3 返済ってムリゲーなんじゃ……
奴隷商館から連れ出されて、商人ギルドに着いた。
いくつかある窓口の1つに行き、エリックは若い女性のギルド職員に話しかけた。
「いつものやつお願いします」
「エリックさん適当すぎますよー。 子爵様の臨時特例ですか?」
「それそれ! 査定書はここにあるから確認よろしく」
「わかりました。 じゃあ、確認しますね」
査定書を確認しているようだ。 確認が終わったのかこちらの方を見て左手を確認する。
「はい。 間違いなく……査定額の半額だから、貸金にできるのは5万ゼルなので銀貨5枚ですね」
「ありがとう。 ふむ」
エリックは借用契約書を見て考えているようだ。
「さて、それじゃあ今確定してる金額が、貸金5万にアンドレの所に1万で商人ギルドに1万。 善良な市民であれば、最低の1割負担の8万ゼルでいいがお前は全然本当のことを言わないし、善良な市民といい難い」
「えぇ。 ちゃんと本当のこと言ってますよ!」
「だったら口をつぐんだところすぐに吐けー」
「……隠してないです」
「はぁー。 まぁ、こうしてても仕方ない。 奴隷の査定額の10万ゼル、金貨1枚を期日までに払うように!」
「金貨1枚って、借入額銀貨5枚と差し引きで銀貨5枚を返済しないといけないですよね?」
「そうだな」
「ノービスだと、月に銀貨5枚が精々って言ってませんでしたっけ?」
「そうだったかなぁ?」
「食費のこととか考えての設定ですよね?」
「いや、そこはほら……頑張れ!」
いやいやいや、おかしいでしょ! 今、汗が落ちたの見えたけど、自分の計算ミスを認めてないだけじゃないよね?!
「まぁ、なんだ悪いことしないって約束できるなら仕事の紹介はやってやるから」
「本当に紹介してくださいよ!」
「わかったよ……」
「エリックさんって面倒見がいいんですね!」
「そうなんですよ! 俺ってよく『優しい人』って言われてましてー」
「まあ! そうだったんですねー」
なんか若い女性職員に態度変わり過ぎなんですけど、この門衛もしかして、ナンパついでにここへ来たとかじゃないですよね? あと、『優しい人』はモテる人が言われる言葉じゃないことはわかる。
「サクリナさんも困ったことがあったらすぐに言ってくださいね。 力になりますから!」
「私の困ってることなんて、なんかおいしいもの食べたいなーくらいなんで大丈夫ですよ」
「おいしいものですか。 だったら最近貴族通りの入り口にできたカフェへ行きませんか! かなりおいしいって評判ですよ!!」
「あーあそこ評判いいですよね! うちの職員も行きたい人結構いるので何人か希望者募ってもいいですか?」
「……希望者ですか?」
「はい! こういうのってみんなで行った方が楽しいじゃないですか!」
サクリナさんの無邪気な笑顔。 残念だったなエリック……デートの誘いだと気付かれてない。
「そうですね……」
「……でも、ここ最近少し夜は危ないって聞きますから、行くとしても少し先になりそうですねー」
「ああ、誘拐事件ですね……」
エリックが少し真面目そうな表情になったけど、そんなに深刻な事件なのか?
「さすがに、ここ最近の行方不明者の数は異常ですからね。 衛兵隊全体で見回りを強化しているところです」
「商人の口の端にも結構上ってきてますから、不安ですねー」
「任せてください! このエリック。 サクリナさんに危害が及びそうならすぐに駆け付けて誘拐犯なんてやっつけますんで!」
「頼もしいです」
サクリナさんの微笑みに、少しだらしない感じの顔で応対するエリック。 さっき相手にされてなかったのもう忘れてるのかな?
