11 決闘の約束
地獄・トバルカイン魔法学校
翌日、エクサーは学校生活2日目を迎えていた。
朝、登校してきて偶然、クーとドラギナの2人に会い、1限が終わり次第、3人共、次の授業が空いていると言う事で2人に学校を案内してもらう約束をしていた。
まだ緊張は抜けきっていないが、クーとドラギナと会うことがかなり楽しみだった。そんな考えが表にできているのか、エクサーが中庭に向かう足取りは軽やかだった。
地獄・トバルカイン魔法学校(中庭)
中庭はみんなの溜まり場になっていて、大賑わい。基本的にみんなお喋りをしているが、中には読書をしたり、軽い運動に励んでいる者も少なくはなかった。
悪魔でごった返す中庭に着いたエクサーはざっと周囲を見渡してみるが、ドラギナもクーも見つける事はできなかった。生徒の数も相当な数だ。当然と言えば当然だった。とりあえず、エクサーは中庭の一番の目印である噴水の縁に寄りかかって待つ事にした。
「いっくぞーーーーー!」
掛け声と同時に誰かが夜空に花火を打ち上げ、それを見て皆が拍手をしていた。
それを見ても誰も注意はしない。孤児院で花火を上げようものなら一発で怒られる。でも、この学校にはそれがない。とても自由度が高いのだ。
「隣、失礼するよ。」
エクサーが花火を見ていると隣にエクサーと年齢的にも大差なく見える2人組が立った。しかもこの2人組は昨日、エクサーの帰り道を後ろから見ていいた2人だった。だが、エクサーにはそんな事を知る由も無かった。
噴水の周りにはまだ空きがある。なんでわざわざ隣にと思ったエクサーだったが、ここでそんな事を言って揉め事でも起こせば、良い学校生活の滑り出しとはほど遠くなってしまう。エクサーは軽く「どうぞ。」と言うと、なるべく涼しい顔をして、中庭で遊ぶ悪魔達を目で追った。
「僕の名前はラーバル。」
すると、いきなりカップルの男の方の悪魔が自己紹介と共に握手を申し出て来た。エクサーはいきなりの事に少し驚いた顔をしたが、せっかくの挨拶を断る筋もない。エクサーは手を握り返した。
「僕はエクサー。よろしく。」
ラーバルはエクサーが握手に応じ、手を握ってくると何かを含んだような笑みを浮かべた。
「聞いたよ…君、人間だったんだって?」
「!」
エクサーはまさかの不意打ちに思わず驚いて、ラーバルの手を急いで話してしまった。
「その様子じゃ、本当なのか。」
「どこから情報を?」
エクサーが人間だったことは、ドラギナとクーの3人の秘密だった。つまり、2人のどちらかがバラしたことになる。初日にできた友達を疑いたくはないが、早速どちらかを疑わなくてはいけなくなり、エクサーは内心、どこかで悲しさを感じていた。
「昨日、あんなに大きな声で廊下で喋っていて、他に聞かれていないとでも?」
「…あっ!」
ラーバルから情報の出所を聞くと、エクサーは思い出したかのように納得した。昨日、廊下で人通りも多いところで結構な声量で言っていたのだ。悪いのはドラギナでもエクサーでもなく”自分”だったのだ。
エクサーは額に手を当てて、やってしまったと態度で表した。
「あのぉ〜、他には黙っててもらえません?」
エクサーはとりあえず、その事をこれ以上、広めないために黙っていてくれと頼む。
「嫌だね。なぁ、レノ〜。」
「うん…」
まぁ当然のように返事はNOだった。そもそも、ここですんなり了承するなら、そもそもエクサーに話しかけて来る事はしないはずなのだ。
エクサーはラーバルを見ると、視線が自然とラーバルの隣の女の悪魔に目が行った。
「コイツはレノ。僕の彼女だ。」
ラーバルはエクサーの視線の先に気がつくと、何やら自慢げな顔で彼女を紹介し始めた。
「ちょっと〜、コイツって言わないで。」
「ごめんごめん。」
ラーバルとレノは見れば一発でわかるバカップル度合いをしていた。
エクサーはこの2人を見て、胃もたれする感覚に陥った。それほどに2人はアツアツな関係だった。
「おっと、話を戻そう。もし、君が言わないでほしいと言うのなら、僕と決闘をしてもらおうか?」
「決闘?」
「勝者が、一方的に敗者に要求を押し付ける。いいだろ?」
エクサーは自信がなかった。
いきなり決闘と言われても、魔法なんてA2やピアノ、フォルテ相手にしかまだ使った経験がない。しかも、3人には一発も当たっていないと来た。
ラーバルを見ると、負ける気はさらさら無いと言った自信に満ち満ちた表情をしている。普通にエクサーには自信がなかった。
「どうする?」
ニヤニヤして2人はこちらを見ていた。
