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マギア・リーベル  作者: 彩音
番外編
19/20

19.【リス・リーベル】。

 北の大地・魔法連盟S市支部。

 支部長の美嘉は今日も胃の痛みに耐えていた。

 それというのも一難去って又一難。

 魔法連盟本部から齎された改革案が全ての原因。

 その案はこれ迄は凶悪犯が複数人いても【リーベル】は時と場合によっては1人で立ち向かうことがあったが、今後はそういうことをなくして、相手側が複数人の場合はチームを組んで動くようにしましょうという案。手筈の整えは本部・支部の幹部達に任せるとのこと。

 チーム。簡単に言うが、組ませる相手を間違えたら大事になってしまう可能性がある。

 同じ【リーベル】でも人には相性がある。

 それらを考慮して最適な式と解答にしなくてはならない。

 本部からは最低4~5名で1チームを作るよう言われている。

 自分が統括しているS市支部。【リーベル】達の相性や性格は大体は把握をしているが、2人程何処に編成したら良いのか迷う者達がいる。そもそもチームに組み入れる必要など無いのではないかとも思う。

 リアとアミ。SSS(スリーエス)死神達グリム・リーパーズ

 彼女達と誰を組ませろというのだろうか。

 変に誰かと組ませたら帰って彼女達の足手纏いになってしまう。

 正直に言って、2人は2人のままの方が良い。

 だが本部の命令には逆らえない。2人も何処かのチームに入れないといけない。

 強引に候補を挙げるなら、こないだ彼女達と共に反社組織を壊滅させたSS(ツーエス)クラスのレイとS(ワンエス)クラスのサユだろうか。

 ただ、レイと2人の関係は良好だがサユとの関係はそうでもない。

 サユの態度は軟化して取っつきやすくなったことで彼女の指導係のレイを中心にS市支部所属の他の【リーベル】達と楽し気に会話をしている姿が見られるようになったが、2人とは距離と壁がある。

 これはサユの側だけではなく2人の側も同じ。

 お互いに必要最低限の接触と会話しかしていない。

 どうにかしてあの2人とサユとを打ち解けさせることが出来ればこの難題は良い方向に向かう。

 その為にはどうするか? 頭を捻る美嘉。

 暫くすると再び胃が"キリキリ"と痛み出した。

 支部長は楽じゃない。美嘉は仕事を終えたら何処かの居酒屋でヤケ酒を呑もうと心に決めた。


**********


 美嘉が胃を痛めている頃。

 サユは指導係のレイと四六時中過ごしているうちに彼女との関係を変えたいと思っている自分がいることに気が付いていた。

 間もなくレイの指導は終わる。そうなればレイと自分は魔法連盟S市支部に所属する【リーベル】の同志でそれ以上でもそれ以下でもなくなる。

 その時が訪れることを考えると寂しい。

 別に特別な関係じゃなくても良い。というか、リアとアミのような関係性は自分には未知の領域過ぎて理解が及ばない。

 友達で良い。我が儘が許されるなら親友になりたい。

 現在自分から少し離れた場所に設置されている自動販売機にスマホを翳しているレイに視線を向ける。

 いつ見ても自分とは正反対と言って差し支えない容姿だ。

 それを言うならリアとアミも同じ。彼女達は白と黒で自分達は茶と銀。

 最もリアとアミの場合は髪の色がそうであるだけで他の、種族は同じで肌の色もほぼ同じ。でも性格は似ているようで似ていない。アミよりはリアの方がそれなりに常識人。

 それと比較して自分達は髪の色も違えば種族も肌の色も違う。性格だってレイは熱めだが自分は冷ため。

 なのに縁を深いものにしたいと思うのだから、人というのはなかなかどうして。面白いものだ。

 

