16.ノース【リーベル】。
親友以上恋人未満の関係から晴れて恋人同士になったリアとアミ。
関係が変わった2人の日常は……、そんなに変わっていない。
元々恋人同士らしいことをしていたから。
変わったことと言えば、お互いのスマホにGPSアプリを入れたことと、毎日寝る前にキスし合うことと、アミが日本に召喚された際に持ってきていた、この世界にはない鉱物・ミスリルが使用された指輪をお互いの左手の薬指に填めるようになったこと。
余談だが、アミはこの他にも自分の世界から様々な物を持ち込んでいたりする。
リアの月のモノによる痛みを軽減させる薬を調合する材料もそのうちの1つだ。
アミが日本に召喚された時に彼女が持っていた鞄の中に色々と入っていた。
リアの使う異空間収納の魔法と同じ能力を持った魔法の鞄。
召喚されたのが旅の最中だったので持ち込めた。
リアとお揃いのミスリルの指輪をアミは"ニヤニヤ"しながら眺める。
と、真横から感じる温もり。
「リアちゃん?」
「アミ。ここに貴女が好きな女性がいるよ。物より私だと思うなぁ」
アミにしがみ付くリア。アミは彼女を抱き締めて頭を撫でる。
「リアちゃん。今思いついたんだけど、今度の日曜日に水族館デートしない?」
「急だね。でも行きたい」
「じゃあ決まりね」
突然のアミの思い付き。
本日は金曜日なので、日曜日はあっという間にやって来る。
2人はその日を楽しみにしつつ、いつものように戯れ合いながらお風呂に入り、キスをしてアミがリアの頭を自分の胸の中に抱え込んでの睡眠。
2日後、約束の日がやって来た。
北の大地・運河が有名な街にある水族館。
最初のうちは優雅に水の中を泳ぐ魚の姿を見て楽しんでいた2人だが段々と様子がおかしくなっていく。
特にリア。"じ~~っ"と一部の魚達から目を離すことなく見つめ続ける。
2~3分して彼女が考えていたことを口にする。
「基本は刺身だよね。後はお寿司に海鮮丼に塩焼き、煮つけ、ホイル焼きに唐揚げも有りか。ムニエルと照り焼き……。美味しそう」
日本人なら結構多くの者が彼女と同じようなことを考えるのではないだろうか。
しかし口に出す者はそう多くはないような気がする。
リアの頭の中は魚料理が盛り沢山。今夜は魚料理とリアは脳内で決定する。
「アミ。今日は魚尽くしで良いかな? 良いよね? 色々作るから楽しみにしててね」
「2人で食べきれる量にしてね」
「冷蔵庫に入れとけば1~2日くらいは大丈夫だよ」
「うん。リアちゃんの中では余らせる程に魚料理を作ること決定なんだね」
「帰りに私達行きつけの場所に寄ってから帰らなくちゃ」
「お店開くときに使ってる場所だね」
「そうそう」
魔法連盟S市支部が契約している店。
支部の敷地内にあるので関係者以外は立ち寄ることが出来ない。
漁師やら農家やら精肉業者やらから直送されているので素材は新鮮そのもの。
リア達の店にこの店の素材は欠かせない。
リアとアミが店に思いを馳せていてると、背後から2人を抱き締めてくる者が現れた。
「店員さん、鯖の味噌煮が食べたいなぁ」
リア達の店の常連の女社長。本人の知らないところでスカーレットに身体を利用されていた経歴がある者。
自分達に抱き着いてきた者の素性を知り、今日もスカートの中に隠し持っている拳銃から手を放すリア。
日常モードから店員モードに切り替えて対応を始める。
「明日でよければお店の開店しますよ」
「鯖の味噌煮定食とビールの大ジョッキをお願い」
「お客様、ここではお出し出来ません」
「あははっ、残念だわ。話は変わるんだけど、最近身体の調子が良いのよね。前は繁盛期でもないのに疲れてる日があったのだけど。なんだったのかしら?」
それはスカーレットのせいだ。改めて他人の口から聞いてみると、迷惑極まりのない者だった。
今頃どうしているのだろうか? 再会するのはごめんだ。彼女が相応の罰を与えられていたら良いなとリアは思う。
「社長。取引先との面談の時間が迫ってますよ」
「ごめんなさい。すぐ行くわ。……明日楽しみにしてるね」
女社長とはお別れ。水族館巡りに戻る。
ペンギン達を見て、イルカのショーを見て、お土産を買ったら館外へ。
2人で今日のデートの感想を言い合いながら【リーベル】ご用達の店へと行く。
リアは今日の夕食分の材料の調達と明日のことを店員に伝えたら終わり。
アミはアイスとお菓子を幾つか買って店を後にする。
「北の大地の牛乳ソフトクリームアイス買っちゃった」
「夕食後のデザートにしようか」
「お風呂の後っていうのもありだと思うよ」
「その手もあるかぁ」
"うんうん"と頷くリア。
アミは小悪魔な笑みを浮かべて彼女に囁く。
「お風呂上りが良いかもね。リアちゃんを湯あたりさせるつもりだから」
「……っ。明日から学校だから強引なのは無しの方向でお願いね」
「考えとく。リアちゃん、腕組んでも良い?」
「勿論」
リアの許可を得て彼女の腕に自身の身体をアミが絡める。
顔を見合わせて綻ばせる2人。
「リアちゃん、リアちゃん」
「ん?」
「世界で一番大好きだよ!」
「その世界ってアミの世界のこと? 地球のこと?」
「私の世界とリアちゃんの世界と地球を合わせたくらい大好き」
「じゃあ私はそれ以外の世界も合わせたくらいアミが大好き」
「むっ! リアちゃん、少しずるい」
