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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 7章 『次なる王』 ー五芒星の過去ー
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 120 五芒星の追憶


 地獄(過去)


 この地獄には元気がなかった。どこもかしこも、どこにも、地獄全体に活気がなかった。

 なぜ、こんなにも地獄に活気がないのか、その理由は第二次天魔戦争が集結して間もなかったからだ。


 戦果として、アセロットが『サタンの頭部』を持ち帰った。サタン信仰会が最も信者が多かったこの時代に、この戦果は、地獄を活気付けた。それでも戦争によって、疲れ果てた悪魔たちの活気では、たかが知れており、悪魔たちは明日を考え俯いていた。


 そんな、中を鼻歌を歌いながら、足取り軽く闊歩する者がいた。

 白髪、赤眼に白スーツ。A2だった。


 A2は、地獄で光るめぼしい一等星を探して徘徊をしていた。

 だが、思った以上に強者と呼べるものなどおらず…A2はただ退屈を極めていた。


 ここで、A2は、3つの考えを思いついた。

 1つ目は、『単身で天界に乗り込む』

 2つ目は、『大魔界に行き、五悪と対峙する』

 3つ目は、『地獄で強者を呼び集める』

 この3つを思いついた。


 だが、1つ目は一番ワクワクを誘ったが、単身という点があまりにも勝算を無くすため却下。

 2つ目は他に比べて、接戦感がないので却下。


 という事で、A2は3つ目を遂行することにした。


 A2は空高く飛び上がり、地獄を上から見下ろすと、口の前に小さな魔法陣を作り出した。


 「あ〜あ〜、チェックチェック。」


 A2の声は、疲弊した地獄全土に響き渡った。発生源わからない声に悪魔たちは周囲を見回し、空を仰ぎ見た。


 「心にも力にも生活にも余裕がなく、おまけに元気すら無い、滑稽な悪魔の皆さぁ〜ん、こんにちは、私の名はA2。以後お見知り置きを。私の心は今、乾いてしまってるのだ。興奮やワクワクと言ったエクスタシーの感じることが今の地獄には少なすぎる。ということで、早い話が私は腕利きの者と戦いたいんだ。だから、明日の13時、自信のある者は、この座標の元に来ていただきたい。待っているよ、退屈させないでくれ。」


 A2は、地獄全土の悪魔たちの脳内に座標を送った。

 いきなりのこの現象に騒々しくなった悪魔たち。9割の悪魔が冗談だと思って話を流す中、数体の悪魔が顔を上げた。


 ーーーーー


 地獄・???(次の日)


 A2は自身が指定した座標にいた。

 

 今、A2のいる場所はどこかの荒野。

 乾燥度は他の荒野に比べてはかなりマイルド。地面に広がる砂の1つ1つは月の光を反射し、柔い金色の光を作り出した。風によってそれらが舞い上がると空中に一瞬黄金の荒野へと変貌を遂げるというなんとも、不思議な荒野だった。


 A2はここで、持ってきた自前の椅子と机を置き、約束の時を待った。

 机の上に置かれたティーカップには、とても甘いミルクティーが入っており、A2はそれを飲みながら、本を読んでいた。


 一見優雅で余裕があるように見えるA2。だが、その心中は到底穏やかではなかった。

 心の中では、煮えたぎるマグマのような興奮が、吐口を見つけようと動き回っていたのだった。


 そんな状態でも時間は約束へと近づく。

 と、A2はこちらに向かってくる数体の魔力を感じ取った。


 いよいよかとニヤッと笑うと、A2は本を椅子の上に優しく置き、椅子と本を『ワープホール』の中に仕舞った。ゆっくりと立ち上がり、スーツのホコリをパッパと払い、ネクタイをキュッと閉める。


 A2の付けた時計の長針がちょうど12を捕え、その瞬間、A2の前には7体の悪魔が姿を現した。そこには若き日のラズロ、ナールガ、フルシアンテの姿があった。

 A2を含めた8体の悪魔はなんの言葉を交わさず、睨み合いを始めた。その空気感は緊張そのものであり、その緊張をさらに押し上げる様に、いきなり風が強く吹き始め、周囲に巻き上がった砂の影響で周囲は黄金世界へと移り変わった。

 

 「まぁまぁ、みなさん。私たちは睨み合いをしに来たのでは無いのですから。まずは自己紹介からでも。」


 集まった悪魔の中で最もガタイがいいであろう男の悪魔が一歩前に出た。

 

 全身余す事なく日焼けをした肌にムキムキでゴツゴツのボディ。目は優しさと余裕を持ち、自分の強さを一番だと思いどこか見下すような目。七三に分けた黒髪短髪をワックスでガチガチに固めた髪型。


 「私の名はモンワイヤー。魔法には自信がないですが、拳には自信があります。なので、強者であるあなたたちをこの拳でぶっ壊しに来ました。よろしく。」


 モンワイヤーは自身の右の拳にチュッっとキスをした。


 「では次はあなたから。」


 モンワイヤはーは隣にいた。白髪の目立つ剣を携えた和装の老人悪魔に話を振った。


 「はんっ。まったく最近の若者は、老人は最後と相場が決まっておることも知らんのか…やれやれ。わしの名はケンラク。おまえさんたちは知らんかもしれんが、『剣豪』じゃ。長年に磨き上げたわしの剣技でお前たちの自信と命を断ちにきた。」


