2 重大なことは事前に説明することを要求する!
Side ハルカズ
俺は今、縄で縛られたまま街の大通りを歩かされている。
馬車が余裕ですれ違える幅の道があり、その両サイドにも人が3列は歩ける広さがある。 そこそこ人気なショッピングモール程度には人がおり、そうした中で縄に縛られて連行されるのは羞恥心に耐えねばならない。
気を紛らわすために辺りを見渡すと、街並みは木造で出来た建物が多いが所々に石レンガで出来た建築もあった。 港があるからか潮の香りがしているがこの通りからでは見えない。 店舗が所々にみられ飲食店、雑貨屋、服屋などがあるようだ。
奴隷商館まで30分程歩くという事だったので、色々聞いてみた。 例えば、貨幣の種類。
白金貨・金貨・銀貨・大銅貨・銅貨・鉄貨とあって、10枚ごとで次の価値になり、金貨だけは100枚で白金貨になるという。
まぁ、この話を聞いた時は可哀そう子を見るような目をされたのは、少々堪えたけどね……グスッ。
他には、ジョブについても聞いてみた。
とても貧しい家庭以外は基本洗礼式にてジョブを賜るものみたいだ。 銀貨5枚で受けられるという。
ジョブにはランクがあり、下からコモン・アンコモン・レア・エキストラ・ハイクラス・レジェンド・ゴッドと呼ばれている。 そして、洗礼式でもらえるジョブはコモン・アンコモン・レアのランクの中から1~5個取得できる。
アンコモンのジョブの取得者は見かけるが、レアとなると1000人に1人いるかどうかって話らしい。
エキストラとなるとレアジョブを持つものが修練して、ジョブのランクアップさせてなるようなものという話だ。 ジョブのランクアップの話は聞いてみてもよくわからないらしく気づいたらできるものという話だった。
それでも、多少の法則性があるらしく、そのジョブを取ってすぐにランクアップすることはなく、数年の修練の果てにランクアップすることは共通している。
この話を聞いて思ったのは、僕はまずチートをもらっての転移者ではなさそうだよなってことだ。
普通はジョブを複数持っているって話で、洗礼式のスフィアを持っていないってことは現在のジョブもないって話だし、レアどころかコモンすらないのはもういっそ憐れんでくれって感じもする……。
だけど、話を聞いていくとスラムの孤児でもコモンジョブを手に入れることがある話もあり、通説によると洗礼式に出なくても稀に生まれついてのジョブを持っているのではないかといわれている。
ただ、孤児が手に入れるのはコモンジョブ『格闘家見習い』が多いみたいだ。
ジョブの種類についても聞いてみた。 そしたら、聞き覚えのあるジョブの話ばかりされる。
アンコモンはコモンの上位互換にあたり、コモンは見習いのジョブであること。
『レンジャー』・『スカウト』・『エンチャンター』・『戦士』・『格闘家』・『剣士』・『アコライト』・『魔術士』・『楽士』・『兵士』などのジョブがあると説明されたときに『FDF』を思い出した。
確かに良くある名称ではあるが、まさか全部聞き覚えるあるジョブが紹介されるとは思わなかった。
ナイトやソードマン、プリースト等色々な名称がある中、全て一緒なのは本当に偶然なのだろうか?
これが思った通りなら、もしかしたら『格闘家見習い』を取れることがある理由にも説明がつくかもしれない――
そんなことを考えながら歩いていると、とある建物を指し示しながら声を掛けられた。
「ほら、あそこが奴隷商館だ」
3階建ての赤茶色のレンガで出来た建物だ。 2階3階には窓がなく、周りにある建物よりも少し威圧感のある建物になっている。
「奴隷商館……。 やっぱり、なしってことにならないですかね?」
「なるわけないだろ! さあ行くぞ」
成り行きに任せるしかないか……。
門衛がドアを開けると、ドアベルが鳴った。
レンガで出来た建物だから、少しひんやりしている。 奥の方は少し暗くなっており、燭台にろうそくが立てられていて少し怖い。
「いらっしゃいませ」
少し背の低い中肉中背の中年男性が部屋の奥にあるカーテンがかかった敷居から現れた。
カウンターに入って、こちらを向き背筋が伸びたきれいなお辞儀をした。
「アンドレ商館にようこそおいで下さりました」
顎髭が蓄えられていて少しいかついイメージだ。 高そうな赤紫のマントを羽織っており、服装もきちっと決まっている。
チラッとこっちを見た。
「エリック様お久しぶりです。 この子供の査定に来たという事でお間違いございませんか?」
「そうなんですよアンドレさん。 話が早くて助かります」
「それではスフィアボードを確認致しましょうか。 奥へ取りに行きますので少々お待ちください」
この門衛はエリックって名前なのか、今後も何か聞くこともあるかもしれないし覚えておこう。
アンドレが奥に行ってる間にと。
「スフィアボードってなんなんです?」
「お前ってやつはホントなんも知らないのな。 現在のジョブを確認できるもので、生産職と戦闘職の2種類のボードがあるんだ」
「へえ、2種類あるんですか」
「まあ、ノービスのお前には必要ないだろうけどなー。 ウソを付いてなければだが」
「ハハハ……」
乾いた笑いをしながら僕は別のことが引っかかっていた。 それは、『FDF』も生産職と戦闘職でジョブの取り方が違っていたので核心に近づいた可能性がある!
