132 キキガノの手助け
ナールガvsエクリエル
「まったく…悪魔というのは下等も極まっている。」
エクリエルは攻撃によって自壊を始めるナールガを嘲笑った。エクリエルは胸ポケットから取り出したハンカチで、別に汚れているわけでもない手を拭いた。
「では…ミカエル様に報告を……!」
エクリエルがミカエルへの報告のために自壊するナールガから目を少し逸らした瞬間、ナールガの近くにキキガノが現れた。
「ちっ…残党が来たか。」
エクリエルがマークゼロを構えキキガノを狙ったが、エクリエルに向かって無数のピエロの人形が襲いかかった。
エクリエルはその人形をマークゼロから発射された曲がる光の弾丸で捌いた。人形は到底エクリエルにダメージを与えるほどの強力さは持ち合わせていなかった。だが、何よりも数が多かった。倒しても倒しても雪崩のように向かって来る人形は、エクリエルの視界いっぱいに映り、エクリエルは現れたキキガノの動向を知りたくても知れない状態へと追いやられていた。
「まったく、何やってるんだナールガ。いくら戦いを長く楽しみたいからって油断はダメじゃないか?しっかりしてくれ。」
キキガノは左手の指先で右の手のひらを切り、流れ出た血を自壊しているナールガに数滴垂らした。すると、ナールガの体は再生を始め、元通りの完全な姿へと戻った。
「すまなかったな、キキガノ。」
「はぁ…しっかりして欲しいよ。」
ナールガの感謝をキキガノは快く受け取った。すると、エクリエルに被さった人形が光のエネルギー放出によって、全てが粉々にされた。
「あぁ…まぁ長くは持たないよね。じゃあ、僕はラズロの所に行くから。ほどほどに楽しんでね。」
そう言い残して、キキガノは姿を消した。
「仲間が来るとは運が良かったな。」
「そうだな。」
ナールガは仁王立ちをすると、一気に魔力を大量に放出した。この場の空気が一気にナールガ中心になったのをエクリエルは感じた。ナールガが魔力を大量に放出した事が意味するのは、ナールガの魔術の解禁である。
ナールガは「ふぅ」と息を吐いた。
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フレリエルvsラズロ
フレリエルの足元に切り飛ばされたラズロの頭が転がってきた。
「お姉さん強いなぁ。私油断しちゃった〜。」
体から頭を切り離されてもなお、ラズロは瞬きも話もできる状態だった。フレリエルはそんなラズロの頭に向かってしゃがんで話しかけた。
「あなたは…悪魔であることに後悔していますか?」
「ん?」
ラズロはポカーンとした不思議な表情を浮かべた。
「悪魔というだけで天使たちからは殺意を向けられ、悪魔同士の争いも絶えず、気の置ける場所などない。苦しくはないんですか?」
フレリエルは悪魔というものを憐んでいた。決して差別を含んだものではない。ただ、もし自分が悪魔という存在に生まれ、同じ境遇で生きなくてはいけなくなった時、それに耐えられないと思ったからだった。これは一種の寄り添うという優しさだった。
だが、それでもフレリエルは親衛隊としての使命により、ラズロを粛清対象から外すことはできなかった。
「苦しいだなんて思ったことないわ。あなたたちが種族で仲良くすることに価値を見出すなら、悪魔はね、闘争に価値を見るの。気の置けないとは言うけど、全然そんなことなくてね、最近面白い4人と出会ったの。なんていうかみんな個性があってすごい面白いの!!全然飽きないし!だからね、生きてれば気の置けない場所なんてどこにだってあるのよ。」
「では満足していると…」
「うん!生きて進んでるから!」
ラズロの顔は一点の濁りもない晴々しいほどの笑顔でフレリエルに言葉を返した。
「そう…ですか。」
すると、突如としてフレリエルは何かに後ろから攻撃を受けて吹き飛んだ。いきなりに少し動揺を見せたフレリエルだったが、体を緩く捻り静かに着地をした。
そこにはキキガノとその背後に現れたピエロの風貌の化け物がこちらを見ていた。
その化け物は下半身が無く、キキガノの後ろから生えているようだった。上半身もキキガノの何十倍の大きさはあるが、特に目立つのは上半身に比べて、少し違和感のある大きさの両腕と手だった。
「ラズロ、君ももう少し気をつけて戦ってもらいたいね。」
「ごめんごめん〜。」
キキガノは転がったラズロの頭の前にしゃがんだ。
「なんで回復しないの?」
「できないの!お姉さんに魔力流されたから!!」
「あぁ〜、そっか。じゃあこのままでいいか。」
