13 行方不明のラーバル
ついに始まった決闘。エクサーは火力の高い攻撃にうまく攻撃を合わせるが、怒りに任せたラーバルの攻撃に頭をフル回転。咄嗟に起点を効かせ、バリアにゴムの性質を付与。攻撃を跳ね返すことでエクサーは勝利を勝ち取った。
地獄・トバルカイン魔法学校(医療室)
「はっ!」
ラーバルが目を覚ましたのはベッドの上だった。
ラーバルは少量の汗を流しながら、周囲を見渡す。いくつかのベットが並んでいるが、ここで寝ているのrはラーバルだけだった。
「うっ…」
次の瞬間、ラーバルは頭を押さえた。
そして、エクサーとの決闘。そしてそれに敗北した経緯全てがが頭の中に流れ込んできて、半ば過呼吸になった。
ラーバルが半分狂乱のようになっていると、部屋のドアの音の開く音がすると、レノが入ってきた。レノは頭を抱えているラーバルを見ると、走って向かって来た。
「よかった、よかった。ラーバル。目を覚さないから心配したの。」
レノは涙目になりながらラーバルに抱きついた。ラーバルもレノを見て少し安心した様子だった。
「ここは?」
「ここは学校のベットルームよ。あれからあなたはずっと寝てたの2日ぐらい。」
「負けたんだよな、僕は。」
「え、ええ。」
なにか申し訳なさそうにレノは答えた。
「そうか、そうか。」
数秒の沈黙が続いた。
「なぁ、レノ。水を持って来てくれ。」
「わかったわ。」
ラーバルは無気力な顔をしてレノにそう伝えた。
レノは何かラーバルが考えているとすぐにわかったが、詳しくは聞く事ができず、素直にラーバルの言う通りに水を取りに部屋を出て行った。
ちょうどレノが部屋を出て、扉を閉めた時、部屋の中でガラスが割れる音が聞こえてきた。レノは何事かと心配になり、勢いよく扉を開ける。すると、ラーバルの姿がなくなっていた。
レノはその場で立ちすくんで、部屋を見渡す。そして、ラーバルのベットの近くの窓ガラスが割られている事に気がついた。
「ラーバル…」
ラーバルに失踪。誘拐かはたまた自分で消えたのか、様々考られる事はあったが、今のレノにそれをする余地はどこにもなかった。
ーーーーー
翌日
地獄・トバルカイン魔法学校
「へぇ〜、そうなんだ。」
「そうらしいです。」
午前中、エクサーとクーとドラギナは廊下を歩いていた。3人の関係は大変良好。少し高圧的にも感じられたドラギナにもエクサーはすっかり慣れて、完全な仲良しだった。3人共、3人に謎の親近感のようなものを感じていた。
学校ではエクサーは、いきなり転校してきた奴がいきなり大金星を上げたとある種の有名人になっていた。それを聞いて、何人かがエクサーに決闘を申し込んでくるが、エクサーはそれを少し迷惑に思っていた。そんな時はドラギナが、「その前にオレと戦え」と言ってボコボコにして、話を流してくれた。エクサーは戦わなくて済む。戦闘狂の気質のあるドラギナはとりあえず戦えてラッキーとこの話は思った以上に釣り合いが取れていた。
エクサーの大金星と共に話題になっている事がもう1つ。それはラーバルの失踪だった。
アレからと言うもの先生達が探し回ったり、近所の街にも声をかけてみるが音沙汰はない。誘拐の線も考えられたが、窓ガラスを割ったのはラーバルだとわかると、自ら望んで姿を消したと結論づけられた。
「でも、姿を見た奴もいるんだろ?」
「いるらしいです。まぁでも全部、承認欲求を満たすための嘘らしいです。」
「じゃあ、誰も見てないんだ。」
「そうらしいです。」
エクサーはそれなりに心配していた。
地獄に来ても間もないエクサーでもわかる。地獄は子供が1人で歩くには人間界と違ってリスクが高すぎるのだ。もちろん、人混みであれば問題ないないように思える。でも、見つかっていないという話からしてラーバルがいるとすれば人目につく大通りよりも裏路地だろう。路地裏はA2と一緒に一度入ったが、血生臭く不潔。ホームレスの住んでいる場所だった。そんな場所にラーバル1人は危険だとエクサーは思ったのだ。
そんな話をしている3人の先から、キャーーーーーという喜びの声が舞い上がった。3人は気になって声のする方に行くとその渦中にはトバルカイン校長がいた。
トバルカインはエクサーに気づくと、生徒を掻き分けこちらにゆっくりと向かって来た。
「エクサー、元気そうですね。」
「ありがとうございます。校長先生は今起きたんですか?」
「実は昨日から起きていたんですけど、、、まぁ用事があったので。」
「そうなんですね。」
「才能、素質ともに素晴らしい友達もできたようですね。クー、ドラギナ、仲良くしてくださって嬉しいですよ。」
トバルカインは2人は微笑みかけた。
「ラーバルと決闘をして、勝ったそうですね。」
「なんとか。」
