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マギア・リーベル  作者: 彩音
番外編
18/20

18.高慢なる者の雪解け。

 魔法連盟S市支部広場。

 レイは最近北の大地の別の支部からこの支部に移動してきた後輩に手を焼いていた。

 命令違反はザラ。先輩相手に敬語を使わずにタメ口で話す、指導係の言うことは無視。という、ある意味で強者(つわもの)

 S市支部の支部長・美嘉から直々に指導係に任命されたのだが、貧乏くじを引かされたと思ってしまっている。

 実はレイが思っていることはあながち間違いじゃない。

 美嘉はこの後輩が来た当初はリアかアミに指導を任せるつもりだったのだが、彼女の態度を見て一瞬でその思いを捨て去った。

 リアは兎も角、アミは確実にぶちキレしてしまうことが容易に想像出来たからだ。

 あの2人は2人で1人。リアに任せればアミも付いてくるし、アミに任せればリアが付いてくる。

 つまりアミがダメならリアもダメだということだ。

 そこで美嘉はレイにお鉢を回した。

 レイであれば彼女の性格を矯正してくれるだろうと信じて。


 しかし、現実は今の有様。このままだとレイが彼女を見放す日も近いだろう。

 彼女とレイと共に出動した【リーベル】から多くの苦情が美嘉の元に届けられている。

 紙媒体の広辞苑と同じくらいに分厚い抗議の書類が。


 頭痛に腹痛。体調不良に陥る美嘉。

 こんなことになるならば、彼女・サユヴィラこと椿 サユを受け入れるべきではなかったと自身の過ちを悔いるが、1度受け入れてしまった者を面倒が見切れないからと言って返すことは流石に出来ない。

 美嘉がサユを受け入れたのはお金に釣られたという仕様もない理由からだ。

 相手側から引き受けてくれたら200万円を渡すと提示されてお金大好きな美嘉は"ホイホイ"とサユのことをS市支部に引き取った。


 考えなしだ。お金と人材を交換という時点で何かがあると怪しむべきこと。

 美嘉はちょいちょいこういうミスをする。

 思い出す。邂逅時のこと。

 サユの第一印象はかき氷だった。

 小顔で美人だが、氷結さが滲み出ている。人らしい温もりが全然感じられない。まるで出来の悪いAIを搭載した自動人形(オートマタ)のような人物。

 15歳の日本人女性の中でもモデル体型な身体付き。

 細目で濃い灰色の瞳、ラメ入りのような銀のロングプラチナブロンド。

 膨らみはDで身長は162cm。体重はこの年齢のモデルと同じ。

 種族はハイエルフ。


 そんなかき氷の彼女の第一声がこれ。


「……だる」


 美嘉はここで漸く早まったと己の行動を悔いた。

 ……が、もう何もかもが遅い。

 それでもサユは印象とは違ってまともな人物かもしれないと一縷の望みを掛けて前向きに考えたが、ダメだった。

 どうしようもない問題児。レイがサユの指導係を辞任したいと言ってきた場合はどうするかと美嘉は考える。

 胃に穴でも空いたかのような激しい腹痛が襲い掛かってきた。

 サユが来てからS市支部の支部長室の執務机の棚の中に常備している胃薬を飲み、美嘉は一旦自身を落ち着かせようと椅子に深く凭れ掛かって息を吐く。

 束の間の休息を取っている時にスマホに日葵からの着信を告げる表示が画面上に成された。


**********


 美嘉から出動要請を出されたレイは最悪な気持ちの渦中にあった。

 よりにもよって今回の件はリアとアミが同行している。

 美嘉からこれを告げられた時は辞めて欲しいと伝えたが、敵は大規模な反社集団。

 過去に外国籍の男達が起こした犯罪。その者達に武器を提供した連中。

 地下に隠れて活動をしているようで、今迄尻尾を掴めずにいた。

 正確には、大元が分からなかった。それらしい人物を捕えても体内に毒薬でも仕掛けられているのか、警察や【リーベル】に捕えられた段階で死してしまうので、警察と【リーベル】双方共に手をこまねいていた。

 だけじゃない。例えばスマホなんかも爆発してしまうので日葵も大元に辿り着くことが出来ずに歯噛みしていた。

 そんな折の中での朗報。少し前にリア達以外の【リーベル】が始末した犯罪者の中に大元に限りなく近い人間が紛れ込んでいたようで、しかもスマホも爆発させる機器の不具合なのか? 爆発することなく無事に回収。

