136 白き稲妻
天界・ミカエル宮
フルシアンテvsカイエル
「おもしれぇななぁお前ぇ!!!!!」
「たくさん褒めてもらって嬉しい限り!!」
2人の戦いは、全くと言って良いほどに雑念の無い戦いだった。
『空遊び』を豪快に器用に細やかに振るカイエル。それをギリギリで交わすフルシアンテ。
少し反応が鈍れば一順にして致命傷。この緊張感が堪らなくフルシアンテの快感を駆り立てていた。
だが、これはカイエルも同じだった。
的確に心臓を狙ってくるフルシアンテ。大きいが故に大きな遠心力を生み出す『空遊び』。この両方を常に考えて戦わなくてはならない。こちらも一方に気を取られては致命傷を免れない状況。そのスリルがカイエルに興奮を教えた。
「うるぅぅあぁぁぁぁ!!」
「はぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
両者は獣の争いのように白目を剥きながら向かった。
「「!!!」」
ギリギリのところで2人の背後に『白き稲妻』が落ちた。
2人は一気に距離を取った。
「なんだ…今の?」
「こ…これは…エクリエルの…魔力…」
「何?ナールガのところにいた奴か。」
「一方的ですまないが戦いは一時停戦とさせていただきたい。」
「あ”ぁ?随分と勝手だなぁ。」
「申し訳ない。だが、エクリエル安全が確かで無い以上は仲間としてそれを確認したい。どうかこの通りだ。」
カイエルはフルシアンテの前で深々と頭を下げた。
「はんっ、仲間ねぇ…」
フルシアンテはカイエルの下げた頭を見て鼻で笑った。そして戦闘で上がったボルテージと気配を押さえ込んだ。
「まぁいいにすっか。頭なんて下げてもらったからなぁ。それに、お仲間に意識の向いたお前との戦いは楽しめそうにねぇからなぁ。」
「本当か!感謝する。」
カイエルは停戦の合意を得ると、一度頭を上げ、もう一度頭を下げた。
「ところでよぉ、お前のお仲間さんには何があったんだ?」
「…おそらく『聖晶化』だ。」
「聖晶化?なんだそれ?」
「『白き稲妻』として表現される天使という存在の終極形態。詰まる所、最高到達点と言うべき形態だ。聖晶化によって得る力はそれ以前とでは比較のしようがない程であり、聖晶化には聖晶化でなくては対等にすらなれない。無双の形態だ。」
「つまりは、超強いってことだな。」
「あぁ。聖晶化を体現できる者は歴史においても天使長クラスのレベル。なにしろ天使長と呼ばれる天使たちは皆、常時、聖晶化を維持している。」
「じゃあ、お仲間は天使長クラスだと?」
「いや…それはない。たまたまの可能性もある。言ったように天使長クラスであればそれが維持できるレベルだからな。」
「ほ〜ん。ずりぃなぁ、お前達ばっか先があって。」
「魔族※にもそれに対するものがあったはずだが?」
「知らんなぁ。」
「私も一度しか聴いたことはないが…なんと言ったか…そうだ!『黒き稲妻』『魔強化』と呼ばれるものだ。」
「知らん!」
「『聖晶化』と対をなす魔族の終極形態だ。」
「ほぉぉ〜ん。いいこと聞いたぜ!」
カイエルはフルシアンテに背を向けた。
「すまない、長話をしてしまった。停戦には感謝する。またいつか…だ。」
カイエルが翼を羽ばたかせて飛んで行こうとした時。
「俺も行くぜ。見て見てぇからなぁ。」
「わかった。」
フルシアンテもカイエルと一緒に行くことを告げ、フルシアンテは背中から、カイエルとは正反対の黒い翼を生やした。
「翼を生やす必要はあるのか?」
「…無いな。」
「「!!」」
この瞬間、2人の背後にもう一つの稲妻が落ちた。
『聖晶化』の『白い稲妻』ではなく、真っ黒な『黒き稲妻』。
「まさか!」
カイエルは急いで飛び立った。フルシアンテも後に続く。
カイエルの表情は大変に焦っていた。
「どうした?そんなに焦って。」
カイエルと並行して飛ぶフルシアンテは何故、そんなに焦るのかを聞いた。
「感じただろう?今の黒き稲妻を。あれが先に話した『魔強化』だ。そして方角的に考えるに…」
「ナールガの可能性があるんだな。」
「そうだ。今この瞬間に『白き稲妻』と『黒き稲妻』が衝突する。」
すると、どこからともなく爆音の衝突音が衝撃波を纏って2人の前から向かってきた。
「チッ!」
2人はそのとてつもない衝撃波によって、後ろに戻された。
すると、2人の下からいくつもの悲鳴が聞こえてきた。2人は何事かと下を見ると、天使達のいる地面に地割れや隆起、地震が起こっていた。
この原因はすぐにわかった。
『黒き稲妻』と『白き稲妻』の衝突による影響だった。
この惨劇を確認したカイエルはさらに焦りを覚え、猛スピードで飛んだ。
ーー終ーー
※魔族
悪魔と同じ意味。大魔族は対象外。