 数本生えた白く弱々しい眉毛。目を瞑っているのかわからない糸目。少し垂れ始めた顔の皮膚。弱々しいといえばそれまでの様子だったが、ケンラクもモンワイヤー同様、余裕を溢れさせ、全員を見下している様子だった。


 「では、次そこの包帯を巻いたの。」


 ケンラクは、隣にいた目以外を包帯で覆った手足の細長い悪魔に話を振った。

 

 「俺の名は…ギャイツ。皆を切り刻みにきた。」


 声が小さい。そのせいで少し弱々しく聞こえた。


 この悪魔の名はギャイツ。闇夜の刺客と呼ばれる腕利きの暗殺者だった。

 目以外を包帯で纏い、シンプルな黒の服に身を包んだ。他よりも比較的手と足の長い悪魔だった。

 

 ギャイツの特筆すべき点は、その魔力の薄さでだった。本来魔力を扱う者は自然と魔力を放出するため、戦闘時はその魔力の気配を追って予測を行うことが鍵である。

 だが、これを極限まで0に近づけることは、ただの練習では到底到達できぬ極地であり、ギャイツをその例外ではなかった。ではどうして可能なのか。それはギャイツの身につけていた包帯によるものだった。


 魔器『超隠密特化装着布』

 暗殺一家であるギャイツが代々受け継いだ布。体に巻くことで溢れ出す魔力を極限まで抑えることが可能になる代物。他にも丈夫であるこの布を引っ掛けることで移動に使えたり、相手を捉えるなど、使い方は幅広い。


 「では、そちらの方々も自己紹介を…」

 「いるか?」

 

 モンワイヤーの言葉に被せるようにフルシアンテは問いた。

 

 「自己紹介って仲良し子よししに来たんじゃねぇんだ。戦いに来てんだ。お前たちを潰しに来てんだ。お前たち全員を殺し来てんだ。俺に殺されるやつの名前なんて覚えても仕方ねぇ。だからよぉ、とっととやろうぜ。」

 「まぁまぁ、落ち着いてくれ。名前なんて覚えなくてもいいが、教えるだけ教えといて損はないだろ?何か契約でもしてるなら話は別だが、どうだい?」


 A2は言葉を返した。


 「そう…だな。」


 フルシアンテは思った以上に聞き分けがよかった。


 「では、私から。私の名はA2。よろしく。」


 A2は演劇スタイルのお辞儀をした。


 「俺の名はフルシアンテ。」

 「私はラズロ。」

 「…ナールガだ。」


 そして最後に。


 「僕はキキガノ…」


 この悪魔が、現代の地獄で『喜劇王』の名を冠し、元五芒星(ペンタグラム)の一員である、キキガノだった。


 キキガノの右目の下には涙のタートゥー。爪には黒いマニキュア。大きく切れ長の目は美しさや透明さを醸し出し、右目は黄色、左目は水色のオッドアイ。水色の少し着崩したスーツを着た悪魔だった。


 「では、これで準備は整ったかな…だが、お前さんたち5人はまるで強そうではないのぉ。これでは手応えもクソもないかも知れぬ。」


 ケンラクの目には、A2、ナールガ、プレズデント、ラズロ、キキガノの5人の溢れ出す魔力はかなり小さく写っていた。

 自然体で体から滲み出る魔力によって、その者の魔力量はある程度検討がつく。戦場を踏んだ数の多いケンラクであれば尚のことだった。

 ギャイツは明らかに不自然な魔力の薄さをしているため、何か仕掛けを使っていることはなんとなく予想がついた。だが、5人は明らかにケンラク自身やモンワイヤーに比べて数段弱そうだったのだ。そんなケンラクは少しがっかりした。


 「まぁまぁ、やってみなくてはね。ではみなさん準備はいいかな?」


 A2は不敵に笑った。

 

 「おい、ちょっと待てよ、A2。ちょっとその前にやらなきゃいけないことがあるんだわ。」


 フルシアンテは一歩前に出た。

 その様子にギャイツとケンラクとモンワイヤーの3人は疑問符を浮かべた。


 「他にも気づいている奴もいるだろ?なぁ?」


 フルシアンテは方向こそ見なかったもののキキガノとナールガに語りかけた。


 「はぁ…」


 キキガノはやれやれジェスチャーをして歩き出すと、一気にモンワイアーまで距離を詰め喉元で手刀を止めた。その目は至って冷たく鋭いものだった。


 「な、何を…」


 モンワイヤーは冷や汗を流した。だが、その言葉にキキガノは何も言葉を返さず、ただただ冷たく鋭くモンワイヤーを見続けた。

 

