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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 7章 『次なる王』 ー大魔界の異常ー
166/208

 160 鬼


 地獄・ペペル外れ


 叫びながら自身の毒に包まれたセルベロ。溜まった怒りと悲しみの叫びを纏ってもう一度姿を現した時、セルベロは先ほどまであった感情の昂りを捨て、幻想的な気配を纏っていた。


 目からは生気(ハイライト)が消え、呼吸もしているかわからないほどに微弱。

 毒でできたローブに身を包み、背中からは毒でできた蝶の翼が生えている。

 生きているかいないかがわからないほどの微弱な『生』が見る者を幻想的だと認識させる。


 「はぁ…」


 セルベロは小さく口を開け、息を吐いた。

 辺りには毒の霧が充満する。


 バサラは瞬時に体内を防御すると、タバコを吸い始めた。

 数度タバコを吸うとバサラは『孔雀蝶(くじゃくちょう)』を緑の鬼火に戻し、次は背後から青色の鬼火が出てくると、勢いよく握りつぶした。その手には青い刀身を持つ大太刀が握られた。


 『大太刀・水墨仙(すいぼくせん)

 青く長い刀身を持つ大太刀。この刀は鞘を持たない。


 バサラはこれを頭上で構えた。セルベロは力無い眼力でバサラを見た。


 2人の睨み合いはどこまでも続いた。静かに風が風とぶつかる音だけがなっているだけだった。

 しかし、その均衡はバサラの口に加えたタバコの灰が地面に落ちたことで崩壊した。


 バサラは力強く地面を踏み締めるとセルベロに接近。大太刀を振るった。セルベロはこれを硬化した毒の壁で防いだ。バサラはさらに体を回転させながら大太刀を振るう。しかし、セルベロに刀が当たったとて、事態を捉えるには至っていなかった。


 (コイツ…当たり前のように実態を消してるが…タダってわけじゃねぇだろ…)


 バサラの読みは当たっている。

 実態が捉えられない魔術の運用の根幹は魔力操作であり、その大元(おおもと)はセルベロ自身の魔力量。無料(タダ)ではないのだ。つまり、こんな生産度外視の芸当には確実に(ほころ)びが生まれる。

 だが、それがいつかわからない。魔力が切れるその瞬間が弱点の可能性もあれば、行動のどこかが弱点の可能性もある。


 どの道、バサラが足を止める理由は無い。

 それらしきものが見当たるまでは攻撃の手を止めないのが吉だった。


 ガキンッ!


 大太刀とセルベロの毒の壁は衝突した。

 大太刀を持ってしてもセルベロの硬化した毒の防御は破れない。


 バサラは大太刀を元に戻すと、瞬時に『妖刀・鬼ヶ島』へと刀を変えた。刀が身軽になったバサラの動きは先よりも数段早くなっていた。


 「…」


 セルベロは至極落ち着いて瞬きをしてバサラを視野に収めた。その瞬間、バサラに悪寒が走る。バサラは直感に従い、距離を離そうとした時、セルベロから生える蝶の羽が巨大化していることに気がついた。

 そして、羽は優雅に数回羽ばたかせると、勢いよくバサラを包み込んだ。


 「『毒牙の抱擁』」

 この技は自身の背後から生える羽根で相手を包み込む技。攻撃範囲が広いので、見てから避けることは不可。


 バサラはその巨大性に逃げが間に合わず、羽根に包み込まれてしまった。バサラの全身に身体中を食べられるような痛みが走る。

 

 セルベロの毒は『孤毒の蝶』状態の超強化されており、1mgでも身体に触れると数秒かからず死に至るほどには強力であった。そんなものをモロに食らったバサラは解放されたと同時に、右膝をついてしゃがんだ。

