98 剣鬼バサラ
地獄・マザーシップ
ーー鬼気迫る冷たい視線。料亭から出てきた男が、ただ目線を集まった悪魔達に向けただけ。たったそれだけ。たったそれだけの行動で、この場に緊張が走った。
「で、出てきたな!!親父の仇打たせてらうぜぇぇ!!」
リーダーは男に一見怯んでいないように見えたが、男に向けた銃は震えていた。
そんな場所にエクサーたちが到着。この緊張はフォルテもエクサーも確かに感じおり、フォルテも眠気が一瞬で吹っ飛ぶほどだった。
「だ、だれ!?」
「おやおや、珍しい。バサラが外に出てきていたのか。」
「バサラ?」
「彼の名前だ。バサラ。鬼族の血を流し、『剣鬼』と呼ばれる男だ。昔ほど戦わないようにはなったようだが、今も剣鬼と呼ばれる続ける程には恐れられているのが実力の裏打ちだろう。まぁ、いい。せっかくだから見ていこう。もし戦うならラッキーだ。」
A2はワクワクしている様子だった。
「そんな震えた銃で俺を撃って当たるのか?実物だな。」
バサラが低い声で放った言葉は異様な重みと冷たさがあった。
「バ、バカにするなぁぁぁ!!」
男はバサラに煽られたことに怒り、バサラに向けた銃を発砲。だが、男の銃を持っている腕は肩から綺麗に切り落ちた。
その様は瞬速の抜剣。この場その動きを見切れたものはA2のみだった。
「なっ!何ぃぃぃ!!」
男は切られた肩を抑えた。
「ふんっ。生半可な覚悟に満たぬ覚悟。俺を殺しに来たのに目の前にして、恐怖に支配される。甘い。お前達の親父を殺したのかもしれないが、弱いから負けた。それだけだ。」
「くっ。黙れ!お前らぁぁ!!」
男は肩を回復魔法で元に戻すと、合図をかけ、後ろの男達は一斉に銃を向けた。
「やるか。」
バサラは自身の背後からフワフワと浮かぶ赤い鬼火を出すと、手で勢いよく鬼火を握りつぶした。そして、バサラの手には、一本の剣が握られていた。
『妖刀 鬼ヶ島』バサラの所有する妖刀の内の一本。赤と黒の色を持つこの刀は鬼気を感じさせる。魔器であり妖刀であるこの刀が認めたのはバサラのみ。認められなければ生気すら一瞬にして吸い込まれ、刀を振るうことなく死を迎える。だが、バサラはそれを実力と才能でねじ伏せ、認めさせた。
そこからは一瞬だった。エクサーが自然に瞬きをするとすでに、バサラを始末するために集まった悪魔は細切れになっていたのだ。
エクサーはこれが自分がたどり着けない剣技の極地、いや、剣技と呼んでいいのかわからないほどの芸当であることを思い知らされた。
「す、すごいね。」
「まぁ、剣術に関してで言えば、私勝てるかわからない。というか、誰も勝てないのではないかね。ハハハハハ!」
バサラは刀に付いた血を刀を振って振り払うと、刀身を鞘に納め、刀は鬼火へと変わり、消えていった。
A2はバサラに近づいていった。エクサーとフォルテも少し警戒しながら後ろについて進んだ。
「やぁ、やぁ。」
「ん?A2か…何しに来た。」
「たまたま通りかかっただけさぁ。特にこれと言ってはない。」
「お前、子供を拾ったのか。」
「ハハハ!いい子だぞ。名前はエクサー。才能もバッチリの少年さ。」
エクサーはとてもビビっていた。なんとなく変なことを言えば殺されるのではないかと思ってしまった。
「そんなに驚くな。別に何もしない。」
バサラもそれには気づいていた。
「実は、エクさーも剣を使うんだ。今度練習してやってくれ。」
「子供の子守りは勘弁してくれ。」
「そう言わないでくれ。」
「…」
バサラはポケットからタバコを出すと、火をつけてその場から去っていった。
「別に悪い奴ではないだろ?」
「う、うん。」
ーー終ーー