 「若いのは血の気が多い、羨ましいのぉ。」


 キキガノの行動を見たケンラクは呆れの混じった感嘆を示した。


 「そうか?じゃあ、その願い叶えてやるよ。」

 「!!!」


 ケンラクの背後をフルシアンテが取った。この状況にケンラクは大変に驚いた様子だった。

 多くの命を狩ったケンラクが易々と背後を許したのだ、それも完全に魔力が自身よりも少ないと踏んだフルシアンテに。


 「なんじゃ?どういうつもりじゃ?」


 ケンラクは平然を装ってフルシアンテに話しかけた。


 「気づかねぇか?お前とお前とお前はどうも釣り合ってないんだわ。」


 フルシアンテはケンラク、モンワイヤー、ギャイツを指差し言った。


 「僕も思ってたんだよねぇ。ここに来るのは強者って話だったんだけど、君たち3人はその枠に入るには実力不足って感じなんだよねぇ。だからとっとと始末しなきゃ。僕たち5人が最高の一戦に集中できるようにね。」


 キキガノも同じことを思っていたようだった。


 A2、フルシアンテ、ラズロ、ナールガ、キキガノの5人はお互いに近しい何かを感じていた。偽りのない本当の強者として生まれ落ち、退屈していた生活。そこを潜ってきた5人はお互いを言葉無く共感できた。だからこそ、ケンラク、モンワイヤー、ギャイツの3人は浮いていた。邪魔だった。


 「いいな?A2。ここで殺っても?」

 「別に構わないさ。どちらにせよ私もその気だったのだから。」

 「だってよ爺さん。いいな?」


 一応主催者であるA2からの許可をもらったフルシアンテはケンラクを見下し笑った。


 「だってよ。」

 「好きにするといい…だが、若造。背後を取ったのがお前の最大の一手だったということに気づいておらんようじゃのぉ。」


 ケンラクは腰に携えた刀に手をかけると、徐に鞘から刀身を覗かせた。

 そして、自然な構えを取り、フルシアンテに刀の先端を向ける。


 「ふんっ。」


 その様子を鼻で笑うフルシアンテ。これがケンラクの琴線を刺激した。


 「一刀じゃ。美しく死ねることに感謝しろ、小僧!」


 ケンラクは怒りに任せた素早い一刀でフルシアンテに切り掛かった。

 その太刀筋に一切の迷い、無駄、濁りは無く、まさに剣豪を自称するだけの一刀だった。

 だが、フルシアンテにとってそんなものは関係なかった。


 フルシアンテはケンラクの心臓部を魔法で貫いた。


 いくら、迷いも濁りも無駄も無い俊足の一刀と言えども、それより早く動けるのであれば関係ない。簡単な話がフルシアンテの方がケンラクの何倍も早かったのだ。


 ケンラクはその場に倒れた。だが、そこにはまだ意識はある様子だった。


 「じゃあ、僕も。」


 キキガノもモンワイヤーの喉元で止めていた手刀で喉を貫こうとした。モンワイヤーはこれに抵抗し、自慢の右手をキキガノに振るおうとしたが、キキガノが手刀から放った魔力によって頭ごと消し飛ばされたのだった。


 「!!」


 この惨状を見て身震いしたギャイツはこの場から逃げるために最大限存在感を消して走り出した。

 

 今まで格下と見ていた悪魔たちの下克上のような行為。ギャイツは、本能的に自身がこの場で悪い方で浮いているのだと理解した。


 ギャイツは走った、逃げることだけを一点に考え。生存のための逃走。そのスピードは自分でも未体験のスピードだったが、そんなものを実感するだけの余裕などギャイツにあるわけもなかった。


 「ねぇねぇ、どこ行くの?」


 すると、どこからか女の声がした。ギャイツが走りながら声の方を見ると、ラズロがあぐらをかいてぷかぷか浮きながらギャイツと並走していた。


 「なんで逃げるの?用事でもあるの?それとも…怖気付いたの〜?」


 ラズロの煽りとも取れる疑問にギャイツが振り返ることはなく、よりスピードを早めるだけだった。


 「まぁ、いいや。前気をつけてね、バイバ〜イ。」


 ラズロはスッと姿を消した。ギャイツはこれを確認した前を向き直したその時、目の前には鋭利に尖った絶壁があった。ギャイツは止まろうとした。だが、遅かった上りに上がったスピードがいきなり止まるわけもなく、かといって焦りで魔法を使おうにも使えず、そのまま壁にぶつかり砕け散ってしまった。


 ラズロは4人の元に戻った。


 「では、もういいかな?」

 「おう、邪魔も無くなったしな。」

 「では、本番と行こうか。」


 ーー終ーー



 五芒星の5人は紛れもない強者です。

 もちろん、ケンラクやモンワイヤー、ギャイツも強いですが、それは普通の悪魔と比べて強いという話で、5人は強者と比べても強者という真の強者の立ち位置です。詰まるところ、天才という奴です。

 そんなのと比べれば、3人は子供以下にしか見えていません。


 5人はなんとなく会った瞬間から、共感していました。特に理由があるわけではなかったのですが。運命的なシンパシーだったようです。

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