ワクワクした気持ちを抑えながら話していると、アンドレがやってきた。
「お待たせ致しました」
アンドレは漆黒の板と白銀の板を机に置いた。 大きさは漆黒の板は直径80cmくらいの円形で、白銀の板は50cmくらいと2回り小さいサイズで角を丸めた四角形になっている。
漆黒の板には中央に大きめの水晶がはめられておりその周りにも水晶が円を描くようにずらっと並んでいて、中央から端に向けてサイズが小さくなっている。
白銀の板は自分から見ると奥側に大きい水晶が並んでおり、一直線に手前まで並んでいる。 手前に行くほど水晶が小さくなっていく。
「まずはこちらのバトルスフィアの方に左手をかざしていただけますか?」
漆黒の板の方に左手を伸ばして手の平を広げながら10cm上の方で手を止めた。
「このくらいでいいですか?」
「はい」
アンドレは黒いスフィアボードの端の丸く窪んだ部分に赤い2cmくらいの石を置いた。
すると一瞬全体がいろんな色で光ったが数秒するとすべて消えてしまった。
「ふむ……あなたは孤児でお間違いございませんか?」
「えっと……」
僕は何と言っていいのかわからず言葉に詰まってしまった。
アンドレは確認する為にエリックへ視線を向けた。
「そうだと思うんですがね。 本人は認めないようでして……」
「このくらいの年齢でジョブが1つもないというのは、ほとんど孤児で間違いないと思いますが……わかりました」
少しこちらを確認するように見ていたが、白銀の板の方に向き直った。
「では、一応こちらも確認致しましょう。 Eランクの魔石もタダではありませんが、そう高いものでもありませんし、いつも利用してもらっているので無料とさせていただきます」
「あー、どうもすいません」
「ではクリエイトスフィアに手をかざしてください」
先ほどと同じようして、魔石を置くとまた全体が光ったがこちらも数秒後にはすべて消えてしまった。
「全てのジョブを取得していらっしゃらないようですね」
「ノービス確定ですかー。 これだと査定に出すとどれくらいになりますか?」
「その前に少し確認したいことがございます」
「いいですよ」
エリックに確認を取り、アンドレがこちらを見る。
「あなたは文字を書いたり、計算をすることが出来ますか?」
「あの……計算は出来るんですけど、文字の読み書きは出来ないです」
「それだと計算が出来ても書類に書けないですから、価値を上げるのは難しいかもしれません」
アンドレは僕を上から下まで確認した。
……僕、何かされちゃうの?
「あなたは13歳になっておりますか?」
「わからないです」
「ふむ、そうですか。 では、そちらも確認致しましょう。 エネルギースフィアを取りに行きますので小々お待ちいただけますか?」
そういうとアンドレは、敷居の方に歩いていき奥に消えていった。
僕の中で分からないことがあれば、エリックに聞くという流れが出来ていたので、すかさず聞いた。
「お前は……どんなところで暮らしてたんだ。 ったく、しょうがねえなあ……エネルギースフィアは洗礼式に出れる7歳だと薄く白に光り、13歳になると紫に光るんだよ」
「それだけなの?」
「後は藍とか黄色とか色が変わるが、赤になるとそのジョブの熟練度が溜まったと言われているな」
この情報は大きいな。 どうやってレベルとかがわかるか手探りで調べるしかないと思っていたから助かる!
アンドレが戻ってきて、大きさ30cm四方の紫色の座布団に直径10cmの水晶をカウンターに置いた。
「お待たせ致しました。 こちらに手をかざしてください」
言われたとおりに手をかざすと今度は魔石を水晶に近づけると水晶に吸い込まれるように消えた。
すると赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、白と光り一度消えたかと思うと、紫色に再度光った。
「13歳にはなっているようですね」
「自分の年齢くらい把握しておけよ」
「うぐっ、……はい」
急に若返ったんだからわかるわけないじゃんか!
