02.2周目の学校生活。
先程迄の喧騒が嘘のよう。
2周目のクラスメイト達は真面目な子が多いらしい。
1周目は一部の者が煩くて辟易したものだったが。
1時限目の授業を担当している教師の声だけが淡々と教室に響く。
1周目は新鮮だったが、正直2周目になるとつまらない。
高校の授業になると難しいので楽しめるが、中学レベルだと物足りなくなってしまった。
担当教師の話を聞いているフリしてリアは右の耳から入ってきた情報を左の耳から外へ出す。
ノートは取ってない。1周目に使ったノートがそのまま机の上にある。
『暇だ~』
と思っても真面目にしておかないと問題児扱いされてしまう。
リアはそのような存在になるつもりはない。
でも暇が過ぎて授業そっちのけで料理のことを考えていると、リアの目の前に250mlのペットボトルと同じ背丈な存在が不意に現れた。
ふっくらとした顔に顔と同じくらいの大きさの身体。
丸目で深緑の瞳、銀色のショートボブ。
背中にトンボのような4対の羽根が生えている者。
リアに付いてきた妖精。彼女の使い魔。
〔暇そうだね。リアお姉ちゃん〕
〈……っ! エアリアル。私は貴女を喚んだ覚えなんてないんだけど〉
〔リアお姉ちゃんが暇そうだから勝手に出てきた〕
〈嘘だよね? 本当はエアリアル。……エアルが新しいクラスメイトを見たくて出てきたんだよね?〉
〔バレた? 今回は可愛い子多いね〕
〈女好きめ〉
〔でも1番好きなのはリアお姉ちゃんだよ〕
〈はいはい。ありがとうね〉
リアの使い魔エアリアルこと愛称エアルのことは誰にも見えていない。
言葉も思念でやり取りしているので2人以外には聞こえていない。
リアの机の上に座って周りを見回すエアル。
〔ねぇ、リアお姉ちゃん〕
〈何?〉
〔前からずっと思ってたけど、この世界の女性って中学生でも膨らみが育ってる子が多いよね〕
〈それは暗に私の膨らみは大きくないって言いたいのかな?〉
膨らみに関してはリアが気にしているところだ。
ついでに身長も気になっている。同年代の女性達よりも身長低めだから。
日本に来る迄に彼女が過ごしてきた過去が影響しているのだろう。
とある者の罠の歯牙に掛かり、劣悪な環境で過ごしてきたという過去が。
〔リアお姉ちゃんはBカップ。あの子はきっとDカップ、Fカップっぽい子もいる。食べ物とか生活環境が良いんだろうね〕
〈エアル、ちょっと黙ろうか?〉
リアの顔が真面目な顔から笑顔になる。但し、目は一切笑っていない。
彼女が結構本気で怒っている時に見せる顔だ。
何かされる前にエアルは彼女の机の上から飛び立って教室中を周り始める。
〈飛ぶのは卑怯だよ〉
〔逃げるが勝ちだっけ? この世界でボクはそれを学んだからね〕
……………。
これでは迂闊に手を出せない。
ため息を吐き出すリア。
1人で一喜一憂しているのが、どうやら担当教師に見つかったらしい。
「そこの転校生。桜庭さんだった? 何やら楽しそうね」
「すみません」
「ちゃんと授業を聞いていた? 前に出てきて問題を解いてみてくれる」
嫌味と一緒にホワイトボードに書かれた問題の解答を書くように指名される。
席から立ち上がるリア。ホワイトボードの前に歩いていき、専用のペンを持って彼女はすらすらと問われた問題の解答をそこに書いた。
「これで良いですか?」
授業は数学。リアの解答に間違いはない。
席で百面相をしていたのにちゃんとした解答が書かれたことに驚く担当教師。
彼女が言葉を失っているとリアが首を傾げながら教師に尋ねる。
「何処か間違えてましたか?」
リアからの問いに我に返る担当教師。
解答が正解していることは褒めたが、授業中は話をきちんと聞くようにとリアに注意をして彼女を席に戻らせた。
やってしまった……。
担当教師からの注意を受けて少々凹みながら席に戻ったリア。
問題児にはなりたくないと思ったばかりなのに、これでは台無しではないか。
同じ藪は踏まない! 優等生な顔を作るリア。
だったが、そこにエアルから思念が飛んできた。
〔リアお姉ちゃん、怒られちゃったねー〕
誰のせいだ。誰の!!