「素晴らしいですね。でも、少し警戒しておいてください。彼の性格上、簡単に負けたと割り切れるようには思えませんし、その当人は行方不明です。心配ですね。」
「わかりました。」
「それでは、私は行きます。また会いましょう。」
トバルカインはゆっくりと歩を進め、それについていくように生徒達も歩いて行った。
ラーバルがいないと言うのにトバルカインは冷静でいつもの調子だった。少し薄情にも見えるが、トバルカインは無駄に心配するのであれば、その必要はないと割り切っているだけで一定の心配はしていた。皆のように必要以上の心配はしないと言うだけだった。
ーーーーー
地獄・クリスト城
学校が終わって帰ってきたエクサーは皆で食卓を囲んでいた。
「やだわぁ、いくら子供とはいえ。」
「まぁ、大丈夫だろ。」
相変わらずの美味しいご飯に、舌鼓を打っているエクサーにA2が話しかけてきた。
「まぁまぁ、一部不安なところはあれど、順調な滑り出し。よかった、よかった。」
「あっ、そうだ。A2、このエメラルドを加工して欲しいんだ。」
「あぁ、わかったわかった。どんな形にする?と言ってもやるのF,Dだけど。」
「私は、ネックレスがいいと思うわ。私も昔そうだったし。」
「邪魔だろ。」
「え〜、可愛いのに。」
「小さめのリングにしようかと。」
「だってF,D。」
「食べ終わったら、指を測る。明日までには作っておく。」
「うん。」
ご飯を食べ終え、指を測ってもらい、エクサーは少し本を読んで寝ることにした。
ーーーーー
朝起きて、身だしなみを整え朝食をみんなで食べていた。
「エクサー、できたぞ。」
F,Dからリングを受け取った。飾ることのないシンプルなリングだった。
「ありがとう。」
「じゃあ、それと私からも。」
A2は虹光を結晶に閉じ込めたような石を渡してきた。
「あら、そんなもの渡して大丈夫?」
「何これ?」
「これはね、”魔石”って言う物だ。魔力がどうしても必要になったら割って使う。わかった?」
”魔石”
虹色の魔力を結晶に閉じ込めた鉱物に近い物質。
魔力を瞬時に回復したい場合などに用いられ、大きさに応じて回復できる量も多くなる。使用方法は割って使うが、大体の悪魔は瞬時に回復したい時に口で割って使用する。その方が回復により時間がかからないとされているからだ。
魔石の使用には注意がいくつか存在する。その中でも重要なものは過多の魔力による魔力回路の破損である。一度に許容以上の魔力を魔力回路に通すと、魔力回路が急激に圧迫させ、耐えきれずに魔力回路が損傷してしまうせいだった。
「なんで、こんなものを渡すの?」
「いつ狙われるかわからないからね。念の為だよ。魔力が足りなくなった時は割って使うんだ。」
「危険だから、基本的に使わないようにね。」
「わかった。」
エクサーは魔石を大事そうに受け取ると、ポケットに慎重にしまった。別に間違えて踏んでしまっても、そう簡単に壊れない硬度をしているので、エクサーがそれほど慎重になる必要もなかったが、A2は面白いのでそのまま何も言わない事にした。
ーーーーー
翌日
地獄・トバルカイン魔法学校
「いやぁ〜、終わった終わった。」
今日もいつものように授業が終わり、3人で帰るところだった。
「エクサー、それ綺麗なリングです〜。」
「でしょ?作ってもらったんだ。」
「オレもそろそろできるぜ。」
「なんの形にしたです?」
「まぁ、来てからのお楽しみだな。」
「あ〜、本返さないとだ。」
「あ〜、私もです。」
「じゃあ、図書館か。」
エクサーとクーの借りていた本の返却期限が今日までだったこともあり、3人は帰る前に図書館に寄って行くことにした。今日の授業は時間にして夕方ぐらいまでの時間まで組まれていた。夕方と言っても、人間界のように夕陽が沈んで、月が顔を覗かせる事もない。地獄は一貫して夜を貫いていた。
大体の授業が終わった学校は生徒の気配が薄く、昼間の生徒の数と賑やかさとのギャップで少し気味悪さを感じてしまう。
「結構怖いです…」
図書館への道はより一層気味が悪かった。いつも薄暗く、おまけに司書の趣味の関係で、不気味な骨董品が廊下に並んでいるので余計不気味だった。エクサーはこ不気味なお着物に美的なものを感じていたが、クーはあんまりと言った感じだった。
「ん?」
エクサーは図書館の前に影があることに気づいた。
「お前も気づいたか。」
「2人もですか?」
どうやら全員が影に気づいていたらしい。3人は声を落としてヒソヒソ声で話すと、ドラギナ、クー、エクサーの順で足音を立てずに抜き足で進んだ。
別に不審者と決まったわけではないのでこんなことする必要もないのだが。3人は雰囲気というものを感じ取ってこの行動をしていたのだ。
すると、影は図書館の扉を開けて静かに中に入って行った。
「誰だろう?」
「わからん。」
「怖いです。」
「でも本返さなきゃだし、サッと返して帰ろう。」
