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マギア・リーベル  作者: 彩音
本編
4/20

04.定食屋・春秋食堂。

 無差別殺人犯と人食い樋熊の討伐。

 任務を終えたリアとアミは上機嫌の美嘉にとんかつの店・半月食堂でかつ丼を奢って貰ってから学校に戻り、残りの授業を受け終えた。これで本日は解散。……とはならない。

 リアとアミはこれから別の仕事があるからだ。

 定食屋・春秋(はるあき)食堂での仕事。

 リアの苗字・桜庭とアミの苗字・楓乃の連想で名付けられた、テーブル席が10席しかない小さな店。

 後見人から貰ったこの店は週に1~3日。2人が気が向いた時しか開店しない。

 基本はリアが料理を作って、アミが給仕をしている。

 過去に1度アミに料理を作らせてみたが、ダークマターを生み出したからだ。

 ザンギの材料からどうやれば紫色の泥のような料理が出来るのか。

 汚水のような臭いがする料理が出来るのか。

 リアには今もって尚、分からない。

 兎に角あれを見て以降はアミにはこれから一生料理は作らせない。とリアは心に決めた。

 18時30分開店で22時閉店。僅かな時間しか開いてないのに意外とお客さんが来る。

 客層は老若男女問わない。一番人気は鯖の味噌煮定食。

 リアの作るこの料理を求めてこの店にやって来るお客さんも多い。

 肉じゃが定食に鰺フライ定食もよく売れる。

 このお店の名物は? と聞かれるとこの3大料理だ。

 それと料理ではないが、リアとアミの2人も人気がある。

 2人が可愛いことは勿論のことながら、気さくだし、たまに手が触れ合っただけで2人して頬を紅くしたり、微笑みあう姿がお客さんの目に愛らしく映るからだ。

 SNSやら食べコミで店員さんが兎に角可愛い。1度赴けば絶対にリピートしたくなります。いつ開店するのか分からないことだけが玉に瑕ですが。と書かれていることが多い。

 ☆の数は5つ☆中、4つ☆。リアとアミの気が向いた時しか開店しないことが☆の数を下げている。

 当の本人達は気にしていない。本業は【リーベル】でこちらは副業だし、日本の文化に触れたくてしていることだからだ。


 本日の仕込みを終えていざ開店。

 同時に入店して来たのは常連の若い女性。20代でありながら会社の社長らしい。

 その女性が来る度に密かに美嘉のことを思い出しているのは2人の秘密だ。


「「いらっしゃいませ」」

「今日は開いてるのね。嬉しい。いつものとビールを大ジョッキでお願い」

「は~い。リアちゃん、鯖の味噌汁定食1つね」

「畏まりました」


 リアがお客さんからの注文を受けて料理の作成に取り掛かる。

 その間にビールをジョッキに注いでお客さんの元へ向かうアミ。

 店のメニューに加えておいてなんだが、この店の大ジョッキは1.5l(リットル)ある。

 中ジョッキは450ml(ミリリットル)で小ジョッキは250ml(ミリリットル)

 何も知らずに大ジョッキを頼んでしまったお客さんに驚かれる量。

 そういうお客さんには残されてしまうが女社長は毎回飲み干して残すことはない。

 たまにおかわりを要求してくることもある。

 モデル体型なのに何処に入って行っているのか? リアもアミも不思議に思う。

 そうこうしている間に料理完成。リアがアミのことを呼ぶ。


「アミ。鯖の味噌煮定食あがったよ」

「は~い」


 リアに呼ばれてアミが彼女の元へ。

 事故が起きることを期待する女社長。

 料理を受け取るアミの手がリアの手に……、触れた。


『良し! キマシタワー』


 女社長大喜び。

 "ニヤニヤ"顔の女社長の前で頬を紅くするリアとアミ。


「えっ、えっとなんでかな? お店で触れ合うと恥ずかしいね」

「う、うん。なんでだろうね?」


 2人の話にすかさず女社長は割り込んだ。


「え? それってつまり2人は他の場所では"イチャイチャ"してるってこと? 同棲とかしてたり?」

「……秘密ですって言ったらお店には来てくれなくなっちゃいますか?」

「いや、来るよ! ここの鯖の味噌煮定食を定期的に食べないとダメな身体になったからね」

「うちの料理に麻薬なんて入れてないんですけど」

「リアちゃん、リアちゃん。常連さんには話して良いと思う」

「ん~、じゃあアミから話して? 私は料理の下ごしらえがあるから」


 話から逃げるリア。

 アミはリアに苦笑しつつも女社長に同棲中だということを話す。

 親友以上で恋人未満だということも。


「良いことを聞いたわ。今日は祝い酒よ。大ジョッキビールおかわり」

「は~い。……っていつの間に飲み干したんですか!?」

「2人がそういう関係だと分かるとビールが一気に進んじゃって」

「は。……はぁ」


 女社長が言ってることがイマイチ分からない。

 首を傾けつつもビールのおかわりを注ぎにビールサーバーに向かうアミ。

 彼女がビールを注ぎ始めると新しいお客さんが入店してくる音がする。


 "ガチャ"この店にドアベルとかは付いてない。

 付ける程広くもないから必要がない。


「「いらっしゃいませ」」

「げっ」


 リアとアミの元気な声と裏腹に女社長の口からは会いたくない奴に会ったと誰でも分かる声がする。

 それ程迄に女社長が会いたくはない人物。気になったリアが厨房から身を乗り出して見ると、その人物を一言で表すとチャラ男だった。

 全身ブランド物で身を固めた男。

 似合っているなら良いが、似合っていない。

 フランド物に本体が食われてしまっている。

 滑稽だ。女社長が嫌がるのも分かる。

 厨房に戻るリア。その瞬間に彼女の耳に聞き捨てならない言葉が聴こえてきた。


「京香じゃねぇか。きったねぇ店に出入りしてるって聞いたことがあったがマジだったんだな。こんな黒光するあいつが出そうな店なんてお前には似合ってねぇぜ。こんな店今すぐ出て俺と旨いイタリアンでも食いにいかねぇか?」