「……ふふっ」と笑うサユ。

 と同時にレイが自動販売機からサユへと視線を移し、2人の視線が交り合う。

 彼女の表情を見て少しばかり皮肉めいた言葉を口にするレイ。


「最初に会った時にそういう顔を見せて欲しかったすね」


 言ってからその言葉は自身へとブーメランになって返ってきた。

 美嘉とリアとの初対面時を思い出すと恥ずかしくなる。

 自分はかつてリアと激闘を繰り広げたスカーレットと同じように相手を見下して、醜悪な顔をしていたことだろう。

 消し去りたい真っ黒黒の黒歴史。

 だが今更どうしようもない。

 落ち込みそうになったが、無理矢理に前向きに考えてみることにした。

 寧ろ黒歴史を作ったからリアとアミの2人と仲良くなることが出来たとも言えるのではないだろうか。

 無ければ今頃は魔法連盟本部にいて、2人のことは遠い地にいる【リーベル】の一員程度にしか思っていなかった筈だ。

 それに、模擬戦で多分リアは本気を出さなかっただろう。アミも同じく。

 魔法連盟S市支部所属の他の【リーベル】達に花を持たせていた可能性が極めて高い。

 これが当たりであれば、嫌でも2人の印象は薄くなっていた。

 本部で2人の噂を聞いても噂は噂ときっと切り捨てていた。


「ふむ。そう考えるとなんかこう、切なくなるっすね」


 思わず独り言。聞いたサユから声が掛けられる。


「……何のこと?」

「おっと、声に出てたっすか」


 苦笑するレイ。

 何故か、ふとサユにも自分と同じようにリアとアミと仲良くなって欲しいという想いがレイの胸に去来する。

 サユの指導係を務めているうちに、彼女に情が湧いてきたのだ。

 指導期間が終われば、はい さようならというのは惜しい。

 やらかした者同士だからだろうか? サユとは[気持ち]などを共有していけたらと感じる。

 そこにはリアとアミに対する思いも含まれている。

 共有するには2人と友達の関係になって貰うことが必要不可欠。


 レイは未来の繋がりの為に一計を案じることにした。


**********


 美嘉にサユにレイ。3者が3様の想いを抱き、動き出していた頃。

 リアとアミは春秋食堂を開店させてお客さんを迎えていた。

 いつもなら女社長が1番に来るので『今回もそうかな~』とビールサーバーの前で待ち構えていたアミの目にいつもとは違う顔が映る。


 レイとサユ。まさかの人物達。


「い、いらっしゃいませ?」


 予想外のことが起きたので動揺してお客さんへの入店の挨拶が疑問符付きになるアミ。

 厨房内で聞いていたリアは恋人が可愛くて小さく笑う。

 声を潜めて笑ったリアの声はそれでもアミの耳に届いたらしい。

 自分の失敗に頬を紅色に染めつつ"じろっ"とリアを睨むアミ。

 リアは声は出さずにアミに向けて口だけ動かす。


 ア・ミ・か・わ・い・い。


 リアの真っすぐな声なき声にアミの頬が赤みを増す。

 顔が熱くなり、メニュー表で自身の顔を扇いで熱を冷ましつつ、初めにお客さんに提供するサービス品がおいてある場所へと向かう。

 おしぼりとレモン水が入ったピッチャーとコップ。

 一式をお盆に乗せて次はレイとサユが座っている席へ。

 お盆から丁寧にサービス品一式を彼女達のテーブル上に置いたら今度こそ普段通りの笑顔で普段通りの言葉を口にする。


「ご注文、お決まりになったらお呼びくださいませ」


 アミが何をしてても可愛い。今度は彼女が普段通りに出来たことにリアは微笑ましいものを感じる。


『好きすぎるなぁ……』


 とリアがアミに想いを馳せながら包丁を研いでいるところに当のアミが近寄って来た。


「リアちゃん」


 小声で呼ばれて「どうしたの?」とこちらも小声でリアは返事をする。

 アミの意味ありげな笑い。彼女はその笑いで自身が次に言うであろうことを察した恋人にそれが正解であることを伝えた。


「今夜のお風呂楽しみだね」


 深紅に染まるリアの顔。アミもリアと同じことを思う。

 いや、リアよりも過激なことを思う。


『リアちゃん、大好きだから私に依存させちゃいたいなぁ……』


 アミが真面目に方法を考え、企んでいるとレイとサユから注文がしたいと呼ばれてアミは2人の傍へと歩み寄った。


-

 レイは自身の隣で感動しながらリアの作った鯖の味噌煮定食を頬張っているサユを見て、まずは計画の第一段階が成功したことに内心で握り拳を空高く振り上げた。

 リアとアミとサユ。魔法連盟S市支部内では"ギクシャク"とした雰囲気。

 その理由はアミとサユの2人にある。リアは恋人のアミがサユに対してそうだから釣られているだけ。

 アミは前回共に出動した時にサユがリアの邪魔をしたことをまだ許していないのだろう。

 そしてサユはアミの静かな怒りを敏感に感じ取って怯え、かつ猛省し続けている。

 不毛だ。どちらも歩み寄ろうとしないから冷戦っぽくなっている。

 だからこの店にサユを連れて来た。

 ここならアミが個人じゃなく、店員となるから。

 店の営業を邪魔するような客じゃなければ話し掛けたら普通に応えてくれる。

 それにリアが作った料理を幸せそうに食べるサユを見てアミの顔が柔らかいものになっているのが見て取れる。

