第2話 大いなる力には、大いなる責任が伴う
デコボコトリオが送る会話劇、女性ヒロイン不在、特に目的も目標もなしにだらだらと今日も今日とて不毛な会話がくりひろげられる。
「大いなる力には、大いなる責任が伴うと言えばスパイダーマンでしょ！」
「何を言うか陸よ…カンフーハッスルに決まっているだろう！」
俺の横に座る美少女、もとい男の娘である陸と見た目はインテリイケメンだが内面はガッカリポンコツの紫音が議論を繰り広げていた。
「ふっ…陸が何と言おうと僕はチャウ・シンチー作品が映画道の入りであるからな！ここは譲れん！」
へー意外と紫音はカンフー映画が好きだったんだな。確かに…頭を使わずに見れる作品が多いという点では紫音向きだろう。
「カンフーハッスル好きならマーベルも好きでしょ！」
「ふむ、確かに…確かに悪くない、しかし僕にとってのこの言葉はカンフーハッスルのイメージなのだ！」
「うーん、紫音にとってはそうなんだね…相ノ木はどう？」
陸が今日も太陽のようなスマイルで俺に笑いかける。うん、守りたいなこの笑顔。
「ん、大いなる力には、大いなる責任が伴うってダモクレスの剣のが起源じゃなかったか？紀元前からある言葉なんだから誰のものでもないと思うけど？」
「あ～また相ノ木のひねくれが出たよ…」
「これだから相ノ木は…」
「な、なんだよお前ら…」
二人してこれだから相ノ木は…ヤレヤレみたいな目で見てきやがる。
「僕は言葉っていうのは誰が言うかによって持つ力とか性質って変わると思うんだよね。」
陸が聞き分けのない子供をあやすように呟く。
「スパイダーマンのベンおじさんが言うのとアホの子、紫音が言うのとでは変わって来るってことか…おい紫音ちょっと言ってみてくれ！」
「大いなる力には…ッ 大いなる責任が伴うの…だッ！！」
紫音は噛み締めるように言葉を放った。
意外とコイツはノリが悪くない。が、言い方が腹立つ。
「ほんとだ！いいセリフなのに薄っぺらく聞こえるな！」
「でしょ～！言葉っていうのは誰が言うかっていうのも大事だと思うんだ！」
「いや相ノ木はともあれ陸も最近、言葉にトゲを感じるのだが？」
なにを言ってるんだコイツ？完璧美少女且つ男の娘の陸になじって貰えるなんてご褒美じゃないか？
「それはともあれ、映画の名言って知ってる人には分かるけど知らない人からしたらそれホントに名言なの？みたいなセリフが多いよね！」
「プラスチックだ！とかな」
「マイクニコルズ監督の卒業だね！」
「それはどういう映画なのだ？」
「簡単に言うとロビンソンっていう婦人とその娘との親子どn…」
「やめなさい。」
丸めたノートで陸に頭をはたかれた。痛気持ちいい…何かに目覚めそうだが自重しよう。
「なあ今ふと思ったんだが、痛気持ちいいってすごい言葉じゃないか？矛盾を孕んでるのに綺麗に成り立っている！」
「ふむ、キモカワとか不憫かわいいみたいなものか？」
「まあそんな感じだな、ほら陸もかわいいのに男という矛盾を起こしている！」
「か、かわいい…ッ！ぼ、僕が！？」
なぜか赤面して喜んでいるように見える陸を横目に紫音が
「相ノ木よ、一応は男である陸に対してかわいいなどと言うのはいかがなものか？」
「昨今LGBTQが叫ばれてる時代だからな…常日頃からリベラルな価値観でありたいと思っているよ。」
「あ、相ノ木はその、同性同士とかってど、どうなのかな…？」
陸が赤面しつつ上目遣いで俺に問いかけてきた。あれ？なんかフラグ立ってる？？
「あっ、おっおう！ま、まあ俺はそういう愛の形があってもいいとは思うぞ…！」
「ほ、ほんとに！」
パァァと顔を輝かせながら陸が俺に笑いかける。あれ？ほんとにかわいいぞ？もうゴールしてもいいのか？いいよね？？
「相ノ木…僕、相ノ木のこと…」
キーンコーンカーンコーン
陸の言葉に覆い被さるように下校のチャイムが鳴り響いた。
「あ、あ、も、もう下校の時間だな！」
しまった滅茶苦茶声が上擦ってしまった。気まずすぎる！
恐る恐る陸の方に視線をおくると
「なーんてね！冗談だよ！」
とかわいい舌をちょいとだして陸はいたづらっ子のようにおどけていた。
「な、な、なあんだ…はぁはぁ心臓に悪いぞ陸…」
「相ノ木が僕のことかわいいとか言ってきたから仕返しだよー！」
「ははは…ちょっと顔洗ってくるわ」
なんでだろう涙が出てくる。客観的に考えて陸が俺なんかを好きになるはずないよな…子供の頃に幼馴染みの女の子にフラれたときと同じ気分だ…。
「ちょっと先に帰るわ。」
今は一人になりたい…
フラフラと教室を出ていった相ノ木を見送ると陸はだらだら冷や汗を流し
「ど、どうしよう紫音、僕が相ノ木のことを好きだってバレちゃったかな！？」
「うーむ、あいつはひねくれてるからな…あんまり自分に都合のいい解釈はしないだろうし大丈夫だと思うぞ？」
「うー、出来るだけこの三人で仲良く卒業したいしあんまり大胆なことしちゃだめだよね…ごめんね紫音…」
「いや、僕は全然いいのだが…ふーむまったく相ノ木のやつ…」
アイツにはしっかり大いなる責任をとってもらいたいものだ。
つづく
