14.光と闇の最終決戦。
その日、リアとスカーレットは最後の対決に臨んでいた。
リアの魔剣グラムとスカーレットの魔剣ダインスレイヴが交差する。
お互いの頬の皮を薄く斬り裂いて居場所を入れ替える2人。
瞬時に再び剣と剣が結び合う。
実力は拮抗。ならばと自身の体内に宿る闇の魔力を使ってアンデット達をスカーレットが喚ぶ。
夥しい数。彼女は相も変わらずに醜く顔を歪めるがリアは涼しい顔。
スカーレットが闇の魔力を使うなら、リアは光の魔力を行使する。
リアの足元から大きく広がっていく光の魔法陣。
自分達が最も苦手とする力に包まれて苦しむスカーレットのアンデット達。
「あ、貴女……。またバグが増えてるじゃない。貴女の力は外には出せない筈よ」
「屡々意味が分からないこと言うよね。バグって何? 遺体帰化魔法」
遺体帰化魔法。
その名の通りにアンデット達を浄化して、強制的に成仏させる魔法。
リアの魔法を見て別の意味で悲痛な表情になるスカーレット。
「わたくしのアンデット達が! ざまぁされるヒロインの分際で」
怒られても困る。ざまぁされるヒロインって何?
日本でそういう系統の物語を見聞きしてきたが、あれらは架空の物語。
現実で言われても変な人が変なことを言っているようにしか聞こえない。
リアが思考している間にダインスレイヴで彼女の左胸を突こうとしてくるスカーレット。
空気の流れと気配を読み、リアは後ろに飛びのくことで彼女からの攻撃を凌ぐ。
次はこちらの番。スカーレットの元へ走ってリアはグラムに光の魔力を付与する。
渾身の12連突き。スカーレットはダインスレイヴで防ぐが、小さな傷が身体中に出来上がる。
「今のを防ぎきるとは思わなかったよ」
「くっ……。嫌味ですの?」
微笑むリア。苦々しい顔をするスカーレット。
スカーレットは先にリアがやったように一旦後ろへと飛ぶ。
再び喚ぶアンデット。何度やろうが結果は同じ。
光の魔法を行使するリア。彼女の元へと走り、ダインスレイヴを高く振り上げるスカーレット。
リアはグラムを横にして彼女からの攻撃を防ぐがお腹に走る痛み。
「っ」
隙を突かれた。ダインスレイヴにばかり目がいっていた。
膝蹴りをしてくることは予想していなかった。
グラムを握る手に力を籠める。
半円を描くようにリアはグラムを使う。
弾くスカーレットのダインスレイヴ。
2人共に出来る大きな隙。
スカーレットは闇魔法の塊をリアにぶつけようとし、リアは太腿にある拳銃を抜く。
動きはリアの方が早い。スカーレットの脚に拳銃の弾丸を食らわせた。
「ぐっっっっ!!」
「ふぅ……」
右手にグラム。左手に拳銃ニューナンブM60。
グラムを振るうリア。スカーレットもダインスレイヴを振るう。
2人して突き。合わさる剣の切っ先と切っ先。
「貴女はわたくしのゲームのキャラなんですのよ! どうしてわたくしの思い通りにならないのよ。バグはさっさと修正されなさいよ」
「ゲームのキャラ……? まさか貴女がいる世界をゲームの世界だと思ってる?」
「あそこはわたくしが作ったゲームの世界ですわ。貴女はわたくしにざまぁされるヒロインですのよ」
「赤子の頃から育ってきて、どうしてそう思えるのか私には分からないなぁ」
「煩い煩い。NPCにプレイヤーの気持ちが分かるわけがありませんわ」
やっぱり歪んでる。
スカーレットの言い分が少しも理解出来ない。いっそ哀れだ。
エアルを喚んで彼女の力でスカーレットを遠くへと吹き飛ばすリア。
距離が出来たことでリアは"ちらっ"とここからは若干離れた場所を見る。
アミと全国に指名手配されていた連続殺人鬼が戦っている。
アミの武器は魔法。連続殺人鬼の武器は斧・リサナウト。
動きは鈍重だが、驚く程に肉体が頑丈なようでアミは攻めきれないでいる。
今朝方2人で登校した時に下駄箱に果たし状が入っていた。
指定された場所は廃墟と化したS市北区S駅。
それを見た2人は魔法連盟に連絡するか否か迷ったが、果たし状に魔法連盟に連絡した場合はS市のあらゆる所で爆弾が爆発すると書かれていたので2人は組織には何も言わずに指定された場所に赴いた。
待っていたのはスカーレットと連続殺人鬼。
いつもと違ってスカーレットは本体で現れた。
自分の思い通りにならないリアに業を煮やしたらしい。
リアとしてはスカーレットが毎度お馴染みで女社長に憑依をしてなくて"ほっ"としたのは内緒だ。
そうであったなら苦戦していただろう。
本体で現れて来てくれたお陰で手加減なく戦えている。
「余所見なんて随分と余裕ですわね」
エアルに飛ばされたスカーレットが戻って来ている。
思っていたよりも早かった。
一瞬の油断が生命取り。
スカーレットのダインスレイヴがリアのグラムを弾き飛ばす。