 日葵に届けられて、彼女は大元の活動拠点を見つけ出した。


 結果、小国の軍隊と同じ程度の規模を持つ団体であることが判明した。

 そんな集団を制圧するにはリアとアミ。SSS(スリーエス)死神達グリム・リーパーズの協力は必要不可欠。

 美嘉としても苦渋の決断であることをレイに伝えて彼女は渋々納得した。


 魔法連盟所有の車内。"ピリピリ"とした空気が漂っている。

 リアとアミは事態を重く見ているのだろう。すでに【リーベル】モード。

 レイは彼女達の雰囲気(オーラ)を感じ取って冷や汗を拭っている。

 運転手も顔が青い。この重苦しい空間の中で緊張感の欠片の無い者が1名。


「……なんか揃いも揃って熱くなっててバカみたい」


 サユ。指導係のレイは彼女の言葉に戦慄を覚えてリアとアミを見るが、彼女達に特に変化は見られない。

 "ほっ"とする半面、言いようのない予感が加速する。

 絶対に何かが起きる。何事もなく凱旋するのは不可能だろうという予感。

 レイは1人静かに覚悟を決めた。

 現場に到着。

 その場所はS市からはそこそこ遠く離れた所。

 遊覧船に乗ってイルカウォッチングが楽しめるMR市。工場地帯の地下。

 当然、工場で働いている多くの者達は地下にそんな組織が存在していることなど知らない。

 だが、一部の者達は知っている。組織の為に工場に潜入して技術や製品そのものを盗用している者がいるのだ。

 リア達は最初にそういった者達を始末することにした。

 日葵から組織員の構成は聞いている。

 ので、割り出しは楽。清掃員の格好をしてひと気のない場所に特定の人物を呼び出してリアが拳銃SigSauer P320を発砲。

 弾丸は実弾ではなく光の魔力。なので銃特有の音は出ない。

 終わるとアミが結界魔法でその者を閉じ込めて、痕跡を完璧に消す。

 何度か同じことを繰り返したらリア達は本丸へ。

 痕跡を消した後の仕事は運転手の仕事。彼女は人の記憶の操作が出来る裏方の【リーベル】。

 リア達が消した人物は元よりいなかったと残った者達に刷り込み。

 片付けを終えたらリア達が戻ってくる迄待機。

 車内に戻った運転手はここ迄の走りで精神的に疲労が溜まっていたのでひと眠りすることにした。


 

 組織の本丸。そこではリア達と反社組織員の攻防が繰り広げられていた。

 ここは本当に日本だろうか? と思ってしまうような軍備品の数々。

 彼らはそれらをここぞとばかりに使用してくる。

 リアの異空間収納魔法とアミの付与魔法・結界魔法が大活躍。

 異空間収納魔法で爆弾などは収納。銃から撃たれる弾丸はリアに関しては問題がないが、アミ自身とレイとサユはリアの真似をすることは出来ない。

 それを補う為の付与魔法。殺気を感じ取って、相手からの銃の発砲と同時に動くことで弾丸を避ける。

 又は結界魔法を盾にして弾丸を止める。


 目の前にいる人物達が普通じゃないことに気付いて焦りだす反社組織員達。

 リアはその隙を逃すことなく彼らの心臓や頭部にSigSauer P320の光の弾丸を撃ち込み、確実に仕留めていく。

 今回は反社組織員の全員を生かすつもりがない。こういう手合いは下手に生かしてしまうと次が生まれる可能性があるから。

 芽吹きはさせない。左手に異空間収納魔法、右手にSigSauer P320。

 戦場はほぼリアの独壇場。アミ達は彼女が零したり、この場から逃げようとする相手を潰していく。

 アミは結界魔法を巧みに操って人を閉じ込めて雑巾絞り。

 過去のアミは結界を張るのは2~3枚が限界だったが、今は何枚も張ることが出来るようになっている。

 それもこれもエアルのあの万能薬とアミ自身の研鑽の賜物によるもの。

 なんなら過去と違って今はアミ自身が思う相手だけを閉じ込めることも可能だ。

 これから逃れられるのは、ここの地球ではアミより魔力の勝るリアだけ。


SSS(スリーエス)死神達グリム・リーパーズ。2人がいれば自分達はいらないんじゃないっすかね』


 と2人の活躍を横目に見つつ思うレイ。

 何処かでそんなことを思う自分に悔しさを感じつつも、レイはレイで自分の仕事を全うする。

 右手に炎を纏わせての敵の焼き払い。


 この調子だと反社組織員の壊滅も間近だろう時にサユがリアの前にしゃしゃり出てきた。


「……効率悪い。あたしならこんなのは一気に片付けられる」


 魔法を使うサユ。彼女の魔法は[氷]。

 空中に浮かぶ何百もの氷柱。


「……行け。百の(ハンドレッド)氷柱(アイシクル)


