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091結果

■結果


「うがあぁ……っ!」

 竜生はもがき苦しみながら、左肘の八尾刀を震わせた。あれは確か……まずい! 俺はみんなに叫ぶ。

「耳をふさげっ!」

「遅いっ! 『波紋声音』!」

 そのとたん、新郷哲也、山城光輝、桧垣(ひがき)唯さんの3人が地面に倒れた。『波紋声音』は聞いたものの体を麻痺させるのだ。ただし、曲玉を飲み込んでいる磯貝さんはその力で、『天羽々斬の剣』を所持している俺はその防御効果で、麻痺せずに済んだ。

 オロチは俺と磯貝さんと対峙する。その両脚はまだ回復せず、八尾刀が2本しかなくなったため能力が弱まっているのだと知れた。

「それがしは死なんぞ。この世を()べて西川竜生の名をとどろかせるまで、それがしは死なん」

「夏原くん、きみって女の子だったんだね。……あ、別に悪い意味じゃなくて」

「分かってます」

 俺は磯貝さんに上着をかけてもらう。『刺突岩盤』のせいで穴が開き、血が染み付いているが、ありがたいことこの上なかった。

 とりあえず全裸ではなくなった俺は、折れたままの右腕を垂れて、左手でアメを握る。彼はこそこそとしゃべった。

『おい姫英、もう神気がないぞ。あと衝撃波3回ってところだな』

「それだけあれば十分だ。ありがとう、アメ」

 俺はまっすぐ歩き出した。

 竜生がまだぶつぶつつぶやいている。立ち上がろうとしたが、脚が不十分で失敗し、倒れ込んだ。

「それがしこそは神聖なる生き物なのだ。貴様ら下賤(げせん)のものどもに、そのことが分かってたまるか。それがしこそは……」

「黙れ」

 俺は天羽々斬の剣を振り抜いた。金色の衝撃波が走り、竜生の右腕を鮮やかに切り裂く。彼はそれでもんどりうって()した。

「がうぅっ!」

 こいつのせいで、いったい何人の人間が死んできたことか。もうたくさんだ。俺はもう武器を使わなくてもいいように、あらゆる武器を捨てるために、こいつを殺す。それで終わりだ。

「それがしを殺そうというのか!? そうはいかん、そうはいかんぞ、夏原!」

 オロチが左手を掲げた。『停止時間』の刃が風のように伸びてくる。俺はそれを打ち払い、返す刀で衝撃波を投じた。

 竜生の左前腕が真っ二つになる。

「ぎゃああっ!」

 俺は転がってきた左手から刀身をもぎ取った。それはすぐに元の長さに戻る。振り向くことなく、背後の地面へ滑らせた。

「さあ、後はその左肘の『波紋声音』だけだ。それで俺に斬りかかってくる以外、ほかに勝つ方法はないと思うがな。どうするんだ、竜生」

「おのれぇ……!」

 もともとオロチの力は草薙の剣――八尾刀に()っていた。全8本を備えていた竜生が、そのうち7本を失えば、回復能力も衰えようというものである。実際今の彼は、腕も足も骨までしか再現できていなかった。

 だが、じりじり近づく俺に、覚悟を決めたらしい。

「けぇえーっ! 死ね、姫英ぃっ!」

「夏原くん!」

 磯貝さんが恐怖の声を上げたのも無理はなかった。竜生は首で俺の頭部を、左肘の刃で俺の腹部を、同時に狙ってきたのだから。

 だがその最後の攻撃も、俺には想定済みだった。アメの力で宙に身をひるがえす。目の前から消えた標的を探している竜生の首と、その下の左肘を、俺は同時に斬った。

 最後の衝撃波で――

「…………っ!」

 オロチはものも言わず倒れ伏した。俺は着地すると、奴の左肘から8本目――『波紋声音』を奪い取る。すべての根拠を失った相手は、どろどろに溶け始めていた。

 西川一族を率い、今日まで「結果」を求めてきた西川竜生の、これが最期だった。


「……あちっ!」

 俺は『波紋声音』を取り落とした。急に刀身が熱くなってきたのだ。それは磯貝さんも同じだったらしく、彼女は『停止時間』を放り投げた。

「あつつ……っ!」

 持っていた指に息を吹きかける。ふたり同時にそのしぐさをしたため、俺と磯貝さんは笑い合った。

「たぶん、八尾刀が完全に元に戻ったんだと思います。曲玉に近づくと刀身が熱くなるんですよ」

「そうなんだ。……あっ、右腕大丈夫?」

 そういえば竜生の足で踏まれて折れてたんだっけ。そう思い出すととたんに痛くなってきた。

「あんまり大丈夫じゃないです」

「曲玉使いなよ」

 彼女は喉に指を突っ込んで曲玉を吐き出す。それをハンカチでぬぐって俺に渡してきた。俺は手の平にそれを載せたまま棒立ちする。

「あれっ、やっぱり私の胃液がついてると飲みにくい?」

「いや、そうじゃなくてですね……」

「じゃあ飲みなよ。ほら、早く早く」

「は……はい」

 俺は曲玉を飲み込んだ。とたんに右腕も何もかも回復する。

 そして、股間には例のものが生えてきて……

「きゃああっ! 何生やしてるのよっ!」

「ご、ごめんなさいっ!」

 俺はすぐさま曲玉を吐き出した。磯貝さんは真っ赤な顔で俺の股間を凝視している。

「あれ? 元に戻った……」

「結構興味津々(しんしん)なんですね」

「馬鹿っ!」

 新郷や山城、唯さんが起き上がってきた。麻痺が解けたのだ。

「パトカーのサイレンが聞こえますけど……どうします?」

 確かにそれはだんだん近づいてくる。磯貝さんはいたずらっぽく笑った。

「ご心配なく。みなさんには宮内庁が用意する弁護士がつきますので、それまでは何を問われても黙秘してください」

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