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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 7章 『次なる王』 ー大魔界の異常ー
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 144 学校ではできない経験


 地獄・バステカン城


 地獄は翌朝を迎えていた。

 翌朝と言っても別に太陽があるわけではないので外は暗いまま。時間的な話で朝というわけだ。


 エクサーも目を覚まし、昨日夕食を摂ったリビング的な部屋に行くと、机の上にはすでにパンと準備された材料と調味料が大量に置かれていた。


 「起きたか。」

 「おはよう。フルシアンテ。」


 すると、フルシアンテが食材を持って別の扉からこの部屋に入ってきた。その手には籠いっぱいの野菜を持っていた。


 「すごい量。」

 「畑で採れたての鮮度抜群の野菜だ。美味いぞ。」


 そう言ってフルシアンテは籠に入ったトマトのような野菜をエクサーにポイっと投げた。

 エクサーはこれを食ってみろということだと思い、丸(かじ)りした。


 「うわっ!」


 エクサーは思わず、その瑞々(みづみづ)しさに驚いた。一口(かじ)るだけで、蛇口でも捻ったように溢れ出る果肉。

 それは起きたばかりのエクサーのカラカラの脳みそに直に水を流されたような感覚を与えた。

 フレッシュだった。エクサーが今まで食べたどの野菜よりもフレッシュだった。この野菜1個体で料理として完成しているんじゃないかと思ってしまうほどに。」


 「美味しいですね!」

 「だろ?昔は作っても作っても虫喰いになっちまって大変だったがな。今となっちゃ、コンテストで優勝できるレベルだ。」


 そう言って、フルシアンテはトロフィーの置かれた玉を目で指差した。

 エクサーもそこを見ると、確かに棚にはぎゅうぎゅうのトロフィーが飾ってあった。


 「今はありがたいことに26連覇中だ。」


 そのトロフィーには『地獄一野菜選手権』と書かれていて、地獄で『食彩王』の名を冠するママルという悪魔が毎年主催するコンテストの野菜部門でいつもフルシアンテが圧勝し、賞を総なめしているらしい。

 

 今日の朝食は大量に置かれた食材を自由に組み合わせて作るセルフサンドイッチのようで、エクサーはどの食材を組み合わせようかを目移りしながら考えていた。


 フルシアンテは適当に食材を組み合わせてサンドイッチを作ると颯爽と食べ始めた。


 「お前何飲む?コーヒーか?」

 「う〜ん。」

 「ガキには苦い味はまだ早いか。」


 そう言って軽く鼻で笑うとフルシアンテは手を伸ばして、エクサーにオレンジジュースを注いだ。


 「ありがとう。」


 エクサーは少しムッとした顔で感謝を示した。


 「おい、この後暇か?」

 「あぁ…学校があるんですけど。」

 「なんだ、学校行ってんのか律儀だな。そんないつでも行ける場所に今日は行くな。今日は畑仕事を手伝え。」

 「えっ…でも…」

 「なんだ?学校で畑仕事の授業でもあるのか?」

 「ないです…」

 「じゃあいいだろ、別にサボりじゃねぇ。まぁ、学校に地獄一野菜の野菜を作るやつの授業が聞けるなら話は別だがな。今日は、たまたまそういう日が回ってきたと思って手伝え。」

 「わかった。」

 「なんなら、おまけで学校じゃできないことを付けてやる。」

 「何それ?」

 「内緒だ。とりあえず、飯食ったら、城の裏の納屋に来い。」

 「は〜い。」


 エクサーは今日学校を休んで畑仕事をすることになった。


 ーーーーー


 地獄・バステカン城(畑)


