールガと言った感じ。ただ、変化というのは外見のみの話であり、大きな変化が一つあった。

 ーーーそれはいるだけで相手を気取らせるほどの『魔力量』だった。


 これを目の前で体感するプレズデントは眼鏡の下で目を大きく見開いた。

 魔強化とも違う。しかし、どこかそれに近い感じのする圧倒的な気配。プレズデントは『王』であるサタンの力の片鱗を今、実感していることを自覚した。


 「ホッホ…す…すごいな…」

 「そうか?」

 「この気配、この魔力量。たった2つのサタンの部位を吸収しただけでこれ…一体、完全なものになればどうなることやら…今私は君が敵でなくて、心底安心しているよ…」


 ナールガは鋭い目でプレズデントを見た。

 プレズデントはこれに背中から冷や汗ではない変な汗が出た。生物的な勝利があり得ないことを体が示唆しているようだった。


 「…ち、違うよね?」


 プレズデントは少し震えた声でナールガに聞いた。そこにはすでに余裕なんてものはなかった。


 「お前がいなくては困ることがあるやもしれん。殺すことはない。」


 プレズデントはホッと胸を撫で下ろすと、額の変な汗をハンカチで拭った。


 「ふぅ…では、ナールガ君、残りの封印部位を探していただけるかな?」

 「そうだったな。」


 ナールガは目を瞑った。そして数秒後、目を開けた。

 

 「見つけた…面白いな。」

 「ほう…それで?」

 「一つ『サタンの左足』はどうやら天界にある。まぁこれは薄々わかっていたことだが。」

 「ほ?私の予想と違うな。全ての封印部位が天界にあるとばかり思っていたが?」

 「いや、これが面白い。俺もそうだと思っていたがどうやら違うらしい。残る『サタンの右足』と『サタンの左腕』の2つがあるのは…下界だ。」

 「!」


 プレズデントは驚いた。


 「下界?私が間違いでなければ下界とは人間界のことでよろしくて?」

 「そうだ。」

 「下界…なんで下界なんかにそんなものを。自分たちの手で管理しておけば良いのではないか?」

 「時にプレズデント、お前に問う。サタンという存在が封印され終結を迎えた第一次天魔戦争。この後に何が起こった。」

 「何が……!なるほど。」

 「あぁ…」


 2人はニヤつき合った。

 第一次天魔戦争終結後にミカエルの行った()()()()に合点がいったからだ。


 「確かに何か違和感があったのだ。『人間保護を掲げ下界への出入りを禁止した行為』。まさか、サタンの封印部位を誰の手にも渡らせないためだったのか…」

 「だから、下界に行った者をより強く罰するようになったんだろう。そうすることで下界に行こうとする抑止力になるからな。」

 「ではとりあえず、どっちを先に取りに行く?私としては必要な労力は変わらないからどちらでも良いが。」

 「下界だな…ミカエル、ウリエル、ラファエルが一斉に攻めてこられても、今の俺では辛いものがある。そんな場所に飛び込むほどアホじゃない。下界で2つを吸収してからにしよう。」

 「心得た。だが、問題は下界にどうやって行くかだ。下界に行く方法など私にはない。」

 「確かA2のやつが方法を知っているはずだが…今のアイツがどこにいるか分からん。」

 

 プレズデントは顎を撫でながら長考した。

 するといきなり脳内に一つの案が弾き出せれた。


 「わかったぞ!」

 「?」

 「確かサタンの遺物の中に『贄の杯』というものがあった。サタンは生贄とした多くの者の魔力を使って下界を行き来していたと言われている。それを使おう。」

 「それは今どこにある?」

 「決まっていよう。サタン信仰会代表・フラグセントが持っていようとも。」

 「じゃあ、奪いに行く。」

 