教室を飛び回るエアルを睨みつけようとするリア。
しかし怒られたばかりなことを思い出して彼女のことは無視することに決めた。
〔リアお姉ちゃん、リアお姉ちゃん。この子、中学生なのにショーツが黒色だよ。大胆。勝負下着かな?〕
クラスメイト達に自分の姿が見えないからと好き放題なことを……。
うん、如何にも[委員長です]みたいな子が黒色のショーツを穿いているのは意外だとは思うが。
〔ブラも黒色〕
〈止めなさい〉
流石にやりすぎ。
リアは担当教師に気付かれないように右手を下におろして魔法を発動。
エアルを強制的に彼女の世界に送還させた。
やれやれ……。
漸く落ち着いて過ごせるようになった教室。
安堵したリアはその後、大人しく1時限目の授業を終えた。
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2時限目開始迄10分の休憩時間。
クラスメイト達が再び寄って来たが、質問に応える前にまずはお手洗いに移動。
女性特有。何人かリアに付いてくる者達。
これを嫌う者も多いが、リアの場合は時と場所と場合による。
今回は特に問題は無いので何も言わずに連れだって目的の場所へ。
空いていたのですぐにお手洗いを使うことが出来た。
ショーツを床に着かない程度に下ろしてお手洗いに座る。
用を済ませている間に見つめるはウォシュレット。
この存在を知ると、もうこれ無しは考えられない。
音姫にはちょっと笑った思い出があるが、今はお礼を言いつつ利用している。
用を終わらせてウォシュレットとトイレットペーパーを使用してそれらを流してからお手洗いのある個室から外へ。
そこで鉢合わせるはリアの同居人。
リアの1つ上の14歳。彼女もエルフで【リーベル】の一員。
年相応の中で綺麗な顔立ちにやせ型ではあるが程好い肉付きの身体。
アーモンドの目型で黒色に限りなく近い焦げ茶色の瞳、黒色のストレートなセミロングヘア。
膨らみのサイズはCで身長は155cm。体重は14歳女性の平均よりもやや下回っている。
対するリアは童顔で華奢な身体。
アーモンド形の目型で澄んだ青色の瞳。魔法を使用する際には黄金色に代わる。光の当たり具合によって銀色にも純白にも見えるミディアムボブ。
膨らみのサイズはBで身長は150cm。体重は13歳女性の平均よりもそこそこ下回っている。
白と黒。正反対な2人。元は違う世界の住人だが、魔法連盟で任務や訓練などを共に受け続けているうちに同棲する程に仲良くなった。
「リアちゃん!」
「アミ、ステイ!」
リアの同居人の名前はアミール。日本での名前は楓乃 アミ。
スキンシップが好きな子(但し、相手はリアに限る)で彼女を見掛けると犬のように飛び掛かってこようとする。
家ではアミの自由にさせているが、学校では気恥ずかしいものがあるので彼女に自制を促している。
リアの言葉で止まるアミ。しょぼんとした目付きが心に痛いがその分家で好きなようにさせてあげるので学校では我慢をして頂きたい。
「う~~~っ!」
「唸ってもダメ。学校では我慢、ね?」
「分かったよ~」
「よろしい。じゃあ私は教室に戻るね」
「は~い」
アミとは別のクラス。
教室迄の道すがら、やはり話題になる彼女のこと。
「桜庭さん。あの子が同居人?」
「はい」
「2人はその、付き合ってるの?」
「親友以上、恋人未満って感じですかね。皆さんは私達みたいな人達に対して偏見があったりします?」
「全然。寧ろ捗る」
「捗る?」
「こほんっ。なんでもないよ。なんでも」
不穏な単語がクラスメイトの口から発せられたような気がしたのは気のせいだろうか?
リアはクラスメイトを見たが、即座に視線を外された。
「……次のコミッマは2人をモデルにして。捗る! 捗るわ」
小さな声だが何か"ぶつぶつ"言っている。
何故か腕が鳥肌となるリア。
他の自分に付いてきたクラスメイト達を見ると彼女達も最初にリアから視線を外した子と同じ感じになっていた。
『なんか怖い、怖い怖い怖い』
【リーベル】として活動していると幾らでも怖いものは見る。
が、彼女達は今迄見てきた何よりも恐ろしい。
リアは彼女達のことをなるべく見ないように顔を俯けつつ教室へと足を進めた。