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090連係

■連係


「……ほう、夏原姫英。貴様、女だったのか。今まで気づかなかったぞ」

 珍妙なものを観賞するような、竜生の声。俺は目を覚ました。仰向けになって寝ている。体中が痺れていて、どうにも動けなかった。

 そうだ。俺はオロチから『飛翔雷撃』を食らったのだ。スタンガンのようなそいつを受けて、一時的に失神していたわけだ。

 俺は体中が(すず)しくて、おかしいな、服は着ていたはずなのに、と考えた。目を開けて頭をもたげる。俺は竜生の手で着ていたものをすべて剥ぎ取られていた。生まれたままの姿の自分に羞恥心が湧き、全身が熱くなる。それをすっかり回復した竜生が、服の残骸を手に見下ろしていることで、今度は屈辱で脳が焼き切れそうになった。

「……俺は男だ。ふざけんな……」

 相棒のアメ――『天羽々斬の剣』がわめいている。

『しっかりしろ、姫英! こっちだ、右に手を伸ばせっ!』

 俺は五感が徐々に回復し、手足をある程度動かせるようになってきていた。必死に右手を使って虚空を探り、アメをたぐり寄せようとする。

 その右腕を竜生の左足が踏みつけた。ぼきりと骨が折れる音が響き、俺は激痛にうめかずにはいられない。

「ぐああっ! ちくしょう……!」

「それがしは――ヤマタノオロチは美女を好む。姫英、お前も十分に美しい。特に、そうやって痛みに悶え苦しむさまはな」

 このくそったれが……! 俺は苦痛でじたばたあがき、オロチの足をどかそうとした。だがもちろん、奴の重量を非力な片腕で外せるわけもない。

 そうやっているうちに、オロチが首を伸ばし、その顔面を俺の目の前に持ってきた。もう蛇だか人だか龍だか分からない、竜生の顔。それがにたりと笑う。

「しかしいつまでも見物しているわけにもいかぬ。今から食べてやるぞ、姫英。その頭部の美味さはどれだけだろうな? よだれが垂れてくるぞ」

 嫌だ……死にたくない! 俺は男だ。女なんかじゃない。女として殺されるなんて真っ平ごめんだ!

 オロチが大きく口を開けた。それは俺の頭どころか体さえ丸呑みにできるほどの、とてつもない巨大さだ。

 気づけば俺は涙を流していた。究極的な敗北感と圧倒的な無力感に、情けなくもおののく。

「やめろ……やめろぉっ!」

 そのときだった。

「そこまでよ!」

 磯貝さんの声だ。せっかくの食事を邪魔されたことで、オロチは不快もあらわに口を閉じる。ゆっくり頭をもたげた。

「またお前か。何回邪魔をする気だ? お前から食ってもいいんだぞ、磯貝」

 俺が見ると、磯貝さんを先頭に、新郷のおっさん、山城、唯さんが、そろって駆けつけてきている。磯貝さんは銃口をオロチの胴体に向けていた。

「食いに来たところを風穴開けてあげるわ」

 竜生は鼻で笑う。左足を持ち上げた。その五指を割るように、前方へ向かって八尾刀の刀身が飛び出している。それが震えた。

 まずい! 俺は絶叫する。

「磯貝さん、逃げろぉっ!」

「もう遅い! 『刺突岩盤』!」

 次の瞬間、磯貝さんの周りの地面からアスファルトの槍が複数飛び出し、彼女を刺し貫いた。血の華が咲き乱れる。

「ぐふっ……!」

 俺はオロチの浮いた左足を急いで潜り、『天羽々斬の剣』を左手で手にした。

『よしきた!』

 ツーといえばカーと、アメは俺を素早く引っ張り、空中へと逃れる。これには竜生も面食らったらしかった。

「ちっ、しぶとい奴だ。……ん?」

 唯さんが磯貝さんに曲玉を飲み込ませる。とたんに磯貝さんは復活した。槍は砂となって崩れ、傷は綺麗にふさがる。

 この一部始終を、オロチは目を丸くして眺めていた。

「そうか。姫英といい、磯貝といい、何でいちいち再生能力が優れているのかと思っていたが……。そのメノウの石が鍵だったのだな」

 巨体が踏み出し、重厚な地響きを立てる。一歩一歩、泥酔者のように4人に迫った。

「欲しいぞ、その石! それさえ飲めば、それがしは無敵ではないか!」

 両腕を伸ばし、欲望のまま前進する。どうやらその目には、曲玉を胃に含んだ磯貝さんしか映っていないようだった。

「今だ!」

 そのとき、竜生の左を山城が、右を唯さんが駆け抜けようとする。

「ぬぅっ!?」

 このうるさい子バエめ、とばかり、オロチがふたりに攻撃しようとした。その胴体で紫の血潮がはじける。

「ぐおっ」

 磯貝さんが拳銃で銃弾を打ち込んだのだ。1発、2発、3発……!

 そうこうしているうちに、山城と唯さんが巨体の後背へ回り込んだ。しかし目指しているのは背後からの打撃ではない。彼らはそれぞれ、その手で刀身を拾い上げていた。

『爆裂疾風』と『つぶて氷』だ!

「夏原くん! 連係でいくぞ!」

 よっしゃ! 俺は降下した。

「『つぶて氷』!」

 竜生の真上に無数の(ひょう)が出現し、2秒後に弾丸の速度で落下した。

「がはあっ!」

 オロチの体に大量の穴が開く。地面さえ砕く威力に、奴は両膝をついた。

「もらった!」

 俺はその両太ももを、滑空して一気に両断する。紫色の血液が噴き上がった。

 唯さんが斜め後方から叫んだ。

「『爆裂疾風』!」

 両足を失った竜生が吹き飛んでいった。

 俺たちは素早く、残された両脚に飛びつき、そこから計4本の八尾刀を奪い取った。

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