3人は忍足で図書館の扉の前まで行き、扉を開いた。
図書館の中は静寂の一文字、しかし3人の目には全くそうは映っていなかった。
「なんです?この感覚。」
「あぁ、奥からだろうな。」
学校の図書館はアリの巣のような形状をしている。
基本的に階段は下へと続いており、そこから各種に分類された本の部屋に行くというものだった。
「図書館なのに本がないです。」
クーのお言葉通り、図書館の部屋にも関わらず、この部屋には本が一冊もなかった。それどころか本棚すらなく、何もなかったのだ。
「多分司書が別の部屋に本を移した後の部屋なんだろうな。」
ドラギナは冷静に部屋を分析して、腑に落ちる結論を述べた。
「行ってみる?」
エクサーの好奇心という悪い癖が出てしまった。しかし同じようなことを考えていた者がもう一人いた。
「行くしかないだろ。」
ドラギナだった。
「えぇ〜、嫌です〜。」
「じゃあ、ここで待ってるか?」
「行くです〜。」
3人は本を返却ボックスに置くと、好奇心の赴くままに地下への階段を下った。ドラギナは余裕そうな顔をしているが、クーとエクサーは顎をしゃくり、いきなり何がが来てもいいように覚悟を決めていた。
しばらくすると、3人共、同じ部屋の前で足を止めた。
なぜか。ここから妙に漏れ出す魔力があったからだ。
「ドラギナ、開けるです。」
「オレがか?」
「怖いですか?」
「別に。」
ドラギナが扉を開け、電気をつけると、そこには何もない石造の部屋が現れた。しかも、その床には円形の何かが描かれているのが見えた。
「これは…魔法陣です。しかも外の円が消えているので使用後です。」
「だな…」
「これが魔法陣かぁ…」
「初めて見るですか?」
「うん。聞いたことはある。確か、威力とかを上げるために使うんだったよね。」
「そうです。でも今は古典的な魔法陣を使わなくとも、それなりの出力が出せるので使う人は少ないです。」
「そうなんだ。」
3人は魔法陣を通り過ぎるとさらに奥に進んだ。進めば進むほど空気が悪くなっている感じがした。それはもちろん部屋の換気が行き届いていないのもあるだろうが、不吉さのような重い空気感もしていたからだ。
「ドラギナ!」
順調に進んでいると思っていたドラギナだったが、いきなりクーに大きな声で呼び止められると、後ろを振り返った。
「何!?」
「エクサーがいないです!」
最後尾にいたはずのエクサーの姿が無くなっていたのだ。普通に考えてあり得ない。ドラギナ達よりも前に行くことはないし、エクサーの性格上、何も言わずにいなくなると言うのも考えづらかった。では一体どこに消えたのか。2人はその答えに辿り着けそうになかった。
ーーーーー
一方のエクサーは早々に2人がいなくなった事に気がついていた。当然だ。目の前にいた2人が瞬きの瞬間に姿を消せば気づくに決まっているのだ。
エクサーは不安感を露わにしそうになったが、こう言う時こそ落ち着く事が大切だと思い、グッと堪えて、恐る恐る先に進んでいた。
景色は変わらない。ドラギナとクーといた時と同じ雰囲気の部屋をしている。だからこそ、いきなり自分だけが孤立した事に対する恐怖を駆り立てられていた。
ゆっくりと慎重にエクサーは図書館の奥へと進んで行く。エクサーがこの空気感に慣れ始めた頃。次の部屋の扉を開けると、その先に部屋にポツリと佇む人影があった。
「ラーバル!!」
エクサーはそれをラーバルだと一瞬で見抜いた。そして、心配になり急いで駆け寄ろうとすると、エクサーは背後に何か異様な者がいる事に気づく。これ気がついたエクサーの体からは一気に血の気が引くと、エクサーは動きを止めた。
「やっぱり引っかかったな。」
エクサーは聞き覚えのない声がする。
やはり誰かがいるのだ。だが恐怖で上手く後ろを振り返る事ができない。そうしていると、その声の主はエクサーの肩に手を置き、後ろから顔をヌッと覗かせた。
エクサーは刃物を突き立てられている感覚になると、固唾を飲んだ。ラーバルはそんな状況のエクサーの方をゆっくりをと振り返り、無気力に笑った。
ーー終ーー
エクサーの魔力はどうやって増えるのでしょう?A2達に教えてもらったんじゃないの?いえ、A2達に訓練してもらったのは魔力操作や使い方についてです。
じゃあどうやって?前に、エクサーはいきなり悪魔になったので、環境に体がついてきてないと言いました。まさにそうなんですが、あの訓練のうち1日、エクサーは激痛でダウンしていました。その時に魔力が爆発的に増えました。
魔力がジワジワ増えていく分には痛みは伴いません。しかし、爆発的に魔力が増える時は激痛を伴います。イメージとしては成長痛みたいなものです。
ちなみにこれは私が保育園の時、朝起きたら何もできないぐらいの成長痛を食らった経験からです。




