111 王になりたいのか
地獄・マザーシップ(軌道制御室)
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
部屋中に鳴り響く警告音。
「室長!こっちもエラーです!」
「こっちもです!」
「こっちもです!」
ボーパロットの魔力で基礎を作ったマザーシップは、制御機能などの機能を損ない、想定していないほどの速度で進行していた。
外から完全に遮断されるように設計されたマザーシップの仕様がまさかのここで裏目に出てしまっていた。この危機的状況は内部のものしか知り得ない状況だった。
ここの室長を任された悪魔もボーパロットに問題が起きるとは考えてもおらず、不幸な情報が入ってくれば来るほど、貧乏ゆすりが加速していた。
「クソッ!どうしようもない!!」
部下たちの色のない報告に室長は机を強く叩き、机に置かれたコーヒーのカップが倒れ、机にコーヒーがこぼれ、それは室長にイライラをさらに加速させた。
「室長!このまま、進めば2分以内に、大海の大穴の上空に接近。さらにこの状態であれば、吸い込まれる可能性は9割を超えています!」
室長は頭を掻きむしり、頭を抱えた。
「どうする…どうする…どうする…どうすれば…」
ボソボソと答えの返ってこない問いを自身に投げかけた。その目は虚だった。
だが、そんな室長の元にある記憶が蘇った。
それは少女の感謝。
この室長はいわば、ボーパロットに雇われた身であり、本職は飛行機のパイロットだった。そこで長年培ったプライドと責任感は命を重く受け止める十分な材料だった。
そんな室長が初めて操縦した飛行機のお客にいた少女の「ありがとう」と言う言葉。この言葉は室長の胸に大きく突き刺さった。
その言葉が今、室長が見失ったプライドと責任を呼び覚ました。
室長は顔をパンッと叩くと目をキリッとさせた。
「なせる手がなくても!何かを探せ!もし答えが正解がなくても!!手を動かせ!諦めると言う選択で責任から逃れようとするな!我々の手には命が握られているのだ!!」
この言葉に無理だと思っていた悪魔たちは涙目になりながら手を動かした。なせる手がなくても、絶対に何かあると信じて。
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地獄・マザーシップ(特設フロア)
「なんで、アイツが、ここに!?」
「わからないです。」
4人はなぜ、ここにナールガが現れたのか、まったくもってわからなかった。
ナールガの強さは「サタンの頭部』を吸収したボーパロットを圧倒していた。冷徹な目はボーパロットの全てを見切り、ボーパロットはもうボロボロになってしまった。
「さぁ、貰うぞ。」
ナールガはそう言葉を捨てると、ボーパロットの心臓部を右手で貫いた。ボーパロットは動きを完全に止め、ナールガが手を引き抜くと、ボーパロットは前に倒れた。
そして、背中を突き破って『サタンの頭部』が姿を現した。ナールガはそれを手に取った。
そこにA2が登場。
「A2!」
「やあ、エクサー。」
A2は珍しくナールガに鋭い目線を向けた。
「それをどうする気だい?ナールガ。」
「どうする?俺が王になるために使わせてもらうまでだ。」
「君は王になりたいのかい?」
「サタンが復活せずに何年も、ぬるい世になってしまった。それをやりなおす。俺の手で。」
「ハハハ!そのためにサタンを取り込むと。」
「そうだ。だが、準備がまだだ。無鉄砲に吸収すればコイツのようになる。俺が王になり次第、一番にお前を殺しに行く。」
バリバリバリッ!
結界内と外をワープホールで無理やり繋いだことによって、目に見える摩擦が生じワープホールはバリバリと音を鳴らしていた。
「ちょうどだ。」
ナールガはワープホールに入ると、ちょうどその下にあった大海の大穴に落ちていった。
「A2!追わなくていいの?」
エクサーはナールガを追いかけようとしたが、A2はそれを止めた。
「やめときな。」
「なんで?」
「みんなわからないかも知れないが、今このマザーシップの入る場所は大海の大穴の真上に近い。ナールガは大魔族だ。きっと『サタンの頭部』を持って大魔界に身を隠すつもりだ。追うのは危険。このまま見逃すことにしよう。」
「でも…」
「それにナールガにサタンの力を吸収する力があると仮定しても、サタンの残りの封印部位を手にしなくてはならない。それは簡単なものではない。だから一旦放置という形をとっても問題ないだろう。」
「A2が言うなら。」
「それと…」
A2は気絶したボーパロットに近寄った。ボーパロットからは吸収した『サタンの頭部』を取り除いたためか、元の姿に戻っていた。A2はそれに回復魔法をかけた。
主人の魔力を感知し、正常を取り戻したマザーシップはギリギリのでのところで体勢をを持ち直した。
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バサラも黒い液体生物の核をなんとか切った途端に、黒い液体が消えていった。
「…」
核を突くギリギリだった。ギリギリのところで黒い液体生物は糸が切れたかのように形が保てなくなり消滅した。
バサラにはわからなかったが、その理由はナールガがボーパロットを貫いたからだった。
バサラは何も言わずに剣をしまうと、タバコを吸ってその場から立ち去っていった。
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バーナボーとキャベラも黒い液体生物が消えたことを確認すると、剣をしまった。
「やったわね。あなた♡」
「あぁ。」
バーナボーは『処刑人の魂』を解除した。
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地獄・マザーシップ(軌道制御室)
「室長!マザーシップはボーパロット様の正常な魔力を感知。軌道を持ち直し、安定区間に入りました。」
室長はこの報告で力が抜けてしまった。そして、ボサボサになってしまった髪を少し整え、キリッと姿勢を正すと、全員に命令をした。
「全員!何があっても皆を安全に家に帰すぞ!!それが命を預かっている者の役目だ。責任を持て!!最後まで!!」
「ハッ!!」
室長の発言に皆は敬礼して敬意を示した。
ーー終ーー