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マギア・リーベル  作者: 彩音
本編
12/20

12.歪んだ令嬢。

 スカーレット・フォン・カリバン公爵令嬢は焦っていた。

 どれだけ追っ手を差し向けても死なない怨敵。

 逆にますます力を付けて強くなっていく。

 彼女のいる【リーベル】のデータを入手したのに、依頼したハッカーに裏切られて計画が台無しになってしまった。

 彼女が死んでくれないと自分は聖女にはなれない。

 彼女が死ねば光の魔法は自分に移る筈なのだ。

 ここは悪役令嬢がヒロインをざまぁする世界。

 自分が開発したゲームなのだから間違いない。

 ざまぁが終われば自分は聖女となって王太子と結ばれてやがては国母となる。

 愚者な()()()()()はゲームの通りに駒として使った。

 これでヒロインは牢獄行き。途中迄はシナリオ通りだったのだ。

 他の()()()達も正しく動いてくれていた。

 ゲームは完璧だった。ヒロインが落ちぶれていく姿を見るのは愉快で堪らなかった。


 ところでゲームを作ったのは自分だが、上級国民のことは好きじゃなかった。

 悪役令嬢と言えば、令嬢なのだから上級国民の部類に入る。

 だが、自分が作っているのは上級国民(悪役令嬢)下級国民(ヒロイン)をざまぁする物語。

 自分の思想と正反対の物語を作っている筈なのに、作っている間楽しかった。

 ゲーム作りも佳境に入り、テストプレイをする段階になった時に気が付いた。

 自分は上級国民が嫌いなのではなく、上級国民に嫉妬していたのだと。

 これは自分だけではなく、前世の多くの者達がそうであったと思っている。

 現に普段上級国民を嫌っている者が上級国民が下級国民を負かす物語を書いたりしていた。

 それこそが証拠だ。


 今世、上級国民に生まれ変わった自分は勝ち組だ。

 ヒロインの処刑もゲーム通りだったのに、前世でテストプレイ・完成・発売後に起こらなかったバグが起きた。

 自分が生まれた世界のパラレルワールドにヒロインが呼ばれて処刑前に消えたのだ。

 それともう1つ。自分の使い魔になる筈だったエアリアルがヒロインの使い魔になった。

 バグは修正しなくてはならない。直そうとしているのにバグ(ヒロイン)は消えてくれない。

 残りの時間が無い。後1ヶ月以内にヒロインを始末しないと自分は別の公爵家に嫁がされることになる。

 バッドエンドとして用意した場所へ。

 あれは豚の魔物(オーク)だ。人間だが人間じゃない。

 冗談じゃない!! 折角勝ち組になれたのに転落してなるものか。

 ヒロインをなんとしても殺す。今度こそ失敗はしない。

 震えて待つが良い。ヒロイン。お前の生命は1週間後に失われる。


「ははっははははははははははははははははははははっ」


 スカーレットは狂ったように笑う。

 彼女はそれからすぐにヒロインを葬る為の刺客をパラレルワールドの日本へと解き放った。


**********


 S市北区S駅。北の大地の中でも人の利用率が最も高いと思われる駅。

 この駅で爆弾テロ事件が起きた。

 犯人は20数名。リア達は魔法連盟S市支部からの報告を受けて急いで駆け付けたものの、正直手をこまねいている状況にある。

 場所が駅なだけに多くの者が人質となってしまっている。

 犯人の武器が爆弾なだけに迂闊に近付けない。

 それらの要因が【リーベル】を苦しめている。

 人質がいなければ、アミが結界を張ることで制圧は楽になっていただろう。

 だがこの状況では人質迄結界内に閉じ込めてしまうことになるので、アミの結界魔法は使用することが出来ない。

 厄介な所を選んでくれたものだとリア達は舌打ちする。


「リアちゃん、どうする? 突入する?」


 犯人から死角となっている所。壁の裏に隠れて相談するリア達。

 突入はダメだ。先に強行突破しようとした仲間がいたが、犯人達の爆弾で吹き飛ばされて生命を散らしてしまった。

 仲間を失うところはもう見たくない。

 悩むリア。犯人達がどれだけの爆弾を持っているのかが分かっていればやりようがあるが何分(なにぶん)にも未知数。慎重にならざるを得ない。


「突入はダメ。死んじゃダメだよ!」

「ごめんね。今のは聞かなかったことにして」


 リアとアミが会話を交わしている間に別の所から爆発音が聴こえてきた。

 天井が壊れてリア達の元に降ってくる。

 