 バサラは地面に吐血をした。


 そんなバサラをセルベロは冷たく見下ろした。

 仲間をあんな状態にしたのだから当然だとセルベロは思っていた。


 すると、いきなりセルベロの胸から腹にかけて、大きな斜めの切り傷が現れ、セルベロは大量の出血をした。


 「!?」


 セルベロは後ろに少しだけたじろいだ。

 こんなことをできるのは今、自分の前に立つバサラだけ。セルベロは睨んだ。


 バサラはなんとか刀を支えに立ち上がると、もう一本タバコを吸い始めた。


 「骨が…あるな。ここ数十年で俺をここまでにしたのは…お前ぐらいだ…」


 バサラは空に向かって煙を吐いた。


 「俺は…こんなところで止まってられない…()()()に勝たなきゃいけない…」


 バサラの頭に一瞬、謎の鬼のような悪魔がフラッシュバックした。

 バサラは吸いかけのタバコを足で踏むと、一度大きく息を吐いた。

 

 そして、スッと小さく息を吸った次の瞬間。バサラの体が少しずつ大きくなり始め、牙が生え、黒いツノが生え始めると鬼気を発し始めた。


 セルベロはこの様子に毒の結晶を飛ばす。しかし、そんなものはバサラに簡単に弾かれた。そのバサラの様子はまさに『鬼』と呼ぶに相応しい状態になっていた。


 バサラが『剣鬼』と呼ばれるのには2つ理由がある。

 1つは戦闘をする際、鬼のように冷酷に蹂躙するからである。

 そして、2つ目はバサラが本当に『鬼』の血を継いでいるからであった。


 「最初からこうしておくべきだったな…()()()の前で…全力を出さないわけにはいかないからな…」


 バサラは背後から青色と緑色と紫色の鬼火を漂わせた。

 そして、足を大きく踏み込んで構えを取り、セルベロに攻撃を始めた。


 ーーーーー


 お互いが全く譲らない攻防。

 バサラは剣を瞬間に合わせて使い分け、攻撃した。

 セルベロも毒の形を変え、戦況に応じた攻撃をした。


 鬼の姿になったバサラを受けの姿勢では捌ききれないと悟ったセルベロは羽を羽ばたかせ、飛びながらの攻撃に移行し始めていた。もちろん、飛び交うセルベロに攻撃を加えた。


 バサラはセルベロに攻撃が当たる瞬間を見つけていた。それはセルベロの攻撃の瞬間、毒を操作した瞬間だった。

 セルベロは毒を操作した瞬間だけ実態を表す。そのため、そこを大量の魔力を使用し叩くことで攻撃が与えられるということだった。


 しかし、セルベロは自身の毒により痛覚がどんどんと0に近くなっていっているため、ダメージを与えた時の隙が全くと言っていいほどなかった。それでも、ダメージはダメージ。本人の認識外で体に訪れる反動をバサラは狙っていた。


 セルベロは余裕で攻撃を加えてくるバサラ相手に、無表情だった顔に怒りの感情が戻り始めた。そして、セルベロは羽で自身を包むとそれを一気に解き放ち、毒の鱗を飛ばした。


 バサラは瞬間でこれを交わし、セルベロを切った。


 「くっ…!」


 感情が戻ってきた影響か、自身の毒により鈍化していた感覚が戻ってきてセルベロは痛みを感じ始めていた。

 そして、セルベロが次の攻撃を加えようとしたその時、セルベロの体に纏っていたローブと羽が溶け始めた。


 「!」


 さらにそれだけではない。体にいきなり重さがのしかかったのだ。そして仕舞いにはセルベロは地面に力無く急落下した。


 (なんだ…!?)


 セルベロの頭は混乱。いきなりの『孤毒の蝶』と魔法の一切が効かない状態。誰かの攻撃かと思って周囲を見回すが、誰の気配もない。

 すると、目の前にバサラが降りてきた。


 「魔法、魔術を使う者が一番気をつけなければいけないことは…魔力切れだ…お前は魔術の無茶な使用によりそれが今、お前の身に起こっている…」


 バサラは早々にタバコを吸い始めた。

 そして『妖刀・鬼ヶ島』をセルベロに向けた。


 セルベロはこれで万事休すかと思ったが、バサラはクルッと後ろを向いて歩き去って行った。


 セルベロはこれにトドメを刺さなかったと思い、動こうとした時、セルベロの顔半分がズルッと切れ落ち、セルベロはそのまま倒れた。


 バサラは見逃すほどに優しい悪魔ではなかった…敵は敵以外の何者でもなかったのだ。


 ーー終ーー


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