「言い訳ないでしょ!?」
「じゃあ、ちょっと待ってて。」
キキガノはラズロのおでこに右手をかざし、ラズロの体に流れたフレリエルの魔力の解析を始めた。魔力の解析が終わると、キキガノの魔術でフレリエルの魔力の中和を始め、それが完了するとラズロは再度魔法を使えるようになる。
ラズロの治癒を始めたキキガノを見て、フレリエルは『からくれない三式』を構えて、跳ねるように2人に向かって走った。
「キキガノ〜お姉さん向かって来てるけど〜、早くしないとやられちゃうんですけど〜。」
「君が最初からしっかりしとけば良かったんだよ。」
「過ぎたことはいいの〜、早く〜。」
「間に合うわけないだろ…」
キキガノは一旦解析を中断して、背中を猫背にして伸ばすような姿勢を取ると、少し痛みを伴いながら背中のピエロの化け物を自身の背中から切り離した。
「ちょっと時間稼いでね。頼むよ。」
キキガノはピエロの化け物を頬を優しく撫でると、化け物は頷き、フレリエルに向かって行った。その様子を確認したキキガノは再度解析を再開した。
「ねぇ、あれなんなの?」
「ん?あぁ…僕の魔力の半分で作ったもう一人の僕だよ。」
「へぇ〜そんなことできるんだ。」
「できるかなぁと思ってやったらできた。」
「ねぇ…おでこが熱いんだけど。」
「文句言わないでくれ。」
ピエロの化け物はフレリエルを迎え撃った。フレリエルは器用に攻撃を縫い、化け物を攻撃するが、化け物の実態は無いに等しく、『からくれない』の刃は当たったとしてもすり抜けてしまった。
化け物は反撃として斬られた断面から、無数のトランプカードをフレリエルに飛ばす。かなりのスピードで飛ばされたカードははまるで、『飛ぶ刃』。カードはフレリエルの肌と衣服を浅く傷つけた。
フレリエルは少しだけ後退して体勢を耐え倒すと呼吸を整え、『からくれない』を踊るように振った。
「『大水薙鳥』」
その刃から放たれた魔力を帯びた斬撃は、多様な種類の鳥のエネルギー体へと変化し、化け物へと飛んで行った。
トランプカードはそれに難なく破られ、止まるところを知らない鳥の形のエネルギー体は、ピエロの化け物を切り刻んだ。
「キキガノの半分負けそうだよ?」
「やっぱり、半分じゃダメか。仕方ないかぁ、まぁ半分で親衛隊を持っていけるなら世話ない。」
「終わりそう?」
「はい、終わり。中和も終わらせたからあとはハメを外し過ぎないように。」
「えぇ〜、一緒にやろうよ。私の魔術、人数が多い方がメリット大きいし。」
「ふぅ〜ん。」
キキガノは右手で顎を撫でながら考えた。
確かにここを離れてどこに行くかというのも当てがあるわけではないし、民間に危害を加えるのは情に反する。であれば、ここにいようと考えた。
「わかった。」
「やったね!」
「戻って来な!」
キキガノが少し声を張って声を呼ばすと、ピエロの化け物は吸い込まれるようにキキガノに吸収された。
そして、この場所ではフレリエルとラズロ、キキガノという2vs1の構図ができた。
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天界・ウリエル宮
ガブリエル宮から移動をして来たA2は次にウリエル宮へと姿を移していた。
またここも相変わらず天使たちが襲ってくるのでポンポンと流れ作業のように殺し進めるA2。勝てないとわかっていても指名と命令だけで命を投げ出す天使たちの姿に、A2は「はぁ」というため息を漏らし、勿体無さを感じてしまっていた。
すると、命を投げる天使たちの奥から、何やら経路の違う3人の天使が向かって来ていることに気づいた。そのオーラからなかなかのやり手であることはなんとなく察知できたA2はニコッと笑った。
ウリエル宮から出てくる3人。
その3人は『ウリエル親衛隊』の名を冠することのできる天使たちだった。
ーー終ーー
天使の中には『穏健派』と『過激派』と言うものがいます。何に対してかというともちろん悪魔に対してです。
フレリエルとカイエルは『穏健派』でエクリエルとトロエリエルは『過激派』です。
『穏健派』は天使の中でもかなり少数派で、『過激派』の方が割合は圧倒的に多いです。
『過激派』が『過激派』になる理由は特に何か危害を加えられたということはないです。じゃあ、何が理由かというと周囲から植え付けられた固定概念によるものです。悪魔というだけで決めつけてる節があるということです。
もちろん、これは天使側の視点であり、悪魔視点で見ても同じ事が起こっています。