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マギア・リーベル  作者: 彩音
本編
13/20

13.覚醒の光魔法。

 リアが意識を途絶えさせてから3日目。

 アミは生きる屍と化していた。

 体内における自然現象が発生した時だけは動くが、それ以外の時はリアの手を握ったまま少しも動くことはない。

 ここは魔法連盟S市支部の医務室。美嘉や本部の指示でまだS市にいるレイ達が代わりを申し出るが、アミの耳には彼女達の声は届いていないようでリアから離れずにいる。

 無理に離そうとするとアミに弱体化させられて外に放り出されるので打つ手がない。

 アミは食事も、睡眠も、水を飲むことさえしていない。

 このままではリアと共倒れになってしまうことは必至。


 案外それを狙っているのかもしれない。

 リアはもう一生目が覚めることは無いかもしれないと医師から無慈悲に美嘉達に告げられたから。

 涙は枯れてしまった。……というより身体に充分な水分が足りてないので涙が出ない。


「リアちゃん」


 3日のうちに(しわが)れた声となった。

 点滴だとか生命維持装置だとか様々な機械に繋がれたリアの身体。

 これらの機械がリアを生かしている。

 医師は「死なせてあげるのが彼女の為かもしれません」などとほざいたがアミは頑として受け入れず、戯けたことをほざいた医師をタコ殴りの刑に処した。


「帰ってきて。1人は寂しいよ……」


 アミが心からの弱音を虚空に漏らす。

 脳内に蘇るリアとの日々。

 走馬灯のようで縁起でもない。


「リアちゃん」


 声が聴きたい。笑い掛けて欲しい。

 美味しいご飯を一緒に食べて、お風呂ではしゃいで、自分の胸の中で眠って欲しい。

 リアにこんな場所は似合わない。機械なんていう無機質な物に繋がれてじゃなくて、自然のままに生きて欲しい。

 枯れた涙が一滴だけアミの瞳から零れ落ちる。

 零れた場所はリアの右の手の平。

 そこが眩い光を放つ。

 何事かと見ていると小さな生物がアミの瞳に映る。

 彼女はリアの使い魔・エアル。

 両手で自分の背丈よりも大きい350ml(ミリリットル)の瓶を抱えている。

 透明なので中身が見える。瓶の中身は黄金の液体。


 エアルは"きょろときょろ"と辺りを見回して、アミの姿を見つけると彼女に向けて謝罪し始めた。


〔遅くなってごめんなさい。万能薬作ってたから〕

「万能薬?」

〔リアお姉ちゃんと繋がりが切れそうになったから、絶対に何かあったんだと思って作ってたんだよ。妖精界にのみ咲く何百もの花の蜜が必要で、それを集めていたらこんなに遅れちゃって〕


 "しょぼん"としたエアルの顔。

 アミは希望の光が灯ったのを感じて今迄消灯していた瞳に輝きが宿る。

 リアが助かるかもしれない。アミは座っていたパイプ椅子から立ち上がろうとして身体を揺らがせる。

 身体は正直だ。彼女はもうちょっとで意識を失ってリアの隣に並ぶところだった。

 飛ぶエアル。リアより先にアミの口の前に万能薬を持っていく。


〔アミお姉ちゃん、これ飲んで〕

「私じゃなくてリアちゃんに」

〔全部じゃなくて良いんだよ。2~3口飲めば充分。それが終わったらボクのことを手伝って欲しい〕

「分かった」


 エアルから瓶を受け取って中身を口にするアミ。

 濃厚でありながら、不思議と口の中が潤う蜂蜜。

 飲み込むと身体に活力が戻ってくる。

 寧ろ、以前よりも体調が良い。

 今ならなんでも出来そうな気がする。


「何、これ」

〔妖精界の秘伝の薬。凄いでしょ〕


 ドヤ顔のエアル。本当に凄い。これならリアのことを助けられる。


「凄い! 凄いよ! それで、私は何をしたら良いの?」

〔リアお姉ちゃんにこの薬を飲ませて欲しい。意識があれば良いんだけど、無いからボクだとちょっと難しくて〕


 背丈などが足りないという意味だろう。

 アミは少し考えてからエアルから受け取った万能薬を口に含む。

 リアの頬に"そっ"と自分の手を添えて彼女の唇に自分の唇を重ねる。

 口移し。尊すぎてエアルの頬が紅くなる。


 "こくん"アミに聴こえるリアが万能薬を飲み込んだ音。

 口を離してアミはリアの右手を両手で包み、祈るように彼女に言葉を紡ぐ。


「戻ってきて……。リアちゃん」

 リアは暗闇の中にいた。

 自分が立っているのか、前後左右どちらに向いているのか分からない。

 何も考えることが出来なくて、暗闇の中をひたすらに漂い続ける。

 浮遊感は意外と気持ちが良かった。"ふわりふわり"。身を任せていたら暗闇の中に光が差し込んできて、リアは自分のことやアミ達のことを思い出した。


『ここから出なくちゃ!!』



 光に手を伸ばすリア。



 目を開く。なんだか奇妙な物が自分の身体に巻き付いたり、刺さったりしている。

 気持ちが悪い。すぐに抜きたい。取りたい。

 顔を顰めるリアに彼女の大切な者達の声が聴こえてくる。


「リアちゃん!」

〔リアお姉ちゃん!〕

「アミにエアル? ここは?」

「魔法連盟S市支部の医務室だよ。リアちゃんはもう2度と目が覚めないかもしれないって言われてたんだよ? 戻ってきてくれて良かった」

〔ボクを置いて勝手に遠くへ行くの禁止だからね!!〕


 1人はリアの右手を包みながら、1体はリアの頬に自分の頬を擦りつけながら泣きじゃくる。

 リアは貰い泣きをしそうになったが、やるべきことがあるので涙を流すことは堪えた。

 ひとまずはアミとエアルに謝罪をして、それから光の魔法を使用する。


最上級治癒魔法(グレーターヒール)


