1 借金奴隷になりたくない!
門衛に連行されてニ時間以上経ったが、まだ尋問は続いている。
今は、胴に縄を巻かれそこから繋がって両手を縛られてはいるが足は自由なので、そこまで辛い状態ではない。
「いい加減白状しろ!どうやって街から抜け出したんだ。 抜け道を知っているのは他に誰がいる!」
「だから、抜け道も知らないしそもそもこの街に入ったことすらないんですよ!」
「嘘をつくな嘘を……。 じゃあ、どうやって魔物が出る山道を越えて隣の村からやってきたと言うんだ?」
「んぐっ……」
異世界から飛ばされてきて、草原に転移してきましたなんて言ったら頭おかしいって思われるだけかな?
いや、案外転移とか普通にあるのでは?僕も転移されてきたわけだし……。
それなら一度くらいそういう話になるはずかぁ。 よくある転移物の小説とかだと権力者が転移者を飼い殺しにする話もよくあるし、転移の話をするにも最後の手段だな。
「ずっと、だんまりを決められても困るんだが? お前と違ってこっちは暇じゃないんだ」
「さっきから本当のことしか言っていません」
「まだ、13歳の成人を迎えてないから働けないのはわかるが、ゴロツキ共の手先になって手伝ってたんじゃこの先すぐに捕まって犯罪奴隷にされちまって、地獄の炭鉱か石レンガ製造に回されるのがオチだ。 悪いことはしないから、お前の上についているゴロツキ共の名前を教えて、抜け道を案内しろ!」
「だから、本当に知らないんですよぉ……」
この門衛は多分そこまで悪い人ではないのだろう。 さっきから、高圧的になり過ぎないよう話してくれていたり、心配をしているような話し方をしてくれている。
まぁ、見た目が子供だからかもしれないけど……。
「今まで、お前の様な容姿の子供の犯罪の報告は上がってきてないが、山を越えられるような服装でもない。 だったら必然的にこの街から出る方法は抜け道から出るか、港を通らずに密入国するかしか出てくることが出来ないんだよ。 これ以上だんまりを続けると証拠が無いから犯罪奴隷にはできなくても、借金奴隷にはできるんだぞ?」
「えっ、証拠がないのに奴隷にされるんですか?!」
「そりゃあ、そうだろう状況証拠としてはあるんだし無罪放免というわけにはいかん」
まずい。 どうにかして切り抜けないと奴隷にされてしまう?! まず情報を集めないと!
「ちなみに借金奴隷って、何をされるんですか?」
「そんなことも知らんのか?まず、奴隷商人に買われて、売りに出される。 そしたら、そうだな……お前の様な子供なら金貨2枚くらいで売られ、買われた先で強制労働だな。 大体、食費と宿代を差し引いた金額の稼ぎで奴隷の価格の十倍から二十倍を返済出来たら解放されるって話だ」
「……それなら、最悪借金奴隷になってもやっていけるかな?」
「お前世間知らずにもほどがあるだろう。 さっき言ったのはあくまで表面的な話だ」
「へ……?」
「例えばだ、稼ぎの金額が食費と宿代と全く一緒にすると法に引っかかるから、やらないだろうが……。 奴隷の部屋を用意しているのも奴隷の買い手だろう? ってことは働いてる間、奴隷の部屋に入り放題だし、そこで貨幣を持ち出されていみろ、一生こき使われるだけだ」
「そ、そんな……」
「だから悪いことは言わん。 俺もお前みたいな子供がそんな目に合って欲しくない。 だから早く話せ」
貴族に飼い殺しか、借金奴隷か……。 究極の2択過ぎないかこれ? って、そういえば借金なんかないのに何で借金奴隷になるんだ?
