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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 7章 『次なる王』 ー五芒星の過去ー
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 137 心地いい


 天界・ミカエル宮

 

 『自分』を自覚したエクリエルは一度眩い光を放ち、周囲を真っ白な世界へと誘った。光は温かみを持ち辺りを包み、雑念、煩悩、悪意を消し去ってしまうほどに優しかった。


 その光が柔く晴れた先に現れたのは結晶の中で胸に手を当て、目を閉じたエクリエルの姿。

 そこに撫でるような優しさの風が辺りに吹いた。


 この空間は尊さを帯びていた。

 生まれたての赤子が母親の温もりに初めて触れたような。二度とないと思っていた再会が目の前に姿を見せたような。最後の迎えの前に大切な誰かに笑顔を残せたような。


 優しく全てが肯定されるような…


 …ピキッ!


 優しく吹く風がエクリエルの眠る結晶に靡いた瞬間、結晶に小さな亀裂が入る。最初は小さな小さな亀裂だったも徐々に伝播していく。そして、全体に満遍なく亀裂が行き渡ると、いきなりエクリエルは瞑っていた目を開けた。

 それと同時にエクリエルを覆う結晶が爆発したかのように粉々になり、天界、地獄に『白き稲妻』が落ちた。


 ーーエクリエル 覚醒


 結晶の中から出てきたエクリエルは先ほどまで来ていた装備物を全て取っ払い、真っ白な布一枚の姿となった。体からは一切の色が抜け、全身が純白に包まれていた。

 エクリエルの見つめる先は斜め上の空を見上げた。その目はどこか虚なようだった。


 エクリエルはただ立っているだけなのにも関わらず、その姿は先ほどとは別人。異常なほどの透明度を誇っていた。


 そんなエクリエルは思い出したかのようにナールガに目線を下ろした。

 この時点では殺意があるわけではなかった。ただ、思い出したから見た程度の気持ちだった。


 その目線の先には目を瞑って上を見るナールガの姿があった。

 こちらもこちらで先ほどまであった荒々しさはどこかに消え去っており、スマートで瞑想でもしているかのような自然体で立ち尽くしていた。


 ドックンッ!…


 すると、いきなりエクリエルの耳に大きな鼓動が体に響いた。だが、これはエクリエルのものではなかった。

 エクリエルの目の前に立ち尽くすナールガのものだった。


 この鼓動で止まった心臓が動き出したような感覚を覚えたナールガは瞑っていた目をゆっくりと優しく開けた。そして、目だけを動かしてエクリエルを見た。


 「ハハ!!」


 エクリエルを見たナールガが小さく短く笑った次の瞬間、エクリエルの背後に『黒き稲妻』が落ちた。ナールガの足元には渦を巻く黒い液体が出現し、ナールガはだんだんとそれに呑まれていくように、沈んでいくように下に落ちていった。

 黒い液体に完全に呑み込まれたナールガ。その数秒後、次第に黒い液体は沸騰したお湯のようにブクブクと泡を立て出した。そして、一気に黒い液体が円柱状に湧き上がると、中から体の大半が黒く染めたナールガが姿を現した。


 ーーナールガ 覚醒


 「あぁ?」


 ナールガは黒くなっている自分の腕を見た。


 「灰色から黒。別に対して変わんねぇなぁ。」


 ナールガはフレリエルの方を見た。


 「よぉ、元気か?」


 フレリエルはこれに優しく返す。


 「元気…心地いい。」

 「なんだそりゃ、まぁいい。お互い…行くとこまで行ったらしい。」


 向かい合う2人には緊張感は無い。ただ異質さはあった。先ほどまで闘志を剥き出しにしていた2人が今では、それをまったく感じさせない。この短時間の急激な変化は誰が見ても不自然さを感じずにはいられなかった。


 すると、いきなりナールガの姿が消えた。かと思えばその姿はフレリエルの目の前に現れてた。ナールガは無邪気な拳を触れリエルに振るった。その拳はフレリエルの顔面を捉えることに成功したかに思えたが、エクリエルが『バリア』を展開し、余裕を持って阻止した。

 だが、ナールガもこれで諦めるわけではなかった。このまま『バリア』を押し切ろうと拳を押し込んだ。魔力同士の鬩ぎ合いに火花が散る。この押し合いの勝敗はなかなか決まらないようにも思えたが、ナールガの拳が勝った。


 『バリア』を拳で貫いたナールガはそのままエクリエルを殴り飛ばそうとしたが、エクリエルはスケートをするようにスルスルと後退した。


 「はぁっ!」


 ナールガは足を一瞬だけ地面につけると、凄まじい瞬発力でエクリエルを追いかけた。

 その姿たるや獣そのもの。エクリエルが美しく余裕を持って動くためにそれがより際立って見えたのだ。


 向かってくるナールガにエクリエルは、ほんの少しだけ眉間に皺寄せた。

 そして、向かってくるナールガの四方に魔力で具現化した武器達を出現させた。武器達はナールガに向かって一直線で刺しにかかる。ナールガは0.1秒に満たない爆発的な加速で乗り切った。


 エクリエルは次々に武器を作り、ナールガの動きを止めようとした。だが、それにも限界はあった。一瞬でも止まった時の中を進むように加速するナールガとの距離は縮む一方だった。


 すると、エクリエルは急停止。胸を大きく広げた。

 この自殺とも思えるような行為にナールガはさらに速度を上げた。


 「『浄化(パージ)』」


 エクリエルは超広範囲の『浄化(パージ)』を使った。


 「うっ!」


 ナールガはこの『浄化(パージ)』に吹き飛ばされた。ダメージは無かった。ただ体の芯に響く重い圧を感じた。


 ナールガは吹き飛び途中のナールガに狙いを定めると胸から輝かしき光の露を作り出すと、それを優しく右手の人差し指でナールガに向かって弾いた。


 金色の羽を纏い散らしながら超高速で向かう雫は、ナールガにその気配を察知させない速度でナールガの心臓を撃ち抜いた。


 ーー終ーー


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