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マギア・リーベル  作者: 彩音
番外編
20/20

20.愛する大地で愛する女性と。

 【リス・リーベル】魔法連盟より授けられた名誉隊名。

 それから少し遅れて北の大地・S市に在るリアとアミの2人が同棲をしている自宅マンションに届けられた荷物の中身を見てリアは僅かながら顔を歪めた。

 荷物内の一番上に入っていたのは魔法連盟からのメモ書き。

 それによると今回リアとアミの手元に届けられたのは【リス・リーベル】専用の正装で強制ではないが、今後はなるべくはそれを身に纏って【リーベル】の活動を行うようにと指示が書かれている。

 強制ではないと書かれているが、そんなのは建前で本音は強制だろう。

 学校の制服と同じだ。私服で良い学校もあるが、多くの学校が専用の制服を導入している。

 制服有りの学校に私服で登校すると注意されて帰宅を促される。

 魔法連盟の場合は帰宅の命令は流石に出せないだろうが、やんわりと察するように注意はしてきそうな気がする。

 それが証拠にこの正装は手で触れるだけで自動で着用されるように衣装に魔法が付与されている。

 他にも布製でありながら拳銃の9~10mm弾くらいなら貫通などしないようになっているし、下級の魔法なら反射するようになっている。

 魔法連盟としては万が一に【リス・リーベル】を失うようなことがあれば、それより先の国の未来が悪い方向に傾くのは確実。少しでもそんなリスクを減らしたいから正装を用意したのだろう。偉い人達の気持ちも分からないでもない。


 ただ……。


「これ、着る時に裸になったりするのかな? それとも今着てる服が勝手にこれに変わるのかな? それと他の【リーベル】から妬みを買ったりしないかな? そうなったら面倒臭いなぁ」


