155 『繁栄王』プレズデント
大魔界・デルフォース城
地獄よりも重い雰囲気を醸し、混沌が闊歩するこの大魔界。そんな場所でキキガノはナールガのいる廃城『デルフォース城』に赴いていた。
砂ではない何か微細なものを含んだ霧のようなものが風に乗り、行き先は灰色で埋め尽くされ、空気も重い。それに魔力濃度も明らかに地獄に比べて高い。並の悪魔がここに来れば、間違いなく死に至るほどの魔力がところかしこから発生していた。
「君、珍しく地獄に上がって来たんだって?しかもそれで、ボーパロットから『サタンの頭部』を盗んだって。」
「そうだ。アイツが持っていても何にもならない。事実、耐えきれずに暴走しなしな。」
「宝の持ち腐れってこと?」
「そうだ。」
「…盗みは良くないんじゃない?」
「黙れ…弱い奴から奪う。自然の摂理だ。」
「確かにねぇ。僕はあまりその考え好きじゃないけど否定はできないなぁ。それを否定したら僕の『生』も否定しそうだし。」
「当然のことだ。」
「はぁ…荒いねぇ。」
すると、ナールガは座っている椅子についた肘置きを左手の爪でコンコンと叩き始めた。
「話は終わりか?」
「…そんなに帰らせたい?」
「用もないのツラツラと話す気は無い。」
「…はぁ…じゃあ本題に入ろう。」
ナールガはただでさえ鋭い目つきをさらに鋭くさせた。
「A2から聞いたよ。君、『王』になりたいんだって?」
「…あぁ。」
「何かある…と言うわけでもなさそうだね。どうせ、君のことだから強さを求めてるってわけだろ?」
「問題か?」
「いやいや、君にはそれを良しとさせる力があるからいいんじゃない?でも…」
キキガノの穏やかで無気力な気配が徐々にどこか芯のある気配へと変わった。
「些か、他人の迷惑を度外視するのはいただけないかな?」
「あ?」
「地獄の王サタンも単に力で統制をとったわけじゃない。しっかりと民を先導できるだけの力を持っていることを自覚した上で統制をした。でも君にはそれができるとは思えない。単に力だけを手に入れた君は、子供に有り余る武器を与えるのと同じ。他者を傷つけ、それに気づかない。一応こんな世界でも僕の居場所なんだ。それを君に破壊させるわけにはいかない。」
ナールガはゆっくりと椅子から立ち上がって、勢いよく目を見開き、威圧感を放った。
その凄まじき威圧感は常人であれば呼吸を忘れるほどに息苦しい圧迫感を与えた。廃城のあらゆる場所がガタガタと揺れる、地震でも起きているのかと思わせるほどに。」
「じゃあ、なんだ?どうする?」
「止めるとするよ。」
キキガノは凄まじき威圧感を放つナールガを前に飄々と向かい合うと、ナールガの威圧感を押し返すようなこれまた凄まじい威圧感を放った。
2人は数秒の睨み合った。すると、ナールガはキキガノを勢いよく殴り飛ばした。キキガノは城の壁を突き破り、ある厚い壁に体をめり込ませた。
「はぁ…やる気がすごいな。」
めり込んだ体を壁から話したのも束の間、ナールガはキキガノの元に姿を現し、もう1発拳を叩き込んだ。キキガノもこれには自分の拳で反撃。2人の拳は拮抗。魔力の衝突は薄暗い城を照らす火花を産んだ。
拮抗する拳。キキガノは一瞬だけ魔力を大きく流しナールガの拳を弾くと、拳の形を維持したナールガの手を掴むと、キキガノはそれを上から握り、ナールガを捕まえることに成功した。
そして勢いよくナールガを上に投げ、ナールガは城の天井を突き破って空に投げ出された。
ナールガはこの状況を冷静に認識。
キキガノのいる城に向かって極太魔力砲を打ち込んだ。
ナールガの通ったことで開いた天井の穴からナールガの魔力砲の光がキキガノを月明かりのように照らす。ナールガも上を向き、魔力砲を勢いよく放った。
2人の魔力砲は空中で衝突。空の雲は散り散り。樹木は衝撃で薙ぎ倒され、その衝撃波周辺にある街に突風を送りつけた。
そして、数秒の拮抗ののち2人は示し合わせたように魔力出力を上げると、衝突していた魔力砲が空中で勢いよく爆散した。
キキガノは手をパンパンッと2回ほど払った瞬間、天井から勢いよくナールガが降ってくると、瞬時に戦闘が継続された。
ーーーーー
大魔界・デルフォース城(周辺)
