11.怒りの模擬戦。
日葵達の魔法連盟入りから3ヶ月半後。
スカーレットが流そうとしていた【リーベル】の動画は日葵達によってAIアニメに描き換えられ、大人気と迄はいかない迄も一部界隈では知らない者はいない作品となった。
一部界隈・百合界隈。SNSでは百合好きさん達が今日も盛り上がっている。
-マギア・リリウム尊すぎだった。
-分かる。リーアとアミーネの関係が好き。
-うちの学校にあの子達と似た子がいるんだが。
-写真うぷ頼む。
-肖像権があるから無理。訴えられたくない。
-グッズ発売されるよね?
-薄い本が出るのは聞いた。
-これだから百合男子は。私も買うわ。
-草
リア達の顔などはAIで描き換えられているのだが、何処となく面影がある。
名前もちょっと捻っただけで聞く人が聞いたら分かってしまう。
オマケに主人公がリーアことリアでヒロインがアミーネことアミ。
2人の関係性が現実のままに描かれている。
見るからに恋人同士なのに本人達は「親友以上で恋人未満だよ」が口癖。
百合界隈の住人からは「嘘吐くな」だとか「早く結婚しろ」だとか2人のことを茶化す言葉がアニメ放送中はSNSに毎回流れていた。
スカーレットが流す予定だった動画は30分程度のものだったのに、アニメになった動画は全12話。1話につきCMなどを抜いて24分くらいのものに変わった。
どうしてそうなった―――。
放送を見たリアとアミは翌日に日葵達に詰め寄った。
彼女達に悪ぶれた様子は無くて顔には絶えず笑みがある程。
"イラっ"としたリアとアミだったが、なんなら魔法連盟から許可を得ているし、2人の生活を盗撮しているわけでもない。飽く迄も架空の物語だと論破された。
ちなみに【リーベル】のデータについてだが、PCやスマホにタブレット。機種を選ばずハードウェアを破壊するウィルスがデータを持っている者達に、これも日葵によって世界にばら撒かれて彼女達のデータは魔法連盟T都本部にだけ残る本来のものとなった。
ついでにアクセスしようとしたら1憶の壁と1兆の罠が待ち構えている。
仮に突破してもそこから先に行くのに1京のお金が必要になる。
払えない場合はこれが自動で借金となる仕組み。弁護士に相談しても無効には出来ない。
という悪魔のような仕組みを日葵が組み上げた。
たった1人。3日でこれを成した彼女。
これ程の人材を魔法連盟が下っ端にしておく訳がない。
今や彼女は魔法連盟の幹部。所属は魔法連盟T都本部だが、彼女がいるのは諸々の都合上で魔法連盟S市支部。
魔法連盟から自宅のPCよりも圧倒的に性能の良いPCを与えられた彼女は毎日楽しく仕事をしている。
休憩時間には他国の軍事施設や大企業のコンピューターにアクセスして幾つかのデータをUSBメモリに保存したりなんてして。
このことは彼女にとっては趣味であってそれ以上でもそれ以下でもない。
なので誰にも報告などはしていない。
本人に自覚はない。彼女の趣味は世界を混乱させることも容易に出来るものだということを。
彼女だけが大事な事実を知らない。
**********
魔法連盟S市支部・別所。
本日は魔法連盟T都本部所属の【リーベル】が訪問中。
本部に所属している者。全員でなくて一部の者達。
目的はS市支部所属の【リーベル】と模擬戦を行う為。
S市支部長・工藤 美嘉の後に続く本部所属の【リーベル】達。
明らかにやる気がない。本部の【リーベル】に所属が可能なのはエリートのみ。彼女達にとってはS市所属の【リーベル】など取るに足らない存在だと思っているのだろう。
美嘉は彼女達の態度に思うところはあるが文句は言わない。
代わりに魔法連盟S市の設備などを紹介しつつ模擬戦の会場へと向かう。
