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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 7章 『次なる王』 ー五芒星の過去ー
144/208

 138 正しさと自我

 

 ーーーーー


 『心臓』

 人体において『脳』と同等で傷つくことを恐れなくてはいけない部位。

 これは悪魔でも天使でも変わらない。形状として人体は究極形態であり、その形が最も安定するために悪魔も天使も人間の形、人体を模倣している。本来悪魔はもっと怪物のような見た目をしていて、天使は実態が曖昧な光のような形をしている。


 魔法という力のを保持する悪魔と天使にとって『腕が切れる』『頭が飛ぶ』『(はらわた)が撒き散る』…などは慣れこそあれど、修復可能な範疇であるためにそれほど脅威とされていない。

 ただ、これも『脳』と『心臓』の場合だと話が変わる。


 この2つは悪魔と天使でも補えない明確な弱点である。このどちらかを損傷した場合、修復には通常時の回復魔法の最低でも10倍程の時間を有する。ただ、戦闘時において通常時の10倍の時間など作れるはずもなく、ほとんど死が決まると言っても過言では無かった。


 ーーーーー


 エクリエルの(はじ)いた雫は吹き飛んでいる途中のナールガの心臓を貫いた。


 ナールガはこの攻撃に反応すらできなかった。それほどにエクリエルの弾いた雫は超越的なスピードをしていたのだった。


 エクリエルはここにさらに追い打ちをかける。背後に数百を超える光の玉を作り出すと、そこから無数の光線をナールガに打ち込んだ。エクリエルはこの苛烈な攻撃をしてもなお、涼しい顔を崩さなかった。


 ナールガの体は粉々になった。黒くなった体の部位が千切れるように周囲に散布した。この状態では心臓はおろか脳までもが吹き飛んでいる。再生は絶望的であった。


 エクリエルは粉々に吹き飛んだナールガを確認すると、攻撃をやめた。と次の瞬間、粉々になったナールガの体は、黒いモヤを放ちながら、再度、(あるじ)を形成し直した。

 勝敗はついた。誰しもがそう思うこの状況でナールガは復活を果たした。


 『常識の逸脱の逸脱』


 魔法というただでさえ常識を逸脱した力を使える者が、数少ない『心臓』と『脳』という数少ないをも克服したのだ。『魔強化』というものがいかに常識で語れないかを体現した瞬間であった。


 「こんなこともできるんだな。すげぇな。」


 ナールガは元に戻った自分の体を見て、今の自分がいかに凄まじい状態であるかを知った。

 そして、ナールガはクラウチングスタートの構えを取ると、一瞬の溜めののちに加速。次はエクリエルが気づけぬ速度で上に蹴り上げると、それに追いつくように飛び上がった。

 フレリエルはナールガが距離を詰めてくると考え、すぐさま下を見るが、ナールガの姿はすでにエクリエルの上をとっていた。ナールガはエクリエルを下に蹴り落とすと、そこに追い打ちをかけるように、作った渦を巻く黒紫のエネルギー玉を一発打ち込んだ。


 エネルギー玉は着弾と同時に、轟音を上げ、紫色のエネルギーの柱を作った。その衝撃波は周囲の建物を跡形もなく吹き飛ばし、隠れていた天使達や見守っていた部下達をも一瞬にして飲み込んだ。


 その様子を上から見下ろすナールガ、その目の前にエクリエルが平然と『ワープ』してきた。


 「心地いいね…なんとなくわかる気がする。」

 「……」

 「仲間が死んだぞ?なんとも思わんのか?」

 「…お前が殺した者たちの思いはお前を殺すことで晴れる。だから今はそれに集中する…」

 「どっちが悪魔かわからん。結局のところ、殺された思いだなんだも自分を正当化するためのもんだろ。まぁいい。俺たちも変わらない。正義も悪も裏表で表現できるものは結局似たもの同士だからな。」

 「…一緒にするな。」

 「ん?」

 「一緒にするな!お前達のように自分のために他を痛ぶる奴らと同じであるはずがない!!」


 エクリエルはここにきて自我を出した。首元と額には血管が浮き出て目は充血していた。


 「同じだ。お前達は天使同士で()り合わないだけで悪魔は殺す。意見が違うから殺す。思想に反するから殺す。分かり合えないと決めつけて殺す。誰を殺すかなんてのは関係ない。1つでも殺すという事実がある以上は被害者ズラする権利もない。俺たち天使と悪魔はなたいして変わんねぇんだ。」

