133 ウリエル親衛隊
天界・ウリエル宮
A2は『サタンの右腕』をウリエルの『聖剣結界』から盗み出すべくウリエル宮に姿を現した。ここにいる天使たちは、ガブリエル宮と同様に排除を掲げてA2に向かってくるが、A2がまったく持って手こずる様子はなかった。
すると、A2はウリエル宮の方から3人の天使がこちらに歩いて来ていることに気づいた。その3人のオーラは、遠目で見ても他に比べて異彩を持ち、A2はワクワクを抑えられそうになかった。
そして、3人の天使はA2から5mほど間隔を空けて止まった。
やはりA2の見立ては間違っていなかった。対面した瞬間にヒリつき出す空気は肌に痛みを錯覚させた。
3人の登場に残った天使たちは安堵の表情を浮かべていた。現れるだけで安堵、つまりA2に勝てると安心させる存在など、天使の中でも数は少ない。ここにいる天使はそれができる強者。
A2は話さずとも自己紹介をされなくともわかった。この3人の天使は『ウリエル親衛隊』だった。
「侵入者〜〜、一応自己紹介はさせてもらうぜぇ〜。俺はなぁ〜、ゴーエル。『ウリエル親衛隊・次席』だぁ〜。よろしく。」
A2に早速話しかけてきた男天使の名はゴーエル。坊主で声が低く威圧感の強い『ウリエル親衛隊・次席』の天使。着ている半袖から覗かせた太い腕はゴーエルがパワー型であることを見ただけでわからせた。
「丁重に挨拶していただいて大変喜ばしいですな、私の名はA2。お見知り置きを。」
「よろしくお願いいたします。ところで何しにここに来たのですか?」
優しい声で黒肌に金髪、糸目で薄く笑みを浮かべた天使が話しかけて来た。その天使は豊満な胸元で両手を握っており、とても敵意があるとは思えなかった。
この女天使の名はテンメリエル。『ミカエル親衛隊・主席』の名を冠する天使だった。
「さぁ〜何しに来たでしょうねぇ〜。当ててご覧になっては?」
「わ、わかりました!」
A2の言葉にA2何しに来た理由を馬鹿正直に考え始める天使。太ってはいないがムチムチとした体付きをした容姿をした白のセーラー服を着た女天使はアムエル。『ミカエル親衛隊・三席』の名を冠した天使だった。
「アムエル〜、悪魔の質問をまじまじと考えるなぁ〜。流しときゃ〜いいんだよぉ〜。どぉ〜せ、ここに悪魔が来る理由なんて封印された『サタンの右腕』ぐらいしかねぇからなぁ〜。」
「あっ、そ、そうだね!」
「2人とも、気を占めてください。私たちの使命はこの悪魔の排除です。ですが、やはり一筋縄ではいかないようです。」
「わかってるぜぇ〜テンメリエル。楽しみつつ、徹底排除といくかぁ〜。」
ゴーエルはゆっくりとA2に向かって歩みを進めた。その足音はドスドスという音を鳴らし、本人は意識しているわけではなかったが、威圧感をさらに増す材料の一部となっていた。
一歩一歩とA2に向かうその足は、段階的にどんどんと加速していった。そして、2秒と経たないうちに一気にA2との距離が縮まり、A2の顔面目掛けて拳が振るわれた。
「Wow!!!」
A2は『バリア』を展開して身を守った。その結果、攻撃を防ぐことには成功した。だが、問題はそのあとだった。
ゴーエルの拳とA2の『バリア』が衝突し、一見、拳を止めることに成功したように思えたが、そのすぐ後にA2は勢いよく後ろに向かって数百m吹き飛ばされたのだった。
A2は体を捻ることで体の軸を崩し、加わった力を逃すことで途中で着地をすることに成功した。
(面白いね。損傷は無し。単に距離を取るための策といったところかな?単体で見れば怖くはないが、3人相手じゃ、めんどくさいかなぁ)
A2は白のスーツをパッパと払うと、次はA2の方からゴーエルに突っ込んで行った。その経路ではゴーエルの後ろからアムエルの放った光の矢が降り注いだ。
「おい〜、アムエル。全然当たってねぇぞ〜。」
A2は光の矢の隙間を縫うように進んで行った。
「お〜らよ!」
向かってくるA2に合わせるように少し早めに拳を振ったゴーエル。A2は拳をしゃがんで避け、一気に長い足でゴーエルの顎にサマーソルトを決めた。
A2はサマーソルトの勢いのまま後ろに回転し、すぐさま姿勢を直すと、笑みを浮かべてゴーエルに向かった。
顎を蹴られ、後ろにのけぞるゴーエル。なんとか体勢を立て直し、目に入ったA2は笑みを浮かべてこちらに向かって来ていた。
そして、A2は少し手前でジャンプをすると、上から右手でゴーエルの顔面を触ろうとした。
ゴーエルはA2の右手にを見て、心臓のナイフが突き立てられたような感覚を直感的に感じ取った。全身の汗腺から冷や汗が吹き出した。
すると、ゴーエルに右手が触れる寸前で、A2の右腕に棘の鞭が巻きついた。先が鋭利に尖った棘はA2に右腕を簡単に突き刺し、さらには返しがついているのか簡単には剥がれない仕組みになっていたようだった。
そして、A2は鞭に引っ張られるように振り回され、地面に頭から叩きつけられた。
「あっぶなかったぜ〜。サンキュ〜だ、テンメリエル。」
棘の鞭を操っていたのはテンメリエルだった。
『天器・棘の王女』
テンメリエルの所有天器で、長い鞭の至る所に棘が生えた形状をしており、魔力消費によって長さや伸縮性を自在に変化させられるという性質を持っている。
「気をつけてくださいゴーエル。あの悪魔には単身で乗り込んでくるだけの力がある可能性が高いです。」
「あぁ、わ〜ってる。」
A2は2人のみつめる先でA2は頭から血を吹き出しながらも、笑いながらフラフラと立ち上がった。
「アムエル、後方支援を重点的にお願いします。」
少し遠くにいるアムエルに聞こえる声でテンメリエルは声をかけた。
「わ、わかった!」
「ゴーエル。気をつけましょう。久しぶりに命が無くなるやもしれません。」
「あ〜あぁ。」
本気で防衛の構えをし始めた3人の様子に、A2は嬉しくて嬉しくてたまらない様子だった。
ーー終ーー