エクサーはコレに少しだけイラッとした。一応、エクサーにも蔑まれれば怒りが湧き上がってくるプライドぐらいは持ち合わせていたのだ。
「わかった。やるよ。」
エクサーは少し眉間にシワが寄った状態で、ラーバルの決闘を承諾した。
「では、明日の昼休み、東棟屋上で待つよ。せいぜい努力することだね。」
ラーバルとレノの2人は捨て台詞を吐いて、レノと一緒にこの場を去っていった。それと入れ替わるようにクーとドラギナが来た。
「エクサー、どうしたです?」
「いやぁ、明日の昼休みの後、決闘することになったんだ。」
「えぇ〜〜〜!誰とです?誰とですか?」
「ラーバルって奴。」
「あぁ、あいつか。」
「知ってるの?」
「初心者狩りで有名なんだ。」
「嫌な奴ってことだね。」
「学校では結構有名です。」
「実際、奴の階級はエメラルド上位。オレ階級上はたちよりは上ってことだ。まぁ…アイツ1つ歳上だしな。」
入学したばかりの3人の階級はエメラルド下位。階級1つとはいえ、その1つの階級差にどれだけの差があるか未知数なエクサーにとっては強敵に感じられた。
「とりあえず、授業に行こう。」
空き時間に決闘について考えるとして、しっかりと授業を受けることにした。
ーーーーー
翌日
地獄・トバルカイン魔法学校
「エクサー、腹括ったですか?」
「う、う〜ん。まぁ…」
東棟屋上の人気のない建物の物陰にエクサーとクーとドラギナの3人が集まっていた。
一応、”エクサーがんばれ会”としてクーが主催したが、特に何かあるわけでもない。クーがチョコを。ドラギナがクッキーをくれたぐらいだ。しかも2人共、エクサーには一欠片ぐらいしかくれず、後は自分で食べてしまう始末だった。
「心配です〜。まだエクサーは学校2日目ですよ。負けちゃうです〜。」
「まだ負けるとは決まってないし、相手のことも知らないわけだから。」
「オレがやってやろうか?」
「いや、僕の話だ。僕がやる。」
「あぁ〜、心配です〜。」
クーはエクサーを心配してくれていた。だが、一方のドラギナは自分が戦いたい欲が見え見えでエクサーに心配のしの字もしていなかった。
「じゃあ、行くかエクサー。」
「うん。」
3人は物陰から出るとラーバルトの戦いの場所まで歩いて行った。
エクサーの足取りは緊張しているせいで少し鈍っているようだった。
「さぁ着いたです!」
エクサー達3人がたどり着いた場所は、屋上に設置されたステージとそれを囲う観客席だった。観客席には悪魔達がほとんどの席を埋めて、観覧している。ここに近づけば近ずく程、賑やかな声が大きくなっていたので、観客がいる事は薄々予想はできたが、まさかコレほどの数がいるとはエクサーも思っても見なかった。
エクサーが観客の数に口を開けて驚いていると、観客達の目線は一気にエクサーに集中する。そして、大きな歓声で迎えられた。
「うるせぇなぁ…」
ドラギナは歓声に苛立ちを見せていた。確かにうるさい事はうるさいのだ。
「おい、あれ、ドラギナだろ。」
「あれかイフリートの。こえぇ〜。」
そんな歓声の中で一部だが、ドラギナを恐れる声も聞こえてきた。イフリートとは見る人から見れば恐怖の象徴たり得るのだ。
「エクサー、胸張って行って来るです。私達はここから応援しているですよ!」
クーはエクサーの背中を押して、エクサーを前に押し出した。
エクサーは2人を振り返ると、首を1回縦に振り、ステージに向かって歩き始めた。
集まった観客の感性がエクサーの肌に突き刺さるように感じられた。エクサーはその刺激にやる気を触発させられると、目元をキリッとさせ、覚悟を決めた。
エクサーがステージに上がると、先にラーバルが待っていた。ラーバルはエクサーの登場に自身の満ちた表情で笑っていた。
「来たな、後輩くん。」
「まぁ、やるって言っちゃいましたし。」
「ルールはどちらかが戦闘不能になるまで、いいかい?」
「わかった。」
「では、白の線の上に立ってくれ。」
エクサーとラーバルの2人はステージの上に引かれた白線の上に立った。エクサーは少し汗ばんだ両手を力強く握った。
すると、ステージの上にラーバルの知り合いであろうジャッジマンがステージに上がってきた。
「構え!」
ラーバルは構えた。エクサーは構えと言われたが、構えなんて知らないのでとりあえず、即興で構えをとってみる。
ジャッジマンの声で会場は静かになる。先ほどまでうるさかったからだろうか、一気に静かになるとそれはそれで少し心細く感じられた。
「始め!」
ジャッジマンの言葉と共に観客の声が雪崩のようにエクサーとラーバルに向けて流れると、決闘が開始したのだった。
ーー終ーー