「噓でしょ」


 巻き込まれては堪らない。慌てて逃げるリア達。

 このことでリアはアミと分断されてしまった。


「リアちゃん」

「アミ!」


 大事な女性(ひと)に向けて手を伸ばしかけるが、リアの目に犯人の1人がこちらに手榴弾を投げようとしている光景が映る。


「くそっっっ!」


 この場にいたらアミを危険に晒してしまう。

 自分を囮にして少しでもアミから離れた所へ。

 アミに背中を向けて走るリア。

 爆弾があらゆる所から2~3個ずつ飛んでくる。

 狙われているのは自分だとリアは理解した。

 異空間収納で幾つかは回収。

 間に合わなかった物は魔剣グラムをバットの代わりにして遠くへと飛ばした。


「でも……」


 1個どうしようもなかった。

 リアの背後でどうしようもなかった爆弾が爆発。

 吹き飛ばされるリア。1発で重症。床に転がった時に何かで額を切ったらしく血が目に入ってきて片目が使えなくなった。


 全身が痛む。光の魔法を使う為の魔力を身体中に巡らせる。

 リアの光の魔法は後天的に目覚めたせいか不完全だ。

 通常、肉体の外側に放出出来るのにリアは出来ない。

 治癒の魔法が使える筈なのにリアには使えない。

 出来るのは身体能力強化とグラムへの魔力付与と異空間収納と例えば耳など少しだけ容姿を変化させることが出来る魔法が使用出来ることだけ。


 この場所に留まっていたら良い獲物となってしまう。

 強引に身体を動かして逃亡を図る。

 立派な建物だったのに今や壊滅寸前の建物。

 絶え間なく聴こえてくる人の悲鳴に爆発音。

 アミは無事だろうか? 彼女に何かあれば生きていけない。


「その前に自分が死んじゃいそうなんだけどね」


 人のいない方へ。人の流れとは反対の方向へ身体を引き摺りながらリアは逃げる。

 また爆弾が飛んできた。異空間収納で回収。いつ犯人達の爆弾は尽きるのか?

 終わりが見えない戦闘程辛いものはない。


「はぁ……っ、はぁ、はぁ。……………っ!」


 身体が悲鳴を上げている。

 爆弾によって浮き上がった床に足を引っかけてリアは転んでしまった。


『立たないと……』


 脳は立つようにと命令しているのに身体は言うことを聞こうとしない。

 

