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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 6章 『宣戦のエクソシスト』
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 116 放棄という逃げ

 

 地獄・サンタモル孤児院(礼拝室)


 「眠れ、悪魔よ!!!!」


 数秒の睨み合いののち神父はペンダントを縛り付けた右手でA2に殴りかかた。

 もちろんA2は『バリア』を展開した。


 普通の人間の攻撃が悪魔に通用するなど絶対にあり得ないことだった。

 だが、A2に展開した『バリア』と火花を散らすと『バリア』を撃ち抜いたのだ。


 「!」


 A2は流石に割れることを想定しておらず、止まらない拳を見て体を捻ってギリギリで交わした。


 「それが…」


 A2は神父の右手に縛り付けられたペンダントを見てニヤリと笑った。

 それがA2の求めていた物だった。


 逃げるA2に神父は即座に追いつき、連打を始めた。


 「年齢にしてはいい動きだね。」

 

 A2は避けながら神父を称賛した。それぐらいの余裕はあった。


 A2が称賛するぐらい神父に身体能力は高く、60歳を超えたシニア体とは思えない体力と機動力とスピード。A2はこれほどの人間いるのかと感心した。


 一方的に仕留めにかかる神父と別に戦いたいわけではないA2。A2は少し遠くにワープした。 


 「!?」


 服を丁寧にサッサッと払うと、笑みを浮かべ神父を見た。


 「それが、ミカエルのペンダントかい?」

 「知っているのか?」

 「まぁね。私はそれを見るために今日来たのだから。」

 「…?これをか?」

 「ミカエルが天使と悪魔の許可ないしの立ち入りを禁止した理由の一つ。ミカエルが自身の力の50%をまとめて作った魔石のペンダント。さっき私の『バリア』と火花が散らし、割ったのが他でもない理由。魔力と魔力がぶつかった結果の摩擦火花。本物のミカエルのペンダント。やはりあなたが持っていたか。」

 「奪いに来たのか?」

 「おや、見に来た。ここで派手に殺り合ってもミカエルに怒られるだけだしね。」

 「ミカエル様を知っているのか?」 

 「まぁね。私はあなたが対峙してきた悪魔たちとは違って、偉いし、強いんだ。それぐらいの権利がある。」


 神父はさらに強く拳を握った。


 「まぁいい。ここでお前を祓う。愛を持って。」

 

 神父はエクサーを仕留める気満々だった。


 「じゃあね!私は帰るよ。長いこと入れるわけではなかったんだ!」

 

 A2は手を振って神父に別れを告げると消えてしまった。


 ーーーーー


 地獄・サンタモル孤児院


 「ねぇ…エクサー…何か言ってよ…」


 ティニーは否定して欲しかった。

 自分は悪魔でもないし、地獄にも行っていない。ただ、同じ世界の少し離れたところで過ごしているんだよ。

 …人間なんだ。

 そう言って欲しかった。


 だが、今目の前にいる『信頼を置いた』『共に過ごした』『共感を覚えた』そして、『初めて好意を覚えた』少年は、そのどれもを否定しなかった。


 「ねぇ…エクサー。否定しないと…神父様に殺されちゃうんだよ…だから…だから……違うって言ってよ。」


 エクサーは、泣きながら否定を乞うティニーに毅然として情をかけることはしなかった。

 

 エクサーも何も考えていないわけではなかった。

 ここで違うと嘘をつく、本当のことを打ち明ける。

 前者は自身に傷がつき、後者はティニーを傷つけることになる。

 だから、エクサーは中間択『沈黙』を選んだ


 「女の子を泣かせるものではないよ、エクサー。」


 そこに礼拝室からワープしてきたA2が現れた。


 「おやおや、珍しく真剣な顔だ。」


 A2は珍しくエクサーが真剣な面持ちをしていることに気づくと、エクサーの顔を覗き込んだ。


 「A2…」

 「ん?」

 「帰ろう。」

 「構わないが、もういいのかい?」

 「うん…」

 「では帰ろう。」


 エクサーは『帰る』という選択を取った。いや、この場であれば『逃げる』という言葉が適当だった。否定を願うティニーへの説明を放棄し逃げる。これがエクサーの選択だった。


 「エクサー…行かないで……あなたはここにいいて……お願い…お願いだから!…」


 エクサーはティニーの必死の制止を振り切って立ち上がった。


 「いいのかい?」

 「うん…帰ろう。」

 「悪魔らしく、冷酷になったね。」

 「!」


 エクサーはA2の言葉にハッとさせられた。

 昔であれば逃げるという選択を取ることはなかった。そもそも机上に上がることもなかったであろう。だが、一番傷つける選択を選んだ。それは地獄に蔓延る非情を知ったからか。

