01.召喚。
新連載開始です。
物語内に別の物語の登場人物名が使われていますが、本作と別作品は全く関係ありません。
西暦201×年日本。
ここ最近の治安の悪化に悩む政府はこの国で有名な空想物語のうちの1つ。
異世界転移物に倣って異世界から騒ぎを収束させる為の人物を呼び寄せる召還を行った。
正直なところ、始めたは良いが誰も上手くいくとは思っていなかった。
北の大地にある五稜郭を魔法陣に見立てて有名所の神社より選ばれた巫女数名が祝詞を唱える者と神楽を行う者とに分かれて儀式を行う。
ダメで元々。政府の中には儀式の最中に鼻で笑う者もいたが、驚いたことに召喚は成功した。
幾つかの異世界から日本政府の喚び掛けに応じた者達がいたのだ。
エルフにドワーフにオーガ。ファンタジー物では定番な種族達。
男女合わせて数百名。正直召喚が成功したことに焦った政府が日本に喚んだ理由を話そうとしたが彼女・彼らは理由を最初から知っていた。
その為、政府が彼女・彼らにお願いをするより先に日本に喚ばれた者達は政府に命令を利くことを誓った。
但し、衣食住の保証をすることが条件。
藁にも縋る思いをしていた政府は彼女・彼らの条件をすぐ様呑んだ。
数年後。
日本各地に造られた一見すると中小企業。
真の姿は魔法連盟と呼ばれる場所。異世界から日本にやって来た住人にお偉いさんが命令を下す場所。
女性陣は【リーベル】と呼ばれ、男性陣は【ローゼル】と呼ばれている。
その【リーベル】の一員、エルフ族のアデリアは凶悪犯と戦闘を繰り広げていた。
相手が手に持っているのはSIG SG550自動小銃。対するアデリアは魔剣グラム。
SIG SG550から撃たれる弾を見極め、アデリアはグラムを振るって的確に弾丸を斬り裂く。
剣で銃弾を斬る。あり得ないことを成すアデリアに恐れおののく凶悪犯。
元は真面目な男性会社員だったが、上司からパワハラを受け続けることで精神を壊して復讐を決意。
裏組織の者からSIG SG550を入手した。
手始めに上司を殺害して、次に一般人を数十人殺害。凶悪犯に指定された彼は【リーベル】の世話になることになった。
「くそっ、くそくそくそっ。剣で弾を斬るとかあり得ないだろう!!」
アデリアに向けて狂ったようにSIG SG550の弾丸を撃ち続ける凶悪犯。
アデリアは凶悪犯とSIG SG550から目を背けることなく冷静にその時を待つ。
やがてアデリアが待っていた時が訪れた。
"カチッカチッカチッ"引き金を幾ら引いてもSIG SG550から弾丸が発射されることは無い。
弾切れだ。凶悪犯がSIG SG550の弾倉を入れ替える前にアデリアは素早く動く。
グラムを振るってSIG SG550を切断。その後は逃亡を図ろうとする凶悪犯の後ろ首に柄頭を全力で叩きつける。
意識を刈り取って任務完了。
仕事を終えたアデリアは魔法連盟から支給されているスマホをポケットから取り出して電話を掛ける。
ここから先は魔法連盟の仕事。数分後に組織の者がやって来てアデリアが倒した凶悪犯を数人がかかりで車に乗せて彼女に一礼。アデリアは軽く手を振ることで挨拶返し。
組織からやって来た者達はそれを見たら車に乗って何処かへと去っていった。
残されたアデリア。凶悪犯は倒したが、最後の総仕上げが残っている。
組織の偉い人達は誰も気が付いていないが凶悪犯達には異形なる者が取り憑いているのだ。
真っ黒な姿をしていて物理的に触れることは出来ない。
人の形だったり、獣の形だったりする。
人影とか獣の影のような感じなのでアデリアはこれを邪影と勝手に呼んでいる。
取り憑いていた者が死ぬか、意識が消え去るかするとこいつらが姿を現す。
今回は人の形の邪影だった。
取り憑いていた者がいなくなったので次なる獲物を求めて動く邪影。
「逃がすわけないでしょう」
グラムに込める[魔力]。【リーベル】に所属する者の殆どの者が使える力。
彼女達が所属している組織名が魔法連盟と呼ばれるのはそれが由縁だ。
グラムはレイピアにも見える細身の片手剣。
刃に鍔に握りに柄頭。全体が普段は漆黒。
しかし魔力を込めると刃先が純白に染まる。
「さよなら」
彷徨う邪影を袈裟斬り。
形を保てなくなった邪影は空気に溶けて消えていく。
アデリアは全てを見終えてからグラムを異空間へと収納した。
**********
翌日。所変わって私立白咲女子大学付属中学校。
任務が無い日。呼ばれたら出動するが、それ迄の平日の時間帯はアデリアはここで学生生活を謳歌している。
この世界に人族は人間以外にはいない。……ことになっているのでエルフ特有の耳は変化の魔法で半楕円形にして人間らしく見せている。
「今日は転校生を紹介しますね」
このやり取りは2度目。アデリアは中学1年生から高校3年生迄を繰り返している。
エルフと人間では寿命が違う。アデリアは2,000年は生きるが人間は長く生きて80~120年。
しかもアデリアは13歳の時点で老化が止まっていて、次に老化するのは彼女が1,950歳を迎えた頃。