「ここは……」
美嘉が微笑みを浮かべて魔法連盟S市内の食堂について話そうとした時だった。
本部所属【リーベル】のうちの1人が口汚く魔法連盟S市支部を罵り始めた。
「なんていうか、全体的に古くて汚いとこっすね。よく平気でこんなところで活動出来るもんだなっていうか、尊敬するっす」
その者は本部の【リーベル】の中でもエリート中のエリートだと偉い人達からも仲間達からも言われているタシュレイこと空木 レイ。
面長な顔立ちに16歳という年齢の現代日本人女性の平均的な身体付き。
やや釣り目で琥珀色の瞳、栗色のベリーショート。
膨らみはAで身長は162cm。体重は16歳日本人女性の平均。
種族はダークエルフ。
美嘉は無視しようとするが、彼女の煽りは止まらない。
ついには彼女の取り巻き達もああだこうだと言い始める。
「ってか本部の偉い連中って何を考えてるんすかね。こんな田舎の【リーベル】と模擬戦なんて時間の無駄っすよ。そもそも模擬戦とか出来るんすか? 牛の乳しぼりは得意そうっすけど」
「レイ。マジ受けるんだけど。そう言えば牛臭いよね。ここ」
「ほんとそれな。魔法連盟S支部じゃなくて魔法連盟S市牧場に名称変えた方が良いんじゃねって思うわ」
井の中の蛙、大海を知らず。
美嘉の心の中はそんな気持ち。
なんだか怠くなってきたのでさっさと模擬戦の会場に向かうことにした。
・
・
・
会場到着。向かい合う魔法連盟S市所属の【リーベル】と魔法連盟T都本部所属の【リーベル】。
レイはS市所属の【リーベル】内にいるアミの顔を見て嫌悪感を露わにした。
「おやおや~~、楓乃 アミじゃないっすか。過去に1度研修を一緒に受けたことがあるっすけど、支援魔法しか使えない無能が模擬戦に出るつもりなんすか? 模擬戦で使えるのは模擬銃と竹刀のみっすよ。S市は真面目にやる気はないってことっすかね」
レイの言葉でリアの頬が"ぴくっ"と動く。
アミは素知らぬ顔。
美嘉は『わざわざ地雷を踏むとかバカな子ね』とこの模擬戦で一波乱起きそうな未来を予測する。
かくして美嘉の予測は模擬戦が始まる前に現実のものとなった。
「美嘉さん。悪いけどこの模擬戦、私1人にやらせて貰っても良いかな?」
「……他の子達にも経験を積ませてあげたいんだけど?」
「どっちみち私が全員倒すから他の【リーベル】の出番はないよ?」
「だったら質問する意味ある?」
「じゃあ承諾を受けたということで」
竹刀を腰のベルトに背中に斜め向きに差し、右手に模擬銃を持ってリアは模擬戦会場広場に1人で歩いていく。
対するは魔法連盟T都本部所属の【リーベル】20人。
エリートの自負が汚されたような気がして怒り狂うレイ。
「どういうつもりっすか? たった1人でうちら全員に勝てると思ってるんすか? 自惚れもいいとこっすね。怪我する前に今の言葉を引っ込めて戻った方がいいっすよ。ああ、北の大地には乳製品しか食うもんが無いから、栄養偏って頭おかしくなってるんすか?」
「弱い犬程よく吠える」
「あ゛っ!? その言葉絶対に後悔させてやるっす」
「いちいち煩い。私が負けたらそっちの全員の玩具になってあげるよ」
「だったらこっちは……」
「何もしなくて良いよ。どうせ今から私の玩具になるんだから」
「……っ。"ボコボコ"にしてやるっす」
これは止めても無駄だ。
リアはスイッチが入ってしまっている。
ここで彼女を止めて、S市の【リーベル】全員を投入してもリアの足手纏いになって彼女に邪魔者扱いされるだろう。
自分が動き易いように味方を攻撃して排除する可能性もある。
S市支部所属の【リーベル】を見る美嘉。
アミを含む全員が顔を青くしながら一斉に首を横に振った。
『そうよね~……』
