157 サンドイッチ
地獄・バステカン城
「忘れ物ない〜?」
「大丈夫だと思う。」
「よし、じゃあ気をつけて帰れよ。」
「ありがとうフルシアンテ。」
次の日。エクサーは今日どうしても出たい授業があったのでバステカン城を去ることにしていた。
衣食住を数日積んだだけなのに、新しい刺激まみれのこの数日ともお別れと思うと寂しいものがあった。
城の門の前に立つ3人。フルシアンテとラズロはわざわざお見送りをしてくれたのだった。
「じゃあね。」
「あぁ。」
「また来てねぇ〜。」
エクサーはフワッと中に浮かぶとクリスト城の方に飛んでいってしまった。
「寂しい〜。」
「そうか?またいつでも来れるんだからいいだろ。」
「そうだけど〜〜。」
「おい、昼は何にする?」
「麺。」
「麺ってパスタでいいか?」
「うん!」
「でもきのこ入れないで嫌いだから。」
「文句言うな。その方が美味い。」
「いや!」
「入れる!」
「いや!」
「入れる!」
2人はいつも通り些細な喧嘩をしながら城の中に入って行った。
ーーーーー
地獄・トバルカイン魔法学校
「あっ!エクサーおはようです。」
「クー!おはよう。」
学校に着いたエクサー。久しぶりの学校だったが、相変わらずの色々なことをする悪魔たちが目に入るとなんだかんだいつも通りの安心感を感じて、和んだ。
学校に着き、飲み物でも買おうとした時、偶然にもそこにクーがいた。
「久しぶりです。どこか行ってたです?」
「まぁなんて言うか、遠出のおつかいかな?でも今日の授業どうしても受けたくてね。」
「私もです。」
2人は言葉は無いが、飲み物を軽く乾杯して一緒に飲んだ。
「ぷは〜っ、美味い。」
「美味しいです。」
「そういえば、ドラギナはいないの?」
「ドラギナは家庭の事情で帰省してるです。」
「えっ!そうなんだ。」
「ドラギナもいいところのお家柄です。きっと忙しいです。」
2人が談笑に浸っていると、いきなり、こちらに向かってくる大きな足音がドカドカと聞こえてきた。
「ん?なんです?」
「なんかこっちに向かって来てるよね。」
次第に大きくなる足音。よーく耳を澄ませてみると何かを叫んでいるように聞こえた。
2人はよーく耳を澄ませて聞いてみると、「エクサー」と聞こえて来た。
「僕なんか呼ばれてない?」
「呼ばれてるです。」
そんな会話をしていると、足音の主が姿を現した。
「久しぶりだね!エクサー!待っていたよ!さぁ、僕と戦ってくれ!」
いつも通りの息を切らしたラーバルさんでした。しかも今日は彼女のレノを抱えてのご登場だった。
毎回エクサーは思う。エクサーを見つけ出すセンサーでもあるのかと思ってしまうほどに、エクサーのいる場所に登場してくる。「この能力を少しは別のことに役立てれば宝探しとかに便利そうだなぁ。」なんてエクサーはいつも思っていた。
「おはよう、ラーバル、レノ。元気だね。」
「おはようエクサー。ちょっとラーバル!もっと丁寧に運んでよ!」
「すまない、すまない。」
ここ最近のこのカップルを見ていると、日に日にラーバルの尻に敷かれ度が高くなっている気がする。レノは元々面倒見のいい性格だったが、反抗期やら思春期やらが近づいているのか、気を強く出せるように成長していた。
しかし、ラーバルは基本的にレノ一筋なので、特にこれに苛立ちを見せると言う事もなく。レノもラーバル一筋なので悪気があってやっているわけでもない。これはこれで割とバランスが取れているのだった。
「で、また戦うの?」
「あぁ、もちろんだ。」
「スパン短くない?もっと練習を積んでからの方が…」
「い〜や。僕はいつだって次の策を考えて君に挑んでいる!策はいつも勝率90%超え。いつもたまたま悪い方の10%を引いてしまっているだけと言うことだ!」
「じゃあ、やる?」
「今日こそ君に勝つ!」
ーーーーー
「のわ〜〜!!」
ラーバルは勢いよく地面に倒れた。
「ほら言わんこっちゃない。」
今日の戦いもエクサーの勝利だった。
「ラーバルーー!!」
レノは名前を呼びながら急いでラーバルに駆け寄って、急いで回復魔法を使った。
「ク…クソーー!!覚えてろーーー!」
元気になったラーバルはヒョイッとレノを持ち上げて走って去って行った。
「ナイスバトルです!エクサー。」
「ありがとう。」
戦闘に巻き込まれないほどほどの距離で戦いを見ていたクーが寄ってきた。
「どうです?ラーバルは。」
「悪くないよ。結構いい感じになってる気がする。でもねぇ、なんかもう一声足りない感じがするんだよねぇ。」
「まぁ、そのうち強くなるですよ。」
「クーもやってあげれば?」
「私は嫌です。」
「でも、処刑人の魂あるじゃん。」
「あれは緊急時の奥の手ってやつです。それにあれ以降あんまり上手くいってないです。」
「あれ?そうだったの?」
「今度お父さんにしっかり教えてもらうです。」
キーンコーン
学校のチャイムが鳴った。
「やばっ!遅れちゃう!」
「急ぐです!」
2人は急いで学校に向かって走って行った。
ーーーーー
「面白かったね。」
「面白かったです。」
授業を終えた2人は、教室を出ると内容の面白さと1問出された難解な問題への討論を始めた。
「ドラギナがいればもっと早く答えが見つかるのになぁ〜。」
「ドラギナ、なんなんで一応、不落の成績優秀者です。」
「僕全然勝てないやぁ〜。」
「エクサーはまず、ドラギナの前にいる私を倒してからにするです。」
「クーだって、あんまりドラギナと大差ないでしょ?」
「それでもドラギナと比べたら虎と猫ぐらいの差はあるです。」
ぐぅ〜〜
エクサーのお腹が鳴った。
「お腹すいたです?何か食べるです?」
クーは持っていたカバンの中をガサゴソと手を突っ込んで探し回り、何かを掴んだと思って手を引っこ抜くと、中からぺっしゃんこのサンドイッチが出てきた。
「た…食べるです?」
意気揚々とカバンから出したのはいいがとても食べられる状態とは言えないサンドイッチ。一応期待をさせてしまったことは事実なので、クーは目線を逸らしながら、申し訳なさそうに差し出した。
「あ…ありがとう。」
ここでエクサーの優しさが発動!