「動けぇぇぇっ!!!」


 グラムを床に突き刺してそれを支えに立ち上がる。

 立っているのがやっと。血でグラムの握り部(グリップ)を握り切れずに崩れ落ちそうになったリアに聞き慣れた声が聞こえてきた。


「おっほっほほほほほ。無様ですわね。でも貴女にはお似合いですわ」

「スカーレット……、公爵令嬢」

「ふふふんっ。今の貴女なら楽に殺せますわね。わたくしが直々にトドメを刺してあげますわ」


 スカーレットの手に握られているのは拳銃4th Smith & Wesson M&P9。

 身体に限界が訪れ、床に座り込むリア。

 スカーレットが用心深くリアに近付いてくる。


「……1つ教えて。貴女はどうして私に拘るの?」


 今回の件はスカーレットの仕業。

 それも恐らくは突発的な犯行。

 でなければ、日葵が前もって探知してこの様な悪事は防ぐことが出来た。

 リアはそう迄してどうして自分に拘るのかをスカーレットに問うてみる。


「貴女を殺せばわたくしが聖女になれるんですの。その為ですわ」


 スカーレットからの返事。

 何故聖女になれるのか? 聖女になってどうするのか? 何を考えているのか謎すぎる。

 リアはもう1つだけスカーレットに質問をしてみることにした。


「聖女になってどうするの?」

「質問は1つじゃなかったんですの? まぁ良いですわ。特別に応えてあげましょう。王太子様を口説いて国母になって国を自由に操るのがわたくしの目的ですわ」


 聖女になろうとしている人物の発言とは到底思えない内容だった。

 本音を漏らすリア。


「あんたは歪んでる」

「負け犬の遠吠えですわね」


 スカーレットがリアの間近で拳銃の引き金を引こうとする。

 拳銃という武器は遠距離用の武器だ。

 にも関わらずにリアに接近したのは、念には念を入れる為だろう。

 ここで魔眼を使用しても、片目が血で濡れているので弾丸の軌道を読み切れる自信がない。身体も満足に動いてはくれないという二重苦。今のリアにスカーレットの凶行に抵抗する手段は無い。最早ここ迄だ。[(せい)]を諦めて目を瞑るリア。


「やっとわたくしの物語が完結致しますわ」


 恍惚としたスカーレットの顔。

 顔立ちは美しい筈だが、第三者が見ればこう言うだろう。


「醜い」


 と。


 ―――その声は実際にリアとスカーレットの傍で響いた。

 

 目を開けるリア。スカーレットが握っていた拳銃は遠くへと飛ばされていて、武器を失った彼女は驚愕した目になっている。


「貴女、何者ですの?」

「薄汚ねぇ凶悪犯に名乗る名前なんてないっすよ」


 空木 レイ。とっくに本部に帰ったものだとばかり思っていた。

 呆けるリアの前で彼女がスカーレットに向けて拳を振り上げる

 その拳に纏っているのは紅蓮の炎。これぞダークエルフの神髄。

 レイの拳が命中したらスカーレットは焼かれた挽肉となるだろう。

 でもそれは女社長を殺してしまう行為だ。


「ダメ! それは別の人間の身体なの」


 リアが力一杯叫ぶ。レイはリアを一瞥して炎を纏わせた拳を振り下ろす1歩手前で止めた。


「……くっ。今日のところは見逃してあげますわ」


 スカーレットが憑依を解いて自分の世界へと逃げ出す。

 彼女はミスをした。遠距離から撃っておけばレイが来る前にリアを殺せていた。

 接近を試みたことがリアを暗殺する計画の失敗に繋がった。

 邪影が取り憑く場合は元の人の容姿のままだが、スカーレットだけは違う。

 彼女が女社長に憑依している間はスカーレットのそれになっている。

 スカーレットが離れたことで元の容姿に戻った女社長の身体が床に向けて傾く。 

 倒れきる前にレイが彼女の身体を支えて床との衝突から救い出した。


「……空木さんだっけ? 助けてくれてありがとう」

「借りは返したっすよ」

「私、なんか貸してたっけ?」

「北の大地にあるのは乳製品だけって煽った件と楓乃 アミのことを罵った件っすよ。北の大地は旨いものが沢山あったっす。後、楓乃は悪魔っすね」


 レイの顔色が少し悪い。

 ここに来る迄に何かあったのだろうか? アミに関係することだと思うが。


「多分、桜庭と引き離されてぶちキレたんすね。爆弾魔のうちの数人を結界魔法で雑巾絞りに……。うぷっ。思い出したら気持ち悪くなってきたっす」


 ……アミは無事なんだ。良かった。

 大事な女性(ひと)の安否を聞けた。

 リアは優しい微笑みを顔に浮かべながら意識を自分から手放した。


 

 それから数分後。魔法連盟S市支部の【リーベル】と本部の【リーベル】が手を組んで犯人達を制圧。

 爆弾魔事件は多くの犠牲を出しながらも解決した。

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