106 覚醒
地獄・マザーシップ(???)
「フォルテ、それって…!?」
黒く変色する両腕。エクサーにはこの『黒腕』に身に覚えがあった。
かつて、サランカスで戦ったリンド。彼はグガットとヴァットの実験によりバブルスに感染。だが天は彼を見捨てず、リンドはバブルスへの適合者となった。結果、腕は黒く変色し、グガットを倒すほどの強大なパワーを手に入れたのだった。それが今、フォルテにも発現していた。
フォルテはマネスキでバブルスに感染した。ケレットの活躍もあってバブルスを治すことに成功したように思えたが、あの瞬間、フォルテの細胞はバブルスへの適応を始め、結果、奇跡的にこの瞬間にフォルテは完全な適合者へと落ち着いた。詰まるところ、2人目のバブルスへの適合ということだった。
「ごめんねぇ。みんな。任せちゃって。私頑張るか!。」
「腕…黒いです。」
「ん?ほんとだ!!何これぇぇぇ!!でも、痛くないし、なんなら、体も軽いし…調子もいい感じ!!」
エクサーから見てもフォルテの魔力量は跳ね上がっているし、それに応じて運動機能も上昇している様子だった。
「おい、エクサー。どうする?逃げれる場所なんてないし、戦うしかないことは確かだが。」
「戦うしかないよ。もしかしたらA2が来てくれるかもしれないし。それにここで諦めたら死ぬ。諦めない。」
クーは少し震えていた。この中では足を引っ張ってしまう可能性があるし、力も劣るし、勝てる自信もなかった。
「大丈夫だよ、クー。クーは才能もあるんだし、自信持とう!もしここで、誰かが諦めたらみんなが死ぬ。そうならないためにみんなで背中を守りあって戦うんだ。己がため、皆がために。」
「わ、わかったです!」
4人は深呼吸をして覚悟を決めた。
「はぁぁぁぁぁ!!」
ドラギナは力を込めて、竜へと姿を変えた。
エクサーも同じように力を解放し始めた。
エクサーの右の額から禍々しいツノが生え、爪と歯が鋭利に発達し始めた。この形態はセルベロと戦った時に偶然発現した形態。エクサーはこの形態を『悪魔進行化』と呼んだ。
悪魔としての素質があるエクサーは、実際のところまだ、人間の要素は色濃く残していた。そのため完全な悪魔というにはまだ程遠かった。そんなエクサーが気づいた感覚。それを元に練習を積んだエクサーは通常状態で制御可能な魔力を魔力回路破壊ギリギリまで流すことで、悪魔進行度を飛躍的に高め、より悪魔へと近づくことができるようになったのだった。少しでも出力を誤れば、魔力回路が一瞬で壊れる。そんなギリギリの状態で得られる力は絶大なものであった。
つまり、この状態は悪魔本来の力を使うことができると言うわけだった。
一方のクーはエクサーに諭され、覚悟を決めた。が、やはり、ここれには少し雲がかかっていた。もちろん、エクサーたちを失いたくは無いし、父や母にもう一度会いたいと思っていた。
そのためには戦うしかなかった。そして、クーはある一点の極端な結論に至った。目の前のあの悪魔を殺すという考えだった。
クーの中でこの殺すという考え方が腑に落ちた。代々、処刑人としての宿命を宿す一族の血を引くクーの心には相手の息の根をとめる『殺す』という言葉が強く響いたのだった。
心に火の付いたクーの右眼には黒く燃える炎が宿った。
『処刑人の魂』
対象に対する明確な殺意を持った時に生じるサンソン家伝統の技。
戦闘力の増加に加え、飛躍的な身体能力の強化と情報処理などの多くのバフを得る技。
「よし!やるぞ!」
「うん!」
「やるです!!」
「よーーーし!!!」
4人は覚悟を決めた顔でナールガと向かい合った。
「…」
ナールガはその視線を無言で受け止めた。
ーー終ーー