 ナールガは急いで地獄に行く姿勢を取ったが、プレズデントはそれを止めた。


 「待ってくれ。『贄の杯』で悪魔を贄とする場合、その悪魔たちからの同意が必要だ。だからただ奪い取っても意味が無い。」

 「じゃあどうする?」

 「サタンは同意を圧倒的なカリスマ性と支持で実現させた。それほどの同意を実現させる方法は…サタン信者を奮い立たせる他無いな。」

 「わかった。とりあえず奪いに行くぞ。」

 「早まるなよナールガ君。一つ願いを聞いてくれないか?」

 「なんだ?」

 「贄の杯を奪うにあたってフラグセントを殺してくれ。」

 「わかった。それで計画が上手く行くならそうしよう。」


 フラグセントの殺害の提案にナールガは特に疑念も抱かなかった。

 別に悪魔1人が死ぬ程度、気にすることではなかった。それにフラグセントは身内でも友達でもなかったからだ。


 ナールガとプレズデントはフワッと体を浮かせると、地獄に向かった。


 ーーーそして数日後…地獄中にフラグセント暗殺の情報が回ることになる。


 ーーーーー


 地獄・海上


 1羽の鳥が海上を気持ちよさそうに滑空していた。どうやらこの鳥は丸まった新聞を足に掴んでいるようだった。その鳥は海上に浮かぶ大きな空母のような船を見つけると、方向を勢いよく変え、その方に飛んで行った。

 そして、鳥が足で掴んだ新聞を船に向かって落とすと飛び去って行った。


 新聞は綺麗に船に落下。

 その新聞をちょうど間に合うぐらいで船のデッキに歩いてきた女の悪魔がキャッチした。


 悪魔は背は150cm程。ビシッと着こなした深緑の軍服を身に付け、茶色のブーツを履いている。目は大きくまつ毛はクルクルでショートカットの黒髪。プルプルで肉厚の唇を備え付けた。服装にも表情にも全く隙のない、なんとも真面目美人と言った感じの様相だった。


 その悪魔は新聞の見出しに目を通すと、無駄なく180°体の向きを変え、船の中に入って行った。


 ーーーーー


 船の中に入った悪魔は迷路のように入り組んだ船内を歩き、船長室であろう部屋をノックし中に入った。


 「父さん新聞よ。陸地は随分と荒れているようで。」

 「はぁ〜そうかそうか。」


 部屋の中には白いバサバサの髭に中年デブのだらしない男の悪魔が机の上に足を置いて葉巻を吸っていた。お太りになられているせいで座っている椅子の背もたれと足が若干ミシミシと音を立てる。


 男は新聞を受け取ると葉巻を灰皿の上に置き、新聞を読み始めた。

 

 「荒れてんぁ〜地獄。」


 新聞を読みながら男は不満に近いような声を漏らした。


 「おい、頼まれてくれ」

 「何?」

 「手紙の準備だ。」

 

 部屋の中で紅茶の準備をしていた女の悪魔は、紅茶作りの丁寧さを落とすことなく男の方を振り向いた。


 「手紙?」

 「いいから…頼む。」

 「…わかったわ。」


 女は紅茶を作り終わると男の元にティーカップを置き、紅茶を注いだ。


 「砂糖がないぞ?」

 「血圧上がるでしょ?ダメ。」

 「そうかいそうかい。」


 女は魔法で部屋のドアを一斉に開けると、程よい風が入ってきた。

 そして、部屋の隅のタイプラーターの置かれた机に座った。


 「誰宛?」

 「…()()()だ。」

 「あら?弟さんには最近書いたばかりじゃない。」

 「緊急だからな。」

 

 男はもう一度葉巻を吸い始めた。

 そして、女は男の悪魔に言われるように手紙を書き切った。


 「出してくるわ。」

 「頼む…俺はちっと命でも伝えるか。」

 「どこか行く気?」

 「大海の大穴(ディープ)に行く。」


 男はいきなり湿度高めの笑みを浮かべた。

 

 「!…いやよ。なんであんなところに行くのよ!」

 「そこに確かめたいことがあるからだ。大丈夫だ大魔界に行くことは万一にも無い。今のところな。」


 男は机の上に置かれた自立式マイクにスイッチを入れ、マイクを握った。


 「あ〜あ〜船員達よ、聞こえるか?」


 マイクを通した声は反響を帯びて船中に響くと船員全員が手を止めて耳を傾けた。


 「当ての無い航海は一旦中止。この船は今より大海の大穴(ディープ)に向かうことを決めた。死にたくなければ命綱をしっかりとつけとけよぉ〜。それと、子供達は至急船長室に集まれ〜会議をする。こちらシー・ブルーよりは以上。」


 男はマイクの電源を切った。


 男の名前はシー・ブルー。

 地獄の海上の治安維持を行うこの船の船長であり、ライダーの()()()である。


 ーー終ーー


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