親切を断りきれないエクサーはこれを受け取ると口に入れた。
味は普通。トマトとレタス、チーズとハム、それとかすかに香るマスタード。普通に美味しいサンドイッチだった。ただ、食べ応えというものに目を瞑ればの話だったが。
「足りないや。」
「じゃあ、何か食べに行くです。」
「サインドイッチの気分だしなぁ。あっ!」
ここでエクサーは思い出す。サンドイッチと言えばのあの店、セルベロ達のレストランがあった。
「いいサンドイッチ屋を知ってるんだ。そこに行こう。」
「わかったです。」
ということで2人はセルベロ達の手伝っている店のあるペペルまで飛んでいくことにした。
ーーーーー
地獄・ペペル
「いらっしゃ〜…あら、エクサーじゃない。」
「久しぶり、オクチオ。」
老夫婦の経営するレストランに入ったエクサーを机を整えていたオクチオが迎えた。
昔はこじんまりとした静かな店だったのに、今となっては大きくて広い大人気のお店。と言っても、今は準備時間のため、お客はいない。
オクチオは相変わらずスタイルがいい。ちょっと顔が全体的に鋭いパーツで構成されているため、怖い印象を持つが面倒見がいいのだった。
「いつものでいい?」
「うん!」
「じゃあ、とりあえず適当なところに座ってて。サンドイッチ持ってくるわ。」
そう言うとオクチオは裏の厨房への扉を潜って消えた。
「その辺座ろうか。」
「はいです。」
クーは少し緊張気味の様子だった。
「お待たせ。」
しばらくするとオクチオがサンドイッチを3つ持って、エクサーの机に置いた。
少し焦げたパンの香りとトマトの香り。この香りがたまらなく食欲をそそった。
「美味しそうです〜。」
「美味しいよ。あれ?でもなんで3つ?」
「おばあさんが『あなたも食べなさい』ってくれたの。」
「そうなんだ。じゃあ、いただきま〜す。」
3人はサンドイッチを頬張った。
「そう言えば、おばあさんとおじいさんは?」
「ちょうど3つサンドイッチを作ったら食材が足りなくなったらしくて、買い物に行ったわ。」
「今日はオクチオ1人なの?」
「違うわ。ボッカは周辺パトロール。オレッチオとセルベロは地下で体調検査。あんたとの戦いで一旦毒が抜けて大丈夫になったと思ったら、最近また体調悪くなり始めてね。だから、オレッチオが調べてるの。」
「セルベロ、大丈夫かなぁ。」
「食べ終わったら会いに行きましょう。」
「わかった。」
「ところで、お連れさんは彼女か何か?」
「違う違う。学校の友達のクーって言うの。」
「あらそうなの。よろしくね。」
「よろしくです。」
「クーはあの処刑人一族、サンソン家の一人娘なんだよ。」
「へぇ〜、そうだったの。あんた色んな友達ができるわね。」
「おかげさまでね。」
すると、厨房の方から勢いよくオレッチオが出てきた。白衣を着て、ボサボサの長髪、あまり寝ていないのか目の下のクマ。オクチオの妹であるオレッチオは息を切らして出てきた。
「オレッチオ、どうしたの?」
オクチオは急いでオレッチオに駆け寄った。
「ボッカの生命反応が急激に弱まった。」
「!嘘でしょ、どこで!?」
「街のはずれ。」
「行きましょう。セルベロは治療中寝ている。」
「僕たちも行くよ。」
エクサーとクーも席を立って、そう言った。
「じゃあ、行きましょう。」
4人は急いで店を出て行った。
ーー終ーー
オレッチオがなんで、生命反応の弱まりがわかるのかというと『サーチ』の広域バージョンを常に発動しているからです。
オレッチオはなんと言っても心配性。何かあったらにとても敏感なのでボッカ、セルベロ、オクチオの異常をすぐに察知できるようになっています。スマホの某位置情報共有アプリみたいなものです。