続いて頭上にダインスレイヴが振り落とされたが、リアはニューナンブM60を盾にしてスカーレットの攻撃を躱した。代償を受けて破壊されるニューナンブM60。
「これで貴女の武器は無くなりましたわね」
ダインスレイヴに闇の魔力をスカーレットが付与する。
彼女の剣に纏わりつく成仏出来なかった霊達。
|| おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ ||
|| 助けて助けて助けて…… ||
|| 殺して殺して殺して殺して…… ||
霊達の苦しみの声が、呻き声がリアの耳に響く。救いを求める姿が目に映る。
霊への冒涜。到底容認出来るものじゃない。
「エアル」
〔うん! リアお姉ちゃん〕
飛ばされたグラムに憑依するエアル。
スカーレットがリアにトドメを刺そうとするが、ここでリアは魔眼を発動。
スローモーションになったスカーレットの攻撃を軽々と避けてリアはエアルの力で自身の手の中に戻ってきたグラムを握りしめる。
エアルが憑依したことで光と風の力が付与されることとなり、グラムの姿が変わる。
刃先は純白。刀身は緑。鍔は黒で握り部は茶。柄頭は刀身と同じ緑。
「な、なんですの。その剣」
「魔剣グラム 改め 聖剣レーヴァティン。私とエアルの魔力を融合させた剣」
「バグが多すぎですわ!! わたくしは認めませんわよー」
半狂乱。狂戦士となったスカーレット。
ダインスレイヴの容赦ない剣舞がリアを襲うが、彼女はスカーレットの攻撃を紙一重で躱す。
「このっ、このっ、どうして当たらないんですのー!」
最終的に蛮勇となったスカーレットの攻撃。
頭上高くダインスレイヴを掲げ、振り下ろすといったもの。
隙だらけ。リアに余裕で避けられたダインスレイヴは廃墟の床に深く突き刺さった。
魔眼を解除。床に突き刺さったダインスレイヴを踏みつけるリア。
「その足をどけなさい。邪魔ですわよ!」
「……あんたはさ」
聖剣レーヴァティンでリアはスカーレットのダインスレイヴを斬る。
スカーレットの剣は刃を失った。
「遺体帰化魔法」
ダインスレイヴから解放された霊達が天へと召されていく。
それを見て呆然としているスカーレットの首に聖剣レーヴァティンをリアが傍に寄せる。
「本物の悪役令嬢にしかなれないよ」
聖女がスカーレットのようなことをするものか。
第一あの世界はゲームの世界じゃなくて現実世界だ。
彼女の所業が国民に伝われば、国民達がバカではない限りはスカーレットを国母に推す者なんていなくなるだろう。
過去にエアルから聞いた話では王族や国民を騙して国を好きなようにしているようだが。
「殺す気は無かった。でも、気が変わった。あんたは殺す」
聖剣レーヴァティンを振るってスカーレットの首をリアが凪ごうとする。
しかし、スカーレットは奥の手を使って彼女の行動を止めさせた。
「これ、何か分かりますかしら?」
リアの行動を止めさせたのはスカーレットが持っている物体。
スマホサイズ ( 幅128cm×高さ280cm ) の金属で出来た箱の中央に赤いスイッチのような物が付いている。
スカーレットが持つ物体にリアの目は釘付けになった。
嫌な寒気がする。脳が警告を発している。あのスイッチを押させてはならないと。
「ふふっ、形勢逆転ですわね。これは貴女が考えている通りのものですわ。わたくしがスイッチを"ポチッ"と押せばS市は"ボンっ"ですわ」
「……私の生命をあんたに差し出せばいいわけ?」
「おっほほほほほ~。物分かりが良いじゃありませんの。その通りですわ。まずはその物騒な剣を捨てて貰おうかしら」
リアがスカーレットの要求に従って聖剣レーヴァティンを床に落とす。
エアルがグラムへの憑依を止めてリアを止めようとするが、彼女は力なく笑んでアミのことをエアルに頼み込んだ。
「エアル。アミのことをお願い」
〔リアお姉ちゃん!〕
「私は市民を守らないと。私は……、【リーベル】だから」
「ああ、やっとバグが修正されますわ」
スカーレットがリアの生命を刈り取る為に懐にずっと隠し持っていたナイフを取り出す。
両手を上げて大人しくするリア。
〔リアお姉ちゃん、ボクはこんな結末許さないから!〕
エアルは憤慨してスカーレットの元に向かおうとするがリアに掴まれて動きを封じられる。
足掻いてもリアは身体能力を強化しているのか? 抜け出せそうもない。
〔リアお姉ちゃん。離して〕
「ごめん、エアル」
スカーレットの持つナイフがリアの左胸に迫る。
後少しでスカーレットのナイフがリアの胸を貫こうとしたところで意外なことが起きた。
「スカーレット嬢。これ以上罪を重ねるのはもう止めておけ」
いつの間にスカーレットの背後にいたのだろうか?