「それでは、査定の方ですが。 見たところケガはないようですし、13歳で大人とみなされる年齢にも達しています」
13歳で大人って早くない?
「ですが、ジョブを未収得のうえに文字の読み書きができないとなるとやはり高く見積もるのは難しいですね」
アンドレは少し考えるように顎に手を当て、エリックの方を見た。
「そうですね……通常なら銀貨8枚というところですが、エリック様にはお世話になっておりますので、金貨1枚にさせていただきます」
「おお! ありがとうございます」
ええぇ、値段上げて欲しくないんですけど……借金が増える。
「アンドレさん、自身を担保にお金を借りる時限契約をお願いできますか?」
「かしこまりました」
時限契約? あれか、さっき詰め所で言った査定額のうんぬんかんぬんって話かな?
アンドレさんはカウンターの奥にある棚から1枚の羊皮紙の契約書を取り出す。
「ここの保証人の欄にエリック様のお名前と血を一滴お願い致します」
エリックは名前を書くと、カウンターの上にあった画鋲が短くなったようなものを親指に押し当てた。
「ここですね……これでいいですかね?」
「はい」
羊皮紙に血を押し付けた。 すると羊皮紙が光りすぐに収まる。
「保証人って何を保証するんですか?」
「そうだな、奴隷の価値が適正か保証するってのがある。 それと、お前を死なしたり逃がしたりすると奴隷商は損をしてしまうので、それが起こったら賠償金として査定額を奴隷商に払うってことっだな」
「なるほど」
「だから、お前は衛兵全員から監視されるから覚悟しろよ!」
監視とかあっても、悪いことしなければ大丈夫かな?
そんな話をしていると、アンドレさんが話しかけてきた。
「それではここに奴隷となる者の名前と血をお願いします」
「ハルカズっと、そうだお前家族名は何だ?」
「えっ、それも書かないとだめなの?」
「そうだ」
ここで純和風な白山なんて名乗るのはどうなんだ? もう、名前の方は言ってしまったから仕方ないにしても、苗字までこの世界の人達と違い過ぎるのはよくない気がする……。
それなら『FDF』で使っていたあれで行くか!
「ホワイト、ハルカズ=ホワイトです」
「ホワイトね……これで良し! ここに血を付けろ」
そういうと画鋲の様なものを渡される。 自分の指に刺すの微妙に勇気がいるんですけど?!
まごまごしていると、エリックが画鋲の様なものと俺の手を取り。
「貸せ! こんなんで時間取らすなよ」
「え?! だって怖いじゃないですか!」
「こんなん考えてやろうとするから怖いんだ! パッとやれば案外痛くないし、怖くもない」
そういいながら、素早く画鋲を僕の指に押し当てた。
「イタッ!」
「すぐにすむ」
羊皮紙に指を持っていかれ血を付着させた。 羊皮紙は先ほどよりも強く光りエリックと僕の血が横に並んだところから中央に分かれ割り印の様になり切り離された先は細い帯の様に変化していく。
「こちらを左腕に巻きますので、腕を出してください」
「え、あ……はい」
促されるままに左腕をアンドレの方に伸ばすと、細い帯を左腕に乗せられた。 すると、帯が光り自動的に腕に巻かれて腕に吸い込まれるように消えると、腕に呪印の様なものが浮かび上がってきた。
「うわっ?! 何これ……爆発したりしないですよね?!」
「爆発はしないが、期限を過ぎると腕が落ちるから気をつけろよ」
「ひい?!」
聞いてないんだけど?! そういうの普通先に言うもんじゃないんですかね?!
「今日は四の月の中週の1日だから、五の月の初週の10日までに借金を返済するか、返済が無理でも期限にはこの奴隷商館に来ないと腕が落ちる。 忘れないようにしろよ」
「では、こちらで時限契約書の方を管理させていただきます。 また、契約料の方ですが通常通り査定金額の1割でお間違いございませんか?」
「はい、それでお願いします」
アンドレは売買契約書をエリックに渡した。 エリックはそれにサインをしているようだ。
「それでは、確かにお預かりいたします」
「アンドレさんよろしくお願いします。 それじゃあ、ハルカズ行くぞー」
「えっ、あ……ちょっと、待って?!」
いきなり腕にギロチンを付けられて混乱しているというのに、展開早すぎでしょ?!
「商人ギルドで借用書を作ろうか」
もう、こうなったら腹を括ってどうにかして借金を返済するしかない!
決意を新たにして、商人ギルドへと連行された。
面白そうと思ったら↓の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えてみてね!
次こそは、返済パートに行きたい!