141 罰と没収
天界・ミカエル宮
「罰?」
「えぇ、あなた達を殺すことは道理に反するのでしませんが、それに相応する罰を与えます。」
目が隠れているので表情こそわからないが、ミカエルの言葉には振動を感じさせる重厚な重みを孕んでいた。
だが、それでもA2は怖気付くどころかその罰とやらに興味を持ちワクワクしていた。
「ですが、ウリエルがお仲間のもう1人を対処しているところですので、それまでは待つと致しましょう。」
ミカエルはそう告げると、A2達に向けていた右手を下げた。
「おやおや、いいのですか?」
「えぇ…」
と次の瞬間、ミカエルは体の一切を動かすことができなくなった。
「コラ!フルシアンテ、失礼じゃないか。」
「うるせぇ。ミカエル様とやらがどんなもんか知りてぇだけだ。」
フルシアンテはミカエルの強さを知るべく、魔術を使いミカエルの動きを止めた。
「はぁ…別に構わないのですが、いきなりは少し驚くのでやめて欲しいところではありますね。」
ミカエルはフルシアンテの魔術により、一度は動くことができなくなったが、それも体に巻きついた縄を引き千切るイメージで、魔術による拘束を簡単に解いた。
「マジかよ。そんな簡単かよ。」
「えぇ、魔力で押し返して仕舞えば造作も無いですね。」
ミカエルは澄ました顔で服のホコリをパッパと払った。
フルシアンテは冷や汗を流した。あのナールガですら、自力で拘束を解くのに力みと能力の上昇があったのにも関わらず、ミカエルはいとも簡単に解かれた。
フルシアンテはミカエルの前では魔術を持っていないのと同意であると理解した。
「そこのあなた、つい先日もここに来ましたね。」
ミカエルの顔はキキガノの方に向いた。
「はい、そうですが?」
「よくまた、顔を出せましたね。」
「来る予定はなかったんですけど、まぁ皆が行くならと言う理由で。観光ぐらいの気持ちです。結果的に他の4人に比べたら、僕は被害はほとんど与えてないですし。」
「あなたが第二次天魔戦争に現れたことは、相当な被害ではありましたけど。」
「じゃあ、今回被害を出さなかったことで+−ゼロってところですかね?」
「まったく…いい度胸ではありますね。」
ミカエルは少し呆れた顔で、どこかを見た。
ーーーーー
(なんだ、コイツ…追いつけねぇ。)
ウリエルと空中で交戦中のナールガ。
だが、交戦とは言ったものの戦況は全くと言っていい程、芳しくなかった。
『限定解除』により自分でも未体験のステータスに跳ね上がったのにも関わらず、それでもウリエルには届きえなかった。それどころか、ウリエルは時間が経過するにつれて、どんどん動きに鋭さが現れ、強さの距離は離れていくばかりだった。
「そんなんじゃあ、本当に死んじまうぜ!」
ウリエルは双剣を鞘に収めると閃光の如きスピードで、ナールガを撹乱するように屈折と反射のような動きで距離を詰めるとナールガの視界からいきなり消え、上からナールガに踵落としを決めた。
「『天衝』!!!!」
『天衝』
ウリエル考案の技。
空中の敵を勢いよく蹴りで叩き落とす技。
「ぐあっ!」
ナールガは地面に勢いよくバウンドした。
『魔強化』してもこの威力。もし生身で今の攻撃を受けていたらどうなっていたことか。
ここまでウリエルに手も足も出ていない状況にナールガは怒りを増幅させ、それは露骨に顔に現れていた。
「へいへいへ〜い。魔強化ってのはそんなもんか?」
そこにウリエルは煽り口調でナールガの前に姿を見せた。
「うるせぇなぁ…」
「まぁ、こっちの聖晶化は年期違うんでね。」
ウリエルは先程収めた双剣をもう一度抜き出すと、ナールガを勢いよく切り刻み始めた。
「『立花千斬』!!」
細やかにナールガを斬りつけるウリエル。その斬りつけはナールガに逃げ場を与えず、さらには手数に至ってはウリエルが何人かいるのかを錯覚しなければならない程には多かった。
そして、ウリエルは最後に右手の双剣を横に振り、左にクルッと回ってナールガに深手を負わせた。
そのナールガの腹部には大きな傷が現れると、そこから大量の出血をすると、体の黒くなった部分が解け始めた。
これは魔強化の解除を意味した。
「がぁ…」
ナールガは気絶をするようにその場に倒れた。
ーーーーー
「終わったようですね。」
ミカエルはどこかを向いて行った。
A2達はそれが何を示すかに気づいていた。ミカエルの向く方向にはウリエルとナールガの戦闘場所があり、その先に今まであったナールガの魔力が一瞬にして小さくなったのだ。
すると、その先からバサバサを翼を羽ばたかせたウリエルがこちらに向かって飛んできた。そのウリエルはナールガをだらんとぶら下げて持っていた。
「お疲れ様です、ウリエル。」
「いやぁ、もう少し期待したんだがなぁ。」
ウリエルはボリボリと頭を掻いた。
なんというか、ウリエルの言動を見ていると本当に女なのか?と思ってしまう。それほどには男勝りな性格をしていた。
「ほらよ。」
ウリエルは気絶したナールガを優しくA2に投げた。A2はそれをキャッチすると、ナールガを球体の『バリア』のに閉じ込めた。
「では、罰を与えます。審判の時!」
ミカエルの言葉に特殊な結界が張られると5人の体は自由が効かなくなった。
「あなた達への罰は魔力の半分と魔術の没収をします。」
「はぁ?」
A2とナールガを除く3人は大きく驚いた。
「決定事項です。没収は今よりです。」
この瞬間からA2達の体から一気に力が抜ける感覚と共にふわふわとした感覚に陥った。
「あなた達の魔力量であれば半分だったとしても生きるには十分すぎるでしょう。」
「クソッ!本当にやりやがった。」
フルシアンテは動くこともできない中でも、魔力の半分と魔術がなくなったことに気づいた。
「判決は以上。では、地獄にお帰りなさい。」
ミカエルが結界を解くと、A2達の体は自由になった。
次にミカエルは手をパンッと一回叩くと、A2達の下に大きな黒い穴が開いた。そこにA2達は無力に落下していった。
魔術も魔力も奪われた5人はこれに対抗する術がなかった。
ミカエルは落ちていく5人を見下ろし、落下し切ったことを確認すると穴を閉じた。
「いやぁ、こっから大変だぞ〜。」
「えぇ、1秒でも早い復旧に善処しましょう。」
そんな2人の元にラファエルが来た。
「ウリエル、髪の毛が傷んでいます。一旦お風呂に入りましょう。」
「めんどくせっ。」
「では私が無理やり。」
ラファエルはウリエルを無理やり光の輪で拘束すると、ラファエル宮に飛んで行った。
「ふぅ…」
ミカエルは息を吐き、肩の荷をおろした。
ーー終ーー