 エクサーが納屋の扉を開けるとそのには農業用具と苗や種が収納されていた。エクサーは少し物色した。


 「おい!」

 「!」


 エクサーはいきなり誰かに呼ばれて驚き、振り返った先にはフルシアンテが服を持ったフルシアンテがいた。


 「あんまり、触るなよ。」


 そう言って、フルシアンテはエクサーに手に持っていた服を投げてきた。


 「着替えろ。そしたら外に来い。」


 フルシアンテは扉の近くに置かれたクワを持って、扉を閉めた。

 エクサーはフルシアンテに渡された服に着替えた。それは少し土臭い匂いのついたオーバーオールだった。


 エクサーが着替えて外に出ると、畑を腕を組んで見つめるフルシアンテの方に歩いて行った。


 「よし!始めるぞ。まずは耕す。経験はあるか?」

 「はい。なんとなく。」

 「じゃあ、ここをとっとと耕すぞ。」


 ということで2人は耕していない超広大な土地を耕すことになった。


 「おい!遅いぞ。」

 「はいぃ〜〜。」


 フルシアンテが耕す速度はとてつもない速度だった。

 エクサーもピアノとフォルテとクリスト城の畑を耕した経験はある。だから、全然問題ないと思っていた。だが、これは話が違う。フルシアンテの耕す速度は慣れたエクサーの十倍程度では収まらない速度。しかも見た感じ、魔法による強化は一切無し。はっきり言って生身でこれは化け物の領域と言っても全く問題ない。


 「あ”あ”ぁぁぁ!!!つ”が”れ”た”!!!!」

 「なんだよ、もうちょっと期待したんだけどなぁ。」


 フルシアンテはそう言って大きな切り株に疲れ切って大の字に寝るエクサーに水筒を手渡した。


 「ありがとう。」

 「まぁ別に意地悪ってわけじゃないんだ。ただ一気に終わらせた方が楽なだけだ。丁寧に早いのが一番だからな。」

 「とても、その域には辿り着けそうにないですね…」

 「だろうな、俺もそんな簡単に辿り着かれても困る。」

 

 疲れ切ったエクサーは水筒の中身を飲んだ。これがまた体に染み渡った。


 「昼にするかぁ。」

 「あれ?いいの?」

 「いいの?あぁラズロか。あいつはいい。起きたらどうせこっちに飛んでくる。心配するな。」


 そう言って、フルシアンテはワープホールに手を突っ込むとピクニックセットを取り出し、広げ、お昼ということになった。


 なんというかフルシアンテといるとエクサーは安心した。それは多分限りなく自然体の余裕を持っていからだろう。なんというかフルシアンテは周りに対する警戒心が薄いのだ。これはいい意味で。


 人間であれ、天使であれ、悪魔であれ、少なからず、他者に対しての警戒心はある。どれだけ仲が良かろうとも、血が繋がっていようとも。さらには争いが起きやすい悪魔であれば、なおのこと警戒はする。だが、フルシアンテには一切無い。それにラズロにも無い。


 2人は五芒星(ペンタグラム)として数えられ、間違いなく悪魔の中では最高峰に位置している。だからこそ、自分に対する脅威は少ない。それにもし、危険が迫ろうとも切り抜けられる自信があったのだろう。だから、警戒をする必要が無いという意味で警戒心が薄いのだろう。


 それは、少し感覚が過敏なエクサーにとっては嬉しいことだった。


 「次は何するの?」

 「あ?もうする事はない。今日は耕すのが目的だったからな。そんな1日に工程をいくつもやったら土にストレスがかかっちまう。それじゃあいい野菜は作れん。」

 「そうなんだ。じゃあ何するの?」

 「決まってんだろ?学校じゃ経験できないことだ。」


 フルシアンテは立ち上がって、少し遠くに歩いて行った。


 「さぁ来い。」


 フルシアンテがエクサーの方を振り返ると、空気が変わった。

 重くのしかかるような重圧。体が重く感じた。体が小刻みに震え始めた。


 エクサーはまさかとは思って聞いてみた。


 「戦うって事ですか?」

 「そうだ。五芒星(ペンタグラム)と呼ばれた1人と戦えるなんて学校に行ってたら経験できなかっただろ?」


 エクサーは固唾を飲んだ。絶対に勝てる気がしなかった。絶対に負ける気しかしなかった。


 「大丈夫だ。魔力も半分、魔術も無い。それに手加減もしてやる。十分だろ?」


 エクサーはそれでも立ち上がって構えた。


 「それでいい。じゃあ見せてもらおうか、A2の見込んだ突然変異の元人間さんの力ってやつを。」


 ーー終ーー


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