158 剣鬼再来
地獄・ペペルの外れ
「う”ぅ…くっ…はぁはぁ…」
ペペルの外れ。くるぶし程度に生え揃った草木の生えた未開拓の土地にボッカはいた。
その足元に転がった右腕。切り落とされた肩から止めどなく流れ出る血。それを必死に左手で押さえ、荒く息を吐くボッカ。
さらに少し離れた場所には真っ二つに切られた見知らぬ悪魔の死体。
ボッカの目の前に立つ背の高い悪魔がいた。
そこにオクチオ、オレッチオ、エクサー、クーが現れた。
「!」
エクサーはボッカの前に立つ見たことのある悪魔を見ると驚いた。
「ボッカ!」
オクチオとオレッチオは急いでボッカに駆け寄った。オクチオは回復魔法をかけながら前に立つ悪魔を睨んだ。
高身長に赤い目。七三分の髪型に右目元の傷。黒スーツに黒手袋を身につけた悪魔。
「あんたがやったの!」
オクチオは思わず声を荒げた。
無理もない。ボッカをここまでにして怒らないわけもなかった。
「…だったらなんだ?」
悪魔の声は低く、冷たく、それでいて威圧感の強い声だった。
「バ…バサラ……!」
「えっ!」
エクサーは一目で分かった。ボッカを攻撃したであろうそこにいる悪魔は『剣鬼・バサラ』その人だったのだ。
「バサラってあの…」
「そう…」
クーもこの名は流石に聞いたことがあった。危険人物として父であるバーナボーに教えられていたからだった。
2人はあのバサラの形に冷や汗を流した。
「仲間が何人来ようと、関係のないこと…」
バサラは背中から赤い鬼火が出てくると、それを勢いよく右手で握りつぶし、手に『妖刀・鬼ヶ島』を握った。
バサラは黙って鞘から刀身を抜くと、鞘を捨て、ジリジリとオクチオたちの元に歩み寄った。そして、無駄のない動きで、オクチオの首に斬りかかろうとした瞬間。
「伏せてぇぇ!!!!!」
エクサーが大声をあげて飛んできた。
「『大噛』!!!!」
アレクトーンを両手で強く握り、歯を食いしばった表情を見せたエクサーは、空中で莫大な魔力をアレクトーンから放出させ、思いっきりバサラに向かって横切りをした。
「ふんっ…」
バサラは体をのけぞらせて余裕の回避。エクサーはそれを見越してすでに足を地面につけ、次の動作の準備をしていた。そして、バサラに勢いよく切り掛かった。バサラはこれを刀で受け止めた。
「A2と一緒にいた奴か…」
「なんで、ボッカを攻撃する!?」
「敵…だからだ。」
バサラは刀でエクサーを弾いた。
「くっ…」
エクサーが顔を上げた瞬間、バサラの姿は前ではなくすでにエクサーの後ろにあり、振り返った頃には、エクサーの体に一斉に無数の切り傷があった。
「あ”あぁ…」
エクサーはアレクトーンを地面に突き刺し、膝をついてしゃがんだ。
「剣は一級。俺の物にも負けるとも劣らない。しかし、お前がそれに追い付かなければ意味がない…悲しいな…」
バサラはエクサーのしゃがみ込んだ背中を見て、少しばかり悲しげな表情を浮かべた。
「…帰れ…そうすれば見逃してやる。お前を殺してA2が出てくる方がめんどくさい…」
バサラがエクサーに背中を向け、ボッカたちの方に行こうとした時、エクサーの方から地面を擦る足音が聞こえると、やれやれと言った顔でバサラは振り返った。
「自分で自分が惜しくないのか…」
「惜しいよ…でも…ボッカを守らないと…」
バサラの魔力の影響で傷の治りがいつもよりも圧倒的に遅い。それでも、エクサーは立った。
「自分の命を一番にできないほどに…この世界は澱んでいるのか…」
「いや…澱んでなんかいない。世界は他者を思いやる優しさで澄んでいる!」
「それで死ぬのなら、澄んでいる必要などない。」
「いや…死なない!」
「!」
バサラは背後に気配を感じ勢いよく振り返ると、空中に目に赤い炎を宿らせたクーが、一杯に溜めた魔法をバサラに放出する瞬間が目に入った。
クーはそのまま、魔法をバサラにぶち込むと、体を空中で上手いこと捻って攻撃に巻き込まれないようにエクサーの近くに着地した。
「ありがとう、クー。」
「大丈夫です。それよりもです。」
クーとエクサーは真剣な顔でバサラの位置を見た。攻撃により巻き上がった砂ボコリの中が晴れると中から無傷のバサラが出てきた。
「その目、その気配。サンソン家相伝の『処刑人の目』か…女でそれほどの完成度とは大したものだな…」
バサラは傷一つついていない様子だった。
すると、バサラは刀を鬼火に変えて消し、代わりに背中から緑の鬼火を出すと、それを勢いよく握りつぶした。緑の眩い光を放ち、バサラに手に握られていたのは、緑色の鞘に入った刀だった。
『打刀・孔雀蝶』
バサラ所有の名刀の一本。
深緑の鞘に金の装飾。その中には緑色に輝く頭身が収められている。
「お前たちが終わらせて、アイツらを殺る。」
エクサーとクーはアイコンタクトを取ると、一斉にバサラに向かって攻撃を仕掛けた。
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地獄・ペペル
「んんっ…はぁ〜…」
セルベロはベットの上で目を覚ました。
「あれ?オレッチオ、どこだ?」
辺りを見渡すセルベロ。しかし、いつも付きっきりのオレッチオの様子がどこにも見当たらなかった。それを不思議に思ったセルベロはベットから降りると、部屋を出ようとした。
「なんだこれ?」
セルベロは部屋の扉に何かが書かれた紙が貼ってあることに気がついた。セルベロは目を細めて内容を見ると、そこにはオレッチオの字で『私を探して来て』と書いてあった。
「?」
全く訳がわからないセルベロ。こんなロマンス映画のセリフみたいなものだけ書かれていて一体何がわかると言うのか。しかし、気がかりな部分がある。それは字が汚いのだ。オレッチオは元々綺麗な字を書く。しかし、紙の字は急いで書いたようにギリギリ読み取れる程度の綺麗さだった。
もしかしたらの一大事を警戒して、セルベロはオレッチオの魔力を探った。そして、街の外れに見つけたオレッチオの魔力を見つけると、店を出て、その方向に少し早めに歩いて行った。
ーー終ーー