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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 7章 『次なる王』 ー大魔界の異常ー
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 143 濁りのない本

 

 地獄・バステカン城


 五芒星(ペンタグラム)と呼ばれたA2達の過去を聞いたエクサーは、その後ラズロに連れられ、城の中を案内されていた。

 城と言ってもエクサーがいつも過ごすクリスト城とは違い古城と言った感じ。

 こちらは古い城をそのまま使っているような無骨さの目立つ城だった。


 その間、フルシアンテはA2の言っていた本を取りに行くと言って城のどこかに行ってしまった。


 「もぉ〜飽きた!や〜〜めた!」


 いきなりラズロがめんどくさくなって案内を放棄。そのまま床にベタッと寝転がってしまった。

 エクサーも「マジかよ」と言った顔付きになった。

 この気分屋な部分は、どこぞやの今、天界にいる悪魔と似た部分があった。


 仕方がないのでエクサーはため息をついてラズロをおんぶすると、記憶を頼りに部屋に戻ることにした。

 

 エクサーはラズロをおんぶしてさらに思ったことがあった。

 すごく『子供』だ。


 絶対にそんなはない。もちろんA2達といた過去があるわけだし、ここ数十年で生まれたと言うわけはあり得ない。

 だが、おんぶして分かる体の軽さ。子供のようにコロコロと変わる気分。子供と言われても遜色の無い体つき。子供以外の何者でもない。

 今だってエクサーにおんぶされて揺れが心地いいのか、鼻ちょうちんを出して肩に涎を垂らして寝ている。

 エクサーは世の中にはいろんな悪魔がいると自分に言い聞かせた。


 ガチャッ…


 「おう!本持ってきたぞ…」


 なんとか元の部屋に戻って来れたエクサー。

 その部屋にはすでにフルシアンテが待っていた。


 まるでもって道の分からなかったエクサーだったが、エクサーが己の感覚に従って進むことで割と普通に辿り着けた。 


 「あの…どうします?」

 「はぁ…その辺のソファに置いとけ。」


 フルシアンテは悠々と寝ているラズロを見て「またか」と言わんばかりの呆れ顔をして、部屋の隅にあるなんとも高級そうなソファに寝かせておけと言った。


 エクサーはそっとソファにラズロを寝かせた。


 「エクサー、これに着替えろ。」


 フルシアンテはエクサーの替えの服をポイっと投げてきた。


 「あ、ありがとう…」


 流石に肩が涎でベトベトの服をそのまま着てろと言うほどフルシアンテも優しく無いわけでは無かった。


 「着替えたらこっちに来い。」


 エクサーは渡されたワイシャツのような服に着替え、フルシアンテの方に向かった。


 「これが頼まれもんだ。」

 「ほぇ〜これが。」


 エクサーは机の上に置かれた本を見て驚いた。

 机の上には今までエクサーの見た本と呼ばれる物の中では最大サイズの本が置かれていた。


 「でっか〜〜。」

 「だろ?なんてったって、制作はあのサタンがやったんだからな。」

 「へぇ〜。」

 「ほら見てみろ。」


 フルシアンテは本の裏面をめくると、隅に小さくサタン直筆と見られるサインがあった。

 フルシアンテはそのサインを指差した。


 「これが厄介だった。」

 「厄介?」

 

