154 キキガノ
地獄・バステカン城
「あっ!2人ともおはよう〜。」
「やっと起きたか。」
「あんだけ暴れてれば寝るものも寝れないってぇ〜。」
2人が城に戻ると、ラズロが昼食に近い朝食を食べていた。この食べ方がまんま子供のようで、机は具材でぐちゃぐちゃ、口の周りはベトベト。食材が戦争でも起こしたのかと思えるほどの惨状だった。
「お前は…ちゃんと片付けろよ…」
もちろん、フルシアンテは静かに怒りを露わにする。だが、そんなものお構い無しと言わんばかりにヘラヘラしながらラズロは食事を進めた。
「おい、エクサー。お前は窓のところの椅子にでも座ってろ。飲み物と菓子を持ってくる。」
「わかった。」
フルシアンテは体を動かし枯渇した糖分の摂取をするために菓子と飲み物を取りに、部屋の外に出ていった。
エクサーが腰が椅子に腰を掛け、ちょうど隣に見える窓から外を覗くと、悲惨にも見える程に抉り返された地面が目に入った。
(や…やりすぎちゃったかな…?)
なんと言うか周囲の地面と比較しても深く掘られている。と言うか地形が変わってしまっているようにも見えた。だが、そんな景色ももう少し目を上に上げて見てみると、綺麗な景色が広がっている。木々の葉が生い茂っていると言うわけではない。どちらかと言うと時期的に枯れかけと言ったところ。しかし、それがなんというか最後の生命の足掻きを感じられて、自然を感じられる。
そんな景色をムシャムシャと食事を食べるラズロの咀嚼音を耳に入れながら見た。
しばらくすると、大きな皿を右手にティーポットと2つのカップの乗った皿を左手に持ったフルシアンテが帰って来た。
「遅れたな。卵切らしてて取りに行ってた。」
そう言うとフルシアンテはエクサーの目の前の机にスイーツのモリモリ乗ったお皿を置き、その次にエクサーの目の前にティーカップを置き、お茶を注いだ。そして、注ぎ終わるとエクサーと対面する椅子に足を組んで座った。
「えぇ〜、いいなぁ〜私も食べたい〜。」
「お前はその机の上をなんとかしてからにしろ。」
「は〜い。」
ラズロはスイーツに興味津々だったが、フルシアンテに言われ、大人しく目の前の大量の食材を食べた。
「これ全部、作ったの?」
「あぁ。」
「この時間で?」
「もちろん。」
目の前のスイーツの乗った皿を見てエクサーは驚いた。これがまた種類が多かったからだ。
ケーキはもちろん、プリンやミルクレープ、マカロンやパンナコッタ、ゼリーにシュークリームなどなど、見たことのあるスイーツに加え、見たことのないスイーツまで様々なスイーツが置かれていた。数としては100届かないぐらい。しかも、これをこの少しの時間で作り上げて来たのだ。手が器用とかそういう話ではない。それにこれ1つ1つが大変に美味しかった。
「美味しい。」
「そうか?なら、作った甲斐があったってもんだ。」
エクサーはケーキを食べ、ちょうど喉に潤いを欲したところで紅茶を飲んだ。
「ん!」
舌が紅茶に触れた瞬間、口の中に未だ感じたことのない紅茶のフレーバーを感じた。
「何これ?」
「あぁ、俺もよくわからん。キキガノがこの前来た時に置いてったやつだ。」
「キキガノって確か…」
「あぁ、俺たちと同じだ。アイツはA2よりも頻度高めでここに寄る。アイツは放浪者だから、お土産だなんだって言って持ってくるんだ。」
「へぇ〜、よく4人で会うの?」
「どうだったかなぁ、ここ数十年で一回4人で机を囲んだことはあったが…覚えてねぇわ。」
「もう5人って集まんないの?」
「集まんねぇとは思うなぁ。まず、全員が自由すぎる。呼んでも気まぐれでしか集まらん。それにナールガの奴はA2が魔術没収を止めれたのに止めなかったって理由で嫌っているからなぁ。会いたがってねぇことは確かだ。」
「そうなんだ、集まってるところ見たいなぁ。」
「まぁ、俺もいきなり魔術と魔力戻されてはい戦えって言われたら、結構きついものがある。」
「なんで?」
「ブランクってやつだ。」
こんな話をしているとスイーツはどんどんなくなっていった。
そして、食事をし終わったラズロがいつの間にかエクサーの隣の椅子に座ってきて、3人で話をしていた。
「そういえば、そのキキガノさん(?)って強いの?」
ラズロとフルシアンテの2人は眉間に皺を寄せ、顔を見合うと悩んだ様子を浮かべた。
「強いって言うか…アイツそもそも、あの時も戦いたがらなかったからなぁ。」
「ねぇ〜。根本的には私達と変わらないと思うんだけど…好戦的とは言わないしねぇ〜。そもそも、あの時集まったのも、私達を見たいぐらいだと思うし〜。」
「じゃあ、あんまり強くないの?」
「んなわけあるか。スイッチが入れば話は変わる。そのスイッチが異常なほどの重いってだけだ。」
「私、キキガノが一番戦いたくないわぁ〜。」
「俺もだ。」
「え?なんで?」
「よくわかんねぇから。」
「私も〜。」
ラズロは髪の毛を指でクルクル巻き始めた。
「なんか掴みどころがないって言うか、無気力っていうか。」
「嫌な奴じゃないんだけど、やりにくい。」
「へぇ〜。会ってみたいなぁ。」
「何してんだろうな、アイツ。」
「意外と変なところにいたりして。」
「あり得るな。」
「「ハハハハハ!!!」」
フルシアンテとラズロの2人は笑い合った。
ーーーーー
???・???
「何しに来やがった。」
「…散歩ってところかな?」
とある悪魔のいる城に1人の悪魔がそこを訪ねて来た。
「よくこんな場所にいれるね。僕だったらこんな場所にいたくないよ。」
訪れて来た方の悪魔はどこか無気力。片やそれを迎える方の悪魔はどこか威圧感を放っていた。
「じゃあ、来るな。」
「そんな言わないでくれよ、冷たいな。」
「で?何しに来たんだ。つまらん事だったらここで潰す。」
「別にただお話をしに来たんだ。」
「チッ…つまらん。潰すぞ?」
「はぁ、悲しいな。せっかく来たんだよ?この『大魔界』に。」
大魔界・デルフォース城
この2人のいる場所は地獄の海にぽっかりと開いた『大海の大穴』を経由したどり着く、『大魔界』又の名を『大地獄』とも呼ばれる場所だった。
「だから久しぶりの再会だと思ってお話しをしてよ。ナールガ。」
「黙れ、キキガノ。」
この向い合う2人はキキガノとナールガ。キキガノはA2からの情報を聞き入れ、大魔界に足を踏み入れて来たのだ。
だが、その雰囲気は和やかな再会ムードとはいかないようだった。
ーー終ーー