「でも満更じゃないでしょ?」
「それはそう」
バカップル全開な会話を繰り広げつつマンションに到着。
リアとアミは玄関に入るなり抱き合って互いの唇を重ねあった。
**********
翌日。私立白咲女子大学附属中学校内。
朝のホームルームを終えて1時限目の授業中。
リアは初日の頃から変わらずに今日も真面目にノートを取っているフリをしつつ脳内では昨日のアミとのデートのことやその夜のことを追憶。頭がピンク色。思い出してはいけないこと迄思い出しそうになってリアは自分の太腿を強く抓って痛みによる消去を行う。
"ちらっ"と授業の担当教師を見るが今回は彼女が変なことを考えていることには気付かれずに済んだらしい。
悪いのはリアだが、注意を受けるのは好きじゃない。
安堵するリア。それにしても、アミのことを考えるとどうしてもお花畑になってしまう。
別のことを思い描こうとしたら机の上に現れるエアル。
また悪さでもしに来たんだろうか。
そうなる前に先手を打っておくことにする。
〈エアル、変なことしたら強制送還するからね〉
〔リアお姉ちゃん、昨日はお楽しみだったね〕
〈んなっ! 見てたの?〉
〔浴場の天井に張り付いてた。2人共案外油断が多いよね〕
〈ごもっとも……〉
つい先日も女社長に背後に立たれたばかりだ。
【リーベル】の任務中ならば神経を研ぎ澄ませているが、日常に戻ると緩ませてしまう。
リアが凹んでいる間に彼女の机の上からエアルが飛び立つ。
様子を見守るリア。エアルはリアの目の前で空中遊泳しつつ止まった。
〈エアル?〉
日葵の元にでも行って悪戯を始めるのかと思っていた。
自分の目の前で止まるとは。意外だ。
いつになく真摯な顔をしているのも気に掛かる。
〔リアお姉ちゃん、調べたこと一応報告するね〕
〈何を調べたの?〉
〔スカーレット公爵令嬢についてなんだけど〕
〈うわっ、聞きたくない〉
耳を塞ぎたい衝動に駆られる。
してもこれは思念。耳で聞いている訳ではなく、脳内で直接聞いていることなので無意味なのだけど。
〔……黙ってた方が良い?〕
〈ごめん。それはそれで気になるから聞かせて〉
〔じゃあ話すね。あの女はこことは違う地球で生まれた女でその時の名前は赤銅 美玖。ゲーム会社に勤めてた。それで<紅の花 ~神凪モラトリアム~>っていうのがあの女の最終作。完成と同時にあの女は原付きでスピード違反を起こして、警察に追われてる間にカーブを曲がり切れずに電柱にぶつかって亡くなった。中・高校時代に同級生に虐めをしていた前科があるよ。会社員時代は上の者には媚び諂って、同僚にはいつも上から目線だったから嫌われてたみたい。ちなみに今はオークの嫁になってる〕
〈オークの嫁? 何かの比喩?〉
〔ううん、カイル第三王子だっけ? があの女の悪行を国民に全部バラしてあの女は様々な人達の怒りや不興を買ってオーク達の住処に捨てられたんだよ。だから比喩じゃない〕
〈なんとも言い難い人生だね〉
〔うん〕
リアとエアルはスカーレットのことを思って本気で饒舌にし難い気分となる。
彼女の因果が彼女に戻ってきたと言えばそれ迄だが、それにしても……。
リアがなんとなく自分の胸を押さえると同時に鳴り響く授業終了の音色。
エアルはそれを受けて妖精界に帰還する。
入れ替わりにリアの元に集う彼女のクラスメイト達。
「ねぇねぇ、桜庭さん。楓乃さんとはどんな感じなの?」
「毎日見せつけながら登校して来るもんね! 幸せのお裾分けありがとう」
「色々聞きたいなぁ」
「あははっ」
女3人寄れば姦しいという言葉がこの国にはある。
そしてここには3人どころじゃない女性達が集ってる。
自分もだが、アミも苦労してるんだろうなぁと思うと漏れる笑み。
リアは深入りはさせないように言葉を選んでアミとの生活を語る。
皆が明るく、仲の良いクラス。
今日もリアは充実した学校生活を楽しむ。
夜。女社長や他の常連さん・飛び入り客の相手をして閉店したリア達の店。
片付けを終えて、いざゆっくりしようとしたところで震えるスマホ。
電話に出るとリア達が暮らすマンションの近くで立てこもり事件が発生中とのこと。
【リーベル】出動。本日リアが手にしてるのは魔剣グラムでもニューナンブM60でもなくSigSauer P320。
アニメのリアが使用している拳銃。魔法連盟から支給されたので彼女はこの拳銃を持つようになった。
水族館にいた時に持っていたのもこの拳銃。
尚、支援魔導士のアミはいつも通り武器は手にしていない。
「正直に言っていい?」
「どうしたの? リアちゃん」
「手早く終わらせて、帰ってお風呂入って寝たい」
「うん、同感」
「じゃあ、有言実行しに行こうか」
「うん!」
北の大地・魔法連盟S市支部所属【リーベル】リアとアミ。
2人は息ぴったりな連携で静かに犯行現場に突入して―――。
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マギア・リーベル
本編 Chapitre complet Fin.
ご拝読ありがとうございました。
読者様に少しでも楽しんで頂けていたら幸いです。
ではまた別の物語で。
作者こと彩音
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