 フルシアンテは本を閉じ、椅子に座って足を組んだ。


 「まぁ、座れ。」


 エクサーも椅子に座った。


 「なんで、A2の奴がお前を取りに来させたか分かるか?」

 「う〜ん。全然。」

 「この本はな、つい最近までサタンの魔力で封印されてたんだ。」

 「へぇ〜なんで?」

 「それは知らん。だが、それだけのことをするってことは何か理由があったんだろうな。」

 「でも、今は読めるんでしょ?」

 「あぁ、俺とラズロで封印に使われた魔力を中和して、なんとか読めるような状態にまでした。」

 「そんなことできるんだね。」

 「時間はかかった。何せよサタンの魔力を元とした封印だ。ホイッとできるもんじゃない。前も言ったように、俺もラズロも魔力は元の半分だからな。」

 「で、なんの本なの?」

 「それが分からん。」

 「え?」

 「表紙をめくってみろ。」


 エクサーは本の表紙をめくった。なんと、そこには何も書かれていなかった。それはめくってもめくっても変わらない。どれだけめくっても濁りの無い紙が続くばかりだった。


 「何これ?落書きノートの間違いじゃない?」

 「んな訳あるか。サタンが書いたんだぞ。」

 「でも、こんな自由帳みたいなもの見せられても。」

 「多分、何か仕掛けか何かがあるんだろう。」

 「でも、なんでA2、これが欲しいんだろう?」

 「知らん。あいつがいきなりこれをどこかから持ってきて「封印されてるらしいから、2人でやっといて〜バイバ〜イ」って置いてきやがったからな。」

 「あはははは。」

 「おい、エクサー今日は泊まってけ。」

 「え!いいんですか?」

 「部屋は腐るほどあるし、それに服も洗わなきゃだしな。」

 「じゃあ、せっかくなら。」

 

 別に断る理由も無いエクサーは泊めさせてもらうことにした。


 「よし!じゃあ飯作るの手伝え。俺、今日は畑仕事で腹減ってんでわ。」

 「はい!」


 と言うことで、いきなりの『Frusciante’s Cooking 』が始まった。


 「野菜取ってくれ。」

 「はい。」

 「窓開けてくれ。」

 「はい。」

 「皿出してくれ。」

 「はい。」

 「塩取ってくれ。」

 「はい。」


 まったくエクサーのやることが無い。野菜を切るぐらいのやることはあるかと思ったが、それすらもさせてもらえなかった。ただ、別に悪い気はしていなかった。なぜなら、フルシアンテの手慣れ具合と調理速度が早すぎて足を引っ張ってしまうと思い、こっちから手を出そうとすることは無かった。


 「よしできたぞ。」


 ものの数十分でパーティーでもするのかと思うほどの量の料理をフルシアンテはほぼ1人で作り上げてしまった。

 2人はせっせこ料理を元いた部屋のテーブルに置く。並べ終わって、改めて料理の面々を見ると、品数が多い。本当にこんな量食べられるのかといった具合に。


 「いい匂いがするぞ〜〜〜!!!!」


 料理の匂いを嗅ぎつけ、ラズロは勢いよく上に飛び上がると、そのまま椅子にストンと座った。


 「ラズロ、落ち着いて席につけ。ホコリが飛ぶ。」


 フルシアンテは部屋の隅の棚から酒のボトルとグラスを持って来た。

 グラスに注がれる茶色の液体。多分、ウイスキーに近いお酒なのだろう。それを少しだけ注いだところを見るに、ロックの楽しむ気だった。


 「いっただっきま〜〜す!!」

 「おまっ!」


 ラズロは一目散にご飯を書き込み始めた。


 「はぁ…まぁいい。俺たちも食べるか。」

 「はい!」


 そう言って2人もご飯を食べ出した。


 「うっ!美味しい!!」

 「そうか?嬉しいな。」

 「昔は私よりも下手くそだったのに。」

 「うるせぇ。」

 「いつの間にか立派になって、ママ嬉しいわ(泣)。」

 「ぶっ飛ばすぞ。お前。」


 こんな団欒的な空気に包まれているが、フルシアンテとラズロの口元と手元はかなりの大忙し。絶対に食べきれないと思っていた料理の数々が、掃除機に吸われたようにみるみるとなくなってく。もちろん、エクサーも美味しい料理なのでいつもよりも料理への手数も多い。だが、それよりもフルシアンテとラズロの食べる量とスピードがおかしい。エクサーの〜倍以上の速度で食べていくのだ。もう逆に足りないんじゃないかとも思えてきた。


 「ふぅ…食ったな。」


 と言うことで何も問題なく皿が空になった。

 フルシアンテは食後の一服と言わんばかりにタバコを吸い出し、2人にかからないように少し避けて煙を吐いた。


 「僕、お茶でも淹れてきましょうか?」

 「あぁ、すまんな客人なのに。」

 「いえいえ、泊めてもらう側ですし。」

 「私がやる〜。」


 そう言ってラズロはお茶を淹れに厨房まで突っ走って行った。


 「アイツは…すまんな。」

 「いえいえ。」


 フルシアンテはタバコの灰を灰皿に少し山になる程度落とすと、タバコを置いて、席を立った。そして、綺麗に手入れされたディスクプレーヤーにディスクを置くと、心地の良いジャズが部屋に流れた。