 計画第二段階発動。サユに話し掛けるレイ。


「椿」

「……はい?」

「ちょっといいすか?」

「……良いですよ。何ですか?」

「もうすぐ指導期間が終わりを迎えるっすね」


 レイの言葉を受けてサユが手にしている箸の動きが止まる。


「……はい」


 少しばかり声のトーンが落ちた返事。

 レイはもしかしたらサユも同じことを思っているのかもしれないと嬉しくなる。

 で、あれば気持ちを伝えるのみ。


「うちは指導の期間が終わっても椿とは仲良くしたいって思ってるんすよ」

「えっ? それって……」


 サユがレイに視線を向ける。

 真面目な顔のレイ。驚きと喜びが混じった顔のサユ。

 レイがサユの手を取って一気に畳み掛ける。


「だから指導期間が終わっても、うちと仲良くしてくれたら。友達になってくれたら嬉しいっす」


 レイの頬が少し紅い。

 残るはサユの返事を聞くだけ。

 彼女がレイの言葉に応えようとする、その前にリアから突っ込みが飛んできた。


「ねぇ、空木さん。水を差して悪いけど、正直プロポーズしてるみたいに見えた」

「「えっ!」」


 的確な突っ込み。2人して時が止まったように動かなくなるレイとサユ。

 その彼女達を呆れた目で見るアミ。


「リアちゃんには申し訳ないけど、プロポーズならこういう店じゃなくてもっと高級な店でした方がいいと思う」

「大丈夫だよ、アミ。私もそう思うから」


 ……………。訪れる静寂。そこそこ長い沈黙を破ったのはレイ。


「で、サユはうちと友達でいてくれるっすか?」

「うわぁ。私達の突っ込みを無かったことにしようとしてる」

「煩いっすよ。楓乃。……っていうか、楓乃もいい加減に椿を許してやったらどうっすか。いつ迄も怒り続けるのは虐めっ子みたいっすよ」

「そうだね。大人気ないよね。今更だけど、椿さん。ごめんなさい」


 レイに言われて深々と頭を下げるアミ。

 リアもアミと一緒に頭を下げる。


「私もだね。ごめんなさい」


 2人に謝罪されてサユ再起動。

 頭を上げて欲しいとリアとアミに伝えてからサユも頭を下げる。


「……あたしもごめんなさい。あの、空木さん、桜庭さん、楓乃さん」

「なんっすか?」

「うん? 何かな?」

「どうしたの?」

「……厚かましいお願いであることは重々承知してるんですけど、あたしと友達になってください」


 店に響くサユの声。丁度女社長が入店して来る。


「お邪魔だったかしら?」

「いえ、いらっしゃいませ。ビール大ジョッキと鯖の味噌煮定食でよろしかったですか?」

「さっすが店員さん。常連の好みをバッチリ把握してるの格好いいわ」

「あははっ。リアちゃん、いつものね。それから椿さん。銀ちゃんって呼んでいい?」

「畏まりました。銀ちゃんって。……アミ。私は椿さんって呼ぶね。これからよろしく椿さん」

「うちはサユって呼んでもいいっすか?」

「……はい。皆さん、よろしくお願いします」

「なんか分からないけど、お祝い事する雰囲気?」

「私達に新しい友達が出来たのでそうかもしれませんね」

「だねー」

「よーし。そういうことなら吞んじゃうわ」

「えっと、お客様に関わることではないような気が。うちはお金を落として貰えるので有難くはありますけど」

「そういう正直なところも好きよ。このお店」


 かくしてお祝い事な雰囲気になった春秋食堂。

 リアとアミは店員なので宴に巻き込まれることはなかったが、レイとサユは続々と入店してきた常連さん達に女社長が事の次第を話して彼女達を酒の肴に宴が開かれた。

 夜も更けて春秋食堂閉店時間。

 漸く解放されたレイとサユ。

 2人は疲労感満載に自分達の家へと戻っていった。


 途中、レイは夜空を眺めながら悪態を吐く。


「計画の第二段階はサユと友達になることで第三段階は楓乃とサユとを仲直りさせることだったっす。全部成功したっすよ。したっすけど、なんでこんな目に遭うんすかーーーーー」


 レイの悪態に応える者は誰もいない。


**********


 リアとアミとレイとサユ。

 4人はそれから一緒にランチをしたり、街に出掛けたりする仲となった。

 当然、チームも4人で組んだ。初期はチームを組んでいても反社組織を相手にした時と同様にリアとアミが殆どを片付けていたが、彼女達の役に立てない悔しさと情けなさをレイとサユはリアとアミに訴え、特訓を申し出て、2人と一緒に研鑽を重ねた結果、1年も経つ頃には2人と同じSSSクラスに到達。

 それを祝して4人には魔法連盟本部より名誉隊名を授けられた。

 【リス・リーベル】SSSクラスの【リーベル】のみに名乗りを許された隊名。

 4人は他の【リーベル】の憧れの的となり、彼女達を中心にして【リーベル】は纏まる。

 【リーベル】は太陽と月で言えば月の存在。裏の仕事人。

 彼女達の活躍で今日も日本は平和が保たれている。

リスはlys。フランス語で百合を意味します。

リーベルはLiberですが、特に深い意味はありません。

この物語上では異世界より召喚された女性達の総称です。

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