12 決闘
元人間であることをラーバルという悪魔に知られてしまったエクサー。誰にも言わないことを、エクサーはお願いするが、お互い決闘をして勝ったらということを条件に提示してきた。エクサーはそれを承諾し、昼休み後の決闘にクーとドラギナと東棟屋上に向かうのだった。
地獄・トバルカイン魔法学校
「始め!」
ジャッジマンの掛け声が響いた。とほぼ同時、ラーバルはエクサーに向かって、高火力の火球を跳ばし、煙が巻き上がった。
会場の全員に反応の隙も与えない程のノータイムの一撃。皆の攻撃の反応が起こったのは、エクサーに火球をぶつけてから数秒後だった。
「おおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」
容赦のない一撃に会場は大盛り上がり。しかし、周囲とは裏腹にクーとドラギナは険しい顔をした。
「うぅ〜。やっぱり容赦ないです〜。エクサーは大丈夫ですか〜。」
「さぁな。」
巻き上がった煙がだんだん消え、中から右手に火傷を負ったエクサーが現れた。
「あっつー。」
元気なエクサーの姿に会場は一層盛り上がった。
「よかったです〜。生きてたです〜。」
クーは一旦、安心した。
姿を現したエクサーにラーバルが話しかけてきた。
「相殺だね。」
「うん。咄嗟だったので、ちょっと火傷しちゃったけど。」
エクサーは、ラーバルの火球を同火力の火球でぶつけ、相殺させていた。しかし、予想外の速さの攻撃に反応しきれず、エクサーの近くで相殺させたため火傷を負ってしまった。
「反射神経が良くて助かるよ。鈍ければ楽しくないからね。」
「ギリギリでしたけど。」
エクサーの負った火傷はもう回復していた。
「聞いていい?」
「いいよ。」
「なんで決闘なんてやるんですか?」
「君がお願いをしたから、僕もお願いをしたまでだよ。」
「違う。そう言うことじゃない。」
「?。本人がそう言ってるのにそれ以外のことがあるかい?」
「そうですか。まぁいいや。」
エクサーは一呼吸おき、ラーバルに向かって火球を無作為に跳ばした。
「こんなので当たるとでも?」
エクサーは問いかけに応じず跳ばし続けた。
「これでは魔力切れになってしまうよ?」
エクサーは、急に攻撃をやめた。
「どうした?諦めたかい?」
「いいえ。」
パッチンッとエクサーが指を弾くと、ラーバルの四方が包み込むように燃えた。ラーバルの意識から完全に外の攻撃に、ラーバルは対処しようがなく、直撃だった。
この攻撃に会場は空気が揺れ動くほどの歓声が上がった。
「す、すごいです〜。でもあんな攻撃どうやったでしょうか?」
「あの攻撃だろうな。あの火球の攻撃は一見、無作為な攻撃に見えるが、あえて当てないように跳ばし、その中のいくつかを空中に止め、合図とともに起爆したってところだろう。」
「そ、そんなことができるなんてすごいです。」
クーは尊敬の眼差しを向けた。
「あぁ、高等テクニックだ。あいつ、どうなってんだ?」
元人間だった者が使う攻撃にしては難易度の高い攻撃、ドラギナが何者かを考えることは当然だった。
煙の中が消え始め、姿を現したラーバルの顔は先ほどの余裕があり、どこかスカしている顔とは打って変わって、余裕がなく、怒りに支配されている様子だった。
「大丈夫?」
「大丈夫?だってぇ?何聞いてんだよ、大丈夫に決まってんだろ、こんな人間如きの攻撃。」
ラーバルが怒っていることは明白だった。それもさらに。
「僕はもう悪魔ですけど。」
「黙れ。何が悪魔だよ。低俗な人間が。」
「だから悪魔になったんですよ。」
「うるせぇなぁ、俺は人間が嫌いなんだよ、弱えくせにちょこちょこ生きてるやつがよぉ。」
エクサーはやっぱりかと思った。A2から事前に人間が嫌いな悪魔が一定数いることは聞いていた。ラーバルが決闘を提案した時、どこかに嘘を感じていた。これで決闘の真意がはっきりとした。
(それにしても、いきなり口悪くない?)とエクサーは思った。