名の無い荒廃したこの街には先ほど、キキガノとナールガの起こした突風が街を襲っていた。そんなとある街のとあるダイニングに1人の悪魔が姿を見せた。
メガネをかけ、灰色の髪の毛を後ろに流し、どこか余裕を感じさせる笑顔を見せるおじさんと言ったところ。
来ている服は柄の入った黒ベースのスーツ。それに金と黒のマントを着た悪魔。
悪魔は古びた木造のダイニングに入る。部屋の中は突風の影響でミシミシを音を立てて揺れていた。
1人の悪魔はカウンターに腰掛けると、ダイニングのオーナーが話しかけてきた。
「あんた、上の者か?」
「そうだが、悪いかな?」
「ふんっ。下等な悪魔にしてはよく来れたなと思っただけだ。」
他にもちらほらお客がいる。だが、ここを訪れた悪魔は大層目立っていた。それは着ている服がとか話し方がとかでは無い。
ここは大魔界。そこに住む大悪魔、たちの大きな特徴でもある灰色の肌。それがその悪魔にはなかった。つまり、この悪魔は大魔界ではなく、地獄から来たと言うことだった。
「ほら、酒だ。悪いが生憎うちはこれしか置いてねぇ。」
そう言うと、少し強い力でグラスに入った酒の原液をオーナーは置いた。
「酒を飲むのはめでたい時と決めているんだがね。まぁ、洗礼と思っていただくよ。」
悪魔はオーナーに出された酒を一気に飲み切った。
「かは〜〜っ!!爆弾が喉を通過したみたいだ。だが、これまた刺激があっていいね。」
「ふんっ、一息に行くとは思わなかった。少しはやるみたいだな悪魔。お前さん、名前は?」
「私の名はプレズデント。あなたたちには関係のないことかもしれないが、一応、地獄では名の通った悪魔だよ。」
この悪魔の名はプレズデント。
地獄経済界の中で重要人物であり、プレズデントの企画は、ことごとくどれもが素晴らしき成功を遂げるプロデュースの天才。その結果、呼び名は『繁栄王』だった。
「ほぅ…でもそんなお前さんが大魔界になんのようだ?」
「…ナールガと言う悪魔に会う約束をしていてね。」
「ナールガ?あぁ〜、あの天界襲撃の奴か。」
「そうそう。」
「でもなんで、そんな奴に?」
「彼にはね、次の王になってもらいたいのだよ。その話を。」
「王…?」
ダイニングは一瞬だけ静寂を孕んだ。だが、その静寂の結び目はまた一瞬にして解け、オーナーの笑い声が響いた。
「ッハハハハ!!な〜にが王だ!サタンみたいにでもなるつもりか?ハハハハ!!」
オーナーの笑い声は止まるところを知らず、それがようやくと絶えたのはプレズデントが席を立ち、店を出る時だった。
「お代はいらねぇよ、笑わせてもらったからな!ハハハハ!!あんまり夢ばっかり見るなよ子供じゃないんだから!ハハハハ!!」
オーナーは完全にプレズデントを馬鹿にしていた。だが、プレズデントはこれに起こる様子も機嫌を悪くする様子もなかった。ただ、淡々と店に出るために歩を進めるだけだった。
店を出たプレズデントは強い横風に靡かれながら歩みを止めた。
「シャドウたち出ておいで。」
この言葉に答えるようにプレズデントの足元から無数の黒い影の生物たちが姿を見せた。
「命令。あの店を跡形もなく壊せ。それと悪魔もだ。いいな?」
影たちはコクコクと頷くと、ダイナーを襲い始めた。
聞こえ始めるオーナーの悲鳴と建物が壊れる音。プレズデントはこれに満足げな顔を浮かべた。
プレズデントの魔術『影』
自身の影のみを媒介としてそこから無数の影の生物などを生成する魔術。
影の強さは消費魔力に応じて強くなっていき、その気になれば1軍隊程度であれば簡単に作り出すことのできる強力な魔術。
そうプレズデントもまた先天的に生まれながらにして力を与えられた悪魔なのだ。
ーー終ーー
なんか割と大魔族なんて言っても悪魔のプレズデントのシャドウにやられたじゃん。大魔族も対したことない。
って思うかもしれませんがそんなことはありません。
これは悪魔と同じで大悪魔も教養があるかないかが重要だからです。
大悪魔は悪魔よりも魔力も多いですし、頭もいいです。ですが、魔法の使い方とか頭の使い方を知らない悪魔は同条件の悪魔と比較すれば強いですが、普通に弱いです。
なので、プレズデントのシャドウに簡単にオーナーは殺されたと言うわけです。