 「変わらないわけがあるか…悪はお前達だ!!ガハッ!!」


 ナールガはエクリエルの腹を蹴り飛ばした。


 「悪も正義も何も差はない。表の裏と裏の表が同じようなのと変わらない。結局は見方の話だ。」


 ナールガはそう吐き捨てると、エクリエルに追いつきさらに蹴り飛ばした。


 「チッ!」


 エクリエルはナールガに向かって光の武器を飛ばす。ただそれも難なくナールガに避けられてしまう。ナールガはエクリエルの顔面を掴むと、後頭部を床で引きずった。


 「どうした?ちょっと話しただけで、力が落ちてるぞ?」


 ナールガは足を地面につけ無理やり止まると、エクリエルを横に投げ、そこに向かって、黒紫のエネルギー玉を打ち込み、またもや周囲を吹き飛ばす壊滅的被害を与えた。


 「くっ…クソ!」


 ナールガは膝をつきながら押されている自分を感じ、怒りで地面を殴る。


 エクリエルにはまたもやダメージと呼べるダメージを与えるに至っていなかった。エクリエルの心はダメージを負っていた。なぜか先ほどのような力が出せない。純粋に一点を見つめることができなかったのだ。


 頭を悩ますエクリエルの前にナールガは煙を掻き分け現れた。


 「さっきよりも力が出せないって感じだな?俺の言葉が効いてるのか?」

 「うるさい!そんなわけがあるか!私たちのやっていることは正しいのだ!悪は正義に滅ぼされて当然なのだ。」


 エクリエルの聖晶化は不完全だった。

 聖晶化による一定の自己統制で元の自我を押さえ込むことで聖晶化の実現には至っていた。だが、それもナールガの言葉に元の自我が戻ってきてしまった。これによりエクリエルの心に濁りが生じ、完全な聖晶化からこの時を堺に遠のいて行ってしまったのだ。


 「ハハッ!笑えるな。お前の信じているもので正義なら、俺の信じてるから正義だな。俺はお前と違って、行いとかしそうじゃなく自分が正義だと思っているがな。」


 ナールガは軽く両手を上げた。


 「さぁ立て。正しい方が勝つ。お前の信じる植え付けられた思想(正義)が正しいか、俺の信じる自分(正義)が正しいか決めよう。勝った方が正義だ。」


 ナールガは少し深い呼吸をした。


 「『限定解除』。」


 そう言うとナールガは勢いよく自身の両拳を何度も衝突させ始めた。

 何度も何度も何度も何度も手を衝突させることにより、周囲には硬い金属同士が衝突したような高い音と鈍い音が響いた。

 この奇行とも言えよう行動にエクリエルは何をしているのか理解することができなかった。


 ーーー『限定解除』の意味

 それは魔術の効果対象の拡張を意味した。

 ナールガの魔術『連打』は魔力を有する物体に攻撃をすることでその回数に応じてバフがかかると言うものである。そのため、魔力を持たない無機物などを攻撃をしても魔術の恩恵を得るには至らない。ただ、これにはもう1つ恩恵を得られない対象が存在する。

 

 それこそが『自分自身』だった。

 自身をいくら攻撃しようともナールガは恩恵を全く受けることができない。

 魔術や魔法は本来、自身の魔力を起源とし、そこに対して他者の魔力が自身の魔力と衝突し反発し合うことで魔術や魔法が成立する。 ーー 絶対名誉魔法研究者・イートディッチ・ダリ 著作 『Appetite for magic』より


 だが、ナールガはその域をアドリブで超えた。

 『魔強化』と言う、未知の魔力と力を得たナールガにはそれができるような気がしたのだ。

 自身の魔術発動効果対象を無理やり自身まで拡張したナールガは、両拳にはち切れるぐらいの魔力を送り込み、それを衝突させた。

 結果、ナールガが手を止めた時には、何者も耐えられないほどの強大なバフを手に入れたのだった。


 「ッハハ!!もう一度言うぞ…立て!摂理に反しようと真理に反しようと勝った方が正義…否定したくば戦え!!」


 ナールガの尋常ならざる威圧感。

 その威圧感は空気をも押し除けた。空気もナールガを嫌厭している気すらした。


 ーーーーー


 「ん!エクリエルの魔力が弱まっている。」

 「でも、ナールガの魔力は上がる一方だぜ?アイツ一体何してんだ?」


 急いでエクリエルとナールガの元に向かうフルシアンテとカイエル。

 しばらくの間、拮抗していたナールガとエクリエルの魔力も、いきなりナールガが抜きに出ているのを距離の離れている2人も感じていた。


 「なぁ、今俺たちが言ったところで何かになるのか?」 

 「何?」

 「怖気付いたわけじゃねぇが、悪いが、今のナールガを誰も止められる気がしねぇ。馬鹿正直に正面からぶつかったらその場でお陀仏だ。それでも行くのか?」

 「…あぁ。それでも仲間が大切だ。」

 「へいへい。じゃあ行きますか。」


 2人はナールガとエクリエルの元へ急いだ。


 ーー終ーー

 

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