「そもそも、なんで借金奴隷にできるんですか。 お金なんて借りてないですよ?」
「なんでそんなことまで説明せにゃ……。 はぁ、まぁいいこれも勉強だ。 衛兵にできることの1つとして、平民が盗賊などに襲われて、身分証や金品を奪われた際に奴隷査定の半分を保証して商人ギルドから金を貸りることが出来る。 ここまではいいか?」
「はい」
「そしたら、普通はひと月10%の金利で貸すんだが、最大300%まで上げることが許されている。」
「はあ?! 300%とか元金が高すぎたら返せるわけないじゃないですか!!」
「ん? お前小さいのに詳しいな……やっぱ、ゴロツキ共とつるんで金貸しの手伝いでもしてたのか?」
「いや、そんなの関係なく計算したらすぐ分かるでしょ!!」
「普通お前くらいの子供が計算なんてできないんだが? 商人の子供とでもいうつもりか。 そんななりで?」
「違いますけど……」
もし、月の金利300%とか言われたらきつすぎる! 転移者だと打ち明けるか?
いや、まだだ! 査定金額がどれくらいかまだ分からないから最低でもそれを聞いてから決めよう!
「ちなみになんですけど、僕を奴隷の査定に出したらどれくらいになりそうなんですかね?」
「詳しくかわからんが、大体金貨1枚くらいじゃないか? 7歳の洗礼式にも出てないんだろ?」
「出てませんね」
「だったら、最低額の金貨1枚が精々だな」
てことは、金貨の半分を借りられるわけだから、最悪でも金貨1枚と半分を稼げばいいのか。
そもそも、金貨の価値がわからないから何とも言えないな。
「金貨1枚って、稼ぐのは難しいんですか?」
「そりゃあ、俺たちみたいなアンコモンジョブを持っていたら月に金貨2枚くらいは稼げるだろうが、コモンジョブすら持っていないただのノービスでしかも子供となると精々……。 月に銀貨5枚稼げたらいい方だろう」
コモンジョブとアンコモンジョブ? 洗礼式ってのが関係しているのか。
それをしていないとノービスが確定しているみたいな感じかな?
「銀貨何枚で、金貨と同じ価値になります?」
「10枚だな。 そんなことも知らないのに金利はわかるのか? まず、常識から学べ。」
「ハハハ……」
「はぁ、さすがに時間をかけ過ぎたな。 もういい、今からエリックお兄さんが保証人になって、親切にお金を貸してあげよう」
「エリックさん! お金を貸してくれるんですか!」
「んな訳ないだろう。 よくこの流れで俺からお金を借りれると思ったな? これから奴隷商へ査定に行くって言ってるんだよ……」
「希望は捨てちゃだめだと思っているので!」
「はいはい、わかったわかった。 じゃあ、行くぞー」
「えっ?!ちょっと待ってください!」
「じゃあ、話すのか?」
そんなに、顔を近づけてこないでくれ……。
――フイッ。
「話さないなら連れてくぞー」
「何も悪いことしてません」
「なら、仕方ない」
あっ、これはダメだ。 縄を持ってるってことはまた連行されちゃうやつだ……。
「じゃあ、行こうか」
20代前半の笑顔の男なんか見ても全然うれしくない……。
Side 門衛のエリック
「話さないなら連れてくぞー」
「何も悪いことしてません」
最近子供の行方不明が増えている。 初めはこの子が行方不明の子供の一人かと思い有無を言わさずここまで連れてきて保護したつもりだったが、誘拐や脅されているといったことも全然言わない……。
もしかしたら、本当にスラムのゴロツキ共を手伝っているのかと思い問い詰めてもポカンとした様子で否定してくる。
だとしたら、密入国をしてきたってことになるんだが……。 こんな子共が海を何百kmも渡ってくるとか無理だろう。 他に密航者がいたとしても、食料や水の制限がある中で子供へまともに対応するわけもなく、一番初めに捨てられるのが目に見えている。
このハルカズという子供が悪いことしてる自覚なく手伝わされてる可能性を捨てきれない。 最近、犯罪の手口が複雑化しているし、本人が犯罪と意識していなければ、罪の意識もなく操れるというわけだ。
「なら、仕方ない」
俺が思いつくところだと、ハルカズが無邪気に子供を遊びに誘い盗賊やゴロツキ共の潜伏している場所で遊ぶ。 そして、ハルカズと子供が帰るときにハルカズへばれない様に誘拐とかも考えられる。
という事は、もしかしたらこの子供の行方不明事件に関しては、ハルカズを見張ることで尻尾がつかめるかもしれん。
ギリギリひと月で返済できる額にするから、許してくれよ?
「じゃあ、行こうか」
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