ラーバルは頭を掻きむしった後、エクサーを睨みつけ、満ち満ちた殺意のこもった火球をエクサーに向かって跳ばした。
流石に食らったらまずいことを直感したエクサーは、素早く動き回り避けた。
避けて、避けて、避けまくるエクサー。一向に当たる気配が見えず、ラーバルは業をにやし、攻撃を中断すると、ラーバルの影が伸び、エクサーの影に接触するや否やエクサーは動けなくなった。
動けなくなったエクサーに向かって、溜めに溜めた火球をエクサーに跳ばした。
「おっと、やばいな。」
火球は、逃げることができなかったエクサーに直撃。
会場は大盛り上がり、ラーバルも嬉しいようでニヤリと笑った。
しかし、皆の思いとは裏腹にエクサーは攻撃を受けていなかった。その理由は『バリア』を使っていたからだった。
「ク、クソがーーーーーーーーーー!!!」
それを見て、ラーバルは激怒。息が荒くなったラーバルは血眼になり、比べ物にならないほどの火力の火球を作った。
仰け反るほどの態勢から全力で振りかぶり投げた火球は、小さいながらも、圧倒的火力を周囲に感じさせ、多くの人が冷や汗を出してしまうほどの緊張感で空間を、会場を包んだ。
「や、やばい気がするです。エ、エクサー避けるですー!」
冷静にだったドラギナも組んでいた手を少し強く握り、目を大きく見開いた。
迫り来る火炎から逃げるすべのないエクサーは、目を閉じ、深呼吸。
次の瞬間一時的に魔力を放出、拘束が緩んだ隙に火球の軌道から少し左にずれ、足を踏ん張り、両手を前に出し『バリア』を展開。全員がどうなるか固唾を飲んで見守った。
次の瞬間。着弾した火球はバリアと衝突し、拮抗した。会場が声を出さずに驚いた。バリアが徐々にゴムのように伸びていた、火球は『バリア』に吸い込まれるように、バリアは火球を受け止め、力を吸収するように後ろに伸びた。
エクサーは歯が割れてしまうくらい踏ん張った。気を抜けば火球のエネルギーに引っ張られ、ステージの外に出てしまう。なんとかその状況を阻止するべく、踏ん張った。
そして、エクサーは、徐々に火球を跳ね返すように力を込め、ゴムの性質を利用し跳ね返した。
ラーバルの火球の元の威力に加え、エクサーの力と、ゴムの弾性により、スピード、火力ともに跳ね上がった火球に、ラーバルの対応は虚しく直撃。棟が地震を錯覚させるほど揺れた。
揺れが収まり、皆がステージに目をやると、エクサーが立っていた。
「「「「おおおおおおおおおおおおおおお!」」」」
エクサーの勝利に会場は一丸となって盛り上がり。拍手や指笛、雄叫びなど、表現は多様であった。
「すげぇな、お前。」
後ろから聞いたことのある声と思ったら、ドラギナが後ろにいた。
「うお、歯大丈夫か?」
エクサーが歯に意識をやると、歯にヒビが入っていた。おまけに奥歯は完全に粉砕し、血が出ていた。
「まは、まは、はいひょうふはお。」
「とりあえず行くか。」
出口に向かうエクサー。観衆はそれに拍手を送った。
エクサーは去り際に後ろを振り返り、ラーバルの方を見ると、倒れたラーバルに声をかけるレノの姿があった。
「うぁぁぁ、心配したです〜エクサー。よがっだでず〜。」
そういえばクーがいないと思っていたら、ここにいた。クーはふにゃふにゃになって床に座っていた。
「はいひょうふ?」
「腰抜けちゃったです〜。うっわ、口大丈夫です?」
エクサーはクーに向かってグットの手を向けた。
「とりあえず行くか。」
ドラギナは腰の抜けたドラギナをヒョイッと持ち上げ、3人会場を後にした。
ーー終ーー
エクサーの魔力量は以前に比べて跳ね上がってます。それでも、ラーバル、ドラギナよりは少ないです。クーよりもちょっと少ないです。じゃあなぜ勝てたのか。それは、脳の柔軟性と魔力効率だと思います。特に魔力効率が特に優れていて、魔力の運用の無駄が他に比べてほぼないです。A2達にしてもらった実践が効いているんでしょうね。でも私の考えではドラギナと戦えば勝率は3割ぐらいです。