アイスホッケーの選手が被る仮面を左手に持っている連続殺人鬼。
彼がナイフを持っているスカーレットの右腕を自らの武器・リサナウトにて根本から斬り落とした。
「ぎゃあああああ。わたしくの、わたくしの腕がぁぁぁぁ」
スカーレットの名前の如く彼女の腕から赤い飛沫が辺りに飛び散る。
一体何が起きているのか? 間抜けな顔をするリアとエアル。
訳が分からずにいる彼女達の元にアミがやって来て簡単な説明を始める。
「その人、私との戦闘の最中に第三王子様? に意識を乗っ取られたみたい。で、私との戦闘は強制終了。第三王子様はそこで転がってる女の悪行を止めに、ね」
「第三王子……。カイル殿下?」
「ああ、久しいな。アデリア。息災なようで何よりだ。それにこの世界に来てから可愛さが増したような気がするよ」
邪影が本来の連続殺人鬼の人格と身体を乗っ取った。
要はスカーレットの支配に打ち勝ったということ。
感心してしまうリア。
カイルとはスカーレット公爵令嬢の罠に掛かる前は友達の友達の友達くらいの仲だった。
ので、その頃と同じように砕けた言葉をリアは口から発する。
「殿下は……、不細工に磨きが掛かりましたね。その手に持ってる仮面被って貰って良いですか?」
「不敬だぞ。アデリア」
「私はもう、あの世界とは関係ありませんので」
「「……ぷっ」」
軽口を叩き合い、その後はどちらからともなく笑いあうリアとカイル。
アミとエアルが嫉妬してリアの身体にしがみ付く。
アミは彼女の右腕に。エアルは彼女の左腕に。
微笑ましい様子にカイルが穏やかな声をリアに掛ける。
「良い仲間に恵まれたようだな。アデリア」
「はい。……仲間というか親友以上恋人未満の女性と使い魔ですけどね」
「恋人同士にしか見えないんだがなぁ。しかし、こんなことになるなら無能なフリなどするべきではなかったな」
「王位を継ぐのが嫌だからしてたんでしたっけ?スカーレット公爵令嬢に邪影にされても完全には支配されなかったみたいですし、殿下であれば確かに王位を継がされていた可能性はありますね。でも、せめて平凡な人物設定にしておくべきでしたね。そうすれば王位継承者からは外されて王族が持っている貴族の爵位と領地を与えられて終わっていたでしょうに」
「そうだな。今更悔やんでも仕方がないが。……さて、これ以上長居するのはアデリアの今の世界の者達に悪い気がするな。僕達は自分達の世界に戻るとするよ」
「帰り方知ってるんですか?」
「五稜郭だな。あそこは他の世界を繋ぐ場所になっている。今のままだと又何者かにこの世界を荒らされるやもしれん。僕達が帰った後は一部を壊すなり、物の置き場を変えたりしておけ」
「忠告ありがとうございます。お元気で。カイル殿下」
「ああ、アデリアもな。……今回みたいなことはもうするなよ。その両腕に引っ付いている者達に一生監禁されることになるぞ」
怖いことを言ってくれる。
アミとエアルを見つめるリア。
彼女達は満更でもない顔をしている。
怖い。リアは次回は上手くやろうと心に誓った。
**********
スカーレットとカイルの後日談。
元の世界に戻ったスカーレットは傷物になったことで人が寄り付かなくなった。
だけではなく、これ迄の悪行が謎の人物によって国民達に知らされた結果、豚の魔物公爵に嫁がされるどころか本物のオークに嫁がされる。……彼らの生息地に捨てられることになった。
その後、スカーレットを見たものは誰もいない。
カイルは人里離れた山奥に住み着いた。
自給自足の日々。毎日がサバイバル。大変なことも多いが、これはこれで良いかと本人は満足していたりする。
今日も彼は蛇を仕留めた。
無能を演じた王子様は生涯をここで暮らす。
自分が育てた物や山の獣達を食らいながら。自由気ままに……。