 フルシアンテは流れたジャズに少しテンションが上がったのか、帰り道は湯汲みちぬ比べ、少し足取り軽やかに元の椅子に戻った。


 「あの…」

 「なんだ?」


 エクサーは少し、モジモジしながら聞いた。


 「ナールガってどんな悪魔?」

 「ナールガ?なんで?」

 「この前『マザーシップ』に乗った時、ナールガって悪魔と戦ったんだけど、それで全然歯が立たなくって…後から聞いたらA2と同じ五芒星(ペンタグラム)だって。」

 「アイツに正面から挑んで勝てるか。そりゃあ自殺と一緒だ。別に気にするこたぁない。アイツに勝てないことは別に恥じゃない。」

 「…でも、なんとなく接敵した感じだと、なんかあれで終わらないと言うかなんというか…近々もう一回戦う気がするような…」

 

 フルシアンテはもう一度タバコを吸うと煙を天井に向かって吐いた。


 「『魔強化』って知ってるか?」

 「うん。」

 「アイツはな、あれを一発本番で完璧な状態まで練り上げた。そっからか、アイツは自分の核に触れたせいなんだろう、ただでさえ天井に近かった強さが、天井をぶっ壊しやがった。つまりは『魔強化』を経て、手の届かない場所まで登り詰めたんだ。魔術と魔力の半分を奪われてもなお…」

 「僕も『魔強化』経験しましたよ。」

 「ほぅ、いつ。」

 「1年ちょっと…いや2年経たないぐらい前ですかね。」

 「アレ、お前だったのか。今できるか?」

 「いや…暴走だったんで。」

 「じゃあ意味ねぇな。あぁ言うのは完成の域に近づいて身になる。まぁ、たとえ暴走でも体の基礎的なスペックは上がるっぽいけどな。←(A2情報)」

 「やっぱりあの域には行けないと。」

 「まぁな、見てわかる通りアイツは大魔族って特大のアドバンテージを持ってるからな。それが魔強化で底上げされたら、そりゃあ勝てっこねぇ。」

 「そっか…」


 エクサーには胸騒ぎがあった。これから一悶着起きる予感と、なぜか忘れられないナールガという存在。この2つを結び付ける理由はどこにも無かったが、なぜかそれを結びつけると腑に落ちるような気がした。


 「お待たせぇ。」

 

 ラズロが勢いよくお茶を持ってきた、大量のお茶菓子を添えて。


 「今度は大丈夫だろうな?」

 「もっちろん!」


 そして、ラズロはお茶を注ぎ始めた。先ほどよりもマシにはなったが、それでもなぜか注ぐ位置は高い。ここまでくれば、こだわりでもあるのかと勘繰ってしまう。


 「及第点。」


 ラズロは全員分のお茶を注ぐと席についた。


 「で?何話してたの?」

 「エクサーがナールガと戦ったらしい。」

 「えぇ!かわいそう。よく死ななかったね!」

 

 やっぱり、フルシアンテと同様にラズロもナールガを危険視していた。


 「それで、ナールガともう一度戦う気がするってさ。」

 「う〜ん。嘘であって欲しいね、その気。」

 「2人は今、万全で()り合ったら勝てる?」

 「ワンチャンあるか。」

 「私は無理かな〜。私決定打持ってないし。」


 やはり、魔強化の経験を経て無双に近い強さを手に入れたナールガにはかつて競い合った2人ではキツいものがあるらしい。


 「そんなに心配なら俺が稽古してやろうか?どうせA2のことだ。トリッキーなことばっか叩き込んでるんだろ。」

 「あぁ〜せっかくなら。」


 せっかくのチャンスを一言で却下するのは申し訳ないと思ったエクサーは、試しに稽古をつけてもらうことを決めた。


 「とりあえず、明日な。今日は風呂入って寝るぞ。」

 「は〜い。」


 これにて『第一回バステカン城お泊まり会』開始!


 ーー終ーー


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