 光がリアの身体を包み、彼女の傷を癒す。

 万能薬の効果で今迄リアが出来なかったことが出来るようになった。

 彼女の進化を目の当たりにして驚くアミとエアル。


「あれだけの傷が一瞬で。エアルの万能薬って冗談抜きの万能薬なんだね」

〔ボク達の万能薬は万病を治癒することが出来るけど、魔法については行使する者の潜在能力を引き出すだけだよ。……リアお姉ちゃんがそれだけの力を持ってたんだよ〕

「実は自分でもびっくりしてる。……さて、アミとエアル。敵が来るから身を隠しておいてくれる?」

「敵?」

「見てたら分かるよ。兎に角隠れて」

〔アミお姉ちゃん〕

「病み上がりなんだから無理しないでね。リアちゃん」

「うん」


 敵が来る? 魔法連盟たるこの場所に?

 覚える一抹の不安。アミとエアルはリアのことが心配で仕方がないが、彼女を信じて身を隠す。

 聴こえてくる足音。どんどんこちらに近付いて来ている。

 そのうち足音はリアの病室のドアの前で止まった。


「……今日はいないでくれよ。楓乃 アミ」


 不穏な言葉と一緒にリアの病室のドアが開かれる。

 自身が身を隠している場所からアミに見えたのは3日前にタコ殴りにした医者。


『あいつ……』


 殺意を覚えるが、リアに止められているも同然なので出ていくことが出来ない。

 当のリアは目覚めているのに目を瞑って眠り続けているフリをしている。


「おおおおお! 今日は楓乃がいないじゃないか。素晴らしい。素晴らしい日だよ。ああ、やっと俺は桜庭を殺すことが出来るんだ。あはっ、あははははははっ」


 その顔は人間とは思えない程に醜悪。

 少し前にスカーレットがリアの前で見せた男版と言った顔。

 

「何あいつ……。気色悪い」

〔全面的に同意するよ。アミお姉ちゃん〕


 引く。引くなと言われても無理だ。

 たたでさえ気色悪いのに、医者は情緒不安定者の如く踊りだすものだからアミとエアルの全身に"ぞわりっ"と震えが起きる。

 寝たフリをしているリアも気配を感じて演技を続けることがとてもしんどい。


「たりらりら~ん。お~れは桜庭を殺せるぞ~。いえ~い」


 無理無理無理無理無理。キモいキモいキモい。

 リアとアミとエアル。全員の心中。

 踊りは5分は続き、リア達は何もしていないのに疲労感が凄まじいことになった。


「さ~て、君は死ぬんだよ。桜庭~~~」


 踊りを終えた医者がリアの傍に行く。

 彼が生命維持装置を外したところで頑張って閉じていた目を開けるリア。


「なっ! おまっ、ま……。なんで!」

「……演技途中で止めようと何度も思ったよ。あんたは人を疲れさせる天才だね」


 リアが苛々しながら医者の腕を掴む。

 さっき迄の元気は何処へ行ったのか? 肉食獣に睨まれた小動物のように大人しくなる医者。

 こっちが彼の本性なのだろう。ハイになっていたテンションが失われて[真]が表に現れてきた。

 興が削がれる。光の魔力を彼の腕を掴んでいる手に一部移動させる。


浄化魔法(ピュリファイ)


 魔法発動。彼女の浄化の光を受けて床をのたうち回る医者。

 リアはその間に自分に巻き付いている管やら刺さっている針やら巻かれている包帯やらを解きに掛かる。


「この騒ぎは何?」

「大丈夫っすか? 桜庭」

「美嘉さんに空木さん。おはよう」

「「うわぁぁぁぁぁ! 起きてるーーーーー」」

「人を幽霊みたいに言わないでくれるかな」


 ベッドから床に足を下ろして立ち上がるリア。

 異空間収納の中から魔剣グラムを取り出してその時を待つ。

 数秒して出現する邪影。宰相の息子。


「魔法連盟の中にこんなのがいるとはね。そう言えばこないだの爆弾魔の中には前に見たリアちゃんの義理の弟? がいたよ」

「びっくりしたっす。いたんすか、楓乃。……ってかこいつ何っすか?」

「空木さんにも見えるの?」

「え? 何々? 何の話?」

「美嘉さんには見えてないみたいだね」

「……私は邪影って呼んでる。元々性根が腐ってる奴に取り憑いて悪化させる醜悪の権化。じゃなくて手下かな」


 リアがグラムを振るう。

 邪影は横一文字に斬り裂かれて世界から消失した。


「ふぅ……。終わった終わった~」

「あの、アデリアさん。動いて平気なのかしら?」

「全然大丈夫だよ。それはそうと、そこの医者連行してね」

「そうね」

「……桜庭。そこのちっこいのはなんっすか?」

「エアルも見えるんだ! 流石エリート様」

「黒歴史っす」

〔リアお姉ちゃん、リアお姉ちゃん〕

「うん?」


 のほほんとした空気。

 リアの肩の上に乗って彼女の服を引っ張るエアル。

 リアが反応したら、エアルはレイを指さしてリアに問う。


〔あの人は男の人?〕


 …………………………。

 静まり返る場。耐え切れずに吹き出してしまうリア達。

 レイは"ぷるぷる"と震えてエアルに告げる。


「うちは女っすーーーーーーーーーー!!」


 リアが復活した日。魔法連盟S市支部にレイの悲痛な叫びが木霊した。

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