 荷物を前にぶつくさと文句を垂れるリア。

 彼女を鑑賞しているだけで面白い。隣に座って可愛い恋人の身体を自分の方へと抱き寄せるアミ。


「リアちゃんは存在を刻みたいんじゃなかった? 【リス・リーベル】専用の正装はそんなリアちゃんに持って来いだと思うけど?」

「そうかもしれないけど……」

「ねぇねぇ、リアちゃん。正装着てみようよ! 気になる」

「ん~、そうだね。でもその前に少しアミに甘えたい」


 言うや否やアミに抱き着くリア。

 彼女をリビングの床にゆっくりと押し倒して胸の中に顔を埋めて頬擦りを始める。

 甘えてくる恋人が可愛い。甘酸っぱい気持ちになるアミ。

 少ししてリアがアミのトップスの裾から手を入れてくる。

 アミの膨らみをもっと感じたくなったらしい。

 アミは抵抗せずにリアがしたいことをさせる。

 その代わりアミもリアと同じことをする。

 犬か猫のようにじゃれ合う2人。

 楽しむスキンシップ。合間に唇と唇を重ねあいもする。

 バカップル、ここに極まれりだ。


「アミ」

「リアちゃん」

「大好きだよ。好きすぎてどうしようって思うくらいに好き」

「私としてはもっと好きになって欲しいな。重たい女性になって欲しい」

「体重の話?」

「分かってて言ってるよね? 罰として私にキスしてね」

「了解」


 交わした約束。瞳を閉じるアミ。リアは悪い顔をして恋人に悪戯をする。

 アミの額にキス。剝れつつアミが目を開ける。


「なんで額? 普通、唇だよ」

「何処にとは言われてなかったし?」

「む~~、リアちゃん有罪。蕩けさせの刑に処する」

「うん?」


 アミが自分とリアの身体の位置を変えて彼女の口を自分の口で塞ぐ。

 交じり合わせる舌と舌。何度も何度も繰り返されて、リアはアミの愛慕でとろっとろに蕩けた。


**********


 同じ頃。レイとサユの自宅マンション。

 リアとアミの隣の部屋。魔法連盟S市支部の支部長・美嘉の[(めい)]で最近同棲を始めた。

 2人して最初は不安だったが、いざ暮らし始めてみると不安は取り越し苦労だったことがすぐに判明した。

 レイもサユも空気を読むのが上手いのだ。

 お互いに1人になりたい時には私室で趣味などを楽しんだりするし、そうじゃない時はリビングで雑談やお互いの趣味をお互いに見聞き、共にやってみたりする。

 家事は交代制。だが料理は別々に作る時がある。

 レイが辛い物を食べたくなった時。彼女は結構な辛党。ハバネロ程度なら平気で生で齧ることが出来る。

 サユは辛い物は得意じゃない。カレーは中辛が限度で辛口は口に出来ない。

 1度だけレイが作ったハバネロ料理を一口だけ貰ったことがあるが、深夜に腹痛に襲われた。

 それ以来、レイが辛い物が食べたくなった時は別々に作るようにしている。


 そんなレイとサユ。同棲をしている間に友達の関係から親友の関係となったが、それ以上になる様子は現状のところ全くない。

 2人共に[恋]や[愛]というものがどうしても分からないからだ。

 恋愛系の物語を見聞きしても2人には人が人に盲目な迄に夢中になれる理由が理解出来ない。

 それ故にリアとアミを見ていて時々自分達とは違う生物(せいぶつ)のように感じる時がある。

 あれ程にくっ付きあってしんどくないのだろうか? と思うこともある。

 自分達は適度な距離感がある方が穏やかでいられる。

 距離が[(ゼロ)]だと精神的に持つ気がしない。

 ワックス付きのシートをクルックルワイパーに取り付けてリビングのフローリングにシート掛けをしているサユに洗濯物を畳みながらレイが彼女に話し掛ける。


「サユ。ちょっと聞いてもいいっすか?」

「……うん。何?」

「サユはいつかうちと恋人になりたいとか思ったことってあるっすか」

「……無い。想像出来ない」

「そうっすよね。変なこと聞いて悪かったっす」

「……別に。そう言うレイはあたしと恋人になりたいと思ってるの?」

「いや、そういう感情ってさっぱり分からないっす。だからサユとは今のままでいたいって思ってるすよ」

「……良かった」


 薄く笑ってリビングのシート掛けに戻るサユ。

 レイは"ほっ"とした気持ちとなり、次の洗濯物を手に取る。

 ふと思う。とある事。


『このマンション、壁が厚くて良かったっす』


 薄ければレイもサユも隣の者達に悩まされていただろう。色んな意味で。

 リアとアミに対して割と失礼なことを考えていたら、レイは先に届いた荷物のことを思い出した。


「名誉隊名の次は正装っすか。魔法連盟も必死っすね」

「……随分大きな独り言だね。【リーベル】にそっぽを向かれたら自分達が終わるから、あの手この手で繋がりが切れないようにしようと頑張ってるんだよ」

「ははっ。サユもなかなか言うっすね」

「……あたしは事実を言っただけ。正直、魔法連盟に心の底から忠誠を誓っているかと言えば噓になる。他の【リーベル】も同じだと思う。衣食住を提供してくれてるから大人しく組織に仕えてるだけ」

「そうっすね」


 会話がそれで途切れる。

 レイとサユはその後暫く家事に打ち込んだ。


**********


 数日後。美嘉から下された【リス・リーベル】出動の[(めい)]。

 敵は他国から送られてきた未確認生物・生物兵器。

 本来ならば、こういうのは海外にいる【ローゼル】が日本に侵入を許すことなく堰き止めるべき事柄なのだが、彼らはその国の不穏な動きに気付くことなくみすみすと日本に生物兵器を送ることを許してしまった。

 仕事はきちんとして貰いたいものだ。

 【ローゼル】の不甲斐なさに憤る美嘉。

 無理もない。生物兵器が送られたのはS市支部の担当区域なのだから。

 しかし起きてしまった[事]は何を言っても詮無き事。

 【リス・リーベル】が絶滅させてくれることを願うのみ。


- 

 生物兵器が送られた現場。

 【リス・リーベル】、リア・アミ・レイ・サユ。

 お揃いの衣装を身に纏った彼女達。

 トップスは純白の襟付きノースリーブシャツ。襟の下部に濃いグレーのラインがある。

 ボトムスは純白の膝上10cmなミニプリーツスカート。下部に二重に濃いグレーのラインがある。

 その上に羽織っている黒のコート。上部が大きく広がっているのでトップスがノースリーブシャツであることが分かる作りになっている。前立てから裾に掛けてが銀色。靴は黒のミドルブーツ。

 4名のチームは獅子奮迅の活躍ぶりを見せていた。

 