『『あ゛っ!!』』


 リアとアミ。2人してそんな声を出してしまいそうだった。

 ☆の数なんて気にしていないが、店を大事にしてない訳じゃない。こんなことを言われて良い気分には決してならない。

 寸手のところで堪えたが、2人共に心中でこの男のことを敵認定した。


 アミが女社長の元に2杯目の大ジョッキのビールを持っていく。

 それを見て"げらげら"と下品に笑うチャラ男。


「おいおいマジかよ。ゴリラにアルコール飲ませてるつもりなのかよ。この店は」


 煩い。何も注文しないなら帰って欲しい。

 苛々しつつも声を抑えてその旨をチャラ男に伝えるリア。

 チャラ男は「チッ」と舌打ちをした後で当然のように女社長の隣に腰を下ろした。


「ご注文はどうしますか?」

「注文だ? こんな店で食うもんなんて豚の餌の方がマシなもんばっかだろ。ビールだけでいいわ。あ! ゴリラに飲ますやつじゃなくて普通のやつな」

『リアちゃんの料理が豚の餌だぁ。こいつ殺してやろうか』


 大切な女性(ひと)が作る料理を貶されて顔を引き攣らせるアミ。

 アニメや漫画だったら額に青か赤の筋が出来ているところだろう。

 いつもよりも足音を大きくしてアミはビールサーバーに向かう。

 と続々と店に常連さんが入店して来た。満員御礼。アミを待たずに常連さんから注文がされる。

 彼女ら・彼らが頼む品はいつも決まっている。

 

 リアはそのことを良く知っているので常連さんの料理を作り始める。

 賑わう春秋食堂。とは言っても常識の範囲内の声量。

 その中で常識? 何それ美味しいの? と言わんばかりの者が1人。

 女社長の肩を抱きながら大声で取り留めのないことを言っているチャラ男。


「京香。エリートの俺が誘ってやってるんだからよぉ。俺に靡いておいた方がいいぜ。そうだ! なんならお前の会社の営業部長になってやる。俺に任せとけば会社の業績右肩上がりになるぜ。そういや、この店のビールまっずいな。おい。水で薄めてんじゃねぇのか。あ~、俺ってば今度車を買い替えるつもりなんだよね。外車だぜ。外車。パパに頼めばなんでも買ってくれるんだ。ママの料理も旨いしな。このくっさい店の料理なんて食うの止めろよ。京香」


 何を根拠に業績が上がるなどと言っているのだろう?

 水で薄めるような真似なんか誰がするか!

 パパ、ママって……。どう見ても30代の男が恥ずかしいと思わないんだろうか。

 リアだけなく今現在この店にいる者全員が思っていること。

 女社長はチャラ男のことなんて完全に無視している。

 それが気に食わないのか。ますます声を荒げるチャラ男。


「聞いてんのかよ。京香!!」


 いい加減に迷惑だ。

 リアが動こうとする前にアミが動く。

 チャラ男の横に行って注意するアミ。


「お客様、他のお客様のご迷惑になりますのでもう少しお静かに願えますか?」


 しかしチャラ男はアミの声など無視。

 相手は女で、子供だからと舐めているのだろう。

 再三アミが注意をしていると、ついにチャラ男はやってはいけないことをやってしまった。


「うるせぇ!!」

「……っ」


 アミを突き飛ばしたチャラ男。

 その様子を見て"ぶちっ"という音が自分の脳内で響いた気がするリア。

 常連さん達は知っている。この後で何が起こるのかを。

 厨房から店内に出てくるリア。

 喧噪が消えて店内は静まり返る。


「お客様、ちょっとお手を拝借します」


 チャラ男の左腕を右手で掴んでリアがテーブルの上に彼の手の平を置かせる。

 彼女の左手にはフォーク。

 それを見て刺されるとでも思ったのか? チャラ男は逃げ出そうとするがリアの腕をどう足掻いてもどかせることが出来ない。


「お、おま……。本当に女かよ」

「女ですよ。お客様、左手をパーにして開いて貰えますか?」

「はぁ? 俺がなんでそんなことしなくちゃ……」

「いいから開け」


 リアの口から発せられる底冷えのする声。

 流石のチャラ男も怯えきってリアの言う通りに手を開く。


「お客様、絶対に動かないでくださいね。じゃないと……、左手の無事は保証しかねますので」


 チャラ男の指と指の間。人の目には追いかけきれない速度でフォークが行き来する。

 時間にして1分。最後はリアに片手で悠々と持ち上げられてチャラ男は店外へと捨てられる。

 その時のチャラ男は下半身をみっともなく濡らし、湯気を立たせていた。


「出禁にするのでもう来ないでくださいね」

「お、お前。この俺にこんなことしてどうなると思ってんだ。お前の店なんかパパに頼んで潰してやるからな」

「やってみたら良いと思いますよ」


 冷たい声でチャラ男に告げて店内に戻るリア。

 後日、リアとアミの店を潰すと息巻いていたチャラ男。

 彼の父親が経営していた会社が突然倒産したと女社長から嬉しそうにリアとアミの2人は教えられた。


「ほんと、良い気味って言うか」

「そうなんですね。ところで……」

「ん?」

「「その人、誰ですっけ?」」


 女社長から報告を受けた時にはチャラ男のことなんてすっかり忘れていたリアとアミ。

 女社長は大笑いして、この日3杯大ジョッキのビールを飲み干していった。

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