 飛ぶ氷柱。彼女の魔法は反社組織員達を言葉通りに数多く倒していく。

 それを見てリアにドヤ顔をするサユ。

 出来る隙。そこに反社組織員の1人から銃が発砲されてサユに弾丸が迫る。

 油断した彼女に命中。……する前にリアはサユの頬を横からSigSauer P320で殴りつけた。


「……っ。何するのよ!」


 リアから受けた仕打ちに吠えるサユ。

 彼女が見たのは自分の代わりに銃の弾丸を右肩に受けて負傷しているリアの姿。


「……あたしの代わりに?」


 問うが、リアは何も応えない。

 弾丸が貫通しているのを確認すると彼女は光の魔法を発動させる。


上級治癒魔法(ハイヒール)


 塞がるリアの傷口。

 手当てを終えるとリアは先程と同じようにSigSauer P320で反社組織員達を掃除し始めた。


「……なんで?」


 余りにも冷静なリアの姿を見て呆然とするサユ。

 不意に殺気を感じる。

 避けようとしたが遅かった。

 鬼人と化したアミに殴られて吹っ飛び、壁に衝突。

 アミは"つかつか"とサユの元へ歩いていき、彼女の首元を掴んで壁に身体を押し付ける。


「ねぇ、バカなの? 魔法でもなんでも数打てば当たるけど、命中させればいいってものじゃないんだよ。その結果がさっきのあんた。弱者の分際でリアちゃんの邪魔をするな」


 弱者。言われてショックを受けているサユにアミが膝蹴りを食らわせる。


「……げふっ。ごほっっっ!!」

「邪魔するなら帰って。あんたみたいなチームの輪を乱す奴は必要ない」


 言うだけ言って去っていくアミ。

 以降はサユは事実上の戦線離脱。

 反社組織員達の始末はリアとアミとレイとの3人で完了された。


**********


 数日後。魔法連盟S市支部内の広場。

 最近サユに対する苦情が届かなくなってきたな。と思っていた美嘉はそこで驚くべき光景を目にしていた。

 あのサユが素直にレイの指導を受けている光景。

 夢か幻か。目を擦っていると美嘉に話し掛けてくる【リーベル】の1人。

 リア達と共に反社組織員達の元へ駆けつけた時の運転手。


「支部長? こんな所でどうかしたんですか?」

「え、ええ。あれってサユヴィラさん……よね?」

「サユヴィラさん? ああ、椿さんですね」

「白昼夢でも見てるのかしら?」


 まだ目の前の光景が信じられずに呆然とする美嘉。

 運転手は"くすっ"と笑って帰りの車内で聞いた話を美嘉に聞かせる。


 サユがリアの邪魔をしたこと。

 それによってアミから物理的にも精神的にも痛烈な攻撃を受けたこと。

 そしてそれはサユ自身が過去に自分の仲間達にやったことだったこと。

 彼女は彼女の世界では凄腕のハンターだったらしい。

 真面目であった彼女はパーティを組んでいた幼馴染に仕事の邪魔をされてアミと同じことをした。

 幼馴染はその時は謝ったが、数日もすれば元通り。何度か同じことが繰り返された。

 いい加減にうんざりした彼女は気分転換に幼馴染から離れてソロで活動していた時に日本からの言霊を聴いた。

 地球への召喚に応えた彼女。

 最初は元の世界にいた時と同様に真面目だったのに、自分よりも周りが弱いと思い始めてからはいつしかあれ程に嫌っていた幼馴染と同じ行動を取るようになっていた。

 自分でそのことに気が付いていなかった。

 気付かせてくれたのはリアとアミ。

 サユは帰りの車内で大泣きしながらその[事]を皆に打ち明け、謝罪して自分を取り戻す約束をした。


「……という訳で彼女は今、約束を果たそうとしている最中ということです」

「なるほどね」


 運転手の話を聞き終えた美嘉はもう1度広場を見る。

 そこには雪解けをして楽しそうに魔法を行使する歳相応の女性の姿があった。

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