 

 エクサーはそうとわかっていても、行動を変えることしかなかった。

 子供の未成熟な思考判断による意地だった。


 この時、ハンナシスターが孤児院から出てきた。

 姿の見当たらないティニーを探すために。


 シスターは出てきてすぐ、巨木の下にいるティニーと少年と男を目に入れた。


 なんとなく違和感を感じつつも巨木に近づくシスター。

 シスターは近づくほど、そこにいる少年が誰なのかがわかってきた。

 

 帰ってきた。エクサーが帰ってきたのだ確信した。

 そう思えば、歩くなどという時間のかかる行動はできなかった。

 

 だが、喜びの感情は一瞬にして恐怖の感情に移り変わった。

 それはA2がシスターに顔を向けたからだった。


 シスターはいきなり足を止めると、いきなりその場に膝から崩れ落ちた。


 それは、目の前にいる男が悪魔であると気づいたからだった。

 ギムレット神父に連れられて、悪魔祓いを手伝い、数件の悪魔を見たことがあった。

 その経験がA2が悪魔であると一瞬で見抜いた。

 それも今まで祓ってきた悪魔よりも格段に強力な悪魔であることも。


 崩れたシスターの肩に誰かが手を置いた。

 それは礼拝室から来たギムレット神父だった。


 「あれは、悪魔だ。エクサーはやはり悪魔になったのだ。」

 「はい…神父様。これ以上は…」

 

 A2は神父が来たことを確認した。


 「帰るよ、エクサー。オーディエンスが増えてきた。」

 「うん…」


  A2は空に来る時にきた禍々しい魔法陣を表すと、A2とエクサーは上に吸い込まれそうになっていった。


 「いや…いや…」


 ティニーはエクサーの袖を掴んだ。

 それはあなたがどこかに行くのなら私も行くという強い意思表示だった。


 「マズい!」


 ティニーのその様子を見た神父は急いでティニーに向かって走った。

 そして飛びかかるようにティニーの手からエクサーを離した。


 「ティニーダメだ!!彼について行っては!!」

 「離して…!離して!離して!!」

 「落ち着いてくれ!ダメだ!」


 エクサーとA2の2人はそんな様子を見下ろした。

 エクサーの目にはその様子が白黒に映って見えた。


 そして、いよいよ吸い込まれ、姿を消した瞬間、ティニーはエクサーの方を見て泣きながら笑った。


 「またね、エクサー…」

 

 エクサーには届かない言葉は程よく靡く風に流れ消えていった。


 ーーーーー


 地獄・???


 「どうだった?里帰りは?」

 「うん…うん。まぁまぁだったかな。」


 エクサーは心にモヤモヤが残っていた。

 まさか、ティニーをが泣くとは思っていなかった。

 悪魔になったことがティニーを泣かせるほどのことだとは思っていなかったのだ。

 こんなことなら、悪魔にならなければよかったという言葉が頭を駆け巡り始めた。

 

 そんなエクサーの様子を見たA2はエクサーの頭を撫でた。


 「悩むといいさ、エクサー。年頃の男の子にはそれが必要だ。だが、悩みに振り回され続けてはいけないよ。多分、彼女を泣かしてしまうぐらいなら悪魔にならなければよかったと思うかもしれないが、それを悩むのは愚だ。」


 A2はエクサーの髪の毛を一通り掻き乱すと、少し先に進みエクサーの方を振り返った。


 「もうなってしまったことを悩む。これを人間はより顕著に悩む傾向にある。どうしようもないのに。魔法を使える悪魔、天使であっても過去をやり直すことというのはできないのだ。それを魔法も使えない人間が悩む。ハハハ!無意味にもほどがある。だが、完全に排除してはいけない、人格形成にも大きく関わってくるから。大事なことは選んだ先で見つけた手札でやりくりすることだ。悪魔になったという手札をうまく使うのだ。それで泣く者もいれば笑う者もいるということだ。」


 エクサーはなんとなく、心が軽くなったような気がした。

 悩んでもどうしようもないことに悩んでいたのだ。自分は自分と割り切るとエクサーは心に決めた。


 ーー終ーー



 本当に割り切れたんでしょうかね?

 まぁ、エクサーくんは完全に悪魔ではないので、難しいと思うなぁ。

 なんかの拍子に…

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