115 来客
地獄・サンタモル孤児院
「エクサー…エクサー…」
涙を浮かべて抱きつくティニー。エクサーはどうすればいいかわからなかったがとりあえず抱きつき返しに行くことにした。
すると、ティニーはいきなり顔を上げると怒った顔でエクサーの方を見た。
「一体!どこに!行ってたの!!」
「いやぁ…まぁ。家に…」
「あなたの家はここだったでしょ?」
「あぁ…まぁ。」
エクサーはまぁまぁ普通に説教されていることに気づき、目を合わせられなかった。
「でも、よかった。帰ってきてくれて。」
再びティニーは泣き始めた。
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2人は孤児院に生えた巨木の下に座っていた。
特に会話をすることもなく、ただ2人でいるということだけで満足していた。
だが、それは次第に気まずさを醸し出し始めた。2人は最近の話とかをしたかったが、静かすぎてなかなか話し出す隙を見つけることができていなかった。
「ねぇ、」
この空気を打ち破って話しかけてきたのはティニーだった。
「エクサー。神父様に聞いたの…」
「ん?…何を?」
「エクサーは悪魔に連れて行かれたって、だから生きているかわからないし、いるなら地獄だって。」
「…」
「でも、私は神父様の冗談だと思っている。私に本当のことを言わないためについた嘘だと思ってる。ねぇ、そうでしょ?エクサー。」
エクサーはこの問いに真面目な顔をして正面を見ていた。
「…ねぇ。エクサー嘘よね?」
エクサーは一切、顔の形を変えなかった。
ティニーの顔からは涙が浮かび始めた。
「嘘…嘘…嘘って言ってよ…」
ティニーは嘘と言って否定してこないエクサーの様子から、本当のことと自覚したい気持ちと自覚したくない気持ちがぶつかり、涙がどんどん溢れてきた。
それでもエクサーは真剣な顔をしてティニーの方を一切見ることはなかった。
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人間界・サンタモル孤児院(神父室)
A2はエクサーの近くから姿を消すと、神父室に姿を現した。
鼻歌を使いながら部屋の中を物色するA2。だが、特に荒らすわけでも触るわけでもなく『サーチ』を使って何かを調べている様子だった。
「無いか…」
A2のお目当ての物はこの部屋にはないようだった。
そしてまた部屋から姿を消した。
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人間界・サンタモル孤児院(礼拝室)
A2は礼拝室に姿を現した。
A2はクルッと一回転すると、部屋の空気を吸い込んだ。
「ホコリ臭いな。」
いきなり侵入してきて不満を漏らすA2。なかなかに無礼だった。
A2はミカエル像の前まで進むと数秒間ミカエル像を見つめた。
「ミカエルねぇ。こりゃ別人だね。」
またもや不満を垂れるA2。大変に無礼。
そこに、年配と若い2人のシスターが礼拝室に入ってきた。
「だ、誰ですか?あなた。」
「し、侵入者ですか?」
2人は警戒心をむき出しに、A2を睨んだ。
「ん?あぁ、迷ってしまったらここに辿り着いたんだ。神父はいらっしゃるかな?会う約束をしていてね。」
「そ、そうでしたか。少しお待ちください。私が行ってきます。あなたはお客人と一緒に。わかりました。」
年配のシスターはギムレット神父を呼びに出て行ってしまった。
悪魔であるA2だったが、容姿は基本的にはツノが生えているや尻尾が生えているなどの特異なものではなかったので、シスターも少し変わった人ぐらいの感覚でA2に話しかけてきた。
「今日はどこから来たんですか?」
「どこから、う〜〜ん。少し遠いところかな。」
「えぇ〜教えてくださいよ〜。」
「ハハハ!個人情報個人情報。」
「お名前は?」
「A2。」
「A2?名前ですか?」
「名前。う〜〜ん。あだ名みたいなものだ。」
「そうなんですね。」
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「神父様。礼拝室にお客様が見えていらっしゃいますよ。」
「お客?その予定はないが…」
「本当ですか?ですがお客様がいらっしゃいますので、こちらに来てください。」
「分かった。」
ギムレット神父は神父界でもかなりの古株。偉い立場にあった。そんな神父に身に覚えのない来客。
さらにこれを聞いてから始まった胸騒ぎ。
神父は嫌な予感を胸に礼拝室に向かって行った。
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人間界・サンタモル孤児院(礼拝室)
「へぇ、そうなんですね。お仕事は?」
「えぇっと、お仕事…お、お掃除屋かな?」
若いシスターの好奇心爆発質問連打に流石にかったるくなってきたA2。
その時、部屋の扉を開け、先ほど来た年配のシスターとギムレット神父がこちらに来た。
「神父。この方です。」
ギムレット神父はA2の姿を見て固まった。
嫌な予感が的中した。
悪魔という存在を実際に見たことがないシスター2人はA2に対して全く違和感などを感じてはいなかったが、悪魔を見たことのあるギムレット神父にはA2が悪魔であると一発で理解した。
「2人とも部屋から出て行ってください。」
「え?」
「いいから出て行ってください!」
珍しく大きな声を出したギムレット神父に少し驚き、颯爽と2人は部屋から出て行った。
「優しいことだ。」
「何しに来た悪魔。」
「何しに?…当ててごらん。」
神父は上着を脱いだ。
「お主らが来る時はいつも害を振り撒く。」
「今回は違うかもよ。」
神父は服の間からペンダントを出すと、それを外し右手に縛り付け、硬く拳を握った。
「私はその気はないがね。」
「眠れ、悪魔!!!!」
神父は言葉少なく悪魔であるA2を祓いにかかった。
ーー終ーー