「借用契約書の記載に間違いがないか確認お願いします」
「……確かに、借入銀貨5枚に返済額金貨1枚、返済期日が五の月初週の10日っと間違いないですね」
カレンダーが無いかな? と思い商人ギルドを見渡していると日付の打ち合わせをした商人二人と壁に木で出来たカレンダーの様なものが掛けてあった。 そして商人の話を聞き耳を立てているとわかったことが、文字は読めないが上の大きな文字が月を表しており中央には小さく横十列、縦三列で書かれている。 そこを指さしながら上週の何日や下週の何日の様な話をしているから、この世界の日付は上週、中週、下週に分かれていて各週が10日で1か月30日なのだろう。 日曜日が各週に1度しかないなら休みとかは少なそうだ。
「では、これで借用契約書作成完了ですねー」
「ありがとうございます。 これで、終わりだぞー」
「やっと、この羞恥プレイから解放される」
そう。 僕はずっと、胴と腕を縛られ腕の間から出た縄をエリックにもたれたままずっと移動していた。 そりゃあもうみんなの視線浴びまくりです。
「さて、一旦ここを出て衛兵の詰め所にもどるか。 そこでこれからのことを話そう」
「えっ。 まだこの縄から解放してくれないんですか?」
「もうちょっとの辛抱だ」
「えー」
勘弁してください。
再び衛兵の詰め所に戻ってきた。 そこでやっと、縄を解いてもらった。
「これからのことだが、まずは金貨1枚の返済を30日以内にしないといけないってのはわかっているな?」
「はい」
「てことで、ハルカズ。 お前は働かないといけない」
まあ、この世界のバイトを経験しておくのも悪くないよね。 バイトは前の世界での得意分野だ。
「だが、お前にはジョブが無い。 これは、あらゆる仕事をする上で不便だ」
「そうなんですか?」
「よくあるジョブなんかだと、『戦士見習い』『剣士見習い』『格闘家見習い』がある。 これらのジョブは熟練度が上がると力が上がりやすいから荷運びや建築の仕事を紹介してもらいやすい」
「なるほどです」
「というわけで、ジョブが無いと紹介できる仕事が減るってことは理解したか?」
「厳しい現実ってのはわかりました」
うーん、色々なバイトを経験してきたからこの世界でも生かせそうなんだけど、残念……。
「誰でも受け入れてくれる仕事となると給金がどうしても低くなる。 それこそ、一日大銅貨1枚の仕事になるかもしれない」
1日大銅貨1枚だと、今日から働いたとして30日で3万ゼル……2万ゼル足りない。
しかも、食事や宿泊等を考えると全然足りない。
「……それだと、全然足りない気がしますが?」
「なので、俺が紹介する仕事以外にも仕事をする必要がある!」
うわ……ブラック来た。
「ちなみに今紹介できそうな仕事はあるんですか?」
「あぁ、それはこの衛兵の詰め所の裏にある倉庫の掃除と備品の手入れなら確実に紹介できる」
「今はさっき商人ギルドで話した事件のせいで、かなり忙しい」
誘拐事件って言ってたやつだ。
「普段なら手の空いているものでやるんだが、ここ数カ月は手つかずでキレイとはいいがたい。 だから、そこの片付けを朝の2の鐘から6の鐘までやってくれたら、大銅貨2枚を渡そう」
鐘の数は朝の1の鐘が6時で、12時が6の鐘だ。 昼の鐘は1時から6時までの6回ある。
夜は鐘が鳴らない為、時間の把握は何か別の方法があるのだろう。
「ということは明日から働いても大丈夫ってことですか?」
「そうだ。 あと、宿泊費も大変だろう? 疑いが晴れない者を軟禁する部屋がある。 そこなら、寝泊まりしてもいいぞ」
「本当ですか!」
あまりの都合の良さに、確認してしまう。
「ああ、こっちにもメリットがあるしな」
「メリット?」
「お前を見張る手間が省ける」
「そういえば、そんなのもありましたね……」
「もう1つの仕事の方は、こっちでも見回りついでに探してやるがすぐに見つかるかはわからんから、自分でも探してみろ」
「わかりました。 それでは今日は残りの時間を使って仕事を探してみます」
「そうか。 軟禁部屋の方の衛兵には伝えておくから、詰所の入り口で自分の名前と俺の名前で軟禁部屋に宿泊許可が出ていることを伝えたらいけるようにしておいてやる」
「ありがとうございます!」
「あと、詰所は基本的には24時間開いているが、夜の6時には戻って来い」
お父さんみたいだな? と思いながら尋問室から出て行った。
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