ため息を1度吐いてから美嘉は模擬戦開始の合図を出した。
・
・
・
走るリア。模擬銃はサバゲーで使う拳銃で弾丸は金属のそれではなく特殊なBB弾が込められている。
人に当たると絵の具が飛び出して服に付く。
絵の具が付いた者は失格。リアは模擬戦開始から数秒で本部所属の【リーベル】5名を脱落させた。
「なっ! 今の動きなんっすか」
「本部所属の【リーベル】って大したことないんだね。大口叩くからもっと凄いのかと思った」
リアの分かり易い挑発にレイが乗る。
「っ。ここからは本気でやるっすよ。皆」
「「「はい」」」
レイ達がリアを囲むようにして銃を撃つ。
全てを紙一重で躱して見せるリア。
模擬戦は魔法禁止なので彼女は魔眼は使っていない。
普通に弾の軌道を読んで避けている。
リアにとってその程度のことは難しいことじゃない。
っというよりも、魔眼を使っているうちに銃の弾丸の軌道を見極めることに慣れた。
風の動きや銃口の向き、それらを考慮して魔眼使用時よりも素早く動けば弾丸は避けられる。
理論上・机上ではそうであることをリアは現実でやってのけている。彼女は異常だ。
「なっ、化け物っすか」
「ねぇ、レイ。あいつ、もしかして本部でも有名な桜庭 リアじゃね?」
「桜庭 リア!!! 噂通りの奴だったってことっすか」
「10人目。……11人目。残り9名だよ? これで本気なの?」
"くすくす"と笑うリア。
その間に背後から銃の引き金が引かれるが、彼女は後ろにも目があるかのようにそれも躱した。
「はっ?」
「戦場で"ボケっ"としちゃダメだよ」
リアに弾丸を躱された相手が彼女に撃たれる。
一方的な戦闘。ここが本当の戦場であれば12名は死んでしまっている。
その後も本部の【リーベル】へのリアの蹂躙は続いて、残りはレイと取り巻き達だけとなった。
「ふう。さてと……」
"ポイっ"と模擬銃を投げ捨てるリア。
代わりに持つは竹刀。取り巻きの1人がヤケクソでリアに向けて突撃してくる。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
銃の連射。リアは幾らかは竹刀で弾丸を叩き落し、残りは避ける。
「じゃあ私も本気で行くね」
「はっ!? 今迄本気じゃなかったって言うんすか」
レイの叫び。その頃には彼女の目の前にリアがいた。
「なっ! それなりに距離は開いていた筈っすよ! 瞬間移動でもしたんすか」
リアに銃を向けようとするレイ。
その時に自分の取り巻き達の無残な姿が目に入る。
2人して「痛い痛い」とお腹を押さえながら模擬戦会場の床を転がり回っている。
「ちっっっ!」
「遅い!」
レイの頭にリアによる痛恨の一撃。
あれ程威張り散らしていたレイは白目を剥いて意識を失った。
さて、一連の[事]を床に座って見ていたS市の一同。
美嘉からはやりすぎだと叱られたが、リアは反省の[は]の字も見せずに飄々と言ってのけた。
「相手が無能だっただけだよね」
レイがアミに言ったこと。やはりリアの気に障っていたらしい。
リアはアミの元へと歩いていき、彼女の手を取って立ち上がらせる。
「ねぇ、アミ。海鮮丼食べに行かない?」
「……………! 北の大地には乳製品しか無いって言ってたのも気に障ったんだ?」
「ジンギスカンでもスープカレーでも良いけど?」
「リアちゃん。意外と子供っぽいところがあるというか、沸点低いよね」
「アミは何食べたい?」
「リアちゃんに任せる」
「初志貫徹で海鮮丼で良い?」
「うん!」
他の者達のことなんて蚊帳の外。
リアとアミは恋人繋ぎで食堂へと歩き出した。
事情により、レイの名前や種族等を変更致しました。
申し訳ありません。