まだまだ先の話だ。その前に病気や【リーベル】の仕事で生命を落としてしまう可能性も無きにしも非ずだが。
教師陣も生徒達もアデリアのことは高校3年生を終えると忘れるようになっている。
これでまたアデリアは中学1年生に戻って転校生として紹介されて、高校3年生迄の学生として過ごすのだ。
これはアデリア本人が希望したこと。
彼女の本来の世界では、とある事情によって通っていた学園を退学させられてしまった。
卒業したかったのに。心残りだったことをこの日本で晴らしている。
飽きる迄はこの生活を続けるつもりでいる。
担任の教師に呼ばれて教室へと入室。途端に上がる歓声。
「えっ。あり得ないくらいに可愛いんだけど」
「髪の色が銀のような、白のような……。外国人さん?」
「顔ちっちゃ~い。体型スリム。芸能人みたい」
1周目も経験したこの喧噪。
その時は戸惑ってしまったものだが、2周目になると慣れたものだ。
担任を見るアデリア。彼女の視線を受けて担任が手を叩きながら生徒達に告げる。
「はい、皆さん静かにしてください。ではリアさん、自己紹介をお願いします」
「はい」
担任からの言葉を受けてアデリアは一歩前へ。
お辞儀をした後で自身の名を明るく告げる。
「桜庭 リアです。よろしくお願いします」
魔法連盟から与えられた仮の名前。
住民票などにもこの名前が記載されている。
生年月日など合わなくなる筈だが、役所内に【リーベル】の一員が潜り込んでいるので問題はない。
記憶の操作が出来る者が。その者が都度魔法連盟に所属する者達の書類を書き換えているお陰でアデリア達のことが表に漏れることはない。
(閑話休題)
自己紹介が終わり、担任から促された席へと歩く。
着席すると丁度良いタイミングで聴こえてくる授業・休憩時間の合間を知らせる音色。
この学校ではフレデリック・ショパンのノクターンの一部が採用されている。
今のは朝のホームルームの終わりを告げる音。
1時限目の授業が始まる迄は10分の自由時間がある。
生徒達が転校生のことを知る良い機会な自由時間を逃そう筈もない。
アデリアこと桜庭 リア。リアの元に集まるクラスメイト達。
リアは1周目と変わらない光景に苦笑する。
質問漬け。桜庭さんって日本人なの? とか、好きな食べ物は何? とか、休日は何をしているの? とか定番の質問。
リアは1つ1つ丁寧に応えていく。
「えっと私は日本と北欧の人とのハーフです。母が日本人で父が北欧人です。両親は今は世界一周旅行に出ているので私は1人暮らしをしています」
「えーーー! 世界一周旅行とか凄い。ご両親は何の仕事してる人なの?」
「8°Cっていうブランドの宝石知ってますか?」
「知ってる! ジュエリーの有名日本ブランドのうちの1つだよね」
「母はその8°Cの社長で父は母の秘書をしています」
「えぇぇぇぇっ! じゃあ桜庭さんは令嬢なんだね」
「まぁ、一応。でも気楽に接してくれたら嬉しいです」
リアの話を聞いてどよめくクラスメイト。
勿論、これもこの日本でのリアという人物に関する設定の1つだ。
8°Cというブランドは実在するし、両親も実在するが血縁はない。
魔法連盟にお金を出資してくれているだけの人。なので正しくはリアの後見人。
「桜庭さんは1人暮らしって言ってたよね? ご令嬢だし、メイドさんとかいるの?」
「えっと、私は極々ありふれたマンションに住んでます。メイドさんはいません。同居人なら1人いますけど」
「なんで? お金持ちなのに」
「私が普通の生活が生活がしたいって我が儘を言ったからです。両親は最初こそは渋ってましたけど、泣き落としをしたら許してくれました」
"にまっ"と笑いながら答えるリア。
クラスメイトの数人にはそれが受けたらしい。
現時点で心を開いてくれる人が現れた。
「あはははっ。桜庭さんって意外な人なんだね。でもそういうところ良いと思う」
「分かる。お金持ちなところ鼻に掛けてないのがいいよね」
「ありがとうございます。後は好物はカレーですかね。外食のも良いですけど、私は自分が作ったカレーが一番好きです。それと休日は同居人とだらだらと過ごしています」
「桜庭さん、料理得意なの?」
「家庭料理なら一通り作れます」
日本に来て初めて食べた料理。
リアは物凄く感動した。
自身の世界でこんな美味しい食べ物は無かった。
そこからどうしても家でも食べたくなって、魔法連盟の人達から教わったインターネットの世界を巡り巡ってレシピを検索。見事に料理沼に嵌って一通りの料理が作れるようになった。
お菓子も作れる。ケーキとか今やお手の物だ。
「その同居人って……」
クラスメイトがリアに質問を続けようとした時に1時限目開始の合図を知らせる音色が鳴る。
担当教師が教室に入室してくるとクラスメイト達は蟻の子を蹴散らしたかのように自分達の席へと戻っていった。
作者はミリタリー関係に詳しくありません。
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すみません。