 生物兵器の攻撃方法と弱点は日葵から予め聞かされていた。

 彼女の趣味のお陰で楽々と倒せている。


「それにしても、グロテスク」


 リアが魔剣グラムで生物兵器の首を刈り取りつつ言う。

 全身真っ白で身長が2mはある。顔には細長い黒の双眸だけで他の部位はない。手足が異様に長いのでその分だけ身体が小さい。例えるならば、多少肉がついた棒人間。

 毒と麻痺が武器。いずれもアミの状態異常無効付与魔法によって意味のないものになっている。


 もう何体倒しただろうか? 数だけは無駄に多い。

 が、知能は低いのか攻撃方法が単純。

 生物兵器が吐いた毒を飛距離や広がりを計算して軽々と避けるリア。

 顔には笑み。グラムを突き出して生物兵器の心臓・機械で作られた弱点のそこを破壊する。

 今回リアがグラムを使用しているのは剣の腕が鈍るのが嫌だからという理由。

 これから先はグラムとSigSauer P320の両方を上手く使い分けていくつもりでいる。


「相変わらず桜庭は無茶苦茶っすね」

「……うん、化け物」


 リアの戦闘を見つつボヤくレイとサユ。

 そんなことを言っているが、彼女達も人のことは言えない。

 余所見をしながら生物兵器の相手をして勝利を収めているのだから。


「リアちゃんはやっぱり剣が似合うなぁ……」


 アミもそう。グラムを振るうリアに見惚れつつ自身は結界魔法を駆使して生物兵器を駆逐している。

 結界の中に閉じ込めて、圧縮して潰すといういつもと同じ()り方。

 【リス・リーベル】の中で性格が1番破綻していると言っていい彼女らしさが垣間見える。


 化け物揃い。生物兵器は【リス・リーベル】達によって1時間後に全滅した。


-

 魔法連盟S市支部へ凱旋。

 盛大な出迎えを受ける【リス・リーベル】。

 惜しみない賞賛を受けるが、リアの心中に渦巻いているのは喜びではなく別の感情。

 魔法連盟S市支部の組織員や所属している【リーベル】達と共に外に出て来ている支部長の美嘉の元へリアは歩いていく。

 自分に握手でも求めに来たのかと思った美嘉。手を差し出すがリアは彼女の手を受け取らずに、ある意味で皆を驚かせる言葉を口にする。


「美嘉さん、ソフトクリームが食べたいから奢って」

「「「は?」」」


 呆ける魔法連盟S市支部の者達。

 リアの言葉の意味が分かったのは恋人のアミだけ。

 彼女がリアの言葉について通訳をする。


「生物兵器が真っ白だったから、リアちゃんはソフトクリームを連想して食べたくなったんだよね?」

「そう! ついでに昨今立て直しが終わったS駅も見に行きたい」


 色気より食い気。但し、アミに求められた場合は食い気より色気。

 現金な少女・リア。でも年頃の少女らしいと言えば、らしい。

 爆笑してしまう美嘉。暫くして彼女は魔法連盟S市支部の皆に告げる。


「じゃあ今日は復興したS駅近くの店を貸し切って女子会でもしましょうか」

「賛成! 美嘉さんの奢りでソフトクリームとジンギスカン食べたい」

「美嘉さんの奢り? 今はまだ秋だけど、明日は雪かな?」

「誰も奢るとは言ってないわ」

「奢りっすか。珍しいこともあるもんっすね」

「……ジンギスカン。好き」

「ちょっ」


 美嘉は奢りだとは言っていない。

 だが、すでに皆の中では奢って貰えることが決定している。

 "わいわい"騒ぐ女性陣。魔法連盟S市支部の男女比率は女性が98%で男性が2%。

 美嘉は2%の男性達に目を向ける。


「仕方ないわね。私と彼らが奢るわ。今日は無礼講よ。大いに騒ぎましょう」

「「「やった~~~」」」

「「いやいや、巻き込まないでくださいよ」」

「じゃあ行きましょう」

「「無視とか……」」


 勝手に巻き込まれて涙する男性陣。

 女性陣は元気にお喋りしながら店へと歩く。

 道中、復興したS駅を見て感動を覚える魔法連盟S市支部の全員。

 北の大地を愛する者達。

 間もなく冬が来る。豪雪地帯のS市は冬が来れば純白に埋もれることになる。

 それが、迷惑でもあり楽しみでもある。

 新雪を踏むのが楽しい。雪祭りは絶対に外せない。

 四季折々。様々な顔を見せてくれる場所。


 リアはアミと恋人繋ぎで歩きつつ改めて過去から現在迄のことに思いを馳せた。

 ()ばれて良かった。所属場所が北の大地に決まって良かった。

 これから先の未来もずっと自分は……。


 この愛する北の大地で愛する女性(ひと)と共に生きる。

 リアは心の底からの笑顔を世界に溶かした。


-------

マギア・リーベル

番外編 Fin.

この物語はこれにて本編・番外